第三話
文章力の無さに頭を抱える日々です。
~7月14日~
朝倉蓮が本格的な戦闘を行うようになってもうすぐ一ヶ月が経とうとしていた。
蓮は最初こそ戦闘に対し多大な恐怖心を持っていたが、何度もその経験をしていったのが原因か、前のように恐怖で体が動かなくなる。という事は無くなった。
今では一人でのエリアの消滅を任される事も増えてきている。
今回のエリアの消滅も蓮単体での行動だった。
他の二人、武藤恋次と朝比奈瑠花は他の所の出現フィールドの消滅に向かっている。
蓮「…アクセスログイン。」
蓮が発現フィールドにログインし、周囲から英数字の羅列が蓮を包み、私服から戦闘服へ変身する。
ログインが終了し、出現フィールドの消滅条件を即座に確認した蓮は目的の物を見つけ、それに向かって歩を進めた。
最近、蓮達が護っている護衛地区に発生する出現フィールドの数が激増している。
理由はこの護衛地区一帯の情報量の上昇。
情報量が増えればその分出現フィールドの発生確率も多くなる。
現にこれまでは2週間に一度出現フィールドが発生する程度だったが、今では一日に一度、ひどい時は一日に2度も発生フィールドが出現していた。
それにより本部からフリーランスの派遣を受けるという話を蓮達は受けていた。
蓮は出現フィールドの中心部に屹立する巨大なクリスタルの前に立っていた。
今回発生した出現フィールドの消滅条件はこのクリスタルの破壊だった。
蓮は腰に据えた直剣を引き抜き、剣を構え、クリスタルへと近づいていく。
蓮がクリスタルまで後50m程まで近づいた頃だろうか。突如クリスタル周辺に青い光の球が幾つも発現した。
クリスタル破壊を目的とする消滅条件によくある現象。
クリスタルに近づくと、モンスターが出現し、クリスタル破壊の邪魔をしてくるのだ。
蓮の視界にはelementfire、elementice、elementbolt、elementwindの4種のエレメント系のモンスターが見えている。
エレメント系モンスター。
直接の攻撃、つまり物理攻撃は皆無だが、魔法での攻撃を多用してくるモンスター。
注意すべきなのは奴らの連携攻撃だ。
エレメント達自体には連携をする設定はされてはいないが、攻撃を回避していくと結果的に連携を取るような攻撃をしてくる事がある。
これは一度受けてしまうと大ダメージを受ける可能性が非常に高く、エレメント系モンスター複数に遭遇した場合一番気をつけなければいけないところである。
もちろん蓮もこれについてはじっくりと勉強済みなので、慎重に歩を進めながら様子を見ている。
蓮が近づくと、エレメント達は各色ごとに4色の色で発光した。
これは蓮にタゲが付いた事を示している。
それを見た蓮はすぐに腰を低くし、魔法攻撃回避の姿勢を取る。
回避姿勢のまま進んでいくと、一番近くのelementfireから一瞬細く赤い光線のようなものが蓮に向けて発射された。
その速度はかなり早く、すぐに蓮の足元へと着弾した。
蓮「…っ!!!」
それを見た蓮は全速力でエレメント達が守るクリスタルへと掛けた。
蓮が走り出した瞬間、赤い線が着弾した跡から魔法陣が展開し、炎の柱を上げた。
エレメント系の攻撃は魔法攻撃故に躱すことが非常に難しい。
理由は魔法陣が展開してからの魔法の発動が速いからだ。
故にプレイヤー達が避けやすいよう今のような魔法がどこに発動するのかが分かるよう発動前に線が引かれる様になっている。
蓮の接近を感じ取ったエレメント達は次々に蓮に向かって魔法を放ってゆく。
それを蓮は何とかといった感じで避け、前に立ち塞がるエレメント達を攻撃していく。
エレメントに有効な攻撃は反対属性の魔法か物理攻撃、となっており、蓮が攻撃したエレメント達は次から次へと溶け弾けていく。
クリスタルへ残り5mと言った所で蓮の死角からの風属性の魔法が飛来した。
蓮は最後までそれに気付かず、防御もなく右斜め後ろから来る攻撃を受けた。
蓮「っがぁ!?」
身が切り裂かれるような痛みが蓮に走り、速度が低下する。
それを機に他のエレメント達は蓮へと攻撃を繰り出した。
蓮「ぐ、あ…あああぁぁあああああぁああぁぁぁあああああ!!!!!!!!!」
火、風、氷、雷と様々な攻撃を受け、悲鳴を上げる。
蓮のHPはガリガリと削れていき、残り4割残した所で攻撃が止んだ。
蓮は痛みを我慢し、懐に手を入れ長方形の赤色をした物体を取り出し、それを噛む。
噛んだ瞬間それは光の粉となって蓮の体を一瞬包み蓮へと吸い込まれていく。
それと同時に蓮の視界ではHPが10分の1ずつ1秒刻みで5回ほど回復していく。
今蓮が噛んだ物はアップルガムと言う回復アイテムだ。
1個で体力を半分回復させる効果があり、全接続者に1回の発現現象で50個配布されるものだ。
回復と同時に体の痛みも殆ど無くなり、蓮はすぐに立ち上がりクリスタルへと走る。
クリスタルは目前へと迫り、蓮は覚えたてのブラッドハーツ《ヒット》を発動させる。
発動すると剣が光り輝きだし、それを確認した蓮はクリスタルへと剣を振り下ろした。
光の軌道跡を残しながら剣はクリスタルへと到達し、500と言う数値と共にガラスが割れるような音と共に砕け散った。
クリスタルの破壊と同時に周辺にいたエレメント系モンスター達も溶け弾け、発現フィールドの消滅が始まった。
今蓮が放ったブラッドハーツ。《ヒット》。
これはファイター系統の一番初めに覚えるスキルで、渾身の一撃をぶつけるという物だ。
また、クールタイムが短く、通常攻撃の連撃中盤、終盤に使う事も可能なオールマイティなスキルだ。
このゲーム、ブラッドハーツオンラインでのスキル発動は考え、スキルを呼ぶことによってスキルを発動させるというフルダイブならではの発動方法を使っている。
それは今までのMMORPGのようなスキルスロットにスキルをセットする必要がないというものだ。
スキルの発動条件はただスキルの名前と発動のイメージを思う事で簡単に発動させることが出来る。
もしもスキルだけの連続攻撃がしたい場合も同じだ。
ブラッドハーツ。
基本的にスキルと呼称されるそれは、ブラッド・ハーツ・オンラインの人気の象徴の一つ。
このゲームの特徴はブラッドハーツ、スキルの多さだった。
第一次職の一つであるファイター一つであっても、そのスキルの総数は500を超える事が確認されている。
スキルは一人一人の戦闘によるパターンを解析し、その人に合ったスキルが発生し、習得していくことが出来る。
攻略wikiなどに確認されたスキルとその効果が掲載されていたが、そのページ数はとてつもなく多い。
それ故に全ての所持スキルが他の人と被る。ということはゲームが開始されてから破壊されるまで一度も確認されていない。
これは運営がユーザーの「こんなスキルあったら面白い」などの意見を驚くべき速度で吸収し、実装していった結果である。
第一次職中に覚える事が出来るスキルはパッシブが5種、アクティブスキルが初期スキルを除き、10種覚える事が出来る。
今の蓮はまだファイターの初期スキル《ヒット》しか覚えていないが、このまま更に戦闘を経験することによって多くのスキルを覚える事だろう。
蓮は発現フィールドの消滅を確認し、対策部のある方向へと歩を進めた。
~7月18日~
蓮「っふぅ…」
本日2回目の発現現象の消滅。
最初はレベル1だった蓮も最近の発現現象の増加によりレベルが4も上がっていた。
突如ピコン、という機械音と共に蓮の目の前にウィンドウが出現した。
【スキル。《シンク》を習得しました。】
蓮「スキル獲得…《シンク》…?どんなもんだろ…」
蓮は試しにスキル《シンク》を発動させる。
《シンク》を発動させると、《ヒット》と同じように剣が光り輝き始める。
そして蓮は取り敢えずという感じで剣を縦に切った。
すると振った剣から斬撃が飛び出し、数メートル進んで光の粉を残して消えた。
蓮「お?おおおおおお!?」
蓮は興奮し、クールタイムが終わっては使い、終わっては使いを繰り返していた。
蓮「おおお!スゲェ!!月○天○みてぇ!!すっげぇ!!おおおお!!!!」
ちょっと全文記載するには難しいような単語を言いながら《シンク》を連発していると、
?「お。2個目のスキルは…えっと、《シンク》だったか?」
一緒に発現フィールドを消滅させていた武藤恋次が様子を見に来ていた。
蓮「恋次!そっちはもう終わったのか?」
武藤「おう。多分朝比奈の方ももう少しで終わると思うぜ?」
蓮「流石速いな…俺は今終わったばっかなのに…」
武藤「まぁ俺は遠距離職だからな。お前らファイターみたいに一々近づいて攻撃しなくてもいいんだよ」
蓮「楽そうだなぁやっぱポインターは…」
武藤「そうでもないぜ?スキル使わんと対したダメージないし、ミスって敵に近づかれたら紙防御だから結構痛いダメ(ージ)食らっちまう。」
蓮「確かポインターってHPも少ないんだっけ。」
武藤「そうそう。安置から狙えるのはいいんだけど、いざ敵が目前に来ると防御紙でHPも低いからダメが痛いのなんの…」
蓮「まぁ大抵の遠距離職ってそんな感じらしいね…」
その後2人はどういう流れかスキルの見せ合いをしていた。
蓮は《ヒット》と《シンク》しか覚えていないが、武藤の方は朝比奈よりも2つも多くスキルを覚えていた。
2人でワイワイ騒いでいると、発現フィールドの消滅が始まり、スキルのかっこよさなどくだらない事を2人で駄弁りながら対策部へと帰っていった。
~7月21日~
朝倉蓮、朝比奈瑠花、武藤恋次は護衛地区にある空港に居た。
その理由は本部から派遣されたフリーランス達が今日、彼らの護衛地区に到着するからだ。
3人は緊張しながらその時を待っていた。
しばらくすると何の印も描かれていない航空機が空港へと到着し、そこからは男女合わせて10人が降りた。
その10人は蓮達3人へと近づき、先頭を歩いていた女性が朝比奈へ右手を差し出しながら言った。
「はじめまして。貴方が朝比奈瑠花さんね?フリーランスのノエルと言います。よろしくね?」
朝比奈「は…はい!よろしくお願いします!ノエルさん!」
流石の朝比奈も、フリーランス相手には緊張を隠せない様だった。
ちなみに朝比奈はちゃんとした日本語で話しているのだが、ノエルの方はドイツ語で話している。
では何故朝比奈がちゃんとノエルとの会話が出来ているのか。
それはうなじに埋め込まれたDIGのおかげである。
DIGは翻訳機能も備えており、例えそれぞれが違う言語で話していようともそれぞれのDIGが聞こえてきた言葉全てを翻訳してくれる為何の問題もなく会話が成り立つのだ。
ノエルはひとしきり朝比奈との挨拶を交わし、次に武藤の方へと顔を向けた。
ノエル「もしかして貴方が朝倉さん?」
武藤「え?あぁっと…蓮はこっちの…」
武藤が蓮の方を指差すと、ノエル他9人のフリーランス達は一斉に蓮へと視線を向けた。
ノエル「そう…貴方が朝倉蓮さん。非接続者から接続者になった人間ね?」
蓮「は…はい。そうです…けど…」
ノエル「ふむ?至って普通な男の子だねぇ?」
蓮「え?えぇっと…」
ノエル「あ、ゴメンネ?世界中で君の事が騒がれているからさ。」
蓮「騒がれる…?」
ノエル「そりゃね?非接続者が接続者になったなんて今まで一度も無かった事だしさ。」
蓮「あ…あぁ。そういう意味ですか…」
ノエル「そうそう。それでどんな人なのかな?って。まぁ思い描いてた人相と全然違ったけどね。」
蓮「思い描いていた人相…?」
ノエル「ちょっと強面のゴツイ人想像してたの!」
ノエルは生き生きと言った。
ちなみにフリーランスの中で半分以上がそれに対し頷いていたのに対し蓮は苦笑いを返すしか無かった。
その後ノエル達は現在の情報量の上昇状況や護衛地区の範囲の確認を空港の中にある会議室で蓮達を含めた13人で行った。
その確認の途中、発現現象が発生し、フリーランスの内2人と武藤が消滅へと向かった。
「おい…あれは何だ?」
会議もある程度まとまり、少しずつ雑談も混り始めた時、フリーランスの内の一人、アレコスが窓の外を見つめて言った。
アレコスに続き、蓮やノエル、他全員が窓の外を見た。
一見普通に見えた蓮はある一部分の違和感に気付き、目を凝らす。
空港があるのは街から少し離れた所だ。
そして今蓮達がいる会議室は空港の高い位置に作られていた為街を一望することができる。
蓮が感じた違和感。それは街の中心地の上空に赤い光が浮いている事だった。
そしてその赤い光は徐々に大きくなっているように見える。
その瞬間。会議室に2つの携帯の着信音が鳴り響いた。
音源はノエルの携帯電話と朝比奈の携帯電話からだった。
2人は着信画面を確認し、ノエルはすぐに出、部屋の隅に移動。
朝比奈は「恋次くんから?」と不思議に思いながらもその場で電話に出た。
[逃げろ!!!]
横にいた蓮にも聞こえるほどの恋次の叫び声が朝比奈の携帯電話から響いた。
ノエル「そんな…!?」
それと同時にノエルが驚嘆の声を発した。
ノエル「皆!すぐにこの空港から出るわよ!」
アレコス「どうした?何かあったのか?」
ノエル「ここ一帯の情報量が急激に上昇!監視レベルが4にまで上がったわ!!!」
「!!!」
その場にいる全員が驚きを隠せなかった。
監視レベル。
これは世界の接続者の護衛地区一つ一つに与えられる言わば危険度のようなものだ。
これが高ければ高いほど発現現象が起こりやすくなったり、発生する敵のレベルが上がったりもする。
現在での最高の監視レベルは3。
これまでにレベル4は一度も発生していない。
フリーランス全員はすぐに会議室から出、下へと降り始めた。
朝比奈「蓮くん!私たちも行くよ!」
蓮はそれに頷き、朝比奈と会議室を飛び出し、共に下へ伸びる階段を降りた。
蓮達は衝撃のあまり動くことが出来なかった。
空港を出た蓮達10人が見たものは大きく光る赤い光だった。
その光は大きくなったことにより光ではなく発現フィールドが発生する時に捲られるパネルのようなものであることがわかった。
そのパネルは速さを増しながら空港方面へと伸びてきている。
パネルが向かってくる方向からは発現フィールドの消滅へと向かっていた恋次たち3人が走ってきているのが見えた。
何かを叫んでいるようにも見えたが、距離が離れている故蓮達には聞こえなかった。
その間パネルは今やかなりの速度で空港へと向かっていき恋次達を追い越した。
パネルは徐々に高さを落とし、空港の駐車場半分位のところまで覆い、拡大を止めた。
恋次達はその間ずっと走り続けていたが、彼らが空港の入口、蓮達まで後600M程の所で異変が起きた。
巨大なパネルたちは最初にアレコスが確認した位置から凄まじい速さでまた捲られていく。
捲られていく範囲から推測するにパネルたちは街全体を覆っているのだろう。
捲くられて行くパネル達は徐々に恋次たちへと近づいていく。
蓮達まで後50m。
ラストスパートとばかりにスピードを上げる恋次達だが、その時パネルは全て捲られていた。
恋次達は蓮達に飛び込みをかけるが、その瞬間。
パネルがもう一度捲られた。
パネルが捲られた先には今まで見てきた発現現象とは全く違うモノが出現していた。
街が消え、そこにあるのは巨大なピラミッドだった。
蓮達、フリーランス達も含め、その異常さに目を見開き、できる限りの情報を得ようとする。
だが、混乱している彼らにはそれは新たな混乱を呼ぶだけであった。
その時、コロコロと蓮の足元に転がっていく物体が見えた。
肌色で、複雑な形をし、赤い液体をまき散らしながら転がってくるその物体は。
人間の腕だった。
蓮「うぷっ…!!!」
それを見た瞬間、蓮は吐き気を催した。
恋次がパネルの外へと飛び込みを掛けた際、腕だけはパネルの外へと出ることは出来ていた。
この発現現象は今までとは違い、元の街を再構築などしていない。
そこには恋次の姿も2人のフリーランス達の姿も無かった。
どういう事が起きているのか分からないが、恋次達は間違いなくこの場から腕を残して消えたのだ。
蓮がやっとの思いで吐き気を抑え、立ち上がると、朝比奈はぼそりと目を見開きながら言った。
朝比奈「そんな………どうして………」
「どうしてシナリオダンジョンが………!?」