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真・恋姫†無双 仲帝国の挑戦 〜漢の名門劉家当主の三国時代〜  作者: ヨシフおじさん
第二章・混沌の大地
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15話:戦いの末に

 なんか規制で色々と騒ぎになってますね。人様の作品を勝手に使わせていただいている身に言えた義理ではないですが、二次創作も1つの文化だと思います。出来れば衰退しないで欲しいなぁ……。

 


 仮に、何かに失敗した人間がいるとしよう。

 それは就職かもしれないし、学校のテストだったり、ひょっとしたら料理なのかもしれない。

 あなたは心配する。何とか慰めようとする。でも、どんな態度をとればよいのだろうか?


 最も消極的な態度は「何も言わない」ことだ。


 傷が自然と癒されるまで待つ。本人自身の力で乗り越えさせる。失敗を自分の力で乗り越えられれば、その人間はより強くなるだろう。

 こんな諺がある。「獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす」、要するに敢えて厳しい態度をとることで強さを身につけさせるのだ。しかし、谷を這い上がってこれない幼い獅子は果たして何匹いるのだろうか。そう、全ての人間が失敗を乗り越え、傷を癒すことなどできない。

  例え失敗を乗り越えられたとしても、必ずしも傷が癒されるとは限らない。焼いて化膿しないようにする人もいる。傷口ごと切り落とす人もいる。包帯で上辺だけ取り繕っても、中では蛆が湧いている人だっているのだ。


 ならば、より一般的な、罪の意識を薄れされるという方法はどうだろうか?


「あなたは何も悪くない」と言う。他人に責任を転嫁する。悪くない。大抵の人間はこれで救われるのだろう。

 されど、それが通用しない場合もある。当の本人が冷静で、物事を客観的に観察出来れる人なら始末が悪い。その人には「他人に責任転嫁して逃げようとしている弱い自分」が見えてしまう。行きつく先は自己嫌悪。


 では、もっとポジティブに考えよう。


「失敗は人間誰でもある。失敗から何を学ぶか、そこが大事だ。」、と。上出来だ。まさに正論。本当に失敗から学べるかどうかはともかく、その思考することで少なくともその場は乗り切れる。本当に失敗から学べたのか、学んだことが正しかったかどうかなど、そんなのが分かる頃にはとっくに過去の記憶になっているだろう。

 ただし、時として失敗から学ぶ機会すら与えられない時がある。一度の失敗が命取りになることなど、別に珍しくない。


 その意味で、劉勲は幸運だっただろう。なぜなら彼女は自己保身の術に長けていた。つまり、「失敗から学ぶ機会を作り出せる」からだ。だが、同時に不幸でもあっただろう。なぜなら彼女には、慰めの言葉を掛けてくれる人など居なかったから。ただ一人として、本当の意味で心配してくれる人など、誰一人として居ないから。


 しかし、自己保身に長けずとも、慰めてくれる人が居なくとも、失敗を乗り越えられる方法を劉勲は知っていた。簡単な話だ。「慣れ」てしまえばいい。それが人間の適応能力というのは実によくできている。現実がいくら理不尽だろうが、その環境にずっと身を置いていれば、それが「当たり前」になる。成功しないのはいつもの事。一人ぼっちなのも今更な話。「成功」しようが「失敗」しようが、どうせ上辺だけの賞賛と励まししか貰えない。


 (……だから、アタシは大丈夫。そんなのは、「当たり前」だから……)


 だから傷を癒すという、失敗を乗り越える「過程」なんかに興味無い。大事なのは「結果」だけ。誰もが認めざるを得ない「結果」を残す――そうするしか自分自身の価値を証明できないから。






 ◇◆◇






「黄巾賊はどうしたんだね?なぜまだ奴らは領内を荒らしている?」


「まぁ、落ち着きたまえ。みんないろいろと忙しいのだ。発言は必要最低限に抑えてもらいたい。」


「そもそもワシは最初から反対だったのだ。そう言ったにも拘わらず、言うことを聞かんからこういう事になる。」


「こんなに多くの税金を無駄にして、君は民と、袁術様に申し訳ないとは思わないのか、劉勲書記長?」




 書記長、その言葉に反応したのは会議室の入り口付近、袁術の反対側に座っている女性だった。


 着ている服は上物で、髪のツヤもしっかりと維持されているが、その顔はいつも以上に青白く、疲れているのが傍目にも分かった。黄巾軍討伐失敗の後処理――報告書の作成や、壊滅した部隊の再編成に、恩賞やら兵士の給料支払い等――に加えて通常の書記長の業務もある。特に戦争では多くの人間が死んだり、出世あるいは失脚するため、人事移動が多く、それを監督する書記長に仕事も殺人的に増大する。

 その上、現在進行形で行われている、敗北責任を問う劉勲自身への軍法会議の準備もこなさなければならない。軍法会議では手続きの簡略化のため、弁護人を置くことが許されず、自分の弁護は全て自分でしなければならないのだ。


(陪審の4割は説得、もしくは買収したとはいえ、旧保守派を中心とした連中はアタシを失脚させようとしている。残りは様子見ってとこね。ちょっとキビしいかも。……ったく、人が弱み見せた途端に本性現ちゃってさ。ただでさえ仕事で疲れてるのにこんな――)


 ぶつぶつと、心の中で愚痴る劉勲。これを聞けば十人中十人が「お前が言うな」とツッコむだろうが、気にしない。ついでに陪審を買収するとかいう単語もあったような気がするが、そもそも軍法会議自体が真っ当な手続きを経た裁判と言い難いため、こっちもスルー。



「どうするつもりだ?これ以上黄巾賊などという連中を のさばらせておくわけいにはいかないのだぞ!」


「心配のし過ぎだってば。黄巾軍の殲滅には失敗したけど、反乱の発生件数自体は減少傾向だし。後、2か月もあれば完全に駆逐できるわよ。」


 そう反論する劉勲に対してフン、と鼻を鳴らしたのは楊弘だ。


「確か君はこの反乱が始まった時には『あと数週間』と言っていたな?『あと数ヶ月』ではない。」


 劉勲と同じ改革派に所属する文官で、やや壮年の男性である。既に髪には白髪が混じり始めているが、年齢を感じさせない威厳のある人物だった。主に貿易関係を担当しているためか商売にも明るく、その頭の中には中華全土の地図が入っていると言われている。改革派による独裁政治を主張しており、反対派を懐柔して利用しようという劉勲の姿勢を「軟弱」と常々非難し、密かにその地位を狙っていた。


「……状況が変わったのよ。当初の予定より黄巾賊の士気が高く、自軍の錬度不足が予想以上に酷かった事は想定外でしょう?」


「ほう、そんな言い訳で人民が納得するとでも?まさか。いいかね、我々が求めるのは実態のない口約束ではなく純然たる結果だ。」


「その通りだ。いい加減な理由で将校を粛清しまくった挙句にこのザマか?後先考えないからこうなる。」


 今度は別の若い軍師から野次が飛ぶ。劉勲の記憶が正しければ、確か彼は前任者の失脚のおかげで出世したはず。


「あら、アナタも粛清に賛成していたんじゃなくて?」


「いや、反対しなかっただけだ。賛成したとも言っていない。」


 しれっ、と答える若い軍師。かつてのリーダーを非難する、その表情には何のためらいもない。彼にしてみれば、仕えるべき主などいくらでもいる。失敗した主に用など無いのだ。



「ちょっとそれは言い過ぎですよぉ。劉勲さんは私に代わって軍の強化に取り組んでるんですから、ほどほどにして下さい。あんまり苛めると、私の仕事が増えちゃいますしぃ。」


 張勲が下心丸出しで弁護に入るものの、楊弘はそれを一蹴する。


「対応が遅すぎる。そして対策も杜撰すぎる。だから、私はかつて忠告したのだ。『騎兵中心の精鋭部隊を作って、危機に迅速かつ臨機応変に対応できるようにするべきだ』とな。」


「……そしたらアナタと懇意にしている貿易商は、西涼辺りから高額な馬と調教師を輸入出来る上に、飼育場も立てられて商売繁盛。同時に軍馬の供給源を押さえる事で、新たに軍部への影響力も確保できて万々歳ってワケ?」


 南陽は元々馬の産地では無く、軍馬のほとんどを別の場所からの輸入で補っている。そして軍馬一頭にかかる費用は相当なものだ。通常、馬一頭にかかる食糧は兵士10人分に相当する。そのくせ、中華の民は基本的に農耕民族なので馬の扱いに慣れておらず、病気やストレスで馬が死んでしまうことも珍しくは無い。

 それらを防ぐには西涼あたりから専門の調教師を雇い、予備の馬を用意するための牧場を作る必要がある。そのため膨大なコストがかかるのだが、逆にいえば大きな利権が絡むとも言える。


「これは心外な。私は純粋に人民と兵士の幸福を考えて軍の強化案を述べたまでだ。君がせっせと出世に勤しんでた時期にな。」


 (あーあ、何が人民の幸福よ。そんなこと真面目に考えてるヤツがこの場にいるワケないじゃない。)


 劉勲はひっそりと胸の奥で毒づく。ちょっと後半は民衆に聞かせられない内容だが、概ね事実である。袁家は漢帝国の名門であり、当然、その組織やネットワークも巨大だ。劉勲がリストラやら粛清やらを多少断行したところで、組織全体に蔓延する官僚主義や縄張り意識、事なかれ主義に縦割り行政は消えないのだ。


 『我々官僚は全力をあげて既得権益を維持し、しかる後にその余力をもって人民にあたる。』


 どこの誰が言い出したのか知らないが、ぶっちゃけ袁家家臣の基本方針はコレである。同時に唯一無二の生存戦略でもあり、それに再考の余地など存在しない事は不文律としてよく知られていた。



「無名の兵士だって、家族もいれば友もいる。上官の稚拙な指揮で死んでは報われないだろうな。」


 そう言って白々しく、祈るような仕草をする楊弘。その他の官僚もうんうんと、どこか愉しそうに頷く。


「……」



 劉勲は反論しなかった。別に反論材料が無いわけではない。


「私ならば、君と違ってもっと上手にやれたのに。非常に残念だよ。」


「……そうかもね。」


 ただ自分の意見など言ったところで、誰も聞き入れる気は無いだろうことが分かっていたから。


(はぁ、……なんだか、ちょっと疲れちゃった。)


 結果は初めから決まっていた。だから、これ以上何も言う気が起きなくなっただけだ。結局の所、この裁判は劉勲を引き摺り下ろす為だけに上演される茶番劇なのだから。


 いわれのない誹謗中傷が飛び交う。


 それを昔の同僚が嘲笑う。


 皆が嬉々として加虐に酔いしれている。


 官僚達の卑下た笑い声が会議室に響く。


 張勲は苦笑いを浮かべ、魯粛は何を考えているか分からない表情でうんうん、と頷いていた。

 すでに裁判の流れは決まっている。それに真っ向から挑めば、溢れだす勢いに飲み込まれる事は明白。ならばそれに身を任せて、飲み込まれないようにするのが賢明な判断というものだ。


(やっぱり、そうだよね。うん、知ってた。アタシだって同じなんだから……)


 強い者には媚びへつらい、寄生することでおこぼれに預かる。己の主を変えることに何のためらいも無く、その権威が没落すれば、さっさと見切りをつけて掌を返したように非難する。全ての責任をなすりつけ、失脚させて何事も無かったかのように後釜に座る。


 ただ、それだけのこと。こんな事はありふれた劉勲達の日常の一部でしかない。


 庶民から見れば豪華な調度品に囲まれた、華やかな世界。

 だが、その世界は金と権力、そして数多の血の上に成り立つ欲望の楽園。

 そこに暮らす人々は豪奢な服を纏い、優雅に語らいながら互いを引っ張りあうのだ。

 僅かでも輪からはみ出せば、すぐに蹴落とされる。尻尾を出せば掴まれる。足を出せば足元を掬われる。


 だからそうならないよう、皆が血塗れで努力する。


 より多くの資金を――


 少しでも多くの権力を――


 前へ、もっと前へ――


 高く、さらなる高みへと登らんとする。


 みんなが、そうしているから。そうしなければ、生きていけないから。自分だけ、そこから外れれば堕とされるだけだから。

 故に、必死に他者を蹴落とす。他者を押しのけて前進する。

 それすらできない者は、強者に寄生するしかない。宿主が弱れば、新たな宿主を探す。そうしなければ、弱い自分も一緒に堕ちてしまうから。

 だからこそ、例え非情であっても必死になって寄生すべき宿主を見極める。


  (みんな、自分の事で精一杯だから……)


 そう、誰もが加害者であり、同時に被害者なのだ。今日の哀れな生贄は知人の一人、されど明日は我が身かもしれない。

 それを責める事はできないだろう。彼らはただ、そういう世界に生き、その世界の法則に従っているだけなのだから。一度入ったら抜け出せない、底なし沼に足を踏み入れてしまったのだから。蟻地獄の底に堕ちまいと、必死に巣を這う虫ケラのように、もがき続けているだけなのだから。


 (立ち止まっちゃダメ、歩き続けないと、前に進まなきゃ……)


 立ち止まったら、引きずり込まれてしまう。堕ちて、喰らい尽くされてしまう。


 (だったら……)


 そう。それならば――


 (アタシは、どんな(・ ・ ・)手を使ってでも――――)




 最終的に、黄巾軍討伐の最高責任者には、劉勲に代わって張勲が任命される。

 劉勲は指揮権を剥奪され、その役目は張勲の助言に止まる事となった。失脚こそしなかったものの、その影響力は明らかな減退を見せていた。ゆえに彼女は新たな対策を取る必要に迫られていた。


 そしてこの裁判から一週間後、劉勲から思いもよらぬ提案が提出される。


 すなわち――






 ――旧孫堅軍を再建であった――



 責任追及タイム&孫家再興フラグです。初っ端から原作キャラに恨まれるわ、内政はイマイチぱっとしないわ、2連敗した挙句に軍法会議にかけられる主人公。果たして逆転はあるのか?


 ちなみに楊奉さんの真名は文里(ウェ○リー)という裏設定があったんですが、当然のごとくボツにしました。


 


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