第18話:「とある兵士。魔物との戦闘。」
最初は、風だと思った。
城門から少し離れた外周警備。
砂漠では、風で砂が動くのは日常だ。
「……風、強くなってきたな」
誰かがそう言った。
だが、その直後――
足元の感触が、違った。
さらり、と流れるはずの砂が、
ぬめっと沈む。
「……おい」
声を上げた瞬間、
地面が、盛り上がった。
砂丘でも、風紋でもない。
何かが、下から押し上げている。
「下が――」
言い切る前に、
砂が弾けた。
⸻
地面を割って現れたのは、
獣の前半身だった。
巨大な前肢。
鎌のような爪。
砂をまとった、異様に硬そうな皮膚。
「サンド・モールだ!」
誰かが叫ぶ。
だが、遅い。
爪が閃いた。
一人の兵士の脚が、
膝から下ごと、消えた。
血は出なかった。
叫びも、途中で途切れた。
引きずり込まれたのだ。
砂の中へ。
「離れろ! 固まるな!」
兵長の怒鳴り声で、
兵士たちは散開する。
剣を抜く。
槍を構える。
だが――
敵が、見えない。
姿を現しているのは、
ほんの一瞬。
攻撃した次の瞬間には、
また砂の中へ潜っている。
「くそ……どこだ……」
砂が、動く。
あちこちで、
わずかに盛り上がる。
どれが本物か、分からない。
⸻
次の犠牲者は、
すぐ隣だった。
足元が崩れ、
兵士がバランスを崩す。
その瞬間、
砂の中から前肢が突き出た。
防具ごと、
胴を掴まれる。
「助け――」
引きずられる。
仲間が腕を掴むが、
引き合う力が、異常だった。
ずる、ずる、と。
砂の中へ。
最後に見えたのは、
開いた口の奥――
何列にも並んだ歯だった。
⸻
「……熱い」
ふと、誰かが呟いた。
戦闘の最中なのに、
妙な言葉だった。
だが、確かに。
息が、重い。
身体が、だるい。
ただでさえ暑い砂漠が、
さらに熱を増したような感覚。
サンド・モールの動きが、
目に見えて速くなっている。
(……暑さに、反応してる?)
そんな考えがよぎる。
だが、考える暇はない。
⸻
その時。
一瞬だけ――
風が、抜けた。
砂の熱が、
わずかに和らぐ。
ほんの一瞬。
だが、確かに。
「……今の、なんだ?」
サンド・モールの動きが、
ほんの一拍、遅れた。
兵士たちは、その隙に距離を取る。
「今だ、下がれ!」
兵長の判断は、早かった。
被害は大きい。
だが、全滅は免れた。
⸻
砂の下で、
何かが蠢く気配は残っている。
だが、それ以上、
追ってはこなかった。
まるで――
何かを、警戒するように。
「……なんだ、今のは」
兵士の一人が、
震える声で言った。
誰も答えられなかった。
ただ一つ、分かっている。
サンド・モールは、
今までより、確実に活発だ。
そして――
この街の砂は、
もう安全じゃない。




