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異世界にて天下を目指す  作者: 清水作朗
3章 人生50年
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7話 いざ開戦

その知らせが飛び込んできたのは、幸運が重なった結果だった。

国境付近を巡回していた部隊の一部が、山道を間違え、バーリナ国内に侵入してしまっていたのだ。慌てて戻ろうとした矢先、敵の軍隊が街道をこちらに向けて進軍しているのを発見したらしい。

幸い距離があったため向こうはこちらに気が付くことはなく、その情報を無傷で報告することができたのである。

今こちらの屋敷内では、そのせいで結構忙しいことになっている。いくら想定して準備していたとはいえ、いざ本番となってみると意外と焦るものだ。

ちなみに、敵の進軍を発見した部隊の人間には、褒美として肉体労働2時間の刑がプレゼントされた。


「いくらなんでもあんまりでは?」


宰相の執務室で、シャーロットが興昌にそう問いかける。


「確かに敵の進軍を発見したのは大きい。でも、それを考慮したとしても命令違反は命令違反だ。最悪、こっちの只でさえ少ない兵力を開戦前に減らすかも知れなかったんだ」


これでも減らしたんだぞ、と興昌に言われ、シャーロットも返す言葉はない。


「とりあえず、早急に軍議を開きたい。陛下にもそう伝えておいてくれ。1時間後な」

「承知しました」


恭しく一礼し、部屋から退出していく。

一人になった興昌は、椅子に深く腰掛け天井を見上げた。






side 興昌 in


足音が遠くなってから、俺は一人言葉を漏らした。


「兵力の差は歴然、真正面からではまず勝てない、か…」


こちらの兵力は、掻き集めるだけ集めて、それでも二千に届かない。対して、あちらがこの戦いに用意した兵力は一万はくだらない。農民を徴用しないで、だ。

多少のいざこざを国内外に抱えながら、それらにも十分に対応できるだけの余力を残した状態でこれだけの戦力を揃えることができる。もし全力でぶつかってきていたら、こちらなど一ひねりだ。それだけ国の力が違うと言う訳だ。自分で言って泣けてくる。

軍の数ではこちらが圧倒的に不利。ではそれ以外ではどうか。

こちらは地元、地の利はある。士気も高い。それに、兵が少ないというのは悪いことばかりではない。命令伝達が早いから高度な作戦が取れるし、機転もきく。大きすぎる力というのは、慢心を生み、それが破滅につながりかねない。

かの織田信長だって、二千の兵でもって十倍以上の戦力を誇る今川義元を打ち取っている。前例がある以上、ここでそうならないとは言えない。

そこまで考えて、ふと頭に考えが浮かんだ。ここは、かの大先輩に知恵を借りるとしよう。幸いなことに、状況は限りなく同じだ。


「…見てろ、その足元をすくってやるぜ」


一度深く息を吐き出すと、俺は紙とペンを取り出し、作戦をまとめ始めることにした。


side 興昌 out






1時間後、会議室にはいつもの顔触れがそろった。


「という訳で、対バーリナとの戦闘に関する会議を始めます」


音頭を採っているのは興昌。ガルラビューは出払っているため、この会議には参加していない。軍事には関わりのないスティーブンも同様だ。


「こちらに向かってきている軍は約一万。このままでいくと、あと3日ほどでここにたどり着くだろう。対してこちらはどんなに背伸びしても二千にすら届かない。何か質問は?」


興昌の問いに対して、アンジェラが手を挙げた。


「軍事は専門外ですが、勝算はあるのですか?」

「なけりゃあんな喧嘩は吹っかけない」


興昌は机の上に地図を広げた。予想される戦域付近の物だ。


「おそらく奴らはここに陣を構えるだろう」


そう言って指さすのは、近くにある小高い丘の頂上だ。


「定石通りなら、ここ以外に陣を構える可能性は低い。この館とも目と鼻の先だ」


興昌は言葉を切って周りを見回す。誰も言葉を挟む様子はない。


「続けるぞ、奴らは俺等よりも軍の数は多いが、それだけだ。向こうにとってここは敵地。いつ攻めてくるかはわからない。だから広い範囲に軍を広げざるを得ない。するとどうなる?」

「一箇所当たりの兵の数が少なくなる?」


クリスが興昌の問いに答えた。


「その通りだ、クリス。騎士だけあってこういうのには頭が働くな」

「一言余計だ!」

「まあいい。向こうは前面に軍を広げたいが、左右や後方にも部隊を置くだろう。だがその数は前面より少ないことは間違いない。向こうはここに攻めに来ているんだ、逃げるためじゃない」


全員の目つきが変わる。興昌は意図が伝わったとみて、


「言いたいことは理解してくれたようだな。俺の作戦は、兵の薄い後方に回り込んで大将の首を取りに行くというものだ。分かりやすいだろう?」


と続ける。


「確かに、それが一番確実で、手っ取り早いだろうな」

「ですが、そう上手くいくのですか?」


クリスがその考えに賛同の意を示し、アリスが興昌に尋ねる。


「確立としては若干こちらに分がある、かな?これまでの情報で、向こうの親玉がやってきているのはほぼ確実だ。その首をとれば、向こうは崩れて敗走するだろう。問題となるのは、『どこから攻め込むか』、『攻め込んだ場所の敵兵の数』、そして『いつ攻め込むか』だな」

「敵兵の数は攻め込んでみない事には分からん」

「攻め込む場所は置いておいて、いつ攻めるかとはどういう意味ですか?」


アリスの問いかけに、ああ、と興昌は軽く呟いて、


「正々堂々と戦って勝てる訳ないんだ。奇襲する」


出来れば夜襲がベストだけどなー、といった。


「…まさかガルラビューがいない理由って…」

「夜襲を前提として部隊を編成してもらっているから」

「具体的にはどういう?」


すでに手遅れだと悟ったクリスはため息をつきながらそう言い、アンジェラが詳細を求めた。


「夜襲に行く部隊と、陽動に動いてもらう部隊を用意してもらってる。ガルラビューはたっての希望で夜襲部隊に名乗り出てきたよ」

「陽動、というと?」

「攻め込む側と反対の方向から先に攻めてもらう。一当てしたら一度引いて、夜襲部隊が攻め込むと同時に反転して攻勢をかける」

「挟み撃ち、ですね」

「そゆ事」


興昌の説明に、アンジェラは一応納得したようだ。入れ替わりにクリスが興昌に質問を投げかける。


「夜襲のタイミングは?」

「夜明け前か、日没から2時間後ぐらいのどちらか。まだ決めかねてる」

「それぞれの利点は?」

「夜明け前なら相手はほとんど寝ているか寝ぼけている。そこを攻め込めば混乱するはず。欠点は明るさだ。あいにく今は月がほとんど欠けていない。明かりでこちらを見つける可能性は否定できない」

「日没後はどうなんだ?」

「不確定要素が多すぎてあまりあてにはならんが、酒盛りをする可能性がある」

「酒盛り、ですか?」

「ああ。奴らははっきり言ってこっちを舐めてる。目の前で酒を飲むかもしれない。酔っぱらった相手なら楽勝だろう。それに、どうやら3日後の夜は雲が出るらしい。そうなれば暗闇に紛れて進める。見つからずに済むかもしれない。欠点はな、この通り不確定すぎて実際そうなるかその時になってみないと分からないという事だ」

「どちらも一長一短だな」


ここで言葉が途切れる。この夜襲が失敗すれば、こちらにもう継戦能力はなくなる。事実上の敗北となるのだ。それが分かっているからか、誰もうかつなことはできない。


「ガルラビューは日没後がいいと言っていた。俺以外の3人で、日没後がいいと思うやつは立ってくれ」


その結果、席から立ち上がったのはアリスとクリスの二人。


「なら、夜襲のタイミングは日没後とする」


興昌がそう締めくくり、会議は終了した。

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