第16話:「兵士が来た。隠すつもりはない。」
その日は、朝から静かだった。
暑いのは暑い。
でも、いつもの「刺す感じ」がない。
(この辺、もう落ち着いたな)
最近よく行く道。
最近よく立つ場所。
そこは、だいたいそんな感じだ。
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「ルーク」
家を出ようとしたところで、
母さん――サーラに呼び止められた。
声が、いつもより低い。
「今日は、どこへ行くつもり?」
「レオンのとこ」
「……また?」
「うん」
嘘はついてない。
「井戸の方には行かないで」
「え?」
理由を聞こうとして、
母さんは一度、言葉を飲み込んだ。
「人が多いから」
「別に、危なくないよ」
実際、危なくない。
暑さも、もう落ち着いてる。
母さんは、俺の目を見た。
「お願い」
その言い方で、
これは「だめ」なんだと分かった。
「……分かった」
不満はあるけど、
無理に出るほどでもない。
⸻
昼前。
家の前が、少し騒がしくなった。
鎧の音。
足音。
低い声。
扉を開けると、
そこにいたのは――
「サノイ兵長」
背の高い兵長が、
少しだけ頭を下げた。
「母君か」
「はい……」
母さんの声が、固い。
「少し、話がある」
⸻
俺は、横で聞いていた。
内容は、難しくない。
最近、
人が集まっていること。
井戸や城門付近が、
やけに楽になっていること。
「坊主が、よくその辺にいると聞いた」
サノイ兵長の視線が、俺に向く。
責める感じじゃない。
でも、軽くもない。
「……氷魔法、だよね」
俺が言うと、
一瞬、空気が止まった。
母さんが息を呑む。
サノイ兵長は、
ゆっくり頷いた。
「自覚は、あるんだな」
「うん」
もう隠す理由はない。
「ただし」
兵長は、しゃがんで目線を合わせた。
「この国で、それは――価値が高い」
「すごい?」
「危ない」
即答だった。
「良い意味でも、悪い意味でもだ」
⸻
「だから」
サノイ兵長は、言った。
「しばらく、外で目立つな」
「井戸にも、城門にも来るな」
「必要なら、こちらから呼ぶ」
母さんは、何も言わなかった。
でも、手が震えていた。
「……分かった」
正直、
少しだけ、残念だった。
楽だったから。
みんなが元気になるのを見るのは、
悪くなかったから。
でも――
(面倒になるのは、嫌だ)
それは本音だ。
⸻
兵長が帰ったあと、
母さんは俺を抱きしめた。
「ごめんね」
「なにが?」
「……あなたを、外に出して」
「別にいいよ」
俺は、素直にそう言った。
守られてるのは、分かる。
だから――
今は、それでいい。
⸻
夜。
布団の中で、考える。
(目立つと、面倒)
(でも、役には立つ)
この力は、
使い方次第だ。
戦えない。
前に出ない。
でも――
後ろから、整えることはできる。
(そのうち、呼ばれるんだろうな)
そんな気がした。
兵士の人たちが、
本当に困ったとき。
その時まで、
今は――
「おとなしく、しておこう」
そう決めて、
俺は目を閉じた。




