皇紀973年12月13日午後3時45分 八家菅原基地 穹凰艦橋
◆皇紀973年12月13日午後3時45分 八家菅原基地 穹凰艦橋
「副長、修理の方はどうなっている」
「そうですねぇ。8割ってところですかねぇ」
小城原大佐――穹凰艦長の問いに対し、副長――市ノ瀬少佐がのんびりと答える。艦長席に深く腰掛け、帽子を持ち上げると、すっかり白髪だらけになってしまった頭をなでつける。開戦反対派の破壊活動により、穹凰に搭載されたガリニウムドライブの制御装置と燃料供給装置の一部を破壊された。大急ぎで修理をさせてはいるが、未だに終わっていない。
「ま、制御装置の方は予備が問題無く動いてますし、燃料の方も、問題の経路を遮断すれば、取り敢えずは飛べますよ」
小城原大佐は、その白髪だらけの眉毛の下から、市ノ瀬少佐の方を睨み付ける。その視線を受け、市ノ瀬少佐の糸目が歪む。
「そんな目で見られても、早くはなりませんって」
「――わかっとる」
深いため息を吐きつつ、艦長席に沈み込む。市ノ瀬少佐が、やれやれと言った表情で、その様を見やる。
「それで、――副長は、どう見た?」
「どう見たとは?」
小城原大佐にしては、微妙な問いかけだった。市ノ瀬少佐としても、話題が話題なだけに確認を取る。
「先ほどの放送だ」
「陛下、――それとも本部の?」
「――両方だ」
憮然と答える。話題を振られた市ノ瀬少佐としても、答えに窮する。陛下の放送内容には、リアルがあったと感じている。その後の、本部による否定とテロを許すまじという内容も理解は出来る。さて、――この艦長はどちらの答えを望んでいるのだろうか。思惑するが、中々の難問だった。
「ま、本部がああ言うんですから、そうなんでしょうよ」
「――つまらん答えだな」
「どう答えろと言うんですか」
市ノ瀬少佐としては、苦笑せざるを得ない。軍人としての答えなら単純だ。上が白だと言えば、下は白と答えればいい。
「まぁ、正直な所、陛下の放送は信じたくなりますな」
「ふむ――」
「このままだと、陛下に矢を引くことになりかねないってのはキツイ」
「そうだな」
「そういう意味では、本部の否定放送――あれは、嘘くさいとしても、大義名分としては十分です」
市ノ瀬少佐の、その正直な物言い――本部の発表を嘘くさいと言ってしまう所に、ぴくりと反応する。思わず、艦長席から市ノ瀬少佐の方を見上げてしまう。
「――嘘くさいかね」
「大佐だって、そう思っているんでしょ?」
「ふぅ。――まぁな」
小城原大佐は、ため息を吐きつつ、シートに潜り込むように深く深く沈み込む。
「大義名分があれば、取り敢えず、前には進める――か」
「ええ。心のよりどころ――って奴は重要ですよ」
小城原大佐も市ノ瀬少佐も、そのよりどころにしがみついていると言ってもいい状態であった。やはり、それだけ陛下の放送内容がショックだったとも言える。
「乗艦員も同じだといいんだがな」
「全員一丸となって――とは言えないでしょうなぁ」
八凰計画二番艦、空中母艦 穹凰として鳴り物入りで建造がスタートした。鳴り物入りの艦に対し、乗艦員もそれに相応しい人材が厳選されている。小城原大佐が中心となり、各所から有能な人員を招集し、鳴り物入りの艦に負けず劣らずの自慢の乗艦員達だ。一丸となって動くだけの関係を築いてきたつもりだった。が、それでも、先ほどの放送には、その関係を崩しかねないほどのインパクトがあった。2人とも、口には出していないが、造反者が出てくることを覚悟している。何せ、自分たちですら、動揺したのだ。下の者が、動揺しない訳が無い。2人の間に沈黙が降りていたが、ブザー音が静寂を打ち破る。
「艦長、本部から入電です」
「本部から、――繋いでくれ」
通信士から、軍令本部からの通信を知らされ、小城原大佐が受話器を取る。市ノ瀬少佐と共に、見つめるモニターには、ノイズ混じりではあるが、剣崎幕僚参謀長の姿が映った。通常の通信に比べ、ノイズが多いのは、ジャミングを受けている影響だろう。
『大佐、穹凰の修理状況はどうか?』
スピーカーから、艦橋内にノイズ混じりの音声が流れ出る。艦橋内スタッフは、自分の仕事をこなしつつ、聞き耳を立てた。
「まだ、完了はしておりませんが、本日中には完了するでしょう」
『現状で飛行は可能か?』
「ハ?――多少の細工は要りますが、可能だと聞いていますが」
『よろしい』
「修理を後回しにしろと?」
『そうだ』
艦橋内スタッフに緊張が走る。修理を後回しにする。つまり、これから出港しろと――無茶を言うということだ。穹凰の修理をのんびり――決してのんびりやっていた訳では無いが――やっている余裕が無くなったと言うこと。帝都か軍令本部にて、何か急を要する事案が発生したと言っているような物だった。
『発、軍令本部作戦指令。着、穹凰艦長、小城原大佐。貴艦は現時刻をもって、修理、補給を完遂とし、軍令本部屋上に寄港されたし』
「穹凰艦長、小城原。現時点をもって八家菅原基地での作業を終了し、本艦にて、軍令本部へ参上いたします」
モニター越しに2人が敬礼し合う。
「どうされるおつもりで?」
『本部機能を一旦、穹凰に移す』
「本艦にですか」
『そうだ。そのためにも、貴艦には急いで貰いたい』
「――了解しました」
『よろしく頼む』
通信を終了する。小城原大佐は、その髪をなで上げながら大きなため息を吐く。脇に控えていた市ノ瀬少佐が口を開く。
「何やら、雲行きが怪しいですな」
「――そうだな」
「本部機能がお客さんですか。――厄介事の予感がしますなぁ」
市ノ瀬少佐の言葉に、白い眉毛を釣り上げながら、睨み付ける。小城原大佐も、その意見には同意だった。修理を切り上げさせてでも、急いで本部機能を移設したい事態が発生していると告げている。どう考えても厄介事だった。
「まずは、乗艦員に厄介事のお裾分けですな」
「そうなる」
市ノ瀬少佐が、通信士に艦内放送の合図をする。通信士もわきまえており、すぐに全艦内の放送をONにする。小城原大佐が、ハンドマイクに向かってしゃべり出す。
『艦長の小城原だ。軍令本部から指令が入った。これより本艦は、出港準備を――』
放送後、急ピッチで穹凰の出港準備が進められることとなる。が、大型艦がゆえ、準備にもそれなりの時間を要するのだった。
◆同日午後4時55分 帝国軍 軍令本部 周辺
太陽が地平線の向こうに姿を隠し、暗闇が周囲に覆い被さってきた中、戦闘による光が明滅し周囲を照らす。街灯の明かり、建物の明かり、サーチライト、そして発砲炎が、街中を蠢くHArTSを浮かび上がらせる。
「ッ――間に合えッ!」
雨宮涼は、知らず知らずに歯を食いしばり、味方双嶽の首根っこを掴み引っ張る。直後、砲焔の砲塔が火を噴き、双嶽へと迫る。涼が引っ張っていたため、コックピットには命中しなかったが、腰に命中、爆散する。2機が、もつれるように吹き飛ばされる。その衝撃に、呻き声が漏れる。
「くッ。おい、大丈夫か?」
涼が、僚機に問いかけるが、応えはない。引きずるようにして、建物の影に隠れる。その影で、僚機の確認を行うが、先ほどの攻撃が腰から下を吹き飛ばしていた。その影響で、コックピットブロックが歪んでいた。コックピットハッチを強引に開く――が、パイロットは事切れていた。軽く黙祷をささげ、位置を移す。
建物を回り込むように移動し、先ほどの砲焔の右側に出る。砲焔が、颯刃に気づき、砲塔をこちらに向けるように身体をねじる。当然、それを見守る義理はない。敵から鹵獲した40mm機関砲を撃つ。
砲焔は、回頭することを諦め、身を屈めるように――戦車形態への変形を始める。敵の目の前で変形をするというのは、変形部分の弱点をさらすと言うことであり、良策では無い。が、この場合、そのまま回頭を続けていたところで、叩き込まれる銃弾により撃破される。それよりは、戦車形態に変形し、敵に晒す面積を減らすというのは、選択肢の1つとしてアリだった。
砲焔は、変形しつつ後進をかけ、建物の影に隠れるように移動を図る。脚部の無限軌道が、アスファルトを噛み、砲焔の筐体を後ろへと引っ張る。颯刃としても、逃がさんとばかりに銃弾を叩き込む。その銃弾が、無限軌道の一部をえぐり、切り裂いた。片側が空回りし、その場で砲焔の筐体がくるんと回る。それは、砲焔にとって致命的だった。颯刃の目の前に晒す形になった背部に銃弾が叩き込まれ、砲焔は沈黙した。
そんな一進一退を各所で繰り広げつつ――両軍とも、決め手を欠き、膠着状態に陥っていた。本部周辺の建物は、いざという時、軍令本部の盾となるべく装甲シャッターが義務づけられており、装甲シャッターに護られた建物群の中で戦闘を続けていた。そして、今は、そのシャッターが助けでもあり、難所でもあった。
先の放送の効果もあって、開戦反対派に与する人間も少なからずいた。が、残念ながら、軍令本部内での作戦は失敗に終わったようだ。本来であれば、内部のシンパが、軍上層部を押さえる手はずになっていたのだが、未だ、勝ちどきが聞こえてこない。
防衛側にも苛立ちはある。本部の周りを取り囲まれ、なまじ防御力があるために籠城に成功してはいるが、状況を打開する術が無かった。そもそも、この籠城は終わりが来るのか?――ジリ貧だった。
そんな防衛側が、にわかに活気づく。空中母艦 穹凰が到着するというのだ。あと少し、持ちこたえればいいという希望が、彼らを奮い立たせた。
そんな戦場を、巨大な影が覆う。空中母艦 穹凰が飛来する。それは、両軍に新たな局面が訪れたことを否応なく知らせる鐘だった。
◆同日午後5時 帝国軍 軍令本部内 幕僚作戦会議室
「ええい、何故、奴は空中から攻撃せんのだ!」
梶原大将の怒声が響く。
「敵味方が入り交じっている上、そこまで精密射撃は出来ませんよ」
「何のための穹凰だ」
「まぁまぁ、全てはあちらに移ってからということで」
剣崎幕僚参謀長が、梶原大将をなだめる。そもそも、街中で艦砲射撃なんかされたら、周辺への被害もさることながら、本部への被害も洒落にならない。どうにも、この御仁は、そういった事への配慮が出来ない人種のようだ。
「それで、一旦、本部機能を穹凰に移すとして、――どこへ行こうというのだ?」
五里守空軍大将が、問いかける。その質問に対し、黒崎元帥へと視線が集まる。
「少なくとも、このどこに虫が入り込んでいるか解らん本部よりは安心であろう?」
「まぁ、それはそうなのだが――」
「我らすら煙に巻こうというのか」
無口で知られる霧谷海軍大将のストレートな物言いに、剣崎は瞠目した。この霧谷という御仁、ポイント、ポイントでしか発言しないことで有名だった。今のところか、彼の御仁にしてみれば、ポイントだった――ということだろうか。
「そうではない。ただ、ここも信用ならんということだ。こちらの情報が、奴らにダダ漏れの可能性もある。その点、穹凰ならば、多少なりとも安心できる――というだけだ」
「何を企んでいるか、今は言えないと?」
「ああ、そうだ。だが、この状況は打開せねばなるまい?」
ぶすっとした面持ちで、霧谷大将が黒崎元帥を睨む。何とも言えない沈黙が、場を支配する。
その沈黙を打ち破るかのごとく、ドシンと低音と共にビル全体が揺れた。穹凰が本部ビル屋上に到着したと報告が入る。そうこうしている間に、その下部搬入ハッチが開き、時を惜しむように搬入が始まる。
「穹凰も到着したことですし、我々も移動しませんか」
剣崎幕僚参謀長が、当たり障りの無い提案を行う。もとより、本部機能を移すという話になっていたので、反対は無い。屋上へと続くエレベーターに向かう道中、特にこれと言った会話も無く、先ほどの沈黙が尾を引いていた。
黒崎元帥をはじめとした、上層部の面々が続々と乗艦する。小城原大佐が、無言の敬礼で出迎えた。それに対し、元帥らは、「うむ」と鷹揚に頷き返す。
◆同日同時刻 帝国軍 軍令本部前
軍上層部が、穹凰内で、新たな幕僚作戦会議室に案内されているその頃、開戦反対派も手をこまねいて見ていた訳では無い。とは言え、ここに来て開戦反対派のHArTS編成に問題が出た。高層ビル屋上に浮かんでいる穹凰に対し、有効な攻撃手段を持った機体がほとんど参戦していなかった。砲焔の90mm砲であれば、攻撃可能だったが、双嶽の40mm機関砲では威力が足りず、颯刃のガリニウムランチャーに至っては、有効射程外であり、到達したところで、どれだけの被害を与えられるかは怪しい物だった。戦闘ヘリ 界焔では、防衛側の砲焔に狙い撃ちにされるのが目に見えていた。
手を出しあぐねている状況――開戦反対派としても、上ばかりを見上げている訳にはいかなかった。防衛側は、ここぞとばかりに反攻に転じてきていたからだ。穹凰の登場により、膠着していたバランスが防衛側に傾き始めていた。
結局、開戦反対派が手を出しあぐねている間に、穹凰への搬入は終了し、ゆっくりとではあるが、離陸を開始する。その光景に、開戦反対派の士気はくじけ、防衛側は勝ちどきを上げる。
そんな中、雨宮涼は、1つの決心をする。装甲シャッターに包まれた建物へ向け、颯刃を走らせた。そして、装甲シャッターに衝突する寸前、シャッターへと脚を伸ばす。しっかりとたわませ、衝撃を吸収させるが、6トンはあろうかというHArTSが蹴ってきたのだ。その脚を中心に、シャッターがへこむ。機体の向きを斜めに変え、脚を蹴り出す。装甲シャッターとは言え、バゴンと派手な音を立て、同心円状にへこみを大きくした。それと同時に、逆方向へ――颯刃の機体が、斜め上方へと跳ぶ。接近する向かいの建物。その装甲シャッターに向かって、同様にして脚を伸ばす。
「届けーッ!」
雨宮涼は、そのコックピットの中で、知らず知らずの内に叫んでいた。手は汗で濡れ、グローブ内を不快感で満たしていた。一歩間違えば、シャッターを突き破って建物に突入、もしくは、地面へ落下。そんなギリギリの中、HArTSにジャンプをさせるなどという無茶を繰り返していた。そんな無茶がまかり通るのも、74式候補 颯刃が従来機に比べ、大幅に軽量化されていたこと、第4世代ガリニウムドライブの性能、そして、蹴り飛ばす相手が装甲シャッターだったからである。
HArTSが壁を蹴って上昇していく。そんな、忍者マンガのような出来事に、敵も味方も呆然と見上げていた。
が、敵は気がつく。奴が穹凰に近づいていることに。
味方も気がつく。敵が颯刃を狙っていることに。
雨宮涼は、手に汗を握りながらも、建物間を蹴り進んでいた。派手な音を立ててジャンプしていれば、敵も気がつく。すでに、40mm機関砲の雨――下から突き上げてくる弾の中を突き進んでいた。動線が、どうしても直線的になることから、位置の予測が容易で、狙い撃ちに等しい状況だった。味方が応戦してくれているため、まだ、致命傷にはなってはいないが、時間の問題に思われた。
向かいの20階付近に着地しようかという直前、建物に連続した爆発が起こる。直線的な動きで、位置の予測が容易とは言え、自動照準でも完璧な追従は難しい。それならば、着地地点を狙えば良いと、砲焔2機が、その肩に載る90mm砲を撃った。着地と同時と言う訳には行かず、着地より僅かに早かった。装甲シャッターに着弾、爆発し、その爆炎の中に颯刃が突っ込む形となる。
シャッターは大きくはじけ、捲れ、建物の壁に大穴を穿った。空中で勢いを殺す訳にも行かず、颯刃は建物の中に突っ込む。衝撃がシートに固定された涼を激しく揺さぶる。攻撃を行った砲焔は、次弾を装填する前に、開戦反対派側の双嶽により、沈黙させられていた。
涼の操る颯刃は、建物の中に突入はしたが、奇跡的に無事だった。ただ、ここからジャンプをして、上を目指すには助走を行うスペースが足りなかった。シャッターの裂け目から颯刃の身を乗り出し、空中に浮かぶ穹凰に向かってガリニウムランチャーを3連射する。
ランチャーから放たれた熱線が穹凰に飲み込まれていく。飲み込まれた先で、一呼吸の後に爆発、炎上し――その穴から黒い線を引きながら、上昇していく。コックピット内では、ビー、ビーとランチャーの温度センサーが警告を発する。ゆらゆらと砲身周りの空気を熱で歪めつつ、冷却装置が悲鳴を上げ始めていた。
◆同日同時刻 穹凰艦橋
「今の衝撃は何だ!」
小城原大佐――穹凰艦長が珍しく声を荒らげた。先ほど、艦内下部からの爆発と思われる衝撃に襲われた。外装部での爆発ではなく、内部での爆発に思えた。
「わ、解りませんッ」
「艦内で火災発生!」
「ダメージコントロール。状況知らせ!」
市ノ瀬少佐が、報告を受け、定型文を返す。艦橋スタッフも大慌てで状況確認を行う。
「艦内下部、第4ブロック、推進装置付近にて火災発生。負傷者数不明」
「推進装置付近だと。それで、推進装置は無事なのか?」
「現在、消火作業中。左舷、推進力40%低下。速力は低下しますが、移動は可能です」
「40%だと。ぐッ――追撃の方はどうだ」
「有効射程の外に出たと思われます。到達する攻撃が散発的になりました」
「そうか――」
市ノ瀬少佐が、指示を仰ぐべく、小城原大佐の方へと振り返る。小城原大佐は、大きなため息を吐くと、通信コンソールへと腕を伸ばす。
「艦長、どうされますか?」
「すぐにでも八家菅原に舞い戻って修理をしたいところだが――」
「それでは」
「今は、お客さんにお伺いを立てねばならん」
市ノ瀬少佐が、渋い顔をしつつ声を詰まらせる。小城原大佐も市ノ瀬少佐も、「お客さん」を歓迎していなかった。穹凰が戦闘艦である以上、戦闘で傷つくのは構わない。だが、その戦闘の内容が問題だった。
この戦闘は、「お客さん」のトラブルだと考えていた。命令とあらば従うが、トラブルの尻ぬぐいはご免だった。尻ぬぐいでは、士気も上がらない。
「こちら、艦長の小城原です」
『臨時幕僚会議室、剣崎だ』
「攻撃を食らい、推進装置にダメージを受けました。八家菅原基地へ向かいます」
小城原大佐がそう告げると、剣崎幕僚参謀長が、確認のためモニターの枠外へと出る。そんな誰も映っていないモニターの向こうから、黒崎元帥の声が漏れ聞こえてくる。
『だめだ。楠島へ向かわせろ』
『楠島ですか』
『そうだ』
『楠島だと――まさか、ディ――』
『そのまさかだ。このまま、手をこまねいて見ている訳にはいくまい』
漏れ聞こえてきた声は、梶原大将だろうか?――それを漏れ聞いている市ノ瀬少佐が怪訝な顔付きをした。ひそひそと、小城原大佐に話しかける。
「楠島に向かわせるようですな」
「そうだな。――あそこは何があったかな?」
「確か、――今は、主に新兵器の開発研究施設だったかと」
「開発研か。わざわざ、穹凰で行くところだと思うか?」
「そもそも本部を楠島に持っていくってのが解りませんな。それに、よく聞こえませんでしたが、ディなんとか――何でしょうねぇ」
2人して、ひそひそと話をしていると、剣崎幕僚参謀長が画面に戻ってくる。それを見て、2人は何事も無かったかのように黙り込む。
『目的地は、楠島基地でお願いしたい』
「楠島基地ですか。修理には近場の八家菅原の方が良いのですが」
小城原大佐としても、きな臭い話に素直に載っかるのはご免だった。無駄だと解っていながら、多少なりとも抵抗を試みる。
『この艦にも、工作室があったはずだが?』
「ええ、それは、まぁ」
『出来る範囲は、そこで済ませ、残りは楠島基地で行うように』
モニター越しに、沈黙が支配する。白い眉毛の下から、剣崎幕僚参謀長を睨み付けるが、モニター越しではいまいち迫力に欠ける。お互い、これ以上語ることは無いようだった。
「ハッ。これより、穹凰は北進し、楠島基地を目指します」
不承不承と言った様が出ないよう、気をつけながら了承する。了承したからには、下っ端としては命令に従うまでだった。通信を終え、指示を下す。
「進路を北北東に取れ。目標、楠島基地」
「進路、北北東。目標、楠島基地ーッ」
様々な思惑を、その巨体に閉じ込め、穹凰は楠島基地へと進路を向ける。開戦反対派も何もせず見送る訳は無い。すぐさま追撃の態勢を整えるべく、部隊を集結するのだった。
Twitter @nekomihonpo




