第五話
蓮とフリーランス達が合流してから約1時間が経った。
ノエルが言った休憩所は未だ見えず、見えるのは遠くに屹立しているピラミッドと大きく広がる砂漠だけだった。
今の所モンスターの出現頻度はそれほど高くなく、囲まれる事も無かった故、10人は順調に歩を進めることは出来ていた。
だが問題はノエルが話した休憩所が見当たらない事だった。
蓮「あの…休憩所って本当にあるんですか?」
我慢の出来なくなった蓮はおずおずと質問を投げかける。
それに対し蓮の一番近くを歩いていたNONOという名前の女性が苦笑いをしながらも答えた。
ノノ「あっはは…実を言うと休憩所に行くには特定のモンスターを見つけないとダメなのよ…」
蓮「特定のモンスター?」
ノノ「そうそう。<ファンタスティクリスタル>って名前のエレメント系モンスター。」
アレコス「なんでもそいつがピラミッドに行くのを邪魔してるんだってよ。つまりそいつ見つけて倒さないとピラミッドへの道も拓けないし、その前にある休憩所にもいけないってわけだ。」
蓮「へぇ……一体どんな感じのモンスター何ですか?」
ノノ「えっとねー。エレメント系モンスターと同じなんだけど一番上に冠みたいなのが浮いてて…」
蓮「………あんな感じの?」
唐突に蓮は左方向を指差す。
指差した先にはエレメント系モンスター特有の正八面体。その上に虹色に光る冠を乗せたモンスターがふよふよと漂っていた。
アレコス「そうそう!……あれがファンタスティクリ…スタ……」
全員が固まる。
皆一様に真顔でファンタスティクリスタルと思われる者を凝視している。
ノエル「………オクトバ!!もっちゃん!!!」
オク「おっけ!!」
もっちゃん「まかしといて!!!」
凝視からおよそ10秒後、ノエルが大声を上げて仲間に指示を出す。
呼ばれたもっちゃんとオクトバはすぐに腰から大きな銃を引き抜き、打ち放つ。
銃弾はファンタスティクリスタルへと当たり、507の数字を吐き出し、ガラスが割れるような音と共に砕け散った。
全員「………はぁ…」
一時間に渡るファンタスティクリスタルの捜索をやっと終え、安堵の溜息を吐き出す一同。
モンスターの消滅エフェクトが終わると、ピラミッド方面でもガラスの割れる様な音が聞こえて来た。
ノエル「さて、それじゃあ行きましょう?休憩所はすぐそこだから…」
疲労感を感じさせるような声でノエルは皆に声を掛けた。
休憩所は円を書くように建てられたテントの中心に焚き火が設置してあるというものだった。
蓮達10人はその焚き火を囲うようにして座っている。
ノエル「皆集まったわね?攻略会議をはじめるわよ。」
ノエルが号令を言い放つ。
攻略会議とは、ゲームがまだ運営されていた時にシナリオダンジョンを攻略する前にパーティーの戦力や回復薬の量などを把握したり、どういった戦術で動くか等を決める恒例行事。
今回のシナリオダンジョンは蓮以外の全員が攻略方法を知っている。
とは言えこれはゲームではなく現実世界に反映されたゲームデータ。失敗することは蓮達が守ってきた街の消滅、そして封印された人々の死に繋がる。
また、ゲーム内とは敵の行動などが違う可能性も予測される。
そして今まで出現したことのないシナリオダンジョン。もしもこのダンジョンを攻略すれば次のダンジョンがまた出現するかもしれない。
それを続けて行き、最後のシナリオダンジョンをクリア出来れば、このリアルオンライン事件を終わらせる事が出来るかもしれない。
という考えもあり、皆慎重だった。
アレコス「じゃあ取り敢えず今の戦力を把握するとしようぜ」
ノエル「そうね。それじゃあ一人一人自己紹介も兼ねてレベル、職業と武器防具を教えてくれる?」
蓮「…っ」
それを聞いた蓮は固唾を飲んだ。
蓮の装備は意味不明な文字の塊だ。
故にそれを見た皆がどう反応するかは想像ができない。
ノエル「まずは……アルカヴィールから」
アルカ「わかった。23レベのアルカヴィール。職業は第二魔法職の「クレーター」。武器はリーフスタッフ。上防具はパンクローブ、下はパンクスウェットだ。」
アルカヴィールが必要項目を言うと、左を見、次の人へと順番を渡した。
ノノ「21レベのNONOよ。職業は第二近距離職の「ガンサイダー」で…武器はリトルガンソード。上はポットシャツ、下はラビットスカート。」
もっちゃん「25レベル!もっちゃんです!職業は第二遠距離職「ショットランサー」!武器はioiP708!防具は上下装備でシュータースウェットだよ!」
アレコス「20レベ、アレコス。職業は第二近距離職「ブローダー」。武器はナイトグレイド。上下装備でチェーンアーマーだ。」
アレコスが自己紹介を終え、左にいる蓮を見る。
蓮「…」
蓮は黙り込み、顔を伏せてしまう。
ノエル「どうしたの?朝倉くん?」
ノエルからの問いかけにも応答せず、蓮は沈黙を続けた。
次第にフリーランス達にも動揺が見え始めた。
朝比奈「いいですか?」
突如朝比奈が手を上げた。
朝比奈「蓮君の装備なんですが、実は普通の装備じゃ無い様なんです。」
朝比奈が言い放った言葉に動揺の声がチラホラと漏れた。
ノエル「え?普通の装備じゃないって………ユニーク装備って事?」 ※ユニーク装備:通常の武器とは異なり様々な特殊能力を備えている武器。店などでは変えず、クエスト報酬やモンスター討伐での稀なドロップのみでしか手に入らない貴重なもの。
朝比奈「そういう意味でもないんです。見せたほうが一番早いのですが、見せる前にお願いがあるんです。」
朝比奈「今、蓮君が黙ってしまってるのはきっと見せるのを怖がっているからだと思います。なので如何に意味不明なものであってもそれについて責めたりしないでください。」
蓮の装備はかなり異質な物だ。
しかも蓮が接続者になってからのシナリオダンジョンの発現。
その二つは偶然か必然か、どちらにしろ蓮が直接起こしたわけではない。
朝比奈はそれを分かっている。だがフリーランス達は蓮については何も知らぬ故、この朝倉蓮がこの現象を引き起こしたと思い込む可能性もあるだろう。
アレコス「つまりそれほど意味不明なものなんだな?」
アレコスの言葉を聞いて朝比奈は苦い顔をして頷いた。
アレコス「………」
しばらくアレコスは沈黙していたが、小さな溜息を付いた後、周りを見渡しながらいった。
アレコス「俺は構わない。皆もいいだろう?確かにこの朝倉蓮が接続者になってから情報の動きはおかしくなったが…それも偶然かもしれない。それに、現状コイツは戦えている。何かを調べるのは今するべきことでは無いだろう?」
アレコスの問いにフリーランスはしばらくコソコソと話し合っていたが、それぞれ賛成の言葉を上げた。
アレコス「それじゃあ異論は無い様だから、朝倉。頼む。」
言われた蓮は周りを見渡し、それぞれの顔を伺ってからゆっくりと頷き、ステイトウィンドウを展開した。
設定は前に蓮が朝比奈に見せた時と変えていなかった為、展開したウィンドウは皆に見えている。
武器の部分をタッチし、皆に見せるようにウィンドウを動かす。
するとそれぞれから息を呑む音が聞こえた。
ノエル「アン………ノウン?」
ノノ「なにこれ…どうなってるの?」
蓮の装備はデータが壊れているのかほとんどが文字化けを起こしており、内容を見ることができない。
唯一読むことが出来るのは名前表記部分の[unknown]のみだ。
舞戦「これ、見たことあるぜ…?」
名前が漢字で、恐らく「マイセン」と読むフリーランスが声を上げた。
舞戦「俺のリア友(リアルでの友達)がDIGのバージョン更新と並行してBHOをやってたんだよ。そしたらBHOが落ちちゃってさ、リログ(再接続)したら武器とか防具がこんなのになってたのを覚えてる。多分データ破損とかそんな感じだろう。再インスコ(再インストール)したら治ったけどな」
ノエル「それじゃあ朝倉くんの武器防具はデータが壊れてるってこと?」
舞戦「多分な。でもこれじゃ武器の性能とかも想像出来ねぇな…」
朝比奈「その点に関しては恐らく大丈夫だと思います。」
舞戦がガリガリと頭を掻いていると、朝比奈が顔を上げていった。
朝比奈「前に蓮君のレベルが1の時にwatercardと戦わせていたんです。その時はクリダメ無しで60上行っていたし、攻撃を受けていた時も防御性能もしっかりあったので…」
ノノ「watercardって言うとSD以外の低レベル帯の敵では結構な防御力と攻撃力持ってるモンスターじゃん。」
アレコス「レベル5の差をそこまで縮められる武器防具となると相当良い数値背負ってるって考えていいだろうな。」
BHOのカンストレベルは100。
対してフリーランス達の平均レベルは20弱だ。
一見すると大したものじゃない様に見えるが、実際にはかなり高レベルなのだ。
ゲーム発売からゲーム破壊まで半年と短いせいもあるのだが、BHO自体レベルが上がりにくいというものもある。
今の蓮は低レベル故上がりやすいが、10を越えたあたりからかなりレベルが上がりにくくなる。
カンストレベルが少ない分レベル5の差というのはかなり大きいのだ。
舞戦「5レベ差でも十分な性能なら俺達が少しフォローすれば足手纏いにはならねぇはずだ。そこまで気にすることじゃねぇな。」
アレコス「そうだな。武器と防具が十分なら今は全く問題ないさ。」
アレコスはそう言って蓮に向かって親指を立てた。
それを見た蓮は薄く笑い、小さな声で「ありがとう」と呟いた。
ノエル「じゃあ次は、各々の所持スキルについて話合いましょうか」
攻略会議は一時は蓮の装備により滞ったが、その後は特に問題もなく終了した。
その内容をまとめると、
近距離職はアレコス、NONO、Rein(朝倉蓮)、pinkrabbit(朝比奈瑠花)。
遠距離職、もっちゃん、オクトバ、ノエル。
魔法職、アルカヴィール、ジャックキャット、舞戦。
HP回復薬は10人で1900個弱、MP回復薬は900個強集まった。※MP=スキル等を使う事で消費されるパラメータ。
これを全員で均等に分けた後、主な戦闘方法の話し合いをした。
レベルが一番低いのは蓮なので、最初と最後の攻撃は蓮が与える事となった。
ファーストアタックとラストアタックにはそれぞれ経験値ボーナスという物が加算され、他のプレイヤーよりも多く経験値を貰うことが出来る。
与えたダメージが多ければ多いほど経験値が増えるのもあるのだが、蓮はレベルが低いため、与えられるダメージが低く、効率が悪いという理由も合ってこの案が採用された。
また、途中で蓮のレベルが朝比奈、pinkrabbitに追いついた場合、ファーストアタックは蓮が、ラストアタックは朝比奈が与える事にもなった。
ノエル「それじゃあ5時間休憩したら行きましょう!今の時点で経過時間は5時間。5時間休憩したとしても残り時間はかなり残るからゆっくりいけるはずよ!」
ノエルが締めと言わんばかりに言った。
解散し、皆がテントに入っていく中、蓮は後ろを振り返り、そこにあるものを見上げた。
そこには老朽化が所々進み、崩れているも立派に屹立するピラミッドが合った。
舞戦「おい朝倉。お前もさっさと休め、じゃねぇともたねぇぞ」
蓮「はい、今行きます。」
舞戦に声を掛けられ、蓮は急いでテントの中に入っていった。
残り66時間。進行率、10%。
次話から本格的なSD攻略に入ります。
そしてこのリアルオンライン第一章の本題にも入ることにもなります。