なんであなたがいるんですか
ご覧いただきありがとうございます。
起承転結の転、前編のような感じです。
(…懐かしい夢を見ました……)
――目が覚めたら、自室の寝台に横たわっていました。少しですが、体調面もよくなっているようです。からだがちゃんと思うように動きますから。思うように動かないと難儀ですね…。 それにしても、幼い頃の懐かしいやり取りを夢に見ました。相手は名前すら覚えていないんですが、一時期よくお相手した子です。父の取引先のご子息で、みっつ下の男の子ですよ。今よりもよく熱をだして寝込んでいたディアはあまり相手ができず、わたしがよく相手をしていました。あの子、ほんとよく人の名前を間違えてましたね……。
物思いをしながら窓の外を見ると、明らかに朝のようです。わたしの部屋の唯一の窓は、東向なんですよ。この陽の入り具合からいって、朝食を少し過ぎたくらいでしょうか。あれから一晩寝ていたようですね。あぁ、朝ごはんを食べ損ねてしまいましたよ……ジョナサンの料理はどれをとっても逸品なんですよ。体調面が悪いとはいえ、食欲はあるようなので、先程から胃袋がうるさいんです。そういえば昨日は晩ごはんも食べ損ねていたんですね。思い出したらより胃袋が……。
あ、ノックがします。今度は返事ができたので、よかったですよ。
「お嬢様、テッラにございます。お加減はいかがですか」
――テッラ、あなた仕事は!?
テッラに返答し、入室許可を出して、入室したテッラを見て、再び驚きました。
「テッラ、指をどうしたんですか!」
テッラの指に、左の薬指に、変化がありましたよ!誰ですか、テッラについた悪い虫はどこのだれですか!!
「お嬢様、おからだのお加減はよくおなりのようで、ようございました。――ですが、病み上がりなのですから、私の指を見てこの世の終わりのような顔をなされるのはおやめくださいね?」
テッラは苦笑を浮かべながらも、淡々と着実に仕事をこなしていきます――彼女は、わたしの様子を見がてら、朝の支度に来てくれたみたいですね。自分でできますよ、といえばあなた病み上がりでしょうと返されました。ええ、病み上がりですとも。普段なら一人でできますし、テッラがいたときも一人でしたが、慣れないことをされると恥ずかしいですよ……。
「お嬢様、本日はどのようにされますか」
支度を整え、朝食の給仕もうけ、本日の予定を聞かれました――ここで思い出しました。
「テッラ、あなたはいいのですか、王宮の――」
しごと、といいかけて、テッラに言葉を遮られました。なんでわたしのまわりは言葉を遮るかたが多いのでしょうか。テッラ、人の発言は最後まで聞きましょうね。
「お嬢様、昨日は休暇でした。お世話になった旦那様方々に報告がありまして、こちらに参ったしだいなのですよ。驚かせようと、知らせも伏せたんですが」
――やはり、知らせはなかった、でもその理由はなんだか聞きたくありませんよ?!
「お嬢様、何を思われているか想像できますが、今から私がお伝えするのは、報告ではないのですよ。報告は、また旦那様方が揃われたらお伝えしますので」
わたしが考えてたのとは違いました。でも、後からは聞くはめになるんですね?嫌なのが後回しになったんですね、ほっとしていいのか否か、判断しかねます……。
「お嬢様、わたしは昨日も本日も休暇なので、本日もこちらにお邪魔しているのです。安心なさってくださいね」
私の知りたいことを察して、すぐに伝えてくれるのは優秀というより血筋なのでしょうか…?先ほどの発言、とてもジョナサンそっくりで驚きました。
「お嬢様、ディアナ様もお体が回復されて、先にお目覚めになられております――いま、お客様の対応をされておられます。旦那様方はお泊まりでお取り引きにいかれてご不在ですし、お嬢様が臥せっておられましたので」
――あぁ、神様どういうことでしょうか!
わたし、長女でお姉ちゃんなのに、からだの弱い妹に来客の相手をさせてしまうとは!いろいろと失格ですね……。
「お嬢様、落ち込みのところ申し訳ないのですが、本日とくに御用がない日でしたら、ディアナさまと交代を。ディアナ様も、回復されたとはいえ、医師より興奮しないように診断されておりますゆえに」
「わかりました、向かいましょう。お客様はどちらの客室に?」
「はい、一階の個人客用の客室におられます」
――我がマディンバラ家は、祖父のベルマンが興した薬問屋です。
祖父は騎士だったのですが、生まれた一人娘―わたしの母ですね―が体が弱く、方々に手を尽くして薬を取り寄せておりました。やがて母が強く育ち、薬が不必要になったとき、気づいたら集めた薬を必要な方々に仲介したり卸したりするようになっていたんです。なら、家業にしてしまえと。以降、我が家は薬問屋マディンバラを名乗っております。
――ゆえに、お客様は大抵個人的に薬が必要となる個人客か、病院や孤児院、薬を販売する商家など数人で仕入れにこられる団体客に別れます。
今回のお客様は個人客用の客室におられるので、ご病気の方に用意する薬をお求めかもしれません。
色々と考えている間に客室の前につきました。中から、ディアと男性の声がいたします。
「――はこちらに?」
扉をノックしようとしたわたしの手は止まりました。だって、この声はあの人……ディアの婚約者、キース・ランドン氏です。
――お客様じゃ、なかったんですか?!
毎度最後までご覧いただきありがとうございます。
題の“あなた”は王宮に勤めているはずのテッラでもあり、彼でもありました。
次回、転の中編か後編になるかと。明日か、明後日になるかと。




