第19話:「通りを歩いていた。気づいたらマシになった。」
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なんだか、街が落ち着かない。
朝からそんな空気だった。
城門の方が騒がしいし、
大人たちの声がいつもより低い。
「……なんかあった?」
そう聞いても、
「子供は気にするな」と言われるだけだ。
まあ、いいけど。
俺は今、城門から少し離れた通りを歩いている。
目的は特にない。
ただの散歩だ。
最近は外に出ると、
みんなに止められることが多い。
「暑いから帰れ」
「今日は危ない」
……過保護じゃない?
(まあ、倒れるよりはいいか)
そう思って歩く。
⸻
城門の方から、
風が吹いてきた。
砂の匂い。
鉄の匂い。
それから――
(……熱、強いな)
空気が、荒れている。
いつもなら、
俺の周りは勝手に落ち着くのに。
今日は、違う。
「……なんだこれ」
熱が、流れない。
押し寄せてきて、
逃げ場を失って、
そのまま溜まっている。
胸の奥が、少しだけざわついた。
(ああ、これ……)
前にも感じたことがある。
井戸の日。
人が倒れかけた、あの日。
「……嫌な感じだな」
俺は、無意識に足を止めた。
⸻
しばらくすると、
城門の方から人が戻ってくる。
兵士だ。
防具は砂だらけで、
何人かは肩を借りて歩いている。
「……怪我人?」
声をかける勇気はなかった。
でも――
歩けている。
重装備のはずなのに、
倒れていない。
(……あれ?)
変だ。
この暑さなら、
戦闘どころか移動だけで限界のはずだ。
なのに、
息は荒いけど、
意識ははっきりしている。
(……俺が、来てから?)
そんな考えが浮かぶ。
自惚れだと思いたい。
でも――
⸻
俺は、少しだけ意識した。
冷やそう、とは思わない。
ただ、
ここにある熱の流れを、繋げる。
溜まっているものを、
通してやる。
逃げ道を作る。
それだけ。
(……こんな感じ)
空気が、わずかに動く。
目に見えるほどじゃない。
風が吹くわけでもない。
でも――
胸が、楽になった。
周りを歩く大人たちが、
一瞬、顔を上げる。
「……今、楽にならなかったか?」
「気のせいだろ」
そんな声が聞こえる。
(……やっぱりか)
俺は、ため息をついた。
⸻
「俺、戦えないしな」
剣も振れない。
魔法を撃てるわけでもない。
氷を作る?
この暑さの中で?
無理無理。
でも――
(立ってられるくらいには、なる)
倒れない。
動ける。
考えられる。
それだけで、
兵士にとっては十分なんだろう。
たぶん。
⸻
城門の影に入る。
そこは、
さっきより少しだけ涼しかった。
俺がいるから、じゃない。
俺が、通ってきたから。
(……数日、残るんだよな、これ)
最近、分かってきた。
俺がよくいる場所は、
しばらく“楽”なままだ。
理由は分からない。
でも、
それで誰かが助かるなら――
「……まあ、いいや」
深く考えるのはやめた。
今はまだ、五歳だ。
難しいことは、
大人が考えればいい。
俺は、
暑さをちょっと和らげるだけ。
それでいいや。




