ばちもん
商人が花にチケットを渡して来た。
「何じゃろ?」
花がそのチケットを見ると、歌舞伎とある。
「南座じゃろか?」
花が聞くと、商人は、「何でもここでダブルブッキングされた歌手がいてな。チケットをさばいてくれたら、応じると言われたじゃけ」と答えた。
「それで?」
花が言うと、商人は手前の風呂敷を開いた。
「何せ、不景気じゃけ。花さんが頼りじゃけ」
花が風呂敷の中を見ると、小皿がいくつかあった。
「焼きは瀬戸じゃけ」
「だが、欠けがあるじゃけ」
花はすかさず言った。
その小皿は、色合いも悪かった。
「安くしときますさかい」
その商人は、新顔だった。
花が黙っていると、商人は、「ほなら」と、風呂敷をたたんで玄関を出ようとした。
「チケットは、返すさかい」
花が言うと、商人は、「色物じゃさかい。好きにしてな」と、そそくさと出て行った。
本格的なお座敷が始まると聞いて、よそもんが花に取りいようとしてきた。
この店のおかみは、静香に決まった。
昨日のお座敷のあと、黒澤が静香にいったのは、「お前を東京にと言う話もあるさかい、じゃがしかし、選ばれた理由がある。スマホより今は、パトロンじゃけ」ということである。
静香は黒澤を見たあと、花の顔を見た。
「言いたいことは山ほどあるという顔じゃけ」
蛍が、茶々を入れた。
皆伐が、「先に行くじゃけ」と引き戸を開けた。
そのあとを、数人の舞妓たちが、「おつかれやす」と出て行く。
昨今の舞妓たちは、通いのものも多かった。
「パトロンは、黒澤様がいいじゃけ」
静香の言葉に、またもや場が静まった。
黒澤が、「考えとく」と言うと、蛍が何か言いたそうにしていたが、花が小さくあくびをしたのを見て、黙った。
お座敷が始まる前、花が南座のチケットを見ていると、静香が、「それ、どうしたじゃけ?」と、聞いて来た。
「ばちもんじゃけ」
花が答えると、「どれ?」と、静香がそのチケットを手に取った。
「この辺に、歌手などいたかいな?」
花の後ろを、まかないたちが通り、「おはようございます」と言った。
「東京じゃあるまいし、ここ京都で路上ライブとは」
静香はチケットを花に返し、憤慨した調子で続けた。
「どうせ場末のストリッパーさかい」
スマホをもらえなかった静香は、至極機嫌が悪かった。
蛍が階段から降りてきて、「おかみ」と静香を呼ぶと、静香が思いっきり「何じゃろか?!」と言った。
引き戸が開いて、皆伐が、「今日は少し冷えるじゃけ。花に話がある」と言った。




