第14話:「城門付近に来た。なんか目を付けられた。」
城門の近くは、暑い。
……はずだった。
「ルーク、あんまり離れないでね」
母さんにそう言われて、俺は素直に頷いた。
今日は買い出しのついでに、
城門の近くまで来ている。
商業都市バルサムの中でも、
ここは特に人が多い。
兵士。
荷車。
馬。
熱が逃げる場所がない。
(普通なら、地獄だ)
でも――
今日は、歩ける。
暑いのは暑い。
不快でもある。
ただ、倒れるほどじゃない。
(……氷魔法、だよな)
最近は、もう分かっている。
俺は、氷魔法の使い手だ。
派手に氷を出したり、
地面を凍らせたりはできない。
ただ、
周りの熱を落ち着かせるだけ。
冷やすというより、
整える、みたいな感じ。
でも、それでも――
この国じゃ、十分すぎる。
⸻
城門は、思っていたよりも大きかった。
高い石壁。
分厚い門扉。
その前に立つ、武装した兵士たち。
全員、鎧姿だ。
(あれ、絶対きつい)
そんなことを考えていると、
兵士たちの中から、一人だけ前に出てきた男がいた。
背が高い。
頭一つ分、周りより抜けている。
鎧も年季が入っていて、
あちこちに修理の跡がある。
顔つきは厳しいが、
目の下に、うっすらと疲労の色。
――苦労人だ。
「……交代だ。無理するな」
低い声で指示を出す。
兵士たちの動きが、
一瞬で揃った。
(兵長、だな)
名前は知らないけど、
立場は分かる。
⸻
「……今日は、楽ですね」
部下の一人が、そう言った。
兵長は、周囲を見回す。
「……確かに」
石畳。
門の影。
風の通り。
それから、
俺のいる辺りで視線が止まった。
(あ)
来た。
こういうの、最近増えてきた。
「坊主」
声をかけられる。
「はい」
兵長は、俺を見下ろした。
近い。
でかい。
「暑くないのか」
「暑いです」
正直に答える。
「でも、歩けます」
嘘は言ってない。
兵長は、少し眉をひそめた。
「……この辺りだけ、空気が違う」
独り言みたいに呟く。
「風が通っている。……おかしい」
(まあ、おかしいよな)
俺は内心で頷く。
原因は、俺だ。
俺がここに立ってるから、
氷魔法が勝手に仕事してる。
意識して止めようとすると、
ちょっと気持ち悪くなるから、
最近は流れに任せている。
⸻
「母さん」
小さく声をかける。
「なに?」
「ここ、楽だね」
母さんは、周囲を見てから頷いた。
「……そうね。城門前なのに」
兵長が、母さんを見る。
それから、また俺を見る。
何かを言いかけて、
結局、口を閉じた。
「……気をつけて帰れ」
それだけ言って、俺たちを通した。
背中に、視線が残る。
(報告、するよな。たぶん)
まあ、仕方ない。
⸻
城門を離れて、
少し歩いたところで、息が抜けた。
(……氷魔法)
自覚はある。
使えている、というより、
働いている感じだ。
意識しなくても、
勝手に整う。
この国の暑さが異常だから、
余計に目立つんだろう。
「人間クーラー」
ぽつりと呟く。
城門でも通用するなら、
結構、使い道がある気がする。
兵士さんたちが楽になるなら、
悪くない。
面倒ごとが増えなければ、だけど。
「……まあ、いいや」
考えるのは後だ。
俺は、氷魔法の使い手。
それをどう使うかは、
まだ決めてない。
今は――
楽に歩けるなら、それでいいや。




