第壱話 解析との邂逅
よろしくお願いします。
「...誰?」
とっさの事に僕はそれしか口を開けなかった。
「誰とは失礼ね。私を知らないなんて下種の風上にも置けない人間よ」
「下種の時点で人間の風上にも置けていないんだけど」
「まあ、与太話はほどほどにして」
「ああ、今の侮辱全部バカ話で終わらせる気なんだ」
「しつこい男は嫌われるわよ。先生に頼まれちゃって。色々とね」
「ん?あの見るからにやる気のない昼間からトイレのサンダルみたいな履物で校内をうろついてるアイツが?」
「そう、見るからにやる気のない完全放任主義のあのバカ教師が担任としてちょっとでもあなたに気を使って私を寄越したって訳。どう?少しは彼を見直したかしら?」
「アンタがそう紹介した時点で見直す余地はないし、第一自分で来ればいいだろうが」
「彼じゃできないから言っているのよ」
ん?どういうことだ?教師に出来なくてこの一見人の人生数回潰していそうな女子高生に出来ることって何だろうか。
「あなたも大概みたいね。安心して。貴方の人生は責任をもって私が潰すことを今決意したから」
「あ、声に出てた?それは悪かった。土下座するよ」
「パンツ見ようとしても無駄」
「お前...読者にも隠してた心の声を...まさか...」
僕が変態みたいになってしまったじゃないか。
「そう、これが私の能力。といっても一部なんだけれどね。|読心≪サイコビジョン≫。他にもいろいろあるけれど、まあこれから使うのは|解析≪アナリシス≫。相手のポテンシャルを解析するの。そしてあなたは議論の余地なく変態よ」
「へえ...僕のポテンシャルなんてたかが知れていると思うんだけど。そして僕はあの先生にお礼を言わなきゃだな。君の解析のおかげで僕は心置きなく実家に帰れるのだから」
「何言ってるのかはわからないけど、どうやらあなた周囲に影響を与えるレベルでポテンシャル高いらしいわ。いつもならもっと時間がかかるものだけれどいつになく『見やすい』わね」
「お前のスカウター壊れてるんじゃないのか」
「いいえ。そんなはずはないわ。教室の外のストーカーはハッキリと見えてるもの」
「は?」
ストーカー。特定の他者に対して執拗に付き纏う行為を行う人間。誰に?
「私にに決まってるでしょう」
「心の声と会話すんな」
「あなたにストーカーなんて付くわけないでしょう。いや、あのストーカーならあなたにあげるわよ」
次の瞬間、大きな音を立ててドアが開放される。
「俺は生まれてから死ぬまで析華さんのモノです!こんな野郎に付くなんてとんでもない!」
「生憎私はゴミを持ち歩く趣味は無いの。三角コーナーにでも帰りなさい」
ああ、ひどい物言い。
「そんな!ひどいです析華さん!この間俺の事奴隷にしてくれるって言ってくれたじゃないですか!」
奴隷でいいんだ。そういう奴か。なるほど。近づきたくない。
「心が読めるっていうのはこういうところで不便なのよね...」
確かにアイツの心の中身は見たくない。死んでも。
「んで、こいつ誰です?」
彼から「析華」と呼ばれた彼女は、少し考えた後急に、
「私の彼氏よ」と。そう言った。聞き間違いでも妄想でもなく。そう言った。
ブチブチっと千切れるような音が聞こえた気がした。
「おおオオおオおをおオをお」
彼が両の掌を掲げた先に、火球が輝いている。
「お前!...なんだってこんなこと」彼女に訊いてみた。
「あなたの人生は、責任をもって私が潰す。言ったでしょ?」
その言葉と共に真っ赤な何かが目の前に広がり、そのまま暗転した。
ありがとうございました。