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今夜、人工灯を見て想う

作者: 南野彰



待つなんて無理。

そんな強がり、あなたはもうずっと前から気付いてる。



「…きもちわるい」



喉の奥に悪が潜む。

チクチクと、静かに自分を蝕んで行くのがありありと解った。



近くで老人の鼾が聞こえる。

それと、階段を上る憎い憎い足音。



「ああ、痒い」



傷が疼く。


もう良いの?

まだ駄目なの?



ねぇ、もっと痕を頂戴。



「眠い」




夜は嫌いじゃない。

静かに時が流れる。

明けない事をいくら望んだって、しつこいべったりとした黒が空を覆ったっていつの間にか黒は消え去り朝が台頭する。



「でも、寝たら…」



寝たら『アレ』がくる。

あたしを押し潰しにやって来る。



やあ、今夜も会ったね。

どんな夢を見せてあげようか?

みんながお前を無視する夢?

みんな出来るのにお前一人、出来ない夢?

二人が、居なくなる夢?


ああ、お前が彼女を殺す夢?



『アレ』は楽しそうに目の前にカードを沢山広げて笑う。





眠れない。

眠りたい。





また、

部屋の全てを破壊して歩み出そうか。

どこへも繋がらない、この細くて心地よい逃げ道を?



「…冗談にもなりゃしない」



多分もう、次に目が覚めるまでにこの携帯は鳴らないだろう。

誰からも、干渉されないだろう。


干渉を嫌うわたしは、

干渉を酷く愛している。



かまって、寂しいの。

解るでしょう?

あなただって同じだ。



かまって。

でも、ほっといて。

もうわたしに触らないで

わたしを見ないで。


目があったら、その目を抉りだして潰してやるから。








孤独を愛し、孤独を嫌い

闇を愛して、闇を憎んだ。


仲間を愛し、仲間を捨てた。

光を望んで、光を吐いた。



「わたしはなにをしているんだろう。なにがしたいんだろう」



葬り、死に際に囀るべきはわたしではないのか。

他の誰ではなく、この『わたし』と言う、個体が。





なにも出来ない。

あなたを助けることも

君の望むことも、わたしは何一つ叶えてあげられない。








沢山の食べ物を胃に詰め込んで、そうしたら指を突っ込んで。

便器に顔を押し込んで、詰め込んだものを解き放つ。

そうしたら、次は新たな食べ物を口に入れて噛む。

そうして、飲み込まずにゴミ箱に吐き出す。



それに飽きたら、真新しいカッターで手首を裂く。

捜し物をするみたいに、丹念にあちこちを、深く。



ワインレッドがこんこんと湧き出てくる。

その滴りを静かに見つめながら愛おしそうに舌を伸ばす。

先の方で味を確かめて、じっくりと舌の腹でワインレッドを楽しむ。





誰も何も言わない。

誰もいないこの箱の中で、わたしはひとりだ。


壁に居る愛しいあの人に見詰められて、窒息しそう。

それでもわたしはひとりだ。



誰と時を過ごしても

なにをしていても、わたしはひとりだ。











「助けて」


返事はない。


「手を伸ばすから、それを引っ張って」


返事はない。


「痒いの、痛いの。楽しくないよ、こんな事。楽しいことを教えて?」


返事はない。



背中をくっつけたまま、離れた。

頬は涙と怒りに濡れ、手は赤に染まってる。



互いの名を呼んでも

返事はない。








「ウソツキ」





サ ヨ ナ ラ 。



地震が起こった。

脆い箱は崩れて、中身は破壊される。

その中身のまた中身は全てをワインレッドに変えた。





サ ヨ ナ ラ 。







サ ヨ ナ ラ 。

バイバイ、ララバイ。




優しい子守唄。

本当の眠りの時間を引き連れて、やってきた。

優しい意地悪。

これ以上無いくらいにひとりのわたしに、やってきた。





身を裂くような幸福。










サ ヨ ナ ラ 。







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