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砂漠の国に生まれた。氷魔法が使えた。  作者: 赤いチーズ
第1章幼年期

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24/28

第24話:「砂漠の国の商い。金の匂いがする。」


暑い。


この国で商いをしていれば、

その一言を一日に何度も呟くことになる。


だが今日は、特別にひどかった。


「……くそったれ」


男は、汗で張りついた服を引き剥がしながら、

商業都市バルサムの通りを歩いていた。


頭はつるりと剥げ、

顎から胸元にかけて伸びた髭は、汗で重たい。

年は四十半ば。

長年の行商で鍛えた体つきだけが、取り柄だ。


(今日は、客の顔色が死んでやがる)


暑さで金は動かない。

水も、氷も、休める場所もない。


――はずだった。


「……ん?」


男は、足を止めた。


理由は分からない。

ただ、息ができた。


肺に空気が入る。

胸が、苦しくない。


(ここだけ……?)


視線を巡らせる。


井戸でもない。

日陰でもない。

風向きが変わったわけでもない。


だが、確実に――楽だ。


「おい、なんだここ」


通りの一角。

兵士詰所の近く。


人が、妙に集まっている。


倒れていない。

座り込んでもいない。

顔色が、他よりましだ。


(……偶然か?)


商人は、人混みに目を凝らす。


そこで――見つけた。


小さな影。


痩せた体。

褐色の肌。

黒い癖っ毛。


そして。


眠たそうな目で、壁にもたれている子供。


(……ガキ?)


拍子抜けするほど、普通だ。

どこにでもいる、平民の子。


なのに。


(……あの子の周りだけ、だ)


商人は、ゆっくりと近づいた。


一歩。

二歩。


――はっきりする。


近づくほど、楽になる。


(はは……)


喉の奥で、乾いた笑いが漏れた。


(まさか、な)


魔法?

氷?

そんな都合のいい話があるか。


だが、商人は知っている。


この国では――

水一杯の価値が、人一人の命より重い日がある。


(もし、もしだ)


少年が、こちらを見る。


青い目。


ぼんやりしていて、警戒心が薄い。


(……知ってない顔だ)


自分が、何をしているか。

何を呼び寄せているか。


たぶん、分かっていない。


(ああ……)


商人の胸が、どくりと鳴った。


(これは――金だ)


氷でもいい。

涼しさでもいい。

理由なんて、どうでもいい。


この子がいれば、

•店は回る

•人は集まる

•兵士も、役人も、欲しがる


(……王家に行く前に)


その前に。


(俺が、最初に)


商人は、にこやかな顔を作った。


「坊主」


声をかけようとして――

その瞬間。


兵士の影が、視界に入った。


背の高い男。

詰所の兵長だ。


(……ちっ)


今は、まだ早い。


商人は、何も言わず踵を返した。


だが、最後に一度だけ振り返る。


眠そうな少年は、

何も知らず、そこにいる。


(……逃がすかよ)


この国で、

涼しさは商品だ。


それが人であろうと――

例外じゃない。


商人は、汗に濡れた手を握りしめた。


次は、

もっと、上手くやる。

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