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異世界にて天下を目指す  作者: 清水作朗
3章 人生50年
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6話 戦慄

興昌がバーリナの使者を追い返して1週間後、バーリナから宣戦布告の知らせが届いた。興昌の予定通りに進んでいる。

こちらも軍隊の召集や必要物資の手配など、粛々と準備を整える。

そして宣戦布告から1月過ぎた。


「宰相、本国から通達が来ました」

「何だって?」


興昌の執務室に、アンジェラが知らせを持ってきた。興昌はたいして興味を持ってなさそうではあるが。


「本国は、この件には一切関知しないと」

「援軍は寄越さない、いざとなったら切り捨てる、か」

「その様に捉えてよろしいかと」

「逆に言えば、勝ってもおこぼれにはありつけない」


興昌はニタニタと笑う。


「勝つつもりでいらっしゃいますね」

「当然。負けるつもりで喧嘩吹っ掛けないって」

「単なる確認です。忘れて結構です」


そう言ってアンジェラは恭しく頭を下げる。その様子を見て興昌は顔をしかめる。


「あれから態度がかなり変わったよね、君」


そう。アンジェラはバーリナとの交渉以来、興昌に従順な姿勢をとっている。それが興昌にはこそばゆかった。


「敬意を祓うに相応しい方には祓いますよ」


その答えを聞いて興昌は苦笑する。


「いなかったの?」

「ええ、まあ」


アンジェラはあっけらかんといったように答えた。そう言われて、興昌は考えを巡らす。

肝心なところで詰めの甘い領主、向こう見ずの無鉄砲な騎士、脳筋の戦バカ、臆病者な内政管。従者に敬意を祓うというのもおかしい事ではないが、祓うような人物が思いつかない。一部は手遅れに近い。

一通り考えた興昌は、この事実に頭を抱えた。


「能力的には優秀なんだが、人格面に多大な難があるな…」

「上手いこと使えば問題ありません」

「簡単に言ってくれるね。他に報告は?」


興昌の問いかけに、アンジェラは手元の用紙に視線を落とす。


「剣や弓矢、鎧といった武具は集まりつつあります。ただ、金属鎧は数が圧倒的に足りないため、かなりの数の鎧をを革鎧でまかなう事になりますが、よろしいですか?」

「仕方ない。それは目をつむろう」

「指示された通り、国境近くに堀と塀を構築していますが、まだ砦周りにしかできていません」

「砦周りだけでも、しっかりするよう指示を出しといて」

「住民有志による義勇軍の扱いについてですが…」

「戦力にはならん。一通りの訓練をしたら、後方支援に回せ」

「食料や医療品も集めていますが、武具程芳しくありません」

「兵隊に食い物用意出来る能力はない、諦めろ。…諸兵科連合部隊編成のためにも、兵站部隊の育成は急務だな…。せめて補給部隊だけでも…」

「何か仰いましたか?」

「何でもない」


興昌は身振りでアンジェラに続きを促す。


「陛下は予算の確保に動いておられます」

「具体的には?」

「隠し財産を一部処理しておられます」

「いいの?隠しておかなくて?」

「問題ありません。万が一に備えて、この地に来られる前に、我らで王宮から運び出したものですから。我らの懐には全く影響はありません」

「ぶっちゃけやがったこいつ」


ここでふと、興昌に疑問が生じた。


「…我ら?」

「はい。私のほかに、シャーロット、エリザベスをはじめとしたメイドたちが。陛下も一枚かんでおります」

「また大がかりな…」

「かなりの量になりましたので。私は物足りないと思っていたのですが陛下が止めるもので、半分より少し多い程度でやめておきました」

「隠せてないぞ!?主に減少した量が!?」


ここまで来ると隠す意味もなくなるんじゃないかと、興昌は一周回って変なことを心配しだした。


「…まあいい。その件については後でゆっくりと追及するとしてだ…」


興昌は机の上の資料を脇に寄せて、そこに地図を広げる。


「宣戦布告から一月。向こうは何をしている?」

「というと?」

「向こうはこの辺りでは指折りの大国。こちらと言えば内戦で疲弊した国の中の、さらに小さな公国だ。単純な国力では圧倒的に向こうが有利だ。さっさと攻めてこないで何をしているんだろうね?」


そう。このひと月、バーリナは沈黙を保っている。そのおかげでこちらは準備を進めてこれてわけだが、興昌には懸念材料として、たびたび報告させていた。

地図に向こうの進路予想を書き込んでいく。


「地図では、向こうからこちらに来るには街道を使うのが一番早い。だが、そうなると見つかる可能性も高くなり、先手を打つのが厳しくなる。だから、谷を通ってくると踏んでるんだが、見張りからは報告は上がってこない」

「山を越えてくる可能性は?」

「考えたが、除外していいだろう。今の時期は雪崩が多い。軍隊を消耗させる方法はとらないだろう」


興昌はペンを離し,大きく伸びをする。


「まあ、考えたって仕方がない」

「そうですね」

「そんなんでいいの?俺が言うのもなんだけど、負けたら殺されるかもよ?」

「心配ありません。殺されないための方法は考えてあります」

「へえ。負けるつもりはないけど、どんなのか聞かせてよ」


軽い感じで興昌が尋ねると、アンジェラは満面の笑みでこういった。


「あなたの首を差し出して、『すべてこいつの責任です』と言って何とかします」

「     」


予想の斜め上の回答に、興昌は言葉を失った。


「この方法をとらせないでくださいね。あなたはこの国にとって必要な人材なんですから」


アンジェラはそう言うと、恭しく部屋を出ていく。しばらく思考が停止していた興昌だったが、しばらくして強烈な寒気とともに思考が復活した。


「…俺のラスボスって、もしかしてあいつなんじゃ…?」


そう思わずにはいられない、興昌であった。

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