第弐話 無資格の自覚
さて、遅筆では片づけられない遅れの理由は、多忙、とか、いろんなことがあるのですが、見てくれてた皆様に多大なご迷惑おかけしたこと、お詫び申し上げたいです。倍返しとかはしないんで土下座させてください。
さて、僕はどうなったのだろうか。
未だ暗闇の中を漂っているような感覚は、やはり意識を手放しているという最中なのだろう。
頭が痛い。頭痛、というよりも...これは...。
目が覚めた。リズムよく僕の頭に何か分厚いものがぶつけられている。
全身を襲うヒリヒリとした痛みに加え、今頭に多段ヒットしている何かのショックで、もう一度夢の世界に行きそうになった。
「逝きなさい」と、鈍器の持ち主から声がする。
「生きなさい?僕が黒こげになった根源が何を言ってんだよ」
「逝け。と言ったのよ」なるほど。どうも誤変換じゃあないらしい。
「誤変換って。貴方人の言葉が文字で読めるとでも思ってるの?そこまでになるともう頭が足りないじゃ済まないわね」
「人の心が文字で読める奴に言われたくないよ」
そう、憎まれ口を叩く気力はあるのね、と彼女は安心したようにつぶやいた。
僕にスキルは無くても、顔に書いてあるように判る。
『まだイジメても大丈夫だ、と』まるで新しいオモチャを手にした子供のような顔だ。
「心外ね。イジメなんて生暖かい仕打ちは私としてはごめんよ」
「だから心の声と会話するなって。僕が唐突に変態的思考を巡らせて妄想の世界に飛び込んだらどうするんだよ、お前」
「頭蓋骨を叩き割る」
「え?」
「頭蓋骨を叩き割る?」
「それはだから「頭蓋骨を叩き割る」
「いや聞き取ってはいるけど理解が出来ないだけでさ」
「じゃあ出来上がったものをご覧ください」彼女は後ろのベッドのカーテンを開けた。
頭に包帯を巻かれている僕と同じくらいの背の男子が横たわっていた。僕と違うのは、手足を縛られて、目隠しを施され、口に脱脂綿を大量に突っ込まれている点。
「むーんー」彼女に顔を向け、表情は分からないが、口が冬眠前のハムスターのように膨らんでいても発音できる音を必死に絞り出している。
彼女は無言でカーテンを閉める。
「...口を塞いでも、見えるだろ?」と、彼と対照的に塞がらない開いた口から、僕はどうやら言葉を発することが出来たようだった。
「は?」殺されると感じた。脳が震えた気がした。殺気のこもった一撃が僕を肉塊にするだろうと。そんな殺気を女子高生が出しやがった。
まあ彼女的には「見なかったこと」にしたいのだろう。自分でアレは用意したのだろうけれど。
「まあ、本題に移ろうかしら」
「まあ、茶番で済ましてほしくないけど、本題があるってんなら聞こうか?後とりあえずここがどこだかだけ教えてくれ」
「学校の保健室よ」
...そんな大きかったか?この学校。最新の医療設備が一学校の保健室にあるわけないだろ。
「あるのよ。こういう「事故」が。だから大きくないと困るわけ。で。貴方の能力解析のことなんだけれど、実のところ未だ不明よ。周囲や自身に影響するタイプだって言うのは分かったけれど」
「なるほどね。ご自慢のスカウターは役に立たなかったって訳か」
「実のところ、本人の自覚が大きいのよ。自分が能力者だと自覚していなければ、解析も何も無いって訳。そして今の発言、一殺だから」
「なにその不気味な単位。説明要らない位まるわかりだな」
「十殺達成で素敵なプレゼントが」
「ねえよ。ところで自覚なんてどこでするんだ?偶然悪の組織に狙われて絶体絶命のピンチで覚醒したりするのか?」
「まあ、そのうちそんな機会が来るんじゃない?知らないけど」
「無責任な発言だよな。そのうちって」全く。これだから才能の塊は。
「言っておくけど、そんなこと言ってる内は無理だと思うけれど?」
「...分かってるよ。理解ろうとしてないだけだ」
「理解、なんて言葉ほど理不尽で無責任なものは無いわ。意外と馬鹿なのね。違うもの同士、お互いに理解なんて生まれるわけないじゃない。私は相手の心が手に取るようにわかる。けれど、他人の心を理解したことは一度たりともないわ」
なるほど。確かにそうかもしれない。
「貴方、能力の発現が15~16、思春期中期に一番多い理由は何だと思う?」
「さあ、知らない。教師がHR以外で教室に来たこと無いし」
「教えてあげる。「心的外傷」、トラウマ。貴方に自分と向き合うことが出来ないなら、貴方に能力を使う資格は無いわ」
そう吐き捨てると彼女は出ていった。
僕の頭の中で、一番再生されたくない記憶が呼び起される。
アイツの叫び声が聞こえる。後、渇いた音が何度も。
頭が痛い。
しばらく暗澹とした気分に浸っていると、イメージがぼんやりと浮かんでくる。
強くなりたい。あの、地獄を共に過ごした彼女と二人で。
ああ、これが自覚か。|「発芽」≪スプラウト≫、これが僕の力だ。
ありがとうございました。土下座じゃ足りない?じゃあ、その縄で僕を縛って吊るしていただけると幸福です。