皇紀973年12月14日午前6時 楠島基地 穹凰艦橋
◆皇紀973年12月14日午前6時 楠島基地 穹凰艦橋
市ノ瀬少佐が「散歩」から戻り、艦橋に立ち入った瞬間、ピリピリと肌に刺すような――妙な緊張感が支配していることに気がついた。何事かと訝しみつつ、様子を探ると、奥で小城原大佐が声を荒らげている姿が目に入る。どうやら、通信相手と派手にやり合っているようだった。
「そんなに取られては、我が艦が立ち行かなくなりますッ」
『何も人員を減らそうと言うのでは無い。きちんと増員を行うと言っている』
「素人も同然では無いですかッ」
市ノ瀬少佐が、小城原大佐の脇に立つ。小城原大佐がちらりと視線を寄越すが、すぐに通信モニターへと戻す。通信モニターには、剣崎幕僚参謀長が映っていた。ろくに睡眠を取っていないのか、その目の下にはクマが陣取っていた。
『全くの素人では無い。優秀な人材だ。穹凰で鍛えられたなら、すぐにでも一線で使える人員になるだろう』
「今、火急を告げるこの状態で、教育をしている暇は無いと言っているのです」
『こちらとしても、優秀な人材は1人でも多く欲しいのだ。それに、これは本部の決定だ。従って貰う』
「待ってくださいッ」
『到着次第、よろしく頼むぞ』
剣崎参謀長が、そこまで告げるとブツンと通信が途絶える。小城原大佐が、特大のため息を吐きながら艦長席に腰を下ろす。
「今度は、どんな厄介事で?」
市ノ瀬少佐の問いに、片眉をつり上げつつ、再度ため息を吐き、答える。
「舫凰と焔凰――主に舫凰のためにだが、人員を寄越せと言ってきた」
「ウチの乗艦員をですか!?」
「ふぅ――そうだ」
そんなことを言われれば、小城原大佐が声を荒らげるのも当然に思えた。先ほどの話の流れからすれば、その補充として、素人を寄越すというのだろう。
「本部は、この艦を張り子にでもする気なんですかねぇ」
「この艦の優秀な人材を行き渡らせることで、総合的な底上げを狙う――だそうだ」
「馬鹿な。そんな簡単にいく訳が無い。――それで、どうなったんです?」
市ノ瀬少佐は、本部の無法な物言いに呆れつつ、行く末が気になり問うた。小城原大佐は、またも、ため息を吐きつつ憮然と答える。
「我が艦から1/3の人員を派遣することになった」
「1/3もですか」
「最初は、半分寄越せと言ってきた」
「それは――また、酷い話ですな」
1/3も取られるとなると、任務遂行に影響の出ないようにする必要がある。とは言え、どう頑張っても影響は至る所に出てくるだろう。頭の痛い話であった。
「それで――」
小城原大佐が、市ノ瀬少佐を見上げながら話しかけた。それに対し、何か気がついたように、市ノ瀬少佐が応える。
「ああ、そうでした」
「何かあったか?」
「どうやら、Dリバースの部隊を投入したみたいですね」
「ほう」
「反乱軍の2個小隊を撃破したようです」
「ふむ――」
「出撃した2機が、帰ってきていましたから」
「思ったより、弱いな」
「いえ、――元々2機しか出撃していません」
「2機だと?」
「ええ。――太田、太田。こっちに来い」
ひそひそ話から一転、声を出し、艦橋にいるスタッフの1人を呼び寄せる。
「ハッ。なんでしょうか」
太田一等兵が、足早に歩み寄り、敬礼しつつ命令を待つ。
「奴さんの会話は聞こえてたのか?」
「奴さんの暗号は解けなかったんですがね、相手の通信は拾えましたよ」
内容が内容だけに、またひそひそ話に戻る。ついつい頭を付き合わせるような形で、いかにも悪巧みをしていますといった体になってしまう。
「よし、話せ」
「どこの所属かまでは、通信からは解りませんでしたが、2個小隊が、ものの数分で全滅ですね」
「相手は2機なのか?」
「ええ、そのようです。2機発見したと言ってましたから」
「副長が見たという機体の損傷具合は?」
「皆無と言って良いんじゃ無いですかね」
「特殊な機体だったとか」
「外見は、一般の双嶽に見えましたがね」
「中身が化け物と言うことか」
普通に考えれば、3倍の数を有する側が負けるとは信じがたい。それを無傷でひっくり返すことが出来るのならば、これほどの秘密兵器は無いだろう。
「太田一等兵。ご苦労だった。引き続き、何か気になる事があったら報告して欲しい」
「了解であります」
太田一等兵を下がらせる。小城原大佐は、あごに手をやると考え込むようにして呟く。
「本部はどうする気かな」
「Dリバースがそれだけ強力なら、もっと投入し、一気に逆転を狙うんじゃ無いですかねぇ」
「それを輸送するための舫凰か」
「ですかねぇ」
では、穹凰の立ち位置はどうなるのだろうか。輸送艦として舫凰が出張ってくるのなら、穹凰の出る幕は無い。同士討ちのような戦闘に、好きこのんで参加したい訳では無かったが、どうにも漂うきな臭さが、一抹の不安を感じさせた。
◆同日午前7時 楠島基地 南南西30km付近
「――准尉、雨宮准尉」
雨宮涼は、自分を呼ぶ声で意識を浮上させる。何か、昔のことを夢見ていた気もするが――今は、頭の奥で重たさに変わって居座っているように感じた。目の傷は、鈍い痛みとして重たさと一緒になって、頭の奥で居座っていた。鎮痛剤のお陰か、身体の芯に鈍痛はあるが、どこか遠くの出来事のようにも感じる。うっすらと右目を開けると、ぼやけた視界に人影が映る。
「雨宮准尉、起きてください」
「あぁ、――朝霧か」
涼を起こしに来ていたのは、朝霧二等兵だった。HArTSのパイロットは尉官相当以上という決まりがあるため、朝霧二等兵はパイロットでは無く、整備兵である。
「今、どの辺だ?」
「楠島基地の南ですね」
「楠島?」
大型輸送機 燕楼の小窓から外を見やる。冬の朝独特の澄んだ空気の中を、4機編隊の燕楼が低空で飛んでいた。
「楠島に向かっていた部隊がやられました」
「つまり、そこにターゲットがいると」
「ええ、そうです。准尉が眠っている間に、目的地が楠島に決まりました」
「やられた部隊っていうのは――」
「阿土中尉と小見川中尉の部隊です」
「阿土中尉――そうか」
阿土中尉とは、懇意――という程では無いが、見知った仲であった。演習では手堅い作戦を採る上官であったと記憶している。その阿土中尉が――
新型HArTSである、74式候補 颯刃は、開戦反対派において、貴重な戦力であった。その貴重な戦力を「片目」となったパイロットに任せるのか――という意見もあったが、先頃の戦闘における戦果と浦部中佐の判断で封殺された。当然ながら、新型機をうらやむ声が消えた訳ではなかったが、そんなことを言っている余裕も無かったため、雲消霧散していた。
「ブリーフィングです。急いでください」
「ああ、そうか。すまない」
雨宮涼は、格納庫へと続く扉を開く。機械油の臭い、エンジンからの振動、騒音がその身を包む。艦内放送が、ブリーフィングの開始を告げる。急いで、颯刃のコックピットに収まると、モニター越しのブリーフィングに参加する。
『既に、敵――軍上層部側は、偵察部隊である2個小隊が全滅したことからも、我々を察知しており、――迎撃の用意は整っていると見るべきである』
浦部中佐による作戦説明が始まっていた。現在、1個中隊――4機の燕楼、24機のHArTSにて楠島基地へと低空から接近している。上空から、パラシュートユニットにて降下し、部隊を展開する暇は無いと思われる。そのため、低空のまま楠島基地に侵入し、そのまま降下、一気に基地を制圧する。スピード勝負、敵に対応を取らせる暇を与えない作戦だった。
『敵は、2個小隊を殲滅した強敵だ。こんな作戦で命を落とす事は無い。また諸君らと相まみえることを願っている。――以上だ』
浦部中佐が敬礼しつつ、生き残れと命ずる。それに対し、各HArTS内でパイロット達も敬礼し、ブリーフィングが終了する。
山間を低空で飛行していた燕楼4機は、そのまま低空を維持し、楠島基地の南に広がる街へと侵入する。極力、低空を飛行しているとは言え、時を置かずして、楠島基地のレーダー波に捕まる。楠島基地まで、あと僅かという所で砲撃が開始され、燕楼の格納庫内に警報音が響き渡る。
近接での爆発音と共に、涼の乗る燕楼が大きく揺れる。
『3号機、被弾ッ』
艦内放送で知らせる必要の無い情報ではあるが、慌てていたためか、艦内放送が入ったままの状態でオペレータの叫びにも似た報告が響く。燕楼3号機は、その機首にあるコックピットに被弾し、――低空を飛行していたため、墜落までの猶予は少なかったが、格納庫をパージする。勢いの付いた格納庫が乱暴に落下し、アスファルトの上を火花を散らしながら滑走する。慣性モーメントによって回転しつつ、その速度を落としていく格納庫の眼前に、燕楼本体が墜落し、爆発、炎上した。その破片群に突っ込むような形で、本体の破片にぶつかり、はじき飛ばしながら、炎の壁を突き破るようにして、格納庫が飛び出してくる。
その光景を尻目に、3機の燕楼は楠島基地へと続く大通りを低空で侵入していく。基地からは、砲焔の砲撃が絶えること無く続く。1機の燕楼が、道路上で格納庫を開き、搭載するHArTSの降下を開始する。残りの2機は、基地内の滑走路上で同じく格納庫を開く。雨宮涼の乗る燕楼は、滑走路上で降下作戦を開始した。
『2の3、出すぞ!』
「了解」
第2小隊3号機――雨宮涼の操る颯刃の固定具が外され、格納庫出口へ向かって滑走する。ゴアッという音と共に、背中側から庫外へと放出される。低空で飛んでいるため、地上までの距離は15メートルと言ったところだ。すぐさま、丸まるような体勢にあった颯刃の身体を伸ばす。あっという間に地面に着地し、一気に身体へGが掛かる。慣性の法則によって、勢いの付いた機体はすぐには止まらない。滑走路に火花と煙をまき散らしながら、2本の黒い足跡を残す。
無事に着地を果たし、衝撃を吸収するために屈めた身を起こすと、集結するべく移動を開始する。格納庫に抱え込んだHArTSを放出し終えた燕楼は、そのまま低空飛行を維持し、安全圏へと脱出を図る。
パージされ、滑走していた格納庫のハッチが開く。HArTSは、格納庫に固定されていたため、特に大きな損傷も無く、無事に戦線に復帰出来そうであった。ただ、作業員達は、落下の衝撃でケガを負っており、まともに動ける人員はごく少数であった。その少数も他のケガ人を治療するべく、庫内で救助活動を行っていた。――墜落した燕楼本体にいたクルーは絶望的だった。
そんな、第5、第6小隊のHArTSが格納庫を出ようとしたところ、ガンガンガンと砲撃の命中する音が格納庫に響き渡る。楠島基地より、あらかじめ出撃し、潜伏していた双嶽の部隊が、40mm機関砲を叩き込んでいた。丸まるようにかがんだ状態で、格納庫から身体半分、搬出しようとしていた双嶽が狙い撃ちにされる。立ち上がろうにも搬出途中であるため、立ち上がる事が出来ない。座ったまま、40mm機関砲を構え反撃に移ろうとするが、その前に敵の攻撃が集中する。
1個小隊の集中砲火を受け、搬出途中にあった双嶽が爆発した。出口を塞ぐ形で爆発したため、爆発の炎が格納庫内を焼く。搬出や救出作業を行っていた作業員が炎に包まれる。このままでは、棺桶の中で焼かれるのを待っているようなものだったが、輸送機の格納庫に余計なスペースは無く、双嶽が立ち上がり脱出を図るのには無理があった。その間も、格納庫に着弾する音が響き渡る。格納庫が破壊されるのも時間の問題だった。
基地へと続く道路と滑走路に降り立った燕楼3機分、6個小隊18機のHArTS――17機の双嶽と雨宮涼が操る颯刃――は、それぞれの小隊で集まり、敵機との交戦を開始していた。迎え撃つのは、9機の双嶽と3機の砲焔、――4個小隊だった。その、4個小隊の向こうに、空中母艦 穹凰の姿が見て取れる。数の上では、開戦反対派が圧倒的に有利だった。
『な、なんだ。この双嶽!弾が当たらないだとッ』
『当たれぇぇぇぇッ!』
数の上では、押しているはずが、敵――双嶽の動きに翻弄されていた。味方の攻撃が思ったように当たらない。虚空に向かって撃っているかのような錯覚に陥る。こちらが狙いを付け、トリガーを引く瞬間には、敵の双嶽が射線から外れるように移動していた。敵の40mm機関砲で足止めをされた瞬間、砲焔の90mm砲に攻撃される。さすがに、90mm砲2門――砲焔2機の攻撃に耐えることは出来ず、あっさりと味方双嶽が破壊される。数の有利が少しずつ、切り崩されていた。
雨宮涼は、その颯刃の運動性能を活かして、敵機との距離を詰めていた。もっとも、それは、40mm機関砲ほど飛距離の無いガリニウムランチャーの射程が要因であったが――の行動であった。味方の十字砲火を避けるように軸をずらしてきたところを、先読みし、ガリニウムランチャーの攻撃を置いておくような感覚で放つ。赤を通り越し、白く熱せられたガリニウム化合物の粒子がまっすぐな軌跡を描く。その線に敵――双嶽が触れると、そこから装甲を真っ赤に溶かしていく。身体を屈めるようにして軸をずらしていたため、ちょうどコックピットを横切るような形で交差し、パイロットの命を刈り取る。コックピットを潰された双嶽は、移動時の勢いをそのままに溶断、転倒、沈黙した。
『2の3、そのまま先行し、避けてきた双嶽を攻撃しろ』
「了解」
『2の2、今と同じように十字砲火を続けるぞ』
『了解であります』
単機で前進すると言うことは、それだけ、敵の的になりやすいと言うことの裏返しでもあった。早速、敵の攻撃が颯刃に向かい始めており、回避行動に移りつつ、攻撃のチャンスを覗う。――楠島基地での戦闘は、火ぶたを切ったばかりであった。
◆同日午前7時半 楠島基地大型格納庫内 焔凰作戦室
「Dリバース――金食い虫だったか」
「ぃ、いえ、決してそんなことは」
小檜山生物化学研主任研究員は、黒崎元帥に投げかけられた言葉を必死に否定するので精一杯だった。小檜山は、生化研でDリバースの主任研究員として、隅から隅までDリバースを知る数少ない1人だ。開戦反対派どもを迎え撃つべく、Dリバースを戦線に投入、その直後は素晴らしい戦果を上げ、黒崎元帥をはじめとした上層部の面々もご満悦だった。今も、状況は大きくは変わってはいない。ただ、当初の圧倒的な戦果から、今では、Dリバース側にも損害が想定以上に発生しており、メッキが剥がれ始めたかのように見受けられる。
「やはり、Dリバースを投入するのは、時期尚早だったのではないか?」
五里守空軍大将が、小檜山の成果を否定するかのような発言をする。何を言っているのかと。――先ほどまで、その戦果に大喜びしていたでは無いか。と、小檜山は内心で抗議しつつも、そこはやんわりと否定する。
「そんなことはありません。現に、今も押しているのはDリバース側ではありませんか」
小檜山にしてみれば、必死だった。ここで彼らの――彼の研究成果が不要と判断されれば、潤沢な研究資金が凍結されかねない。軍をバックにしているからこその、無茶な使い方も出来たのだ。と、同時に彼の懐も潤っていたが――その資金が凍結されるのは、実に困る。Dリバースの投入が決定され、初戦の戦果が目を見張る物だったがゆえに、これは資金増も狙えそうだ――と、取らぬ狸の皮算用を始めたばかりの高揚感から一転、冷や水を浴びせられているところだった。
「D-1、どうなっている!」
小檜山が、脇に控える兵士に怒鳴りつけるようにして問いかける。その兵士は、色白という言葉では生温い――病的とも言える肌の白さだった。周囲の他の人間は、黄色人種特有の色味をしているがゆえに、そこの一点だけ、やたらと目を引いた。
「滑走路の一部に手強い部隊がいるようだ」
「そんなことは解っておるッ」
「まぁまぁ、小檜山くん。少し、落ち着きたまえ」
「は、ハッ」
黒崎元帥にそう言われ、慌てて頭を下げる。D-1と呼ばれた兵士、――Dリバースは、その少し色素の薄い目で、そんなやり取りを見守っていた。
「まずは、奴らを排除してから――話はそれからだ」
「は、ハッ。D-1、さっさと奴らを片付けないかッ」
「了解した」
D-1は、抑揚の無い返事を返す。激しく檄を飛ばしている小檜山との対比で、温度差が激しかった。そのあまりの必死な様は、冷笑の対象でしか無いのだが、小檜山は必死なため、その空気に気がついていなかった。
D-1は、体内に埋め込まれたシーブエレ(Pseudo-biological electronic devices)――疑似生体電子デバイスの無線機を用いて、他のDリバースと連絡を取り合う。Dリバースは、そのシーブエレという体内デバイスを用いて、通常の通信よりもタイムラグの少ない通信を行うことで、一般兵よりも素早い連携を取ることが出来た。さらに、常に集中状態――スポーツにおけるゾーンと呼ばれる状態を常に維持し続けることが出来る。それにより、一般兵よりも素早い連携を取れる彼らが、一歩押されていることが信じがたかった。とは言え、そんなものは、数で圧倒してしまえばいい。他の部隊を片づけてから、ゆっくりと料理をする腹積もりであった。
「他のDリバースの搬入はどうなっている」
「は、ハイッ。そちらはつつがなく順調に進んでおります」
現在、焔凰の格納庫に、培養ケースに収められたままのDリバース達を搬入する作業が進められていた。金属製の棺桶に、Dリバースが1人、培養液に沈められ、各種装置がセットになったケースだ。このケースが、焔凰のHArTS用格納庫に次々に積み上げられていく。
「そいつらは投入出来んのか」
「さ、最終調整に時間が必要です」
「ちッ。使えん奴らめ」
梶原陸軍大将の舌打ちに、下げたままの顔が軽く歪む。小檜山にしてみれば、急遽、戦線に投入すると言われ、これだけの数を揃えただけでも褒められこそすれ、舌打ちをされるいわれは無かった。これだから軍人は嫌いなんだ――と、自分も軍属であることを棚に上げ、心の中で悪態を吐く程度で納める。
「それで――これからどうするつもりか」
梶原大将が、黒崎元帥に問いかける。重要な会議を前に、幕僚の1人が小檜山主任研究員を作戦室から追い出す。
「ぉ、ぉい。私がいなければ、誰がD-1に指示を出すのか」
「元帥の命令は聞くようにとプログラムされているはずでは?」
「ぃゃ、確かに、そうだが――」
「貴官は、搬入作業の指示でも出したらよかろう?」
「おいッ」
小檜山が手を伸ばすが、問答無用で作戦室の扉は閉じられた。誰も自分の重要性を認識していないという扱いに、小檜山としては面白くない。が、確かに、搬入作業も心配であったことに違いは無く、悪態を吐きながらも格納庫へと向かうのであった。
◆同日午前7時40分 楠島基地 滑走路
『2の3、後方の防御陣地まで退却だ』
「了解」
雨宮涼は、隊長機からの通信に了解と答えたものの、すんなりと退却出来そうに無かった。1個中隊――24機のHArTSを投入した開戦反対派であったが、Dリバースの猛攻に遭い、その数を大幅に減らしていた。盾代わりにしている防御陣地も、先ほどからの砲焔による砲撃で崩れる寸前であった。
雨宮涼の位置から見える防御陣地から退却しようとしていた双嶽が、ゴッという音と共に90mm砲に貫かれ、一瞬の後に爆発、炎上、四散する。こちらの攻撃はなかなか当たらず、向こうの攻撃は嘘のように当たる。まるで映画でも見せられている気分になりそうだった。
『2時の方向、敵機ーッ』
2機の双嶽が接近しているのが見て取れた。一番近くにいた味方双嶽が攻撃を試みるが、これまでと同様、あっさりと回避される。打突兵装を抜刀したまま、両側から駆け寄る敵機が味方に突き入れようとした所に、ガリニウムランチャーの攻撃を重ねる。脇腹をえぐるような形で突き刺さり、コックピットの一部を溶かす。パイロットが、その熱に焼かれたのだろう。攻撃を受けた双嶽の動きが止まる。
もう1機の双嶽に攻撃を加えようとしたところ、敵機が味方機の腕を引く。バランスを崩し、敵機の前――ガリニウムランチャーの射線を塞ぐような形で味方機が覆い被さる。
「くッ」
無理に撃って味方機に当たった場合、40mm機関砲と違い、ダメージが大きすぎるため、躊躇わざるを得ない。その躊躇っている一瞬の間に、敵機は味方機をこちらへと蹴り飛ばす。味方機がブラインドの役目を果たし、完全に敵機への射線が塞がれる。
蹴り飛ばされた双嶽は、体勢を崩しつつも敵機に対して40mm機関砲を放つ。が、最初の数発が命中した後、射線から逃れるように軸をずらす。そして、攻撃に対する返礼とばかりに40mm機関砲の攻撃が叩き込まれる。
『うわぁぁぁぁぁぁッ』
無線から味方機の慟哭が響く。右脚の関節を破壊され、オートバランサーが体制を維持しようとするが、絶えきれず後ろに倒れ込む。それにより、涼の目の前がオープンになる。敵、双嶽の攻撃が颯刃へと目標を変え、表面の装甲を40mm機関砲が叩き、嫌な音がコックピット内に響く。が、敵の攻撃が届くと言うことは、こちらの攻撃も届くと言うこと。涼は、ガリニウムランチャーを2連射する。
1発目を避けた先に置かれた2発目に敵機が命中する。右腰部から脚部へと熱線が横切り、脚部が溶断される。
追撃のチャンスだったが、ガリニウムランチャーは、その自身の熱を冷まさねばならず、急速冷却の真っ最中だった。手を出しあぐねていると、後ろから味方の攻撃が始まる。見やると、第2小隊1号機が駆けつけ、攻撃を加えていた。それを確認し、目の前に倒れた味方機と通信を行う。
「おい、大丈夫か?」
『だ、大丈夫だ。電装系がやられた。機体を破棄する』
「了解。少し引きずるぞ」
『頼む』
味方機を引きずるようにして後退を図る。安全な位置に移動してから、颯刃にてコックピットハッチを破壊する。パイロットは特にケガも無く無事のようだ。
これで、また味方が1機減ったことになる。数の優位は既に無く、後退することで戦線の縮小、戦力の集中を図ってはいるが、それは敵にも言えることであり、ジリ貧だった。
「さすがに、これは――退却すべきでは」
涼は、コックピットの中で独りごちる。どうにも逆転の目が見えてこなかった。
Twitter @nekomihonpo
変更箇所
打突~→打突兵装




