あまてらす!
60分の時間制限で書き上げる企画、「ワンライ」のために執筆しました。
お題は三題噺ジェネレータより、「燻銀・劣化・宇宙線」をいただきました。どないせーっちゅうねん。
「つまり君は、ぼくが観測したことによって生まれたと」
「です!」
ぼくの腕の中にちんまりと収まったアマテラスが典型的な萌え声で答えると、彼女のおでこが自慢げに光る。
「地上に数多降り注ぐ宇宙線のうち、高エネルギー塊の擬人化というか」
「ですです!」
また光る。作業中のモニターが見づらくて困るのだが。
「そういう量子的な存在なので、ぼくが観測し続けないと消えてしまうと」
「ですー……」
今度は光らなかった。
ほのあたたかく明滅しているアマテラスの体は、宇宙服越しにもその熱を感じられた。
ぼくはモニター上で船外ロボットアームの設定を終え、予定されていた超小型衛星をエアロックから射出する。
「行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃーい!」
特に意味はないが、宇宙へと旅立つ衛星にあいさつするのが癖になっていたのだ。
アマテラスがぼくにならってあいさつすると、日本神話の女神がよく身に付けている、宙に浮くショールみたいなものがひらひらと揺れた。どうでもいいが、天つ領巾と言うらしい。
国際宇宙ステーション日本実験棟、きぼうモジュール。そこが、ぼくの仕事場である。
「終わりました?」
「終わっちゃったな」
「終わっちゃいましたか」
「終わったー……」
語尾を活用する言葉遊びのように無意味な言葉を応酬すると、アマテラスは何を思ったかぼくの腕の中でくるりと向きを変え、至近距離でぼくの顔を覗き込んでくる。広いおでこの下で大きな目をしばたたかせ、にっこりと笑った。
「おつかれさまでした」
短い手を懸命に伸ばし、どうやら頭を撫でてくれていると思しい。どこまで知っているのだろう。神様の名前をしているし、すべてお見通しなのかも知れない。
「……今のが、ぼくの最後のミッションで」
「はい」
「ぼくを地球に送り届けてくれるはずだった無人船が、今あそこ」
「……はい」
伝わっただろうか、ぼくが指差した窓の外に小さく宇宙船が見えているのだが、その軌道は打ち上げ時の予定から大きく逸れている。もうここにはたどり着けないだろうと、先ほど連絡があったのだ。
「ここも老朽化したからね、他の国もぱたぱたここから撤退していって、今ここにはぼく一人だけ。どうにか保守作業を続けてきたけれど、そろそろ補給がないと厳しいかな」
「…………」
「あれが地球」
「知ってます」
「きれいなところ、楽しいところがいっぱいある。君も、行ってみるといいよ」
「嫌です」
「…………」
「ずっと、あなたの側にいます。そうじゃないと、消えてしまいますもの」
「……そうか、そうだった」
小さな窓から見える地球の北極近くに、鮮やかなカーテンがかかっているのが見えた。
「オーロラだ、君と同じ、女神様の名前が付いてる」
「二人きりのときは、他の女性の名前は出さないものですよ? でも、きれいですね」
「うん。でも、君の方が――」
そこまで言って、言いよどむ。歯の浮くような台詞は苦手だ。
「私の方が?」
「――きれいだよ」
「うふふ、私ってきっと、そう言ってもらうために生まれたんですね」
ぼやけた視界の中でアマテラスはまばゆいばかりに笑い、そのおでこが自慢げに光るのだった。




