第21話:「僕の友達。やっぱりそうだ。」
最近、ルークと一緒にいることが多い。
前から友達ではあったけど、
ここまで一緒にいるようになったのは、たぶん最近だ。
理由は……うまく言えない。
ただ、
一緒にいると、楽だから。
⸻
父さんの店は、昼になると本当につらい。
火を使うし、人も多いし、
空気が重くて、息が詰まる。
前までは、
昼前になると父さんの顔色が変わっていた。
「……今日はここまでだな」
そう言って、
店を閉める日もあった。
でも最近は違う。
「……いけるな」
父さんが、そう呟く。
僕は、その理由を知っている。
(……ルークがいるから)
⸻
「ル、ルーク……」
僕は、水を飲みながら、そっと声をかけた。
「なに?」
ルークは椅子に座って、
いつもみたいにぼんやりしている。
眠そうで、
気怠げで、
どこにでもいそうな顔。
「……あ、暑くない?」
「まあ、暑いよ」
軽い返事。
でも――
本当に「まあ」だった。
我慢してる感じじゃない。
(……おかしい)
⸻
店の中は、相変わらず暑い。
鍋の湯気。
火の熱。
汗だくの大人たち。
僕だって、
立っているだけで嫌になるのに。
(なんで、平気なんだろ)
「……あの、さ」
声が小さくなる。
「ルークと一緒にいると……
その……楽、なんだ」
言ってから、後悔した。
変に思われたかもしれない。
でも、
ルークは笑わなかった。
「そう?」
「う、うん」
僕は、慌てて視線を逸らす。
「えっと……涼しいとかじゃなくて……
息が、しやすいっていうか……」
言葉が、うまく出ない。
⸻
ルークは、少しだけ黙った。
それから、
僕の方を見た。
青い目。
いつも眠そうなのに、
今は、少しだけはっきりしている。
「……気づいてた?」
小さな声。
冗談みたいな言い方。
でも――
胸が、ぎゅっとなった。
「……や、やっぱり……」
「まあ……うん」
ルークは頭をかいた。
「氷魔法、らしい」
「……こっ」
思わず、変な声が出た。
氷魔法。
この国で、
価値が高すぎる魔法。
(あ、あれ……?
これ、すごくまずいんじゃ……)
⸻
「で、でも……」
僕は、慌てて言った。
「だ、誰にも言ってない?」
「言ってないよ」
「……ほ、本当?」
「うん」
少し、安心した。
でも、
別の不安が浮かぶ。
「……ルーク」
声が、震える。
「そ、それ……知られたら……」
言葉の続きを、
言えなかった。
怖かった。
兵士。
偉い人。
大人たち。
(……連れて行かれる)
そんな想像が、頭から離れない。
⸻
ルークは、僕を見て、少し考えてから言った。
「じゃあ、黙ってる」
「……え?」
「レオンが言わないなら、
俺も言わない」
あまりにも、軽い。
「……だ、だって……」
「楽に生きたいし」
いつもの、ルークだ。
その言葉が、
逆に怖かった。
(……分かってない)
自分が、
どれだけ危ない存在か。
⸻
僕は、ぎゅっと拳を握った。
「……ぼ、僕……」
声が小さい。
でも、
逃げなかった。
「……僕、言わない」
「うん」
「……で、でも……」
一拍置いて、
必死に続ける。
「僕が……ま、守るから……」
ルークは、きょとんとした。
「なにを?」
「……ルークを」
顔が、熱くなる。
「……と、友達、だから……」
ルークは、少しだけ笑った。
「……ありがと」
その笑顔を見て、
胸が、ぎゅっとなった。
(このまま……
普通の友達で……)
そう、思いたかった。
でも――
街は、もう気づき始めている。
それを、
僕だけが、分かっていた。




