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皇紀973年12月13日午後2時50分 日岡重工株式会社 永岡工場

◆皇紀973年12月13日午後2時50分 日岡重工株式会社 永岡工場


「おい、どうなってる!」

「待て。落ち着け」

「これが落ち着いていられるかッ」


 日岡重工 特務事業部 開発部の衣笠隆宏は、旧来の友人である雨宮涼に詰め寄っていた。それこそ、胸ぐらを掴んで殴りかかろうかという勢いである。それというのも、先ほどからTVでは桜園帝崩御――しかも、弑逆しいぎゃくされたと繰り返し放送している。聞けば、テロリストが帝都を襲った事が原因と言うでは無いか。そして、そのテロリストが目の前にいる。そんな状況で、落ち着けと言われて落ち着ける訳が無かった。


「大丈夫だ。陛下はご存命だ」

「は、何?」

「陛下は、生きていらっしゃる。ケガもしていない」


 衣笠は、友人の言っていることが解らなかった。TVでは散々、崩御されたと伝えている。それなのに、生きているとはどういうことなのか。


「TVやラジオの放送が嘘だ」

「な、な、何を根拠に――」

「長政の基地で、しかとこの目で確認した。まぁ、片方潰れてはいるが」

「ぇ、ぁ、いや――目は大丈夫なのか?」


 混乱し、すごく今更な質問を投げかける。雨宮涼は、苦笑を浮かべながら、問題無いと答える。とは言え、頬の傷は生々しく、見ているだけでも痛々しかった。


「それで、――74式は出来上がっているのか?」

「ぇ、ああ。それはもちろんだ。問題無い」


 構内カートに乗り込み、衣笠の運転で格納庫の方へ向かう。あとで発覚した際に、反乱分子に脅迫された――という口実を作るため、拳銃を突きつけているかのような仕草をする。監視カメラの解像度程度では、それが本物の拳銃かどうかの判別は付かないだろう。衣笠の案内に従い、格納庫の中に入ると、整備台に固定された1機のHArTSが目に入る。


「これが、74式か――」

「そう。74式候補、颯刃ソウジンだ」


 衣笠が、わざわざ「候補」と付け、言い直す。そもそも、HArTSの正式採用までには、2社以上によるコンペがあり、現時点では、あくまでも候補なのだ。74式に関して言えば、日岡重工で製造されている颯刃ソウジンと、西原電産で製造されている機体でコンペが行われる予定となっている。


「これで、完成なのか?」

「ああ、完成だとも」


 衣笠は、自信満々に言い張る。しかし、涼の目には未完成品に映った。シルエットは、双嶽ソウガクに比べ、かなりスマートだ。タヌキのしっぽと揶揄やゆされる後部腰アーマーも、かなり小型化されている。胴や手脚に関しても、双嶽ソウガクに比べるとスマートな印象だ。しかしながら、手脚の一部に黒い布のようなモノが巻かれており、装甲が付いていない。


「手脚に装甲が付いてないじゃないか」

「あれが颯刃ソウジンの目玉の1つだ」

「装甲が無いのにか?」

「布のように見える部分は、そうだな、――解りやすく言えば、鎖かたびらをゴムでコーティングしたモノだと思ってくれ」

「ゴム?」

「まぁ、正確にはゴムじゃないんだが、解りやすさ優先だ。それによって、機体重量を大幅に減らすことに成功した。双嶽ソウガクに比べ、トータルで500キロ近く軽くなっている」

「500キロだと!?」

「ああ、そうだ。まぁ、確かに、防御力という点では、双嶽ソウガクの複合装甲に比べると格段に劣るがな」


 衣笠曰く、ポイントポイントは、通常の複合装甲でガードしているため、トータルでは、それほど劣るモノでは無いとのこと。むしろ、軽くなっていることで、回避性能が上がっている。また、複合装甲では、可動範囲に制約が出ていた部分が、自由に変形する素材に変わったため、可動範囲が広がっている。これらのメリットは、十二分にデメリットをカバー出来ると、日岡の技術陣は考えた。


「それに、第4世代ガリニウムドライブを採用している」

「第4世代――完成したのか?」

「ああ。第3世代に比べ、平均で15%、最大30%は出力が向上している」


 軽量化と、新世代ガリニウムドライブにより、目指したのは、高速移動が可能なHArTS――多少、ガードが甘くなったところで、当たらなければ良いという設計思想に基づいていた。衣笠による颯刃ソウジンの説明が続く。


「武装として、ガリニウムドライブを応用した兵器を持たせた」

「ふむ?」

「一種の電子レンジと思ってくれていい。使用済みガリニウムセレン合金を一瞬で熱し、射出する。その熱は、複合装甲を簡単に溶かすぞ」

「熱線兵器ってとこか?」

「ああ、そんなとこだ」


 距離により、温度が下がるし、粒子も拡散してしまう。そのため、飛距離という点では40mm機関砲には及ばないが、その威力は段違いである。ゼロ距離であれば、双嶽ソウガクの胴体を容易に溶断することが出来る。ただ、飛距離のこともそうだが、熱が問題となる。3発以上、連射することが出来ない。1発、撃つ毎に冷却機能がフル回転を始める。


「4発目を撃ったらどうなるんだ?」

「砲身が溶けて、使い物にならなくなるな」

「それは、――兵器としてどうなんだ?」

「試作機だからな。うまく扱ってくれ」


 整備台を上がり、颯刃ソウジンのコックピットへと向かう。途中、腕部分のゴムのように見える部分を押してみる。見た目、ゴムのような部材にしか見えないのだが、手応えは予想と違っていた。確かに、表面はゴムのような感触なのだが、ぐにっと動く事も無く、しっかりとした手応えが返ってくる。装甲の上に、コーティングをされているかのような感触――見た目以上には、防御力がありそうだった。コックピットハッチを開き、中を覗き込む。


「胴体が小さくなった割に、中は思ったより広いな」

「ブラウン管をやめて液晶にしたからだな。それだけでも、かなりの軽量化だぞ」

「大丈夫なのか?」

「お前も液晶慎重派か。バカバカしい。よっぽど鮮明な映像が得られるぞ」

「いや、大丈夫ならいいんだが」


 そう言いながら、シートに座り込む。全体的な構成は双嶽ソウガクとほとんど変わらない。起動するぞと声を掛け、颯刃ソウジンを起動させる。各種モニターから情報を読み取りつつ、――見慣れない表示があるが、どうやら武装の温度センサーのようだ。


『ああ、そうそう。涼は、飛行機の操縦は出来るか?』

「一応は習っているが、――どういうことだ?」

『まさか、帝都までトレーラーで行くつもりか?』

「あぁ、そのつもりだったんだが」

『そんなんじゃ、時間ばっかり食ってしょうがないだろう。颯刃ソウジンを動かして、隣の格納庫に移動してくれ』


 涼は、言われるがままに颯刃ソウジンを動かし、隣の格納庫に移動する。隣の格納庫には、1機の戦闘機――にしては、腹側がごっそりくり抜かれている――が、ハンガーにぶら下げられていた。


「これは?」

『こいつは、74式 支援空輸機 颯飛ソウヒだ』

「支援空輸機――」

颯刃ソウジンとリンクし、戦闘機並み――とまでは言わないが、トレーラーなんかよりは、よっぽど高速に移動できるぞ』


 くり抜かれた腹の部分に、ぴったりと颯刃ソウジンが収まる。颯刃ソウジン颯飛ソウヒのガリニウムドライブで、HArTSを空輸するための支援機である。本来であれば、颯飛ソウヒにもパイロットが必要ではあるが、颯刃ソウジンとリンクすることで、単体での操縦も可能となっている。もっとも、その場合、颯刃ソウジンのコックピットが回転する訳では無いので、下側を向きながら飛行操縦をするという、奇妙な感覚を味わうことになるのだが。


「色々とすまんな」

『なぁに、いいってことよ。それよりも、報酬の件、忘れるなよ』

「ああ、――本当にそんなのでいいのか?」

『ばッか。お前は物の価値を解ってないな。まぁ、いくら涼でも簡単には入手出来ないって解ってるけどな。それでも、世間一般に出回ってるようなのとは一味違うのが入手可能だろ?』


 衣笠の要求は、――桜園帝の生プロマイド。皇帝陛下の肖像写真という物は、いつの時代でも一種の家宝として珍重されている。それとは別に、陛下の公務姿を切り取った写真というのは、コレクターズアイテムとして一定の需要があった。しかも、現皇帝は、未だ幼さが残るとは言え、可憐な女性である。肖像写真ですら、十二分にコレクターズアイテムとして一定のニーズを築いていた。


『それに、お前らが勝てば、俺は勝利の立役者だぞ』

「ああ、まぁ、――お前がそれでいいって言うならいいんだが」


 涼の感覚から言えば、自分の会社の試作品を、軍――しかも反乱分子側へ横流しをするという犯罪にくみする報酬として、「生プロマイド」を要求するという感覚は理解出来なかった。とは言え、大金を要求されても困ると言えば困るので、助かるのも事実だった。


『じゃぁ、気をつけてな』

「ああ」

『機体は壊しても、報酬は忘れるなよ』

「はは、――解った」


 ゴンゴンゴンと格納庫の扉が開いていく。工場敷地内の道路を滑走路にして、涼は、颯飛ソウヒの加速を開始した。



◆同日午後3時 帝都放送 局内


「放送を中止して、特番を流せって、無茶言わんでくださいよ」

「こちらが丁重にお願いしているウチに、言うことを聞いておいた方がいいぞ」


 大河内曹長が、帝都放送局のプロデューサーとやらを脅かす。あまり、大部隊では目立ってしまうため、どうしても少数で行動せざるを得なかった。もっとも、開戦反対派に大部隊を用意するほどの人的余裕は無かったのだが。


 円堂一等兵は、緊張のあまり、喉がはり付くのでは無いかと言う錯覚に陥っていた。作戦が急遽変更になった。それは別に構わない。一兵卒にしてみれば、命令に従うまでだからだ。味方の陣地に攻め込むというのも、開戦反対派にくみしたときから覚悟していた。


「迷惑を掛ける」

「い、いえ。へ、陛下はい、今しばらくお待ちください」


 円堂一等兵は、うまく喋れていないという自覚はあるのだが、緊張でどうにも思ったように喋れなかった。円堂一等兵の後ろ、5人の兵士に囲まれた中心に、フード付きの外套を目深に羽織った陛下がいた。自分のすぐ後ろに陛下がおわす。その一点だけで、兵達の緊張は臨界に達しかねない勢いだった。


「いくら脅されても、我々にも業界マンとしての矜恃がある」

「ふぅ。よくよく考えてみたまえ。我々の側は、帝都放送さんである必要は無いのだ。他局にスクープを出し抜かれるぞ?」

「なに?」


 大河内曹長の説得が続いていた。少し離れたところで、その行方を見守っている。円堂一等兵にしてみれば、正直な所、戦場とは違う――命の危険とは違い、陛下を必ず守らなければならないという緊張は勘弁して欲しかった。命の危険ならば、最悪、自分に返ってくるだけなのだが、今の状況はそうではない。少しでも楽になりたかった。


「どれ、私が話そう」


 桜姫が、フードを取りながら前に進み出る。それを見た円堂一等兵他、護衛の兵達が慌てて周囲を囲む。大河内曹長と話をしていたプロデューサーが、時でも止まったかのように呆然と見つめていた。くわえていたタバコが落ちる。


「こりゃぁ、――確かに、スクープだ。余所には渡せんよなぁ」


 呆然としていたプロデューサーの目に色が戻る。成り行きを見守っていたスタッフに声を掛け、スタジオを押さえさせる。


「今すぐライブで割り込むか。いやいやいや。リハは必要だな」

「済まないが、出来れば録画で、かつ、手短にお願いしたい」


 色めき立つプロデューサーに、大河内曹長が水を差す。生放送では、すぐに敵が乗り込んできて、TV局が戦場と化してしまう。陛下がいる以上、危険なことは極力避けたいと言うのが、開戦反対派の立場だった。スタジオの脇に移動し、打ち合わせを続けた。


「つまり、ライブ感が出ていればいいんだな」

「ライブ感?」

「そうさ。それが録画だと感じさせないリアルなライブ感を演出すればいいんだろ。任せろ。俺らは映像の専門家だ。全視聴者を騙すようなライブ感溢れる映像にしてみせる」


 リハーサルは無し、イッパツ撮りにすることで、ライブ感を演出し、いくつかの質問に答えて貰うことになった。放送は午後3時半から、今流れている帝都襲撃の特番に割り込む形で放送する。スタジオのキャスターには、原稿で指示し、先ほどの質問をして貰う。これにより、いかにもスタジオからの質問に、陛下が生で答えているような雰囲気を演出する。もし仮に、帝国軍が乗り込んできた場合、砂嵐で映像をシャットアウトし、中継が途切れたと装う。


「どうよ。生放送の中継っぽさが出てるだろ?」

「まぁ、確かに――陛下、それでよろしいでしょうか?」

「よい。私が、生きていることを伝えることが目的なのだ」


 放送まで時間が無いことから、スタッフが大慌てで右往左往し、開戦反対派の人間はポツンと取り残されるのであった。



◆同日午後3時5分 帝都北西 瑞穂みずほインターチェンジ上空


「これ、設計ミスだろ――」


 雨宮涼は、颯刃ソウジンのコックピット内で、ここにはいない衣笠に向かってぼやいていた。支援輸送機 颯飛ソウヒの性能は満足がいく出来で、作戦開始から数分遅れで、前線に合流することが出来そうだった。問題は、颯飛ソウヒとの分離にあった。颯刃ソウジンにパラシュートユニットは装着されておらず、空中で分離した場合、着地と同時に産廃行きは間違いないだろう。かといって、わざわざ着陸してから分離していては、着陸可能地点を探す手間と分離の手間、さらにはそこから移動する手間が加わり、折角の輸送機という利点が色あせる。


 ゆっくりと考えている時間的余裕も無かったため、ため息を1つ吐くと覚悟を決める。大通りに低空で侵入し、颯飛ソウヒの飛行速度を極力落とす。脚部の固定具を解除――颯刃ソウジンがぶら下がるような形になり、空気抵抗が増す。ガクンと一段階、速度が落ちる。墜落する前に腕部の固定具を解除し、慣性の法則に従って斜め前に落下していく。分離した颯飛ソウヒは、燃料が持つかは解らないが、オートパイロットで日岡の工場へ戻るはずだ。涼は、颯刃ソウジンの脚部を前方に突き出すような形で構え、地面へと接近していく。かかとが接地したかと思うと、慣性の法則に従い、身体を地面へと押しつけるような力が加わる。それに対し、地面からの反発力が加わり、身体が押しつぶされそうになる。脚を屈めても、その力を殺しきれない。シートに固定されているとは言え、噛みしめた口から呻き声が漏れる。


 ガリニウムドライブの出力を最大にしたとは言え、6トンはあろうかという物体が地面に対し、あらがいながら数十メートル移動した。結果、アスファルトをめくり上げ、二本の脚の跡が道路に残された。機体へのダメージが心配されるが、自己診断の結果では、特に異常は見当たらない。着地の衝撃を全て逃がせたとは思えないが、今はこの情報を信じるほか無かった。


 さすがにあれだけ派手な登場をすれば、近くにいる敵機に察知される。颯刃ソウジンのセンサーが、接近する複数の機体を察知していた。建物の影に隠れつつ、腰部後ろのマウントラッチに固定されたガリニウムランチャーを構える。


 1機が、すぐ側まで来ているが、動きを止めた。向こうもこちらの気配を伺っている。センサーが発砲音を捉えたかと思うと、背後から攻撃を受ける。建物の向こう側から、40mm機関砲を発射したようだ。建物が緩衝材となり、直接的なダメージはほとんど無い。颯刃ソウジンをかがませつつ、背後へと振り返り、ガリニウムランチャーの引き金を引く。振り返りつつの行動だったため、ランチャーの筒先がぶれる。そのぶれた分、バラ蒔かれる形となり、熱線が広がる。それと同時に、ランチャーの冷却システムがうなりを上げる。熱線は、双嶽ソウガクの攻撃で開いた穴を通り、腕部、胴体の一部に命中、その装甲を溶かす。腕部に関しては、装甲だけで無く、その内部構造も焼いたため、右腕の機能が死んだ。


 涼の位置からは、そこまでは解らないのだが、建物の溶け具合からランチャーの威力を見知る。かなりの熱量があるのは間違いないが、銃口がぶれたため、熱が分散してしまったのだろう――建物を貫通することは無かった。敵の状態が解らない――颯刃ソウジンの身をかがませ、建物を回り込むようにダッシュさせる。右腕のランチャーを腰部後ろのマウントに固定しつつ、左腕で腰部左側面の小刀の柄を握らせる。峰部分の固定具が外れ、打突兵装が自由になる。

挿絵(By みてみん)


 左腕で振り上げつつ、右腕も添え、双嶽ソウガクの首へと振り下ろす。HArTSの首の部分というのは、防御が甘く、弱点の1つとなっている。制御装置を破壊されたためか、双嶽ソウガクは、ガクンと腕を暴れさせた後、沈黙した。


 ――弱点とは言うが、普通はそこまでの近接戦になることも無いため、弱点と言うほどではない。装甲でガチガチに固め、可動範囲を狭めることの方がデメリットと考えられている。


 ――HArTSの近接武装は、小刀の形状をした打突兵装が多い。ハンマーの場合もあるが、ハンマーにしてしまうと、先端以外での使用に難がある。小刀の形状の場合、先端で突いて良し、刃の部分で叩いても良しとなる。ちなみに、複合装甲をスパッと切り裂くような刃物は存在していない。この小刀も切断を目的としている訳では無く、圧力を集中しやすくするためである。


 センサーが接近する敵機を捉える。腰部マウントからガリニウムランチャーを装備しつつ、トリガーを引く。今度は、銃口がぶれること無く敵機――砲焔ホウエン、脚部に命中する。左腿を溶かし、砲焔ホウエンがバランスを崩し倒れる。小刀を抜きつつ、接敵し、コックピットから出てくるように警告する。パイロットがコックピットから這い出してきた後、コックピットを破壊――砲焔ホウエンを無効化する。


「それにしても、こいつは凶悪すぎてダメだろう」


 強力な武器というのは、ありがたいが、度が過ぎている。外した場合の周囲への被害など、想像もしたくなかった。先ほど、動きを止めた双嶽ソウガクから40mm機関砲を奪う。手のひらの通信端子から残弾数に関する情報を得て、モニター上に表示する。ついでとばかりに、腰部マウントラッチからマガジンを奪い、颯刃ソウジンのラッチに装着する。周囲に気を配りつつ、作戦目標に向かって進軍を開始するのだった。



◆同日午後3時半 帝国軍 軍令本部内 幕僚作戦会議室


「どれだけ奴らの仲間がいるというんだ!」


 梶原陸軍大将の声が響く。午後3時少し前から、再度、反乱分子の攻撃が始まった。その攻撃も含め、あらゆる事態を想定し、部隊を展開していたため、本丸が攻め落とされると言うことは無かったが、部隊の中に少なからずの造反者がいることが問題だった。内憂外患――特に前線の将兵が感じる精神的圧迫は、相当な物だった。


 黒崎帝国軍元帥も、この状況に苛立っていた。反乱分子の再攻勢、陛下の身柄を確保することも出来ず、いたずらに時間だけが過ぎていた。


「いっそのこと、Dリバースを投入するか」


 苛立ちからか、黒崎元帥が呟く。その呟きを近くで聞き取った梶原大将と剣崎幕僚参謀長が、ギョッとしたような反応をする。その仕草を見て、自分が何を呟いたのか、何を声に出していたのかを理解した黒崎元帥が冗談だと否定する。が、この情勢、そしてまとった雰囲気から、どこまで冗談だったのかは疑わしい。


 廊下を慌てて走る音が聞こえてきたかと思うと、バタンと乱暴にドアが開かれる。その余りにも不躾な様に、梶原大将が苛立ち任せに怒鳴ろうかとしたが、駆け込んできた士官の顔が余りにも青ざめていたので思いとどまった。


「何事か」

「と、とにかく、TVを見てください」


 会議室の一角を占めるモニター群、その中央に位置する大型モニターの入力を切り替える。チャンネルを切り替えた直後、モニターに桜園帝が大写しになる。


『――して、無事に生きながらえておる。弑逆しいぎゃくされた等というデマを流し、臣民に余計な不安を与え――』


 先だって行われた政府広報とは真逆の内容だった。桜園帝自らの言葉で、軍上層部は、大国に宣戦布告を行おうとする不逞の輩と断じられ、身の危険を感じ、自らの意志で隠れたと告げられる。このままでは、軍上層部の方が謀反人となってしまう。この放送を見れば、末端の兵は混乱し、造反者が増えることだろう。ギリッと、誰かの歯ぎしりが響く。


「おい、この放送をやめさせろ。陛下を保護するのだ」

「は、ハッ」


 剣崎幕僚参謀長が指示し、士官の1人が慌てて部屋を出て行く。その間も放送は続く。黒崎元帥は、テーブルに両肘を付き、画面をじっと見つめていた。


『――帝都放送アナウンサー、綾部礼子と申します。こうして、陛下とお話をさせていただけること、誠に恐縮する次第です。いくつか、質問させていただいてよろしいでしょうか』

『うむ。構わぬ』

『ありがとうございます』


「この放送、――生放送だと思うか?」

「え?」


 黒崎元帥が、ぽつりと呟く。アナウンサーと陛下のやり取りを見る限り、生放送のように見える。が、録画と言われれば、録画の可能性も否定できない。


「生放送だろう。でなければ、いつ撮ったというのだ」


 梶原大将が、相変わらず苛ついた声で意見を述べる。陛下の斜め前から照明が当たり、少し質の悪いカメラで中継されているように見える。スタジオでの、プロによる撮影には見えない。


『――ど、身の危険を感じてとのことでしたが?』

『そうですね。――ぁ、ぃぇ、私を弑逆しいぎゃくしたとして、亡き者にしようとする連中がおる。私が生きていることを、こうして放送しなければ、それこそ、こっそりと葬られていたかもしれぬ』


 仮に録画だとして、先ほどのような言い直しを撮り直さないのは何故か。アナウンサーの後ろの時計は、現在時刻を刻んでいるように見える。その辺まで調整した上での録画と言うことも考えられる。


「生放送のように見えますが、録画の可能性も否定は出来ないかと」


 剣崎幕僚参謀長は、どっちとも付かない意見を述べるしか無かった。黒崎元帥は、相変わらず、画面をじっと見つめている。


『――心ある兵は、誤った情報に惑わされること無く、銃を収めて欲しい。あッ』

『陛下、陛下!?』


 桜園帝が何かに気がつくと同時に画面が砂嵐となり、陛下の映像、音声が途絶える。スタジオは騒然となり、何かがあったようだと伝えるが、詳細は解らない。何者かに邪魔をされ――この場合、邪魔をしたのは陛下に仇なす者、つまりは軍ということになるが、――放送を中止させられたように見受けられる。


「よし。あの放送は録画だったと言うことにしろ」

「録画、ですか」

「そうだ。テロリストに脅されて録画した物であり、奴らの悪辣なやり口に騙されてはいけない――とな」


 今の放送、軍上層部の彼らには痛恨の内容だった。如何にも、彼らが悪者に見える。彼らにしてみれば、あくまでもテロリストが謀反人で無ければ困るのだ。


「さすがに、あの放送の後では逆効果になりかねないかと」

「このままでは、我々が反逆者になってしまう。あの放送は否定せねばならん!」

「た、確かに――」

「まずは陛下の身柄を、我々が保護する必要がある。これ以上、余計なことを言われて、臣民を不安にするのはよろしくないからな」

「ハッ。早急に身柄の確保をさせます」


 黒崎元帥は、そう言いながら、先ほどは冗談だと応じたが、Dリバースを投入するか真剣に検討していた。検討していると言うことは、8割方、腹は決まっており、最後の決断を渋っているとも言えた――


Twitter @nekomihonpo


変更箇所

打突~→打突兵装


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◆用語
(2013/06/02更新)
●人物一覧
(2013/06/02)




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