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砂漠の国に生まれた。氷魔法が使えた。  作者: 赤いチーズ
第1章幼年期

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23/28

第23話:「噂の少年。やはり静観だ。」


サノイは、報告書を読み終えても、すぐに机から目を離せなかった。


内容は単純だ。


・井戸周辺での熱中症発生数の減少

・昼間の作業継続時間の延長

・兵士の消耗率の低下


どれも、本来ならありえない。


「……気候は、悪化しているはずだ」


ここ数十年、ずっとそうだ。

気温は上がり、夜も冷えなくなった。


それなのに――

一部だけ、数字が合わない。


場所は、商業都市バルサム。

より正確には、特定の時間帯・特定の区画。


(偶然ではない)


サノイは、背もたれに体を預け、深く息を吐いた。



「兵長」


部下が、扉の前で敬礼する。


「例の噂の件、追加です」


「話せ」


「“涼しい子供”がいる、と」


サノイの眉が、わずかに動いた。


「子供?」


「はい。五歳前後。黒髪で、痩せていて、目が青いそうです」


(……青い目)


情報が、線で繋がる。


井戸の日。

市場。

食堂。


どこも、報告の内容が似ている。


「その子がいると、楽になる」


サノイは、腕を組んだ。



「……魔法、か」


部下が、慎重に言う。


「氷属性の可能性が――」


「軽々しく口にするな」


即座に遮った。


部屋の空気が、少し張り詰める。


氷魔法。


この国では、

価値が高すぎる。


だからこそ、扱いを誤れば――

守る前に、壊される。


「まだ、断定はできん」


サノイは、静かに言った。


「だが……放置もできない」



彼は、街の地図を広げる。


印が付けられている場所は、

すべて噂が出た区画だ。


(……動線がある)


子供が歩きそうな道。

住民が集まる場所。


まるで――

生活の上を、なぞるように。


(無自覚、か)


それが一番、厄介だ。



「兵長、どうしますか」


部下が尋ねる。


サノイは、少し考えてから言った。


「直接は、近づくな」


「監視ですか?」


「違う」


首を振る。


「守れ」


部下が、目を見開く。


「理由は?」


「噂は、もう止まらん」


サノイは、低く言った。


「なら、こちらが先に把握しておく」


誰が嗅ぎつけるか分からない。

商人か。

役人か。

あるいは――

もっと上か。


「その子が、“危険”として認識される前に」



サノイは、窓の外を見る。


城壁の向こう、

灼熱の街。


(子供一人で、状況を変えられるほどなら)


それは、

兵器にも、

救いにもなる。


どちらに転ぶかは――

周り次第だ。


「名前は?」


「……ルーク、だそうです」


「……そうか」


サノイは、その名を、心の中で反芻した。


(眠そうな顔の、ただの子供、か)


だが、

この国は、そんな存在を放っておかない。


「……面倒なことになったな」


それが、

兵長としての、

正直な感想だった。


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