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異世界にて天下を目指す  作者: 清水作朗
3章 人生50年
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2話 任命

次の日、朝食を取り終えた一同は、アリスの執務室に集まっていた。


「なあ、これは何だ?」


アリスの机に向かいあうように一人立たされた興昌がぼやく。昨日まで着ていたような服ではなく、いつの間にか用意されていた正装を着ている。


「えっとですね。円滑に政治に参加していただくために何かしらの役職についてもらおうかと思いまして、その任命式ですね」


アリスが懇切丁寧に教えてくれた。興昌はため息をつく。


「堅苦しいのは嫌いなんだけどな…。いい加減始めてくれないか?そろそろ怖くなってきたんだが」

「憎い…。アリス様に直々に任命してもらえるあいつが憎い…」


興昌が指をさした方向には、黒いオーラを隠そうともしないエリザベスが、興昌を殺意と怨嗟のこもった視線をぶつけていた。ほんの僅かだけ視線を落としたことに、目の前にいた興昌だけが気づいた。


「…シャロ」

「仰せのままに」

「グルル…。え?ちょ、待ってメイド長!まだ何もやって…」


アリスの指示で、シャーロットがエリザベスを部屋の外へ引っ張っていく。エリザベスも必死で抵抗したようだが、無駄な努力となった。向こうからこの世の物とは思えない叫び声が聞こえたが、誰も気にするそぶりを見せない。


「俺が言うのもなんだが、いいのか?」

「ええ。問題はないです」

「ないのか…」

「いつもの事だからな」

「ええ。では改めて、オキマサ=クノカネ」


改まった感じで、アリスの凛とした声が部屋に響く。


「あなたに侯爵の爵位を与え、テイニッシュ公国”宰相”に任命します」

「謹んで、お受けしよう」


興昌がアリスの声が終わるのと同時に、手と膝を床につき、頭を垂れる。一呼吸の間の後、驚いたように興昌は立ち上がる。


「お前何言ってんの!?」

「何か?」

「宰相って言ったな、お前今宰相って言ったな!?」

「はい、そうですが?」

「分かってんの?宰相ってことは事実上公国のナンバー2だよ!?いいの!?」


興昌の中では、本命が新しい役職の作成、対抗が既存の下部役人に任命、大穴で技術顧問等の名誉職、だったのだが、これは予想外だった。


「政策が円滑に進むでしょう?」

「だがなあ…」

「でしょう?」

「人の話を…」

「 で し ょ う ? 」

「…はい、結構です…」


有無を言わさぬアリスの笑顔に押し切られる形で、興昌が方が折れ、宰相への就任が確定した。


「それでは昼食後、政策会議を行います。なお、この会議にはクノカネ新宰相も参加していただきます」

「初耳だな」

「今言いましたから」


そう言い残し、アルフレッドは部屋を後にする。


「じゃあ俺は興昌に、ここの中を案内するかな」

「…頼むよ」


クリスに連れられ、興昌も部屋を出ていく。






昼食後しばらくすると、シャーロットが呼びに来たため、連れられて会議室へ向かう。そこにいたのは、アリス、アルフレッド、シャーロット、クリスのほかに、3人の男女だった。


「興昌、紹介します。まずはガルラビュー・スタットフェルト。公国の軍事を取りまとめている」

「おう、よろしく頼むぜ」


椅子に座った初老の男性が手を上げてこたえる。年齢を重ねているが、衰えは微塵も感じさせない力強い雰囲気の持ち主だ。


「次に、スティーブン・スターン。内政担当だ」

「よ、宜しく…」


ガルラビューの反対側に座っている男性が答える。興政より年下だろうか。線も細く、こちらは逆に年齢も手伝って頼りない印象を受ける。


「そして最後に…」

「アンジェラ・コメット。外交面を担当しております。どうぞよろしく」


壁際の眼鏡をかけた女性が返答する。


「よろしく。この度宰相に就任したオキマサ=クノカネだ」

「自己紹介が済んだところで、これより会議を始めます。進行はこのアルフレッドが務めさせていただきます」


そう言って、会議がスタートした。興昌は、部屋の窓際に立っている。


「まずは、ガル。内戦の様子は?」

「内戦はひどくなる一方だ。なりふり構わなくなって、一部は傭兵まで揃えてきた。このままでは、いつこちらに戦火が飛び火してくるかわからない」

「バーリナからの圧力も高まってきています。今はまだ抑えていますが、攻めてくるのも時間の問題かと」

「今後に備えて、兵員を増強したいんだが…」


その言葉に、スティーブンが反論する。


「今でも月によっては赤字なんですよ?これ以上増やしたら軍の維持ができません」

「今の公国の兵力では太刀打ちできんぞ!」

「でも、他に方法だってあるでしょう」

「内戦状態の陣営に援軍に回せる戦力なんてないですわ」

「だったら、同盟を結んでいるシャンリットに要請して…」

「国王陛下はそうするつもりはないらしい。内輪もめに外部を巻き込みたくないとな」

「それじゃ何のための同盟なんですか!」


やんのやんの言い合っている様子を見て、興昌はアリスに歩み寄り、そっと聞く。


「…この国、詰んでると思うの、俺だけ?」

「…悲しいことに、私もそう思います」


悲しそうな顔でアリスが答える。


「連中間違ったことは言っていないんだがな」

「優秀なんですけどね…」

「論点がずれて行って、一番大切なところを見逃している」

「今の国力ではいざというときに戦えない、ですよね?」

「正解だ。軍隊は金食い虫だ。でかい軍隊を持つためには、それに見合った生産力をもたないと破滅するからな」

「とりあえずは生産拡大、これを重点的に行う。ということでいいですか?」

「ああ。軍の強さは規模だけじゃない。しっかり訓練され統率のとれた軍隊が、それより大きな軍隊に勝ったというのはままある話だ」

「拡大はしっかり準備を整えてからでも遅くはないと?」

「まあね。問題は山積みなわけだが、俺の考え押し通すよ?それでいい?」

「いいですよ。興昌さんは頭いいですし、思いつかないような考えを考え付きそうですしね」


興昌が呆気にとられた、という顔になる。


「信頼されてるなあ、俺」

「悪いものではないでしょう?」


意地の悪い笑顔を向けてきたアリスに、興昌もニヤリと笑い返す。


「ああ。血が滾るね、ゾクゾクする」

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