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第一話

西暦2057年。

世界にはゲームや物語で登場する怪物や怪獣が出現するようになっていた。

その原因は2つ。

1つは7年前。ある一人の開発者がデータ、情報を物質に変換するシステムを開発した。

それは分かりやすく説明すると林檎の味や形、匂いなどを細かく、細かくまとめたデータが1つあるとする。

そのデータをシステムが読み取り、そのデータ通りの林檎を物質として生み出すことが出来るという物だ。

そのシステムに明確な名前は付けられてはいなかった。だが多くの人々はそのシステムをこう呼んだ。

データ物質変換システム、と

その8ヶ月後。次にその開発者はデータ物質変換システムとは対をなす物を開発した。

物質をデータに、つまり物質をデータと言う非物質のものへと変換するというシステムだ。

そのシステムの名前は物質データ変換システムと名付けられた。


そしてもう1つの原因。

その2つのシステムが完成する1年前。

世界で初めてのフルダイブ型のオンラインゲーム"ブラッド・ハーツ・オンライン"が1つのハッカー集団によって再起不能、復帰不能なまでに壊された。

そのオンラインゲームは全世界にプレイヤーが存在していた。

つまりそれはオンラインゲームの壊れた情報、データは世界中に存在している事を証明する。

そして、2つのシステムが完成して2年後、オンラインゲームが壊れて3年後。

2つのシステム。データ物理変換システムと、物理データ変換システムは暴走を始めた。

壊れたその2つのシステムは何故か、その壊れてしまったオンラインゲームのデータだけを取得し、「データ」を「物質」、つまりオンラインゲームの中の物が現実に出現するという現象が起こった。

2つのプログラムが出現させたのは、オンラインゲームの中に出てくる敵、モンスターだった。

それにより、出始めの頃では約1億人弱の人間が「怪物」や「怪獣」に成す術なく殺された。

何人もの人間が「怪物」を何とかしようと試みた。

銃器や刃物など、様々な対抗策を講じたが、結果は参加者全員死亡と惨敗だった。

だが、遂に1人の元ゲームプレイヤーが対処方法を見つけた。


「怪物が出現している周辺では、壊されたオンラインゲームをしていた人間はそのゲームにログインすることができる」


怪物が出現しているということは、データ物理変換システムが働いているという事。

であれば、そのゲームをプレイしていたプレイヤーがそこにログインさえすればそのプレイヤーがゲーム内で装備していたものや、持っていたものを現実へと再現させ、それを使い怪物に対抗することができるということだった。

つまり、そのプレイヤーが装備していた武器防具は、ログインする事によってそれを装備することができると言う事だ。

そして現実世界の武器と違うのはゲーム内のアイテム数値が反映されている事だ。

武器防具の能力値、プレイヤーキャラクター自体のステータスも全て反映された。

現実世界の武器では傷一つ付く事の無かったモンスターに対し、そのゲームに存在した武器では簡単にモンスターを倒すことが出来たのだ。

その事が発覚した後、全世界の元プレイヤー達を集め、このゲーム内のモンスターが現実に出現するという事件に対し対策機構を作られた。

対策機構の名は。世界接続対策機構。通称WCC。

人は皆、ログインすることの出来る人間達を"接続者"と形容した。


だが、ゲームの様に甘くないところも多々あった。

それは、殺されれば死ぬという事。

ゲームの敵であろうと、データ物理変換システムが再現した物質であるが故に、一物質である人間に攻撃をすれば、攻撃を受けた人間は痛覚を感じ、HPが無くなる程のダメージを受ければ死ぬ。

だが、防具などによるダメージ軽減なども再現されており、レベルが高かったプレイヤーが弱い敵の攻撃を受けても死ぬことは無かった。

つまり、ゲーム内の敵が出現した周辺では、壊されたオンラインゲームが現実的かつ物理的に再現されているのである。



                  


?「しまった…寝すぎた…」

夜の学校。

一人歩く少年が居た。

?「ったく…学校終わったんなら起こしてくれりゃあいいのに…」

ブツブツと文句を言いつつ1階にある下駄箱ヘと向かっている。

下に伸びる階段を下り、下駄箱まで後少しの所まで少年が移動した。

その瞬間。

?「ぐ!?うううぅぅ…」

突然彼の頭に言い表すことの出来ないような不協和音が響く。

異様な音は彼の頭の中で段々と大きくなっていき、そして鼓膜が限界に達してもおかしくない程までに大きくなっていく。

?「あ…ああぁああぁぁあああああああ!!!!!!!!」

少年は咆哮する。自分の声で頭に鳴り響く音を上書きするかの様に。

だが、異様な音は彼の中でなお大きくなっていく。

足元がグラつき、体中の力が抜けていく。

少年が片膝を付き、終いには両手を床に付いて頭を垂れる。


突然。少年の頭に鳴り響いていた音が止んだ。

?「…っ…っぅ…」

まだ余韻が残っているのか心臓の鼓動と同じリズムで痛みの声を上げる。

だが、異変はそれだけに留まらず、変化は起こった。

突如壁が、世界が一面赤く染まった。

かと思うと、すぐにパネルのようなものが校舎の奥から捲られ始め、捲られた裏に本来の校舎の色があったかの様に色を取り戻していく。

?「こ…れは…」

余韻の頭痛が収まってきたのか、少年は立ち上がり様子を見る。

だがそれも数瞬で、何かに気付いたかのように下駄箱ヘと走りだした。

?「くっそ!建物の中は出ないんじゃなかったのかよ!!!」

少年は下駄箱に辿り着くが靴を履き替えず、校舎玄関の扉に手をかけた。

少年が扉に力を入れた瞬間。扉の向こう側に突如青い光の球が浮かびだした。

そしてその青い光からいくつもの英数字の羅列が落ちていくのが確認できた。

その数列の1つが地面に降りた時。そこからオレンジの光の輪が地面に広がっていった。

輪の大きさは光の球と同じくらいであろうか?

次第に光の輪に変化が起こり出す。

光の輪の中心から黒い影のようなモノが生えだしたのだ。

?「んだよチクショウ!」

少年は踵を返し、校舎の中に走っていく。

闇雲に走っている訳ではないらしく、足取りはしっかりとしていた。

だが、少年の行く先に、またあの青い球が浮かび出した。

?「そんな!?他に逃げ道は…逃げ…道…は…」

少年は周囲を見渡す。

?「な…なんで……なんだよ」

後ろを振り返った少年が見たものは青い球。

少年は青い球に挟まれてしまっていた。

青い球から数字の羅列が降り、光の輪を広げていく。

そして輪から出てくる黒い影。

人型のような。だけど人ではない形。

黒い影は全て出たのか、足の先から段々と色彩がついていく。

色が全て付くと、その黒い影は爬虫類のような頭部と尻尾の生えた人型の生物である事が分かった。

片手には片手用の剣。もう片方には盾を持っている。

?「まじかよ…嘘だろ?」

怪物とも言える2匹は少年に向かって歩いてくる。

少年は恐怖からか、足を滑らせ体制を崩して壁に背中を打ち付ける様に倒れ込んだ。

それでも怪物2匹は足を止めることなく少年へと近づいていく。

そして2匹が少年のすぐ傍まで来た瞬間。怪物はさも当然と言った様に剣を振りかぶり、少年へと下ろした。

?「うわああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

少年が悲鳴を上げるが、その悲鳴は途切れる事は無く、代わりに剣が地面に当たる甲高い音が鳴り響く。 

直撃の軌道を取っていた剣は少年を避け、少年の真横に刺さった。

?「…っえ?」

2匹の怪物は苦しそうな鳴き声を上げながらドロリと溶け、瞬間に弾け飛んだ。

女の声「大丈夫ですか!?」

?「へ?」

突如聞こえた女の声に驚きつつも、その方向へと見る。

そこには桃色の鎧のようなものを着る女性が片手用の直剣持ち、立っていた。

女性「突然のバックドア現象で駆けつけるのが遅くなりました!早く発現フィールドから脱出しましょう!」

?「え?あの…うわっ!」

女性は少年の腕を掴み、走っていく。

女性が向かっているのは先ほど少年が行こうにも行けなかった玄関口の外だった。

扉を開け、外へ出る。

そこには先ほどの爬虫類のような怪物が何匹も立ちふさがっていた。

女性「このまま突っ切ります。私の傍から決して離れないでくださいね」

女性が手に持っていた剣を構えると、怪物達は一斉に女性達の方へ走り出した。

それを確認した女性は剣を握り締める。

握られた剣の刀身が彼女の意思を感じ取ったのか、突如光りだした。

女性「はあああああ!!!」

光を放ったままの剣を大きく横に切る。

すると剣から青い斬撃のようなモノが怪物達に向かって飛び出し、青い斬撃は怪物達に避けられる事なく切り裂いた。

斬撃を受けた怪物達は溶け、はじけ飛ぶ。

女性「行きましょう!恐らく校門が出口です!」

またも女性は少年の手を取り、走り出す。

校門は目の前。後少しと言った所だろう。

だが、2人の前にまたあの青い球が出現する。

その青い球の大きさは先ほどまでの物とは桁違いにでかかった。

青い球から無数の数字の羅列が降りていく。

女性「そんな!?なんでただの発現フィールドから大型のモンスターが!?」

剣を再度構える女性。そして光の輪から出てくる大きな、大きすぎる程の怪物。

女性「バックドア現象だとこういう事も起っちゃうものなの…!?」

手にはこれもまた大きな斧。だが先ほどまでとは違い、盾を持たずに斧を両手で持っていた。

その風貌は先ほどまでの爬虫類の怪物と酷似していた。

だがその口から生える長く鋭い牙が、体格が、風貌が、ほかの爬虫類の化け物よりも格段に違うものだと分かった。

女性「貴方は私の傍を離れないでください。傍と言っても少し離れたところにお願いします!敵の攻撃に巻き込まれたら接続者でない貴方は一溜りもない!」

?「は…はい。」

少年は巨大な爬虫類の化物と対峙している女性から少し下がった所に移動し、現場を見守る。

女性は少年が下がったことを確認し、剣の刀身を輝かせながら怪物に特攻していく。

怪物は女性を視認するや否や大きな咆哮を上げ、斧を大きく振りかぶる。

おそらく斧を横に薙ぐ形の攻撃だろう。それを女性はすぐに把握したのか、剣を縦に振り、青の斬撃を飛ばした後に体を極限まで地面に伏せた。

女性が放った斬撃が怪物に当たるが、その怪物は怯む事なく斧を横に薙いだ。

怪物の攻撃は女性のすぐ上を通過した。それを確認した女性は、すぐに体を立ち上がらせて攻撃の体制を取る。

だが次の瞬間怪物は横に薙いだ斧をすぐに翻し、横に薙いだ。

斧を薙いだ後はまた斧を振りかぶるような体の姿勢となる。それをそのまままた斧を薙いだのだ。

女性はそれに気付くも、それを避ける時間は無かった。

咄嗟に剣を体に密着させるようにガードするも、斧の威力は凄まじいものらしく、防御したにも関わらず女性は弾き飛ばされ、遠く離れた木の幹に激突する。

女性「っか…あ…!」

背中からの激突故か酸素を吐き出すような声を上げた。

衝撃の余韻か、数秒木の幹に張り付いていたが、やがてズルズルと落ちてゆき、女性はそのまま幹に寄りかかるようにして気を失ってしまった。

そして、その原因の怪物は女性にではなく、先ほどの少年へと歩を近づけていった。

?「っひ!……あ…あぁ…」

段々と近づいてくる怪物を目の前に尻餅を付く少年。

だが、お構いなしに近づいてくる怪物。

口からは涎をダラダラと垂れ流し、グルル…という小さな鳴き声を上げてくる。

そして怪物が少年の目の前へと到着した。

?「……ぁ……は……ぁぁ…」

混乱で声も上げることができなくなった少年。

それを見た怪物は手に持った大きな斧を上へと振り上げる。

?「…っ!くぅぅ!!!」

少年は頭を守るような姿勢を取る。

だが大きな斧は軽く少年の細腕を砕き、両断することは目に見えていた。

女性「に…げて…逃げて…くだ…さい!!!」

気絶から回復したのか、捻り出すように声をあげる女性。

対して少年は同じ姿勢を取ったまま動かない。

女性「逃げて!!!」

怪物が斧を振り下ろす。

少年が見たものは駆け寄ろうと体を引きずりながらも走り出す女性の姿。

その姿はやけにスローに見えていた。

?「(あぁ…俺…死ぬのか…)」

少年は目をゆっくりと閉じ、迫り来る死を待った。

瞬間。

鉄と鉄がぶつかり合うような鋭い金属音が辺りに響いた。

その音に驚き、少年は目を開け、音源の方向、少年の真上を見上げた。

まず少年の目に飛び込んで来た物は白にも近い白銀の刃だった。

それは怪物の斧を受け止め、接触面からはチリチリと火花を散らしている。

そして次に見たものはその刃の付け根にある十字。それを持つ自分の手だった。

この十字が鍔と柄であることに気付くのに数秒を要した少年が次に見たもの、それは怪物の姿である。

怪物の顔は攻撃を防がれたことに怒りを感じているのか、眉間と思われる所に幾重にもシワを寄せていた。

だが、先ほどよりも違ったのはそれだけでは無かった。

視界の右上には緑色のバーと×2の文字。

左下には緑色のバー、その下に青色のバーが存在し、その2つのバーの上に書かれたReinと言う文字。

そして怪物の真上にある「Great Lizard Man」と書かれた文字。

少年は何が起こっているのか分からなかった。

混乱に混乱を重ね、一周周って少し冷静になっていった少年の前にまた変化が訪れた。

滑るような音と共に1つのウィンドウが出現した。そのウィンドウの中に書かれていた文字は


             『Welcome to blood Hearts online』

             『チュートリアルを開始します。』





『朝倉 蓮。身長176cm。体重57kg。両親は不明。幼い頃から孤児院で生活、その後に高校入学を果たす。』

『齢は18。DIG装着済み。これで違いはないかな?』

白く広い部屋に後ろで手を組み、膝立ちしている少年はコクリと首を縦に降った。

朝倉 蓮と呼ばれた少年の腕には手を縛るロープもそれを見張る人間も存在しなかった。

しかし、蓮は今この状況で「自分で動く」と言うことは不可能な状態だった。

理由は2032年に開発され、今や全世界の人間が装着していると言われるモノ。

DIG。ディグと呼ばれるものだが、正確には「Direct Internet Gearダイレクト・インターネット・ギア」と言う。

産まれた時期にうなじの部分に差し込み口を付ける手術を受け装着することが出来るのだが、何故このDIGが全世界に頒布されたか。

それは犯罪率の大幅な低下と一人一人の健康状況のモニタリング。そして円滑な情報の交換だ。

このDIGはその名の通りうなじの差し込み口に装着するだけでインターネットに接続できるという代物だ。

それは脳に繋がった差し込み口を通じて数多もの信号を出し、様々な事を可能にした。

後頭葉と側頭葉に接続し、視覚にインターネットブラウザや、アプリケーションを配置することも、DIGに接続して他の国の人間との会話も可能となった。

そして、今彼が受けている【拘束】もDIGの成せる技である。

これは警察などにしか使えない機能で、前頭葉に働きかけ、動きを制限するというものだ。

『さて、では現状を改めて振り返るとしようか。朝倉 蓮君』

DIGを通して耳から聞こえるようになった音声に、またコクリと素直に従う蓮。

『君は学校から帰ろうとしていた途中でバックドア現象に遭遇し、モンスター達の襲撃を受けた。』 

『そしてそこへ駆けつけた接続者と合流し、発現フィールドからの脱出を試みるも、大型モンスターが出現《pop》し、接続者が応戦するも苦戦。その過程で命の危険に陥る。』

『応戦した接続者が気を失い、大型モンスターの接近で体が硬直し、そして大型モンスターの攻撃を受ける。』

そこで声が一旦止まるが、すぐに言葉は繋げられた。

『だが、突如出現した片手直剣を使い攻撃を防御。後に大型モンスターを討伐し、恐らく極度の緊張で意識を失う。』

『これで合っているかな?』

蓮はまたコクリと首を縦に降った。

DIGを通して蓮の耳には深い溜息の音を拾った。

恐らくDIGの向こうではさぞかし大騒ぎになっているであろう。

それもそうだ。このオンラインゲームのモンスターが現実に出現する現象が起こり出してから今の今まで非接続者が接続者になると言う事件は起こったことは無かったからだ。

壊れたオンラインゲームにはもちろんプレイしていた人間のキャラクターデータも含まれていた。それ故に接続者達はそのデータを使い、接続することは出来た。

だが非接続者が接続者となる場合。そのオンラインゲームに新たなデータを産むと言うことになる。そんな事は不可能なのは言うまでもない。

しかし、実際に非接続者が接続者になるという事件が今起こってしまった。

『正直君にはとても驚いている。非接続者が接続者になるのは普通ありえない事だ。だがそれが起こってしまった。今君の登場で世界的に接続者や接続者達を管理する者が相当混乱しているのは言うまでもない』

『だがそれと同時に少しだけ希望もあるのだよ。』

蓮「…?」

皆が混乱しているのは理解できた蓮だが、希望と言う単語は理解できなかった。

体を動かせない蓮は眉間に皺を寄せる。だが、その表情は相手には見えないので伝わるはずもない。

『減っていく一方だった接続者が一人だけだが増えたのだ。少ない戦闘力でも世界を守る勢力が増えたと言うことは、何かしらの方法で接続者を増やす手段があるという可能性を君は示した。』

蓮の気持ちを知ってか知らずか希望という単語の理由を話すが、その後に続く言葉のトーンは一気に下がった様子で

『しかし、それは君の命を常に危険に晒してしまうということにも繋がる。現に今君を新たな接続者として発現現象で出現したモンスターを倒してもらうか。それともこのまま何一つ変わらない普通の生活を送ってもらうかで討論が行われている訳だからな。

まぁ、どちらにしろ君にはある程度の監視が付く事は明白ではあるが』

そう。この現象に対抗するには接続者がオンラインゲームに接続し、戦うのはそれが一番効率がいい。

現実の武器はほぼ効かない。現実の武器はモンスターに対して攻撃力が絶望的に足りない。と言うよりも、攻撃力というステータスが現実の武器には存在しない。

それは現実の武器がオンラインゲームのシステムに干渉していないからだ。

システムに干渉していない現実の武器は弱く、脆い。

だがシステムに干渉しているゲーム内の武器は、ゲーム内と同じ働きをする。

ゲーム内で武器として設定されているということはつまりゲーム内の敵を倒す事を目的として存在する。

これは現実の武器よりも格段に攻撃が通用するという事。

そしてこれは身につける防具にも適応される。

防御力が高ければ高い分敵の攻撃は緩和されるので、死亡確率がグンと下がる。

これが接続者が戦う理由だ。

だが、接続者が接続し、戦闘を行い、体力《HP》が無くなってしまった場合。

接続者の心臓は停止し、二度と生き返る事はない。

いくらゲーム内に接続していようと、結局は現実で起こっている現象。そこで命を落としてしまえば確実に死んでしまう。

これはゲーム内に接続が出来るという事実が発覚したその日に確認されている。

発見した人間が敵の攻撃を受け、HPが0になった瞬間。接続が途絶え、装備していた武器や防具が一瞬にして消え去り、残ったのは心臓の止まった、つまり死亡した状態の体が横たわっていたからだ。

今接続者や接続者を管理している人間たちの中で行われている討論は元非接続者をそんな状況へ突き落とすか否かという内容と非接続者が接続者となった理由の研究をどうするかだ。

蓮は結果がなんとなく想像出来たが、あえて気付かないフリをして口を閉ざしていた。

死への恐怖。それは蓮だけでなく全ての人間に共通するものだ。

大型モンスターを倒す事が出来たのは偶然だと蓮は思っていた。

目の前に現れるウィンドウに表示された文字を読み、理解し、実行していただけだ。

敵の攻撃の瞬間はウィンドウが知らせてくれたし、攻撃のタイミングもウィンドウが教えてくれた。

次からはそれがないと思うと、蓮は不安と恐怖で体が震えだす。

『討論は恐らく長引くだろう。だからといって君をこのまま家に返すわけには行かないんだ。しばらくの間はこの施設で生活して欲しい。以上だ。』

ピコンという機械的効果音が鳴り、目の前に【通話が終了しました。】の文字が出現する。

その瞬間に体の【拘束】が解け、蓮はそのまま地面に伏せた。

一度にいろいろな事が起こり、混乱している頭をなんとか抑え、立ち上がる。

蓮はゆっくりと上を見上げるが、その先には周りと同じ白い天井が広がっているだけだった。


落ちていた意識を戻し、ゆっくりと目を開ける。

変わらずに白い天井が視界を埋め尽くすのを確認すると深い溜息を付いた。

─なんでこんなことに・・・

果たしてこの単語を俺は何度繰り返しただろう?

俺はただ単に帰ろうとしただけだ。

なのに何故…

白い天井を見ていると段々とストレスが溜まっていく。

蓮「くそ!」

握った拳を床に叩きつけるが訪れるのは鈍い痛みと叩いた音だけだった。

─なんでこんなことに・・・

俺はまたも頭でぼやき、意識を沈めていく。

訳の分からない現実から逃げるかのように


『君の処遇が決まった。』

この白い部屋に蓮が来た時と同じように後ろで手を組み、膝立ちし、DIGを通して声が聞こえる。

蓮は目を閉じ、その答えを待つ。

『君は特別監視対象として君が今住んでいる地区を守護してもらう。情報量は平均値よりやや下だからやりやすいだろう。そして君を監視するのは「朝比奈 瑠花」という人間だ。』

蓮「…」

『私としては君は今までの生活を続けて欲しいが、人々を守る接続者は減る一方で増える事はない。つまり人材は圧倒的に足りないんだ。だから、今君に対して言えるのは…』

蓮「…?」

『どうか死なないでくれ。そして、頑張ってくれ。』

蓮は小さく鼻で笑う

蓮「…………分かりました。どうせやりたくないと言ってもやらなければならないなら…やれるだけやってみます。」

しばらく沈黙が続き、それじゃあ。と短く一言蓮は耳にした。

蓮は視界に出現した【通話が終了しました。】のメッセージウィンドウを消えるまで見続け、立ち上がった。

瞬間、白い部屋の照明が段々と暗くなり、最後には完全な暗闇となった。

しばらくすると部屋の隅に光が刺し始めた。

光の正体はドアが開いたことによって外の光が漏れていたからであった。

ドアを潜ると、白い部屋とは一転して鉄で出来た通路がただ前に伸びていた。

蓮は一瞬だけ今は照明が落ち、暗くなった白い部屋へと振り返り、前方に伸びる通路を歩き出した。


大体1分ほど経った。

未だ部屋という部屋は見当たらず、蓮は少し不安に苛まれていた。

そんな蓮を察してか、正面に先と同じようなドアが見え始めた。

それを見るや蓮は走り出し、ドアに近づく。

DIGを感知してかドアは自動的に開いた。

蓮は飛び込むように中に入ると、中には先ほどの白い部屋ではなく、部屋の中央に巨大なモニターが鎮座する全体的に暗い部屋だった。

巨大モニターのほかにはそれを囲むように壁際にはびっしりと小さな画面とキーボード、そしてそこに丸い球体が埋まっていた。

?「貴方が朝倉 蓮くん?」

突如暗い部屋に声が響き、それを予測していなかった蓮はビクリと腰を浮かす。

辺りを見渡すも、人影一つ見受けられず顔をかしげた。

?「後ろ」

蓮「ひ!?」

背後からいきなり声が聞こえ、先ほどよりもさらに高く腰を浮かせて驚きを表現する。

蓮は驚きからの着地後、ゆっくりと後ろを振り向くとそこには若い女性が微笑みながら立っていた。

蓮「………ん?」

?「………ん?」

互いが顔を見合わせた瞬間、蓮にはひとつの違和感があった。

どこかであったような気がする。というものだった。

?「あれ。覚えてないかな…。一応貴方を助けて、そして助けられたんだけど…」

蓮「………あ…」

蓮がバックドア現象に巻き込まれた時に駆けつけてくれた桃色鎧の女性。

?「思い出してくれたかな?えっと…名前は朝倉、蓮君…だったっけ?」

蓮は首を縦に振り、肯定の意を示した。

?「ようこそWCCへ。私は朝比奈、瑠花。この地区の護衛を担当している接続者です。」

蓮「…どうも。」

瑠花「蓮君って呼んでもいいかな?」

蓮「えっと……はい。大丈夫です。」

瑠花「それじゃあ蓮君。君の今の状況をおさらいするね?」

瑠花「君は学校の下校途中にバックドア現象に遭遇し、モンスターの攻撃を受ける。

その時に私が駆け付け、貴方の護衛に付いた。

そして、発現フィールドからの脱出間際、大型モンスターが出現し、私が応戦するも力及ばず撃退される。

大型モンスターは君に攻撃を仕掛けるが、非接続者の君が何故かログインし、システム上存在しない"通常モンスターを相手にしたチュートリアル"が始まり、これを撃破。

そこで緊張の為意識を失い、この施設に搬入される。これで良いかな?」

蓮はまた首を縦に振り、肯定の意を示す。

瑠花「あの時は本当にごめんなさい…。君を守ってあげられなかった。」

蓮「いえ、異常事態だったのは俺でも分かったんで……その…仕方ないと思います。」

瑠花「………ありがとう。君の事は今度こそ私が責任を持って守ってあげるから。」

蓮「守る、なんて言葉使わないでください。一緒に戦うことになったんですからせめて鍛えるとか言ってください」

瑠花「…そうね。ごめんなさい。それじゃあこれからよろしくね。蓮君。」

瑠花が手を前に出し、握手を求めていた。

蓮はそれを見、少し微笑みながらその握手に応じた。


朝倉 蓮。アカウント名、Rein。

アカウント名、Pink rabbit担当の地区の護衛に参加。

この地区の護衛人数、3。


また、この地区の情報量の上昇を確認。監視レベル、2。

この小説にはメインヒロインという概念は存在しません。

胸糞悪いお話になると予想されますので、そういうのが苦手な方はお引き取りください。


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