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真・恋姫†無双 仲帝国の挑戦 〜漢の名門劉家当主の三国時代〜  作者: ヨシフおじさん
第一章・嵐の前の静けさ
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08話:誓いを胸に

 孫呉の面々の口調が難しい。おかしい所があったらご指摘ください。

 


 ――江東の虎、孫堅、新野にて死す――


 新野の戦いと呼ばれたこの一連の戦いは劉表軍の勝利に終わった。この戦いは袁術が孫堅に命じて、荊州の統一を目指したものとされる。

 結果的に孫堅は黄祖によって討ち取られ、志半ばで横死。袁術軍司令官の陳紀も戦死したために、袁術・孫堅連合軍は全面敗走に至る。幸い、途中からバックアップとして参加した紀霊が混乱を最小限に抑えて退却させたため、戦死者は予想より少ないものになった。

 敗北した袁術は掌を返すように劉表と講和を結び、即座に反劉表派の豪族への支援を断ち切った。一方で劉表はこの勝利により、荊州における地位を揺ぎ無いものにした。


 以上が世に伝えられている、孫堅の死である。だが、それは歴史の表面に過ぎない。真実が歴史の闇に埋もれてしまうことは別に珍しくも無いのだ。






 一週間後、新野の戦いの生き残りである黄蓋は真実を伝えるべく、孫家の主な面々を招集していた。ただし孫権は事情聴衆のために劉勲に呼び出され、この場にはいない。もちろん本音は孫策らが暴発した場合に備えて、孫権を事実上の人質として確保することにある。






「……それで、母様が死に関係ありそうなことって?」


 黄蓋を真っ直ぐに見つめながら孫策が問う。その顔にいつもの快活さは無く、完全に憔悴しきっている。孫堅の死を告げられた直後、彼女はその死を認められずに一晩中、感情の赴くままに荒れていた。葬式のときも、たくさんの人から弔問されていたが、ほとんど耳に入っていないようだった。

 本来なら、もうしばらく傷を癒す時間が必要だ。現に末っ子の孫尚香は今でも泣き続けている。だが孫家の当主としての立場が、孫策にそうすることを許さなかった。



「覚悟はできてます。何が……文台様の身にいったい何があったのですか?」


 次に口を開いたのは周瑜だった。孫堅の死の直後、一時的に孫策に代わって事態を収拾し、袁家との交渉に当たったのは彼女と孫権だった。本来なら孫策の仕事であったが、あのときの不安定な精神状態ではとても政務に当たらせるわけにはいかなかった。無論、周瑜も平然としていたわけではない。周瑜にとっても孫堅は母親のような存在だっただけに、その悲しみは孫策に勝るとも劣らない。


 だが、冷静な彼女はこういった時こそ冷静に事態を収拾する必要があることを理解していた。孫堅の死によって発生した混乱に乗じて袁術が、旧孫堅軍兵士や彼女の持っていた朝廷での地位を吸収するのを、誰かが止めなければいけない。今後のためにも、袁術が孫堅の遺産を食い潰そうとするのを防ぐ必要があるのだ。もっとも、目の前の仕事に集中することで悲しみを紛らわそうとしているのかもしれないが。



「今後のためにも、私達には文台様に何があったかを知る必要があります。」


 強い口調で、周瑜は黄蓋に断言した。



「うむ。つらいかもしれぬが、落ち着いて聞いてくれ。」


 孫策、周瑜を順に見渡した後、黄蓋は自分の知る全てのことを話した。陳紀が自分達と劉表の共倒れを狙っていたこと。劉表から使者が来たこと。その提案に乗って陳紀の裏をかこうとしたこと。そこから先は何があったか黄蓋も知らないという。

 だが、周瑜はその情報から今回の真相の、おおよその予想がついた。




「……見事に嵌められた、ということか。」


「冥琳、それはどういう意味?」


 その秀麗な顔を悔しさを滲ませる周瑜に孫策が問う。周瑜はやや間を置き、あくまで予想だから、と前置きした上で自分の推測を話し始めた。



 今回の戦いで一番得をしたのは劉表だ。劉表はその後、荊州の平定に乗り出して反対派をほぼ粛清することに成功した。不安定だったその地位も、今や盤石なものになっている。そのぐらいは周知の事実だが、もう一つ、得をした勢力がいる。

 新興貴族と商人を中心とした改革派だ。今回の介入を主導したのは、影響力の回復を狙った陳紀を始めとした軍部や保守派の人間だった。一方で劉勲ら改革派は、そのほとんどが介入に反対していた。


 袁家内部の派閥は元々、保守派・官僚派・改革派・中立派=3・2・2・3だったが、この介入が失敗した事によって賛成票を投じた主要なメンバーが全員責任を問われて失脚した。さらに残った保守派同士で責任をなすりつけ合って内部分裂した挙句に、一部が懐柔されてなし崩し的に改革派に鞍替えしたため、勢力図は大きく塗り替えられた。

 今の袁家内部では保守派・官僚派・改革派・中立派=1・2・4・3となっている。ただし中立派は中心人物が張勲であることからも分かるように、基本的にあまり積極的に主導権を握らず、日和見主義者の寄り合いといった趣が強い。ゆえに現在の袁家を事実上支配しているのは改革派であると言えよう。


 更に今回の反省を踏まえて改革派主導の基、反乱を防ぐために軍部以外の人間から、監視役を常設することまで議論されている。また、軍部の主導権も指導者タイプの陳紀から前線指揮官タイプの紀霊に移ったため、軍部は完全に文民統制のもとに置かれることになった。




 「ここまでの流れ自体は自然だが、気になる点がいくつかある。」


 そういって周瑜は不審な点を指摘する。


 まず、対応速度が尋常ではないのだ。

 まだ孫堅が死んでから一週間しか経っていない。敗戦という混乱を鎮めるだけでも大変なのに、改革派の動きはあまりに早かった。

 加えて言うなら、その後の劉表の荊州統一も気味の悪いぐらい手際がよかった。袁術軍を破った劉表軍は破竹の勢いで快進撃を続け、瞬く間に反乱軍を全面降伏へと追いやった。

 そして何より不自然なのが、周りの諸侯が驚くほど、すんなりと講和が決まったことだ。講和条件は『荊州を以前の状態に戻す』という内容で、要するに『無かった事にしよう』というものだ。


「通常、講和条約を結ぶ時はどちらかが圧倒的に優勢でない限り、かなりの時間を要する。今回の場合、表向きは「国内問題に集中したい相互の利害が一致した」ということにはなっている。

 だが、現実にはそう簡単に割り切れるものではない。なぜなら、お互いの体面や内部事情に加えて周囲への評判、軍事的均衡、経済効果や出費など様々な利害が絡み合うからだ。」


 さらに周瑜が懸念したのは、袁術軍と孫堅軍の死者の少なさだ。世間一般では紀霊が敗走する自軍を支えたとされているが、周瑜の知る限り紀霊はそういった冷静な判断を求められる場面で活躍できるような人間ではなかった。となれば、むしろ劉表軍に何らかの不備があった、あるいは手加減をした、と考えるのが妥当であろう。




「……つまり、冥琳は今回の介入自体が、あらかじめ仕組まれていた八百長だといいたいの?」


「身も蓋も無い言い方をすれば、そうなるな。実際にそう考えればすべての説明が付く。」


 もし今回の介入が仕組まれていたと仮定するならば、不自然なことは無くなる。

 劉勲ら改革派の素早い実権掌握も、あらかじめ根回しされていたならば納得できる。講和もすでに講和内容が決まっていれば短期間で結べる。劉表軍が手加減を加えれば、袁術軍も無事に退却できる。その後に劉表が荊州を素早く統一できたのも、もしかしたら反乱軍に接触していた袁術軍から彼らの詳細な情報を手に入れたからなのかもしれない。

 また、劉表にとって心配のタネは表向きは恭順の意を示していた潜在的な反対派の豪族だったが、袁術がバックにつくことでそのほとんどが重い腰をあげていた。


「結果として、劉表は荊州内部の潜在的な反対勢力のあぶり出しと粛清に成功した。劉勲ら改革派も今回の介入で軍部の影響力を排除して指揮下に置いたばかりか、袁家内部の主導権を手に入れた。文台様はそのために都合よく利用されたということだ。」


 最後に一言、くだらない、と周瑜はつまらなそうに付け加えた。


 派閥抗争、権力争い。

 他者を押しのけ、ただ己の利益のみを追求する。目先の利益を追い求めるあまり、長期的な国益を損なうにもかかわらず。

 周瑜も自身が天才であるがゆえに、後先考えずに目先の利益につられる劉勲らの考えが理解できない。知ることはできても理解はできないのだ。しかし、そのくだらない事のために多くの人間が資源を投じ、労力を割き、時として命すら懸けるのもまた事実であった。




 だが、孫策の反応は対照的だった。孫策は話を聞き終わると、それっきり下を向いたまま動かなくなった。しばらくの間、孫策は無言だったが、やがてその口から乾いた笑いが漏れる。


「ははは……そんな……」


 おかしい。本当に笑える。自分の母は優れた人間だった。それなのに――


 ――たかが派閥争い?


 ――反対派の粛清?


 ――なんて、くだらない



 ――そんな……



「……そんな事のために散々踊らされた挙句……母様は殺されたって言うのかぁあああああッ!!」



 それは孫策にとって認めることのできない話であった。

 絶対に認められない。孫文台の最期が、たかが権力闘争の道化でしかない?そんなことが認められるものか。認めたくはない。


 それは一種の倒錯した心理。優れた人物の死にはそれ相応の理由がある、といった類の。偉大な人間がつまらない理由で死ぬことなど、認められないというある種の現実逃避。

 そしてその屈折した感情は、別の逃げ道を探し出す。別の回答を導く。それはすなわち――



「――劉表、そして劉勲。」


 そう。倒すべき敵を。敬愛する母を殺すに足る 強敵 (・ ・)を求める。

 孫策は今は亡き母の姿を想いながら、静かに誓った。



「……母様。見ていて。必ず、復讐はやり遂げる。」


 ――孫呉のためにも


 ――民のためにも


 ――必ずこの地を取り戻すから。




「……だからどうか、力を――」




 ――わたしに、力を。






 ◇◆◇






 孫権は袁術軍兵士達に囲まれながら、通路を進んでいた。孫堅の死において、劉勲が黒幕なのではないか、ということには薄々感づいていた。

 だが、孫権がそれを顔に出すことは無かった。母である孫堅の死を聞かされた時も、孫権は姉や妹と違って激しく取り乱すことは無かった。最初こそ呆然としていたものの、すぐに混乱に歯止めをかけるべく、周瑜と共に必要な手を打った。袁術や劉勲に対しても、姉の代わりに冷静に対応して孫呉の分裂を防いできた。

 孫権は全ての感情を無表情な仮面の下に押し込め、為すべきことを為すことで最愛の母の死に耐えていた。



 孫権が呼び出されたのは、南陽城の中央からやや離れた、庭園の見渡せる区画にある劉勲の執務室だった。内装はそれほど多くないがその分、陳列されている装飾品には相当な一級品が使われていた。格調高い調度品に囲まれたその部屋からは、美しい庭園が一望できる。おそらくは窓から覗く庭園の景色すらも、部屋の内装の一部なのだろう。

 ざっと部屋を見渡してから、孫権は目の前にいる女性の方へ目を向ける。その女性、劉勲は椅子に座ったまま陶器製の茶壺、ティーポットを手に取る。



「いらっしゃい。甘いお菓子とお茶はいかが?」


 にこりと笑って優雅にお茶を注ぐ劉勲。机の上は様々な種類の茶菓子が置かれ、上品な甘い香りが孫権の鼻をくすぐる。


「……いただこう。」


 口ではそう言ったものの、手を付けようとはしなかった。母の仇かもしれない人間に気を許すほど自分はお人好しではない。ただ、劉勲が犯人だという証拠も無いため、ここはひとまず当たり障りのない対応を取ることにした。



「そんな遠慮しないでよ。別にクスリとか入れてないから、ね?」


 そういってにこやかにお茶と茶菓子を差し出す劉勲に、ここで断るのも無粋だろうと思った孫権は目の前の茶菓子を一つ手に取る。


「あ、おいしい……。」


 やや甘みが強いものの、とても美味しい。一緒に勧められたお茶との甘味のバランスは絶妙だった。



「でしょ?飲むお茶に合わせて茶菓子に香料を少し混ぜるのがコツなの。これには柑橘類の果汁を使って清涼感を出してみたんだけどどうかな?」


 たしかに言われてみれば、どこか清々しい感じがする。香りも悪くない。美味しい食べ物はそれだけで人の心を和ませるものだ。



「これは劉勲殿ご自身が作ったのか?」


 気づけば、孫権は自然と劉勲に言葉をかけていた。


「まさか。発案したのはアタシだけど実際に作ったのは専門の料理人よ。手料理は基本的に恋人以外には作らない主義なの。」


 あはは、と軽快に笑う劉勲。そのまま悪戯っぽい表情でお茶を啜る孫権の顔を覗き込む。


「どうしてもって言うなら考えてあげないことも無いケド。もしかしたら間違えて毒入れちゃうかもだよ?」



「ぶっ!」



 思わず飲んでいたお茶を噴き出す孫権。劉勲の方はというと「ヤダ、きたな~い。」とか言いながらも楽しそうに机を拭いている。


「り、劉勲殿がいきなり変な事を言い出すからっ!」


「あははっ、そんな興奮しないでよ。いくらアタシだって間違えて毒入れるほど抜けてないって。」


 口でそうは言っても胡散臭い事この上ない。日頃の悪評を自虐ネタにしているのだろうが、正直なところ心臓に悪い。



「はぁ……まったく貴女という人は……」


 つい溜息が出てしまう。思えば、こうやって劉勲と二人で、仕事以外の会話をするのは初めてだ。孫権は、笑顔を崩さない劉勲を改めて見つめる。


「少し気が楽になった?なんか最近、凄く無理してるみたいだったから。ちょっと庇護欲刺激されちゃったかも。」



 そういえば、この部屋へ来た時に比べてだいぶ気が楽になった気がする。こちらの身を案じてくれているのだろうか。そんな気が利くような人間には見えなかったのだが。

 本当にこの女の言うことは本気なのか、からかっているだけなのかよく分からない。


 そんな孫権の思考をよそに、屈託なく笑う劉勲。



 その姿は本当に楽しそうで。


 どこか幼くも感じられて。


 このくだらない時間を、劉勲は心から大事にしているように思えた。



 (もしかしたら、こっちが本当の姿なのでは?)


 ふと、孫権はそんな感想を抱いた。

 思えば、劉勲はいつも一人だったような印象がある。家族や仲間達に囲まれた自分と違って、劉君は常に孤独で、心から信頼できる人間が彼女の周りにはだれ一人として居ない気がする。

 もちろん自業自得といえばその通りだ。


 多くの人間は自分の犯した罪、過去に対して正面から向き合えるほど強くは無い。ほとんどの者はそこから逃げようとする。目を背けて自分のように別のことに打ち込むか、あるいは何事も無かったように日常を演出しようとする。

 劉勲は恐らく後者だろう。だからこそ、こうした他愛もない会話が、彼女にとってはかけがえのないものなのかも知れない。


 咎人の目指す、日常への回帰。


 それは負うべき責任からの逃走。


 心の弱さが生み出す、自分勝手な行動。


 だがそこに孫権は、ほんの少しだけ『人間』としての劉勲を見た気がした。弱くて、自分勝手で、それでも必死に日常を営もうとする、一人の『人間』を。




「ま、殺す気で毒仕込むことはあるから気をつけてね。」




「……。」



 ……せっかくいい感じに和んできたのになんだろう、この感じ。少しでも親近感を抱いた自分に後悔する孫権。はぁ、と再びため息をついて視線を机の上のお茶菓子に向ける。


「……。」


 若干不安になって来た。……やっぱ毒入ってるんじゃないのか、コレ。



 そんな彼女の心情を知ってか知らずか、劉勲が補足に入る。


「あ、このお菓子達は大丈夫だよ。ここでアナタが死んだら真っ先に疑われるのアタシだし。毒殺するなら犯人が分からないようにやるから。」



 なんと説得力のある言葉だろう。理路整然としていて反論の余地が全くない。


 少し悲しくなってきた孫権は話題を変えることにした。



「それで、私に何か話があるのでは?」


「ああ、そうだったわね。じゃあ、本題に入るとしますか。」



 最後に一口、お茶を飲むと劉勲は態度を改めた。心の中まで見通すような、澄んだ緑色の目で真っ直ぐに孫権を見つめて、本題を切り出す。




「アナタ、これからアタシ達に協力する気は無い?」




 孫呉のみなさんの劉勲に対する印象。


 孫権……少し親近感?


 周瑜……くだらない人間


 孫策……母様のかたきィイイイ!


 孫堅……口ばっか煩いヤツ


 基本的にいい感情抱かれてないです。当然と言えば当然だけど。周瑜さんに至っては相手にもされていません。

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