第17話:「砂の下にいる。俺のせいなのだろう。」
その日は、静かだった。
暑さは、ある。
でも、暴力的じゃない。
(……この辺、もう完全に整ったな)
家の中で、水の入ったコップを眺めながら、
俺はそんなことを考えていた。
冷たい。
ちゃんと、冷たい。
意識すれば、できる。
もう偶然じゃない。
(氷魔法、ね)
正直、
すごい実感はない。
だって――
暑くないのが、普通になってきているから。
⸻
昼過ぎ。
外が、少しだけ騒がしくなった。
走る足音。
怒鳴る声。
鎧がぶつかる、金属音。
母さんが、顔を上げる。
「……兵士?」
俺も、扉に近づく。
直接は見えないけど、
気配だけで分かる。
――慌ただしい。
「ルーク」
母さんが、静かに言った。
「今日は、外に出ないで」
「うん」
即答だった。
約束は、守る。
⸻
夕方。
噂は、
壁越しに入ってきた。
「南の砂地で……」
「犬じゃない……」
「潜る……砂に……」
断片的。
でも、十分だった。
(前とは違う魔物か)
サンド・ドッグじゃない。
動きが違う。
数が違う。
何より――
逃げない。
⸻
夜。
家の中でも、分かった。
――地鳴り。
ごく、微かだけど、
確実に。
床が、
一瞬、震えた。
「……母さん」
「大丈夫」
そう言いながら、
母さんの声は、強張っていた。
「城壁の外よ」
でも――
外、だけじゃない。
(魔素が……濁ってる)
流れが、悪い。
暑さとは違う、
重さ。
嫌な感じだ。
⸻
翌朝。
兵士が、街を走っていた。
「接近中の魔物を確認!」
「砂中移動型!」
「名称――」
一瞬、言葉が切れて、
それから続いた。
「サンド・モール!」
砂の中を掘り進む魔物。
犬より大きく、
地面の下から噛みつく。
井戸を壊し、
足を引きずり込み、
逃げない。
――熱に、慣れすぎた存在。
(……なるほど)
最近、
暑さが和らいだ場所。
そこに、
逃げ場を失った魔物が集まっている。
(俺のせい、か)
全部じゃない。
でも、
無関係でもない。
⸻
その日の夜。
扉が、叩かれた。
一度。
二度。
控えめだけど、
はっきりした音。
母さんが、立ち上がる。
俺は――
分かっていた。
(来たな)
これが、
「呼ばれる」ってやつだ。
戦わない。
前には出ない。
でも――
もう、家の中だけじゃ済まない。
俺は、深呼吸をした。
冷たい空気が、
肺に入る。
(さて)
人間クーラーの出番には、
まだ早いけど。
――整える役目は、
もう始まっている。
扉の向こうで、
兵士が名乗った。
「治安補佐官の命で来た」
次の一歩は、
もう決まっていた。




