ゆきまう日
「あっ、雪だ。」
「ほんとだ。」
病室の中から見る雪は、とても綺麗だ。
同時に地面に落ちるたびに消えていく。
目の前のユキが消えてしまうような気がして…。
ぎゅっとつないだ手に力を込めた。
彼女の指先は、少し冷たくて、細くなってしまった指に僕はふがいなさを感じる。
「どうかしたの?」
「何でもない。」
「そ~?」
笑顔で笑う彼女の顔色は、雪のように白く、僕が触れてしまえば、溶けてしまいそうで。
「ねぇ、雪はさ、綺麗だよね。」
「うん。」
「はかないよね。」
「うん。」
彼女は、自分の死期を悟っているのかもしれない。
「雪は可哀そうだよね。」
「え?」
「あんなにすぐに消えちゃって、でもさ、私は、すぐに消えないんだ。おんなじゆきなのに、全然違うよね。」
少しずつ震えていく彼女の肩、体。
「ユキ…。」
「私は、消えはしないけど、こんなに苦しいんだったら、すっと消えられればよかったのに。」
初めて彼女の気持ちを聞いた気がした。
初めて弱音を吐いた彼女に、僕は――――――。
「すぐ消えちゃってたら、僕に会えなかったんだよ?」
「あなたにあえて、よかった……だけど、苦しいの。」
僕も苦しいよ、一人になるのが。
「怖いの。」
僕も怖いよ、きみを失うことが。
何も言えない僕を見て、きみはまた優しく、哀しく、わらう。
「なーんてね、忘れて…。」
「忘れないよ、忘れられないよ、きみのことは。」
「…ありがと。」
さよなら、僕の愛しい人。
彼女が逝ったその日にも雪は降っていた。
まるで、彼女を迎えに来たように。
まるで――――――――――――。




