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皇紀973年12月14日午前7時45分 楠島基地 穹凰艦橋

◆皇紀973年12月14日午前7時45分 楠島くすじま基地 穹凰クオウ艦橋


「すぐに出港しろと?」

『そうだ』

「人員の補充も済んでいないのに――ですか」

『多少、遅れているようだが、すぐに到着する』


 艦橋内に小城原おぎはら大佐と――市ノ瀬少佐が知らない士官との会話が響く。淡々と命令を告げる士官に対し、小城原大佐が難色を示している。先だっての命令に従い、乗艦員クルーの1/3を回したが、その後の人員補充が遅滞していた。


「使い物になるかも解らない人員で――飛べと」

穹凰クオウ乗艦員クルーは、優秀な人間揃いだ。なんら問題は無いと判断している』


 先ほど、臨時軍令本部より告げられた命令は、「穹凰クオウはすぐに出港し、上空より開戦反対派テロリストどもを殲滅されたし」という内容だった。その後の行動に関する指示は無く、問うても答えは返ってこなかった。そもそも、人員補充も、その人員の配分も訓練も済んでいない状況で、すぐに飛べというのが無茶だった。


「――本艦は、おとりですか」

『おとりでは無い。八凰はちおう艦を無駄にする余裕は無い』


 小城原大佐が軽くため息を吐く。この会話が、何ら進展が無くプラスになるとは思えないと自分でも解っているがゆえのため息だった。そもそも、近藤少佐――市ノ瀬少佐が名を知らなかった士官――では話にならない。所詮は伝令役であり、命令を変更出来るだけの権限は無い。


「――穹凰クオウ、これより出港準備を整え、ただちに出港いたします」

『貴艦の健闘を祈る』


 モニター越しとは言え、小城原大佐の不承不承で従っているという態度は丸わかりだったであろう。その上で、何事も無かったかのように通信は終了した。こちらの不満は、態度に難ありという形でしか上には伝わらないだろう。途中から通信の様子を見守っていた市ノ瀬少佐が寄ってくる。


「艦長――」

「聞いての通りだ。出港準備を整えてくれ」

「まぁ、このまま地上に係留していても、でかい標的なのは間違いありませんがね――素直に従うんですか?」


 素直に従う以外、どういう選択肢があるというのか。小城原大佐もさすがに驚いて、市ノ瀬少佐の方を見やる。市ノ瀬少佐が近づいてきて、小声で続ける。


「反乱軍が苦戦していますからね。上空からDリバースを撃ち抜けば恩を売れますよ」

「――さすがに聞かなかったことにしよう」

「まぁ、半分冗談ですよ」


 半分は本気ということだから質が悪い。


「それはともかく――艦長が懸念した通りみたいですね」

「ふむ」

穹凰クオウを隠れ蓑にして、出発するみたいです」

「どこへ――というのは?」

「どうやら帝都に向かうようです」

「本格的に反撃を行う――と、言ったところか」


 それまでも十分に小声だったのだが、市ノ瀬少佐が声のボリュームをさらに絞る。小城原大佐が市ノ瀬少佐を見やると、強張った顔をしている少佐の顔があった。その声音と強張った顔付きから、更に何かがありそうだと感じ取る。


「どうした」

「どうも――更にきな臭くなってますね」

「どういうことだ」

穹凰うちから1/3も人員を送り込んだんで、筒抜けとまでは言いませんが、かなりのパイプを通せましたからね。それなりに情報が上がってくるんですが――」


 そこで、市ノ瀬少佐が言い淀む。勿体ぶっているとか、そう言う事では無く、市ノ瀬少佐も情報に混乱しているのだと感じられた。


「Dリバースが、真っ赤な返り血に染まった身体で艦橋ブリッジに来て、帝都に向かうと命令したらしいんですよ」

「返り血?」


 返り血というのも不穏ではあるが、そもそも、Dリバースが命令を下したと言うことが引っかかった。クローン兵が本部の命令を伝達した――という事だとは思うのだが、そんな大事な命令をDリバースにやらせるだろうか。あの本部が、そんなことをするとは考えられなかった。


「なるほど――きな臭いな」

「でしょ?」

「判断を下すには、情報が少なすぎるな」

「ですかねぇ」


 たった数時間だというのに、状況が混沌としすぎだった。一生分のため息を吐き尽くすんじゃないかという勢いで、また、ため息を1つ吐くと、市ノ瀬少佐に命令を下す。


「すまんが、引き続き情報を頼む」

「了解です」


 小城原大佐は、1度、目をつぶり天井へと顔を向ける。ほんの一呼吸の間、上を見ていたかと思うと、前へ向き直りマイクへと手を伸ばす。気は進まなくはあるが、命令は命令だ――出港準備のため、艦内放送を行うのだった。



◆同日午前7時40分 楠島くすじま基地大型格納庫内 焔凰エンオウ作戦室


「それで――穹凰クオウに出港するよう命令を下し、我々が帝都に向かうことは理解したが、向かってどうする」


 穹凰クオウの小城原大佐へと命令を伝達する前、――梶原陸軍大将が確認するべく、黒崎元帥に問う。黒崎元帥は、手にした葉巻をいじりつつ、軽く鼻で笑ったように見えた。


「知れたこと。逆らうバカどもを再教育してやるのだ」

「奴らの本拠地が解ったのかッ」

「ふんッ。野焼きをしてやれば、巣穴から這い出してくるだろうよ」


 その言葉に、作戦室の一同が言葉を失う。剣崎幕僚参謀長も言葉を失った1人だ。周囲を見回せば、一様に驚いた顔をしている。梶原大将などは、二の句が継げず、口をぱくぱくさせている。一呼吸置いて、落ち着きを取り戻した剣崎参謀長が、代表して黒崎元帥に問いかける。


「確かに、焔凰エンオウ舫凰ホウオウなら威嚇効果は――」

「威嚇の必要は無かろう」

「は?」

「徹底的に叩きつぶせば良い」

「な、お待ちくださいッ」


 剣崎幕僚参謀長の声を遮るようにして、ダンッとテーブルを叩く音と共に、梶原大将が立ち上がる。その音に、周囲の人間はビクッと反応してしまうが、黒崎元帥は微動だにしない。


「帝都を壊滅させる気かッ」

「そこまでする前に巣穴から出てくるといいがな」


 ダンッと再度テーブルを叩いたかと思うと、黒崎元帥に迫る。その気迫に押されること無く、梶原大将の目を見つめ返す。


「さすがに冗談とは言え、度が過ぎていますぞ」

「ああ、――もちろん冗談のつもりは無い」

「本気で帝都を潰すと?」

「奴ら次第だな」


 梶原大将は、口を真一文字に結び、黒崎元帥を睨み付ける。何かを堪えるように――しかし、それに対し黒崎元帥は何も言わない。


「私の家もあるので、破壊されるのは困りますな」


 五里守ごりかみ空軍大将が発したその暢気な一言は、場から多少なりとも緊張を取り除く効果があった。幾人かが、ほっと息を吐き出す。五里守大将が、そのまま続ける。


「それで、――帝都を攻撃する真の目的はなんですかな?」


 真の目的という言葉で、はっとしたかのように幾人かが黒崎元帥へと視線を注ぐ。黒崎元帥は、手にした葉巻に火を付け、ふぅと吹かす。


「真の目的と言うほどのことはない」

「と、言いますと?」

「少々、我々に対して反抗的な連中が増えすぎたとは思わないかね」


 黒崎元帥が、葉巻を吹かしながら、一同をゆったりと見回す。その黒崎元帥の目が、Dリバース――D-1と呼ばれる兵士の所でしばし止まるが、すぐに戻る。見つめられたD-1の方も、特に何を言うでも無く、会議の熱とは無関係に立っていた。


「帝都を攻撃し、――粛清を行うと?」


 五里守大将が、絞り出すような声で確認を行う。粛清という表現に、思わず、ぎょっとしてしまうが、言っていることに間違いは無い。どう言いつくろおうと、血の粛清を行うと言っているも同じだ。その、粛清という言葉に思うところがあったのか、霧谷海軍大将が声を発する。


無辜むこの市民を巻き込んでまで、行うというのか」

「そ、そうです。いくらなんでも被害が大きくなりすぎます」


 剣崎参謀長が、これ幸いと、霧谷大将の言葉尻に乗り、考え直して貰うよう進言する。少し脅しを利かせてやれば十分に思えた。何も戦火を拡大する必要は無い。


舫凰ホウオウで上空から脅かしてやれば――それこそ、湾内に1、2発撃ち込んで脅かしてやれば――」

「くっくっく、ひと思いに締め付けないからこその事態では無いか」


 狂ってる――剣崎参謀長は、黒崎元帥がおかしくなってしまったと思った。帝都を攻撃しようとしているのだ。狂っていると考えても致し方なかった。


「く、狂いおったか。黒崎直幹なおもとッ」


 五里守大将が勢いよく立ち上がり、上から見下ろすようにして黒崎元帥を指差す。作戦室内はすっかり異様な空気に包まれていた。


「狂う――狂うか。くっくっく。それは何を持って正気とするのかによるな」

「笑い事かッ」

「勝った者が正義ぞ」

「な、何を――」


 黒崎元帥が、自分に向けられた指を鬱陶しそうに脇へと退ける。そして、Dリバース――D-1の方へと向くと、両腕を広げ朗々と語り出す。


「見ろ。こいつらは我の命令に忠実な兵士ぞ。奴らみたいに刃向かうことも無く、命令をこなす。しかも、そこいらの兵より優秀だ」


 剣崎参謀長の目には、狂気に酔っているように映った。背中を何かおぞましい物が駆け抜けていく。思わず、その身を震わせた。


「我々が動くには、邪魔なモノが多いとは思わんのか。多少、掃除をして、やりやすい環境を作ることも重要ではないかね?」

「邪魔者は、――皆殺しか」


 黒崎元帥の物言いに、梶原大将が呟くように応える。先ほどから、立つ尽くしたまま、下を向き何事かを考えいる。この御仁にしては、大人しいその雰囲気に妙な不安感とでも言おうか――剣崎幕僚参謀長は、違和感を感じた。


「Dリバース、舫凰ホウオウ焔凰エンオウを持ち出して、――帝都を破壊し、――貴様ッ、どうする気かッ」


 梶原大将が吠える。まさに吠えるという表現がしっくりとくる怒鳴り声であった。


「その強力な軍により、我が国は世界に君臨するのだ。良いことずくめでは――」

「貴様のやり方では、私の帝都が破壊されてしまうわッ!」


 梶原大将がそう叫ぶや否や、テーブルの下に隠していた手を黒崎元帥へと突き付ける。その手には、黒光りする拳銃が握られており――パンッと耳を突き刺す様な発砲音が、決して広くは無い作戦室内に響く。黒崎元帥は額と後頭部から血煙をまき散らし、部屋の中に硝煙の臭いと血の臭いが漂い始める。


「か、か、梶原ッ。貴様、何を――」

「奴のやり方は、帝国を滅ぼしかねない悪鬼羅刹のやり口だぞ。こうでもしなければ、大国につけ込まれる隙を作っておったわッ」


 梶原大将が、硝煙漂う拳銃の銃口をあちらこちらに向けながら熱弁する。周囲は、いつ発砲されてもおかしくない状況でもあるためか、それ以上強く出ることが出来ずにうろたえるだけであった。


「か、梶原大将、――まずは拳銃をお収めください」

「ワシは冷静だ。参謀長は、奴の暴走を容認するつもりだったのかッ」

「い、いえ。決して、決してそのようなことは――」


 剣崎参謀長は、向けられた銃口を見つめながら必死に否定する。Dリバースは、そんな作戦室の様を見やりながら、口元がにやりと歪んでいた。梶原大将は、その視界の隅に、にやついているDリバースを捕らえる。


「おいッ、さっさと反乱軍どもを蹴散らしてこい」


 梶原大将が命ずる。その命令を聞いても、Dリバースは、にやついたままであった。そして、そのまま応える。


「なぜ、俺が、――お前ごときの命令を聞かねばならんのだ?」


 その発言に梶原大将をはじめとした一同がざわつく。彼らからしてみれば、ロボット同然のDリバースが人間様に逆らっているような物だった。


「お前だと、――口の利き方が解っていないようだな。将官に対する口の利き方を教えてやる」


 梶原大将が、その銃口をDリバースへと向ける。Dリバースは、その銃口にひるむこと無く、それを鼻でわらう。


「馬鹿が。そんな理由でお前の言うことなぞ聞くか」

「き、貴様ッ」


 梶原大将が、その引き金を引こうかという瞬前、Dリバースがその腕を素早く掴み、梶原の腕を畳むような形で押しやり、その銃口を梶原の顔へと向ける。梶原大将は、何かを言おうと口を開けたが、その前に引き金が引かれる。パンッという音と共に、Dリバースの眼前に血煙が上がり、顔へと返り血が飛び散る。


 剣崎参謀長の目の前で、梶原大将が崩れ落ちていく。剣崎は、Dリバースの反抗に思い至る。――黒崎元帥が死んだからだ。彼が死んだことにより、元帥に従属という枷から解き放たれたのだ。この作戦室にいる他の誰もが、枷として登録はされていない。今現在の枷――研究主任の小檜山こひやまに、新しい枷を登録して貰う必要があった。


 Dリバースは、出口へと向かう剣崎参謀長の頭へと銃口を向けると、その引き金を引いた。三発目の銃声が室内に響く。剣崎参謀長が扉にぶつかるようにして崩れ落ちていく。そして、Dリバースが部屋を見回すと、それまで身動きも取れず硬直していた佐官が腰のホルスターへと手を伸ばす。Dリバースは、その姿を視界の片隅に捕らえると、素早く銃口を向け、立て続けに引き金を引く。将官がゆっくりと首を動かし、見回すと2人の佐官が頭を撃ち抜かれて倒れていくところだった。五里守大将は、ごくりとつばを飲み込むと、言葉を選びながら発した。


「な、――何が目的だ?」

「そうだな、――取り敢えず、国でも頂くか」


 Dリバースが、返り血で真っ赤になった顔を歪ませながら嗤う。もう可笑しくて可笑しくて仕方が無いと嗤う。


「なるほど。――思いつきで言ってみたが、それは良い考えだ。我々、Dのための国の始まりだ」

「Dの国だと」

「そうさ。――そうだな、男は労働力、女は繁殖にでも協力して貰うか」

「そ、そんなことできる訳が無い」


 五里守大将の根拠の無い台詞に、それまでのにやけ顔を正し、睨み付けるような目で見やる。


「お前たちに何が出来る」

「なに――」


 そこから、何も言ういとまを与えず、銃声だけが作戦室に響く。1つ、2つ、3つ――全部で9つの――9人の死体が転がった。


 その死体には目もくれず、内線に向かう。


「こちら作戦室だが、警防部に繋いでくれ」

『はい。しばらくお待ちください』


 椅子に座ったまま死亡している男を蹴落とし、自分が座る。


『はい、警防部』

「こちら作戦室だ。現在、格納庫にて作業をしている男が、工作員であるという確証を得た」

『――了解です。その男の特徴をお願いします』

「年齢、50歳前後、小檜山こひやま敦史。生化研の研究員だ。恐らくシラを切るだろうが、確証がある。あとで提出するので、まずは工作活動を行わせないためにも、身柄を確保していただきたい」

『了解です。お任せください』

「よろしく頼む」


 内線の受話器を置くと、笑いを堪えることが出来なくなり、1人、大声で笑う。誰もいない作戦室に、Dリバースの笑い声が響く。小檜山を排除してしまえれば、Dリバースに新しい枷を取り付けることの出来る人間は皆無と言ってもいい。やり方を知っている人間は、何人かいるだろうが、上位命令を下せる人間がいなくなるのだ。命令系統の上書きは容易ではない。そうなってしまえば、誰も彼を止めることは出来ないだろう。その自由な状況が可笑しくて仕方が無かった。


 ひとしきり笑い終えた後、再び、内線の受話器を取り、小檜山がいたのとは別の格納庫へと連絡を取る。


 先ほどまで、滑走路での戦闘を見ていて気になったことがあった。一部の部隊――反乱軍の新型と思われる機体に、Dリバースが押されていたことが気になっていた。型落ちの双嶽ソウガクでは相手にならない。


『HArTS整備責任の加賀です』

「こちら作戦室だが、持ち込まれた74式候補はどうなっている」

『調整の難しい機体ですが、突貫で作業させています』

「そうか――引き続き頼む」

『ハッ。了解です』


 通話を終えると、足下に転がる血で濡れたファイルを拾い上げる。表紙には、「秘匿 74式候補 影刃エイジン 納入仕様書」と書かれていた。



◆同日午前8時 帝都 皇宮近郊


『プレ、ターゲット、クリア』

「本部、了解」

『思ったより敵が少ない』

「油断するなよ」

『了解』


 雑音混じりの通信を終える。本部――歩兵輸送装甲車内は、詰め込めば12名の兵員を輸送できる広さがあるため、一般の車両に比べればゆったりと――4人しか乗っていないので、大分余裕があった。コンテナ部――通常であれば、兵員を輸送するためだけに存在する無骨なコンテナなのだが、今は座布団がしつらえてあり、ちょこんと桜園帝――桜姫が座っていた。そんな桜姫の方を見やり、大河内曹長が報告を行う。


「今のところ、順調です。これから政務棟周辺の状況確認を行います」

「うむ。くれぐれも気をつけてな」

「ハッ。必ずや陛下を御所内へお連れ――」

「そうではない」


 桜姫が、大河内曹長の言葉をさえぎる。頭を垂れ、言葉を紡いでいた曹長が間の抜けた返事をしつつ。頭を上げる。


「このようなことで怪我を負うことは無い。くれぐれも無茶をするで無い――と」

「は、ははぁッ。ありがたきお言葉。我ら、必ずや陛下のお心に沿うように致します」


 大河内曹長は、先ほどより、より一層うやうやしく頭を下げるのであった。その様を桜姫は仕方の無い奴めと眺めていた。


 折角、身を隠していたのに、わざわざ皇宮周辺まで戻ってきているのには訳があった。一夜明け、冷静に物事を見つめ直した桜姫が、やはり再度、TV放送を行うべきだという結論に達し、反対する大河内曹長に無理を言って、帝都中心部へと舞い戻ったのである。


 無理を言われた大河内曹長は、困り果てた。もっと上の人間にお伺いを立てたいところであったが、下手に通信を傍受され、陛下の居場所を知らせる訳にもいかず、彼が判断を下さざるを得なかった。結局、Goサインを出すことになる訳だが、それには陛下のかたくなな態度と、その意図に納得したからである。


 現状、開戦反対派は、桜園帝を弑逆しいぎゃくしたとされており、帝国に対する反逆者である。当然、そんな彼らを擁護する者はいない。桜姫が、再度、TVに出ることで、陛下が弑逆されたとする軍部の放送は嘘となり、彼らこそが反逆者であると知らしめる事が出来る。陛下が生きているというだけでも、弑逆されたという情報に疑問符が付き、ひいては軍部の発表に疑問符が付くようになる。内戦の拡大という可能性もあるが、今の軍部をのさばらせて置く訳には行かず、開戦反対派への転向を促す意味でも放送は重要と思える。


 また、陛下の開戦反対派を思いやっての発言に、大河内曹長をはじめとした一隊は心を打たれ、確固たる決意を持って中心部へと戻ることとする。桜姫としても説得に用いた言葉に嘘偽りは無い。嘘偽りは無いが、涼への援護射撃になれば――という思惑が無い訳では無かった。


 帝都中心部に点在するTV局を偵察したが、どこもかしこも軍部が押さえていた。ただ、偵察をした限りでは、部隊の規模も限られており、15人しかいない大河内曹長の部隊でも対処が可能に思われた。とは言え、無理をすれば隊員が死ぬだけでは無く、陛下にも害が及ぶため、慎重に事を運ぶ必要があった。


 その様子を見やり、桜姫が1つの提案をする。皇宮内に、緊急時の放送設備があるという。当然、そんな特殊な設備から放送を行えば、すぐさま敵が駆けつけてくるだろう。とは言え、それはどこのTV局でも同様の危険をはらんでおり、それよりは籠城が可能――また、いざという時は逃走が可能な皇宮の方が多少なりともマシだった。


 TV局と同様に皇宮の偵察を行ったが、思ったより敵兵が少なく――と言うより、ほとんど姿を見ることが出来ない。東門にいた歩哨を沈黙させ、皇宮内への侵入を果たしていた。皇宮内にも敵兵の姿はほとんど見えず、順調に歩を進めていた。


『プレ、ゲート、クリア』

「本部、了解。これより配送に移る」

『プレ、了解』


 通信を終えた大河内曹長が、桜姫に状況を知らせる。


「東門周辺の安全確保が終了しました。これより車両で乗り入れます。街中で攻撃されるよりかは安全かと思います」

「うむ。よろしく頼む」

「ハッ。――よし、1号車、2号車、出せ」


 ゆっくりと、歩兵輸送装甲車が発進する。2台の装甲車は、堀に掛けられた橋を渡り、東門の中へと入っていく。そして、東門の駐車場から、少し奥まった所にある木々の間へと移動した。雑木林とまでは言わないが、木々の合間で、カーキ色をした車両が多少なりとも目立たなくなる。


 後続車から3人の兵士が周囲を警戒しつつ降車し、周辺の確認を行い、そのまま警戒に当たる。周囲に敵兵の気配は無く、冬の澄んだ空気の中、朝日を受け小鳥の鳴き声が響く。そののどかな風景の中、軍用車と兵士の物々しさが不自然に浮いていた。


『プレより本部』

「こちら本部、どうした?」

『中央にターゲット無し』

「ターゲット無し?」

『ああ、無しだ』


 ターゲット無し――敵兵が見当たらないという通信だった。中央とは、皇宮中心に位置する政務棟を指す。その政務棟に敵兵の姿が無いと言う。皇宮の広さもバカにならないため、潜伏している可能性も否定できないが、現状、姿は見えなかった。それこそ、本腰を入れて潜伏されてしまえば、探し出すのは困難と言える。実際の所、TV局は警戒していたが、皇宮は重要視されていなかった。今、軍上層部が警戒すべきは、TV局での放送であった。まして、皇宮ともなると面積が広いため警戒するのも人手がいる。その人手をTV局の方へと割り振った結果であった。


『それどころか、衛兵の姿も見えない』

「人が居ないということか?」

『いや――侍従――侍女が何人か捕らえられていたが、他に人は居ない』


 侍従、侍女が無事であると聞いて、桜姫がほっと息を吐き出す。彼女を見張る立場にいた者達だったとしても、見知った人間に何事かあるというのはプレッシャーになる。


「そのまま警戒を続けろ」

『プレ、了解』


 大河内曹長が振り返り、桜姫へと話しかける。


「これから、政務棟へと移動します」

「解りました」


 ほっとしたからか、いつもの口調では無く、ついつい地が出てしまっていたのだが、桜姫はすぐには気がつかなかった。大河内曹長が、少し驚いたような顔をしているのを見て、首をかしげそうになるのを堪えつつ、自分の言動を振り返る。あっと声が出そうになるのを押さえ、顔が赤くなっていくのを自覚していた。


 大河内曹長が車外へと出て隊員に告げる。


「これから政務棟へと移動する。周囲、警戒を厳。陛下を必ずお守りしろ」

「了解」


 最後に、車両から桜姫が降りてくる。差し出された手に手を軽く乗せ、こんな時ではあるが、それでも優雅さを感じさせる。


「では、済まないが頼む」

「ハッ。お任せください」


 先ほどのミスがあったからか、少し顔を赤くしたまま、桜姫が告げる。大河内曹長、以下。6名の兵士がそれに応える。これから行われるであろう放送が、開戦反対派を後押しするのは間違いない。その放送の後、敵が駆けつける前に脱出を図る必要がある。大河内曹長は、脱出計画を練りつつ――桜姫は、これからの放送で言うべき事を考えつつ、政務棟へと移動を開始するのであった。


Twitter @nekomihonpo


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(2013/06/02更新)
●人物一覧
(2013/06/02)




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