こんなとき、どうしたらいいのでしょうか。
あの人が出ます。
「ナディお嬢様、ディアお嬢様のことですが、体調が芳しくなく、医師の勧めにより横になられ、睡眠をとられております」
家の中に入ると、ジョナサンより、ディアの体調の報告が入りました。仕える者がすぐに知りたい情報をいちはやく察し、こちらが問う前に情報を準備する。執事の鑑ですね、まったく。
「ディアは寝入っているのですか。では、起こしてはいけませんね。話したいことは明日の方がいいでしょうか」
「そのようにと、医師も申しておりました。安静にして、興奮することを避けるようにと。興奮することあれば、さらに悪化するとのこと」
――朝はまだ、起き上がれずとも、会話ができるくらい体調が良かったのですが、今はもう無理のようですね。
なら、今日の顛末を告げるのも、体調が安定してからの方がいいでしょう。わたしも、自室で編み物か刺繍でもして夕食時までゆっくりしましょうか。今日はなんだか色々ありすぎて、疲れましたから。
「お嬢様、本日は旦那様と奥様はお取引先にて晩餐会に出席されます。ご夕食は自室にお運びしてもよろしいでしょうか」
ジョナサンは、遠回しにお部屋でゆっくりお過ごしください、と気遣ってくれているようです。ジョナサンの言葉に甘えて、夕食は部屋に運んでもらうことにしました。
「ナディお嬢様、何かありましたら、ご遠慮なく一声お掛けください。すぐにかけつけますゆえ」
「わかりました、ご苦労様です、ジョナサン。いつもありがとう」
では、と一礼してジョナサンはさがりました。
――ジョナサンを見送ったあと、自室にもどったわたしは、一気に疲労を感じてしまいました。
編み物か刺繍でもするつもりだったのですが、それも無理のようです。頭が徐々に重くなってきました。たえきれず、ふらふらと寝台に向かいます。
「おかしいですね……?」
――寝台に向かって歩いているのですが、からだが思うようについてきません。足がきちんと床についていないような気がしますし、なんだかからだが揺れています。わたしのからだ、急にどうしたんでしょうか。
「あれ…?」
まるで、お空の雲の上を歩いているような気がするんです。お空の散歩はこんな気分なのでしょう。安定しないお散歩は嫌ですけどね。そのせいでしょうか?寝台までの距離が、とてつもなく遠く感じます。
それにしても、からだがいうこと聞いてくれません。まるでからだが操り人形になったかのようです。自分の思うように動けないなんて。
(あ、もう駄目ですね……?)
ついに、力の入らなくなったわたしのからだは、寝台まであと一歩のところで、床に倒れこんでしまいました。どすん、と意外に重たそうな音がしました。
床に体をしたたかに打ち付けたようで、あちこちが痛み始めました。でも、もうろうとする思考の中、自分の頭は衝突の危機から守りきりましたよ、手でガードしましたから。頭を打ってしまったら危険といいますからね。
それから、この状態でどれだけの間横になっていたんでしょう。いつのまにかうとうとし始めていたようです。からだの節々の痛みで目が覚めました。風邪で熱を出したときの典型的な症状ですよ、これは。ジョナサンが風邪云々いってましたね……ここでようやくジョナサンのことに思い当たりました。ジョナサン、何かあれば呼べといってましたね。今がそのときですね、よし。
(あれ、うまく声がでませんよ)
かすれ声もでません。ジョナサン、と発音したつもりが、ひゅーひゅーと音が鳴るだけです。これは、とてつもなくやばいですね!助けを呼べません。ドアを開けてひとまず廊下に出ようにも、手足は力が入れようものなら震える始末、からだはいつのまにか悪寒が止まりません。そのうち歯がガタガタいいだしそうです。
これはもう、ジョナサンが夕食を持ってきてくれるまで待つしかないのでしょうか。
(どうしましょうか……?)
たとえ声が出たとしても、料理人も兼ねるジョナサンは今、おそらく厨房でしょう。3階の角部屋であるここから、1階の厨房まで声を届かせる自信もありません。また、からだが床に倒れた時の音も1階の厨房まで響いてそうにありません。あれだけ重そうな音でも、響いていたら今ごろジョナサンが駆け付けていたでしょうから。
(それにしても、ダイエットしないといけませんね…思ったより、大きい音でしたよ。ショックが強すぎます……)
霞む頭でそんなくだらないことを考えていたら、戸をノックする音が聞こえました。あぁ、助けが来ましたよ!
しかし、視界も霞がかっていますし、声も出ませんし、起き上がれそうにないですから、ノックへの応答ができません。困りました……!これでは助けが呼べません……。
(こんなとき、どうしたらいいのでしょうか……?)――どなたか、教えてください。
(元気になったら対策を練りましょうか)
「お嬢様、テッラにございます」
――あぁ、神様!!
最上の助っ人、登場です……!
何であの人が登場したかは、答えは次回へ。