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異世界にて天下を目指す  作者: 清水作朗
3章 人生50年
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5話 外交の時間

スティーブンが部屋を出たあと、アンジェラが興昌の部屋を訪れた。


「バーリナとの話し合いの日時を持ってきました」

「やけに早いな」

「オキマサ宰相が就任する前に確定していたことですから」

「それなら納得だ」

「7日後の午後からです。遅れないでくださいね」

「勿論」

「準備があれば行って下さいね」

「じゃあさっそくだけど…」






7日後、バーリナからの使者が訪れた。会議室には、陣営ごとが向かい合う形で座った。こちら側からは、興昌とアンジェラの二人が出席した。


「アンジェラさん、殿下はどうなされた?それに、そちらの方は?」


使者が尋ねてくる。


「紹介が遅れましたね、こちらは新しく宰相になられたクノカネ侯爵です」

「オキマサ=クノカネです。わが主である殿下は急用が入り、今回は参加を見送ることとなりましたため、私が代役を務めさせていただきます。今後ともよろしく」

「そういう事でしたか、失礼」


打ち合わせ通りに事を進める二人。アリスが急用であるというのは嘘で、興昌がいてもおかしくないと思わせるためだった。


「早速ですが、始めさせても構いませんか?」


アンジェラの問いに、それぞれ無言でうなずく。


「まずこちら側の要求として、バーリナが我が国に対して行っている圧力行為を即時停止していただきたいのですが」

「何の事ですかな?そんな事実はありませんが?」


そう。この事案に関して、バーリナが絡んでいるという証拠はない。限りなくクロに近いのだが、決定的な証拠がないため、追及するにはいささか無理があるのだ。


「しかし、先日捕えた密偵が、バーリナとの繋がりを示唆しています」


密偵!そんなものもいたのか!と、叫びたい衝動に興昌はかられた。


「そんなもの、ただの戯言でしょう」

「1人ならともかく、3,4人もまとめてそう供述しても?」

「偶然ではないですか?貴国は多くの国々に囲まれている。各国が送り込んだ密偵がバーリナに責任を吹っ掛けただけでしょう」


暖簾に腕押し、糠に釘。その後も追及するアンジェラをのらりくらりとかわす使者。押し問答が30分を過ぎたあたりで、興昌は行動に出た。


「まあまあ、アンジェラ君。その件はまたの機会にするとしよう。今回の主目的は別なんだから」

「…そうでしたね。申し訳ありません」

「そちらも、いいですかな?」

「ええ、構いませんよ」


もちろんこれも作戦のうちである。今までは興昌はひたすら会話をメモし続けていた。ここからはアンジェラにその役を引き継ぎ、興昌が口撃に回る。


「それでは…」


興昌は笑顔を浮かべながらそう言って、紙束を取り出し、一部を相手側に渡す。


「我が国の領土の、開発に関する資料です」


相手側の目の色が変わった。ここからの失敗は許されない。


「生産を確立することができれば、膨大な量を生産できるでしょう」

「…それは、また素晴らしいことですな」

「ですが問題も多く、一番の問題は資金の確保でして」

「なるほど。…こちらに資金の融資をしてほしいと?」

「その通りです。その代わりと言っては何ですが、かなりお安くお売りしましょう。関税等もかけない事にします」

「もちろん構いませんよ。なんなら資金だけといわず、製塩業者も派遣しましょう」

「いえいえ、そこまで甘えるわけにもいきません。資金だけで結構です」

「こちらにとっても、成功させたいことなのですよ」

「御心配はもっともです。ですが、開発自体はもう行っているんですよ」


使者が驚きに目を見開く。


「開発の第一陣はもう到着しているでしょう。昨日から作業を開始する予定でしたから」

「馬鹿な!そんな報告どこからも…」

「へえ」


この時使者は、自分の失言に気が付いた。


「どうしてそう言い切れるんですか?貴国の領内からは、あの塩湖は見えないはずです」

「いや、それは…」

「こちらの領内でも、直接見える箇所は限られている。それにあの付近の山には万年雪がある。塩と雪なんて遠目から見れば解らないのに、なんであの時製塩業者を派遣するといったんですか?私は開発としか言って無いのに」


嵌められた。使者はそう思ったが、もう取り返しはつかなかった。


「この情報は国内でも一部の物好きな人間しか知らない。だから、直接そこに行って確認するしかない。が、あちら側に街道はない。いつ、どうやって知ったんですか?」

「…」

「だんまりですか。まあ、素直に密偵に確認させた、なんて言う訳ないでしょう。でもおかしいですね。あなた方の密偵はこの国にはいないんでしたよね?」


アンジェラが、密偵に関して追及した全ての会話はメモに取ってある。照合は可能だ。

その時、会議室の扉が開いて、スティーブンが入ってきた。興昌に一言二言耳打ちすると、部屋を出ていった。


「たった今報告があって、バーリナと思われる軍勢が国境線を越えて侵入したそうです」

「!!」

「すぐに撤退したようですが、こちらも臨戦態勢に移行せざるを得ませんね。丁度いいところに人質になりそうな方がいるようですし」


そう報告してきた興昌の表情に、使者は凍り付いた。先ほどまでと変わらない笑顔だったが、言いようのない恐怖を感じた。このままでは自分たちの命はない、そう本能が警鐘を鳴らしていた。


「まあ、我々も鬼ではないです。こちらのお願いを聞いて下されば、身柄の安全は保障しましょう」


それは逆を言えば、聞かなかったらどうなっても知らんぞという脅しであった。使者は頷くほかなかった。






慌てふためきながら帰っていく使者を窓越しに見ながら、興昌は呟いた。


「案の定だな…」

「ええ。密偵を使って貴族を扇動して内戦を続けさせ、弱ったところを攻め込むつもりだったんですね」

「まあ見当はついてたけどね」

「戦争になるんでしょうか…」

「嘘ついちゃったしね」


話し合いの途中報告があった、国境破りは嘘である。まあ、兵士の見間違いでしたすいません、と手土産を持って謝れば納まるだろうが無視する。少なくとも興昌はそうするつもりだった。


「時間は稼いだ。後はその間にやれるだけのことをやるだけだ」


この時、まさかあんな事になるとは、夢にも思わないのであった。


「ハクショイ!」

「どうしました?」

「いや。なんか中途半端なフラグが…」

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