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砂漠の国に生まれた。氷魔法が使えた。  作者: 赤いチーズ
第1章幼年期

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第27話:「こどもを"守る"。二つの意味。」



その話は、昼下がりに来た。


扉を叩く音は、強くなかった。

むしろ、遠慮がちだった。


それが、余計に嫌な予感を連れてきた。


「……はい」


サーラが扉を開ける。


外に立っていたのは、二人。

一人は街の下級役人。

もう一人は、見覚えのない商人――髭もじゃの男だった。


「失礼します」


役人が、形式ばった声で言う。


「少し、お話をよろしいでしょうか」


サーラの胸が、きゅっと縮む。


(……来た)


理由は分からない。

でも、最近の出来事が、頭をよぎった。


街の噂。

人の視線。

「涼しい子供」という言葉。


「どうぞ」


断れなかった。



狭い居間。


役人が腰を下ろし、

商人は一歩後ろに立ったままだった。


その距離感が、

すでに“役割”を語っている。


「単刀直入に言います」


役人は、書類を取り出す。


「最近の気温上昇と、魔物の活発化により、

 街の治安状況は悪化しています」


カリムは、黙って聞いていた。


商隊の護衛として、

危険な話には慣れている。


だが――

この手の話は、慣れたくなかった。


「そこで」


役人は、視線を上げる。


「お子さん――ルーク君についてです」


サーラの指が、無意識に握られた。


「彼は……少し、目立っています」


その言葉で、全てを悟った。


(やっぱり)


「街の中で、彼がいると体調が楽になる、

 そういう噂が、広がっています」


「噂、ですか」


カリムの声は、低かった。


「子供の話です」


「ええ。ですが」


役人は、視線を逸らさない。


「この国では、“目立つ”こと自体が危険です」


その言葉は、

脅しではなく、事実だった。


商人が、一歩前に出る。


「私は、善意で来ました」


柔らかい声。


「もしもの話です。

 もし、誰かが悪意を持ったら……

 平民のご家庭で、守りきれますか?」


サーラの胸に、

怒りと恐怖が、同時に湧いた。


(平民、だから?)


だが、言い返せない。


この国は、

そういう場所だ。


「提案があります」


役人が言った。


「しばらくの間、

 ルーク君を“保護”という形で、

 人の目が届く場所に置くことを」


「……引き離す、ということですか」


サーラの声が、震えた。


「いいえ。強制ではありません」


役人は、そう言った。


だが、その後に続く言葉が、

何より重かった。


「ですが、

 それが最も“安全”だと判断される可能性は高い」



沈黙が落ちる。


奥の部屋から、

小さな寝息が聞こえた。


ルークだ。


昼寝をしている。


何も知らずに。


サーラは、思い出していた。


熱にやられて倒れた日。

水袋を持ってきてくれた、小さな手。

理由も分からないまま、

そばにいてくれたこと。


(あの子は……)


特別なことをしようとしていない。


ただ、

家族のそばにいたいだけなのに。


「……俺からも、いいですか」


カリムが、静かに口を開いた。


「その“保護”というのは、

 誰の管理下になる?」


役人が、商人を見る。


一瞬だけ。


「民間の協力者です」


それで、十分だった。


カリムの中で、

火が、静かに燃え上がる。


(商人、か)


商隊の世界で、

その意味は、嫌というほど知っている。


「……時間をください」


カリムは言った。


「即答できる話じゃない」


役人は、うなずいた。


「もちろんです」


商人も、にこやかに頷く。


「ご家族で、よく話し合ってください」


扉が閉まる。


足音が遠ざかる。



サーラは、立っていられなくなり、

その場に座り込んだ。


「……奪われるみたい」


ぽつりと、漏れる。


「守る、って言ってるのに」


カリムは、拳を握りしめた。


「まだだ」


「でも……」


「まだ、決まってない」


そう言いながら、

自分に言い聞かせているのも分かっていた。


この国で、

平民が選べる道は、少ない。


だが――


奥の部屋で、

ルークが寝返りを打つ。


眠そうな顔で、

無防備に。


その姿を見て、

カリムは、はっきりと思った。


(……これは、取引じゃない)


(戦いだ)


サーラも、同じだった。


怖い。

不安だ。

現実は、厳しい。


それでも。


「……あの子は、私たちの子よ」


サーラは、涙を拭いた。


「誰かの“都合”で、

 連れていかれる存在じゃない」


カリムは、ゆっくりとうなずいた。


「守る」


短い言葉。


だが、それは――

商人の言う“保護”とは、まったく違う意味だった。



その夜。


ルークは、何も知らず、

両親の間で眠っていた。


少しだけ、

部屋の空気が落ち着いている。


それが、

これから何を引き寄せるのかも知らずに。

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