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マリーとアレッシュの魔法日記   作者: 時雨とおる


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6/6

聖女の噂と、月夜の迷子

午前中の冒険者ギルドは、色とりどりの冒険者たちでごった返し、受付では依頼票や書類の整理に追われた受付たちの声が飛び交っていた。


入り口を入ってすぐ、壁一面を埋め尽くす掲示板が目に入る。

お使い程度の軽いものから、魔物討伐のような高難度のものまで、依頼は所狭しと貼られていた。


その中でもとびきり目立つ一枚─


『銀髪赤眼の聖女、深夜の街で目撃情報多数。探索求む』


アレッシュは眉をひそめる。


「……聖女、ね」


この世界には聖女と言われる、特別な存在か何人か存在する。

しかし、女神と同じ髪と瞳の色を持つ聖女は更に特別だと言われておとぎ話の存在としてしられている。


「に、偽情報……かな?」


隣で覗き込むマリーが、困ったように笑った。


アレッシュは眉をひそめる。

(……あの時の、あの銀が……)


「実は、銀髪で赤い瞳の聖女の話は、数年前に一度だけ報告がある。騎士団も教会も見つけられなかった未登録聖女……」


その言葉に、マリーの心臓が跳ねる。

アレッシュは肩をすくめ、いつもの冷静さで続ける。


「でも、その話は限られた関係者だけが知っている、出回っていない情報なんだ」


(……どうしてアレッシュさんは、そんなことを知っているの……?)


マリーは何も言えず、ただアレッシュを見つめる。

その沈黙が、逆に不思議な緊張感と予感を生んでいた。



満月の夜。

アレッシュとマリーは“聖女の目撃情報の真偽”を確かめるため、静かな裏路地を歩いていた。


一つ向こうの通りの先へと白いふわふわのの塊が浮いていくのをマリー見た。


(……ケセランパサラン!?精霊……?)


その時だった。


「まってぇぇぇぇぇ!!」


小さな影が二人の横を風のようにすり抜けていく。


月明かりで薄金の髪が銀色に輝き、赤いケープがひらめく。

すれ違う時に一瞬振り替えた時に見えた瞳には、ケープの赤が映り赤眼にみえる。

8才くらいの少女だった。


アレッシュの心臓が跳ねる。


「もしかしてあれが……銀髪赤眼の聖女?」


少女は必死に何かを追っているように見えるが、アレッシュにはわからない。


少女は塀の上、雨樋の上を危なっかしく駆けていく。

追っているのは─先ほどの白いふわふわ。


マリーが叫ぶ。

「アレッシュさん、危ない! 追いかけて!」


アレッシュは即座に走り出した。


ケセランパサランを追っていると思われる少女は塀の上へ。

細い塀の上で足を滑らせそうになりながら、必死で追う。

 

本来、普通の人には見えない、白い綿毛のような存在がマリーの目にははっきり映っていた。


月光を浴びるように漂うふわふわ。

それを少女は必死に追っているのだ。


「待って、行かないで!」


少女が雨樋を伝って飛び移り、石畳の屋根をぴょんと跳ねる。

月明かりに照らされたケセランパサランの小さな影が、まるで小さな雲のように揺れている。


マリーはハラハラしながら、少女を目で追い続ける。


次の瞬間、バランスを崩し塀から落ちそうになる。


月光と影が交錯し、少女の足が─滑った。


「──!!」


マリーの叫びが裏路地に響く。


「……危ない!!」


ドンッ!!


落下した小さな体を、アレッシュが両腕でしっかり受け止めていた。

ドン、と衝撃が伝わり、腕がわずかにしびれる。


体の中心にズシリと伝わる重みを下に落とさないようしっかり抱き止め倒れ込んだ。


マリーが心配そうな顔で駆け寄る。


「アレッシュさん……!」


アレッシュは少女をしっかり抱えたまま、軽く肩をすくめる。


「捕まえた、怪我はない」


ほっと胸を撫で下ろしたマリーは、ふと気づいた。

ケセランパサランが、路地の影から彼女たちの様子をそっと伺っていることを。


「……あの子を、追いかけてたのね」


マリーはそっと呟く。


「ちょっと捕まえてみようかな」


少女はめをくるんとおっきくしてマリーを見た。


「捕まえられるの!?」


ケットシーが以前、マリーの魔力を欲しがったように、この小さな精霊も、魔力に反応するかもしれない。


マリーは胸の奥に意識を集中させ、自分の両手に癒しの光を集める。


風が吹きその髪が揺れた瞬間、満月と癒しの光の間ででほんの一瞬だけ─銀色にきらりと光って見えた。


アレッシュは息を飲む。


ケセランパサランはピョンと跳ね、まるで導かれるようにマリーの癒しの光のほうへ寄ってきた。


少女は目を丸くし、少し驚きながらも、真剣な顔で言う。


「……満月の夜が近くなると、いつもこうして逃げ出すから、毎回追いかけてたの」


マリーは微笑むみ、ケセランパサランを両手に乗せてじっとみる。

ふわふわの、羽毛のようなケセランパサランがふわふぁっと動いてマリーに伝える。


「なるほど……満月の光が好きなのね、逃げないように閉じてる鎧戸を、少し開けておいてあげるとといいわ」


少女はすごい!とばかりにキラキラした目でマリーを見つめる。


マリーとアレッシュは少女を家まで送る、三人と一匹は満月の下で、月夜の散歩を楽しんだ。


少女は、満月を堪能したケセランパサランをそっと抱き「ありがとう、お兄さん、お姉さん!」と声を弾ませた。


アレッシュは少女の頭にポンと手を置く。


「今度から危ないことはするなよ」


「うん!」


少女はふとマリーを見つめる。


「この子……大人には見えないし、子どもでもなかなか見えないんだけど、お姉さんには見えるんだね。なんでだろ?」


「っ……!!」


マリーは返事につまる。喉がきゅっと鳴った。


アレッシュはすぐに察したように肩をすくめる。


「それは、マリーの中身が幼いからだよ」


「!!!!!っつ、ちょっ……アレッシュさん!?」


マリーは真っ赤になって怒るが、アレッシュは悪びれず微笑む。


「悪い意味じゃない。可愛いって意味だよ」


「っ……!!」


マリーの耳までさっきとは違う意味で真っ赤になる。


少女ははくすりと笑い、

ケセランパサランはぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねた。


満月の夜、少女と精霊と二人の冒険者。

その月光の中で、“何か”が静かに動き出していた。



翌朝、冒険者ギルドはいつも通りのざわめきに包まれていた。

依頼票を見比べる冒険者たちの声、革や金属の擦れる音、全てが朝の活気を作り出している。


マリーとアレッシュは受付奥の相談室へと案内されていた。


担当者に向かい、マリーが静かに口を開いた。


「以上が、"銀髪赤眼の聖女“の調査報告です。小さい子ですし、氏名は非公開として対応してください」


アレッシュが落ち着いた声で補足する。

「ギルドとして知るべきは、“聖女の目撃情報は誤認だった”という点だけですよ」


ギルドの報告担当者はメモを取りながら頷く。


「なるほど、幼い少女だったという目撃証言も数点確認できています。他に有力な報告がない場合は、本件は見間違いとして処理されるでしょう、お二人ともご苦労さまでした。」


マリーは胸を撫で下ろす。


その後、聖女の噂は見間違いとして記録され、噂はそれ以降広がる事はなかった。


けれど……。


あの満月の夜の出来事は、そっと二人の間に余韻として残り続けていた。


まるで、次の物語の扉が静かに開くのを待っているように。

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