悪役令息に転生したので、謀略の限りを尽くしてみる【連載版もあります】
前世のことはよく覚えている。
正義感に溢れた王子だった。
正論を唱えれば、誰もがついてくると思っていた。
結果は、毒殺。
「だぅ……」
目の前で行われる自分の葬儀。
一昨日の朝、目覚めたら自分を毒殺した男の息子に産まれ変わっていた。
「きゃぁぁぁ! 坊ちゃまが窓からっ――――!」
せっかく起き上がって窓にぶら下がり外を眺めていたのに、侍女から抱きかかえられてベビーベッドに戻されてしまった。
高熱を出したあとから異常に動くようになったとかなんとか、乳母が侍女と話している。噂好きの使用人がいるのは有り難く、相手は赤ん坊だから聞いていないだろうと、いろんな話をしてくれる。
死ぬ直前、こうなったのは仕方ないが、悔しく思っていた気がする。真っすぐに生きようとしても出来ないのなら、悪事に手を染めても良かったのか? とかなんとかも考えていたなぁ。
いまは賢者タイムのような気持ちで世界を見れている。
両陛下や弟たちを悲しませてしまったのは申し訳ないが、私がそのまま王になっていたら、反発する貴族たちとの間に空いた大きな溝で、国が取り返しのつかない方向に倒れていただろうと思う。
「だぶぅぅぅ……」
私を殺したあの男――ライゼガング侯爵家当主であり、この国の宰相。あの男の息子に産まれ変わったのも何かの縁だろう。
悪役令息として、生きてやろうじゃないか。
この体の本当の持ち主である赤ん坊は……たぶん高熱で死んだんだろうな。そこだけは同情してやるが。
「騎士団に入りたい? お前はまだ五歳だぞ?」
「そうですね。ですが、きち団の受け入れ条ちぇんに年齢はなかってゃかと」
「……先ずは言葉を話せるようになってから意見しに来い」
今世を最大限に活かすための計画は、呆れ顔のライゼガング侯爵に却下されたので、新たな計画を立てることにした。
「そもそも、お前は本ばかり読んでいると聞いたが」
「はい。幼い内から身体をきちゃえると、ちんちょうがあまり伸びないという医学ちょを読みまちたので、いまでは控えておりまちた」
「…………いろいろと意味が分からん。とりあえず……そろそろ身体を鍛えたいんだな?」
「まぁ、そうでしゅね」
ライゼガング侯爵が大きな溜め息を吐きながら、剣の師を付けてやると約束してくれた。思ったより話せる男なのだな。息子には甘いのか?
「……は? 王太子と仲良くなったから、近衛騎士になる!?」
「はい。先日のお茶会で友だちになりました」
「どうやってだ。王太子は二四歳、お前は十歳だろうが」
元弟の好みなど丸わかりだし、あの家系はこう思ったらこう!という性格だからな。外から見ると、分かりやすいんだよな。
「クヌート、殿下の初恋を叶えました」
「初恋……だと?」
伯爵家の娘と両想いだったはずなんだが、繰り上がって王太子になってしまったことで、私の婚約者だった公爵家の娘レベッカと婚約していた弟クヌート。
レベッカのことを毛嫌いしていたはずだが、何があったんだろうかとは思っていた。
先日の茶会でレベッカを見掛けて懐かしくなり、つい素で話しかけてしまったのが事の始まり――――。
●●●●●●
「クヌートと仲良くなったのか?」
「え……」
赤いウネウネ髪をどうにかシニヨンに纏め上げて、素を隠してニコニコと微笑むレベッカに話しかけた。
「レベッカはクヌートに興味なかっただろう? クヌートもレベッカを嫌っていたのに。何があった?」
前世で婚約者だったレベッカは、とにかく顔第一の女だった。クヌートはなんというか素朴な顔と性格をしているのだが、レベッカはそんな弟は目の端にも入れていなかった。クヌートはそんなわかりやすい性格のレベッカを毛嫌いしていた。
「えっ……あの……」
「あぁ、すまない。つい懐かしくて話しかけてしまった。幸せになれよ」
「えっ、えっ!? アルブレヒ――――」
「ソレは死んだだろ。私はニコラウスだ」
そこからは怒涛の展開だった。
何かを察知したレベッカが別行動をしていたクヌートを捕まえて、その場で婚約破棄。
意気消沈するクヌートに「なんだ、レベッカのことが好きだったのか?」と聞くと、全力で違うと言われた。
どうやら王太子に繰り上がった際に、議会で後ろ盾のない第二王子が王太子になるためには、公爵家の力が必要だと言われてレベッカと婚約することになったらしい。
当時はそうだったろうが、今は違うだろう。クヌートが王太子になってからの功績はいろいろと聞いている。別にレベッカの実家の後ろ盾だけで成せることではないだろう。
何よりあの父母――両陛下のことだ、初恋を優先したいと言えば両手を挙げて賛成するぞ?
「クヌート、惚れた女を泣かせるな」
「待て待て、この子どもはなんなんだ!?」
「ああ、すまない。ライゼガング侯爵家の三男ニコラウスだ」
「ライゼガング、だと……」
クヌートと空気が一瞬にして張り詰めた。クヌートは私の死因と犯人を知っているのだろうな。
「そうもバレバレな態度だと、敵対していると気付かれるぞ? あの男は狡猾だ。容易には落――――」
「にゅあぁぁ! アルブレヒト様ったらこんなに可愛くなっちゃってぇ!」
「レベッカ、煩い」
レベッカが抱きついて頬ずりしてきたので、顔面を鷲掴みにして引き剥がしていたら、クヌートがボロボロと泣き出してしまった。
「兄さんなの……?」
「ソレは死んだろうが」
「でも、兄さんなんでしょ?」
「どうだかな」
堂々と話しかけていた私が一番の原因だが、クヌートもレベッカもチョロすぎやしないだろうか?
本気で心配になってきた。
「とりあえず、クヌートは伯爵家の娘……名前はなんだったか…………アレに告白でもしてこい」
「うん!」
「レベッカは離れろ」
「嫌です! アルブレヒト様照れてかわいい!」
「照れてない。あとニコラウスと呼べ」
「はいっ!」
○○○○○○
「ニコラウス……もしやバルリング公爵家から婚約の打診がお前に来ていたが……」
ライゼガング侯爵の顔が引き攣っているが、まぁ無視でいいだろう。
「あぁ。一目ぼれだそうですよ。年齢は気にしないそうです」
「いや向こうが気にせずとも……」
「父上、女性の年齢に言及するのは得策ではないかと」
「限度があるだろうが!」
レベッカは確か今年で二二歳のはず。特に問題はないだろう。
「お前は十歳だろうが!」
「そういう趣味の女性もいるということで、納得してください」
どうやらレベッカは今世の私の顔も気に入ったらしい。かわいい娘だと思っていたし、まぁ吝かではないので受け入れようと思う。
あの煩さは嫌いではないしな。
「まぁ、そういうことで、来週には騎士団に入ります。その後、数年の見習い期間を経て近衛騎士に登用するとのことです」
「……意味が分からん…………」
ライゼガング侯爵が頭を抱えているが、これも無視でいいだろう。
騎士団舎に引っ越す準備でもしておこう。
「十二歳で王太子付きの近衛騎士だとよ。親が宰相だと、コネが使い放題だな」
言いたい者には言わせておけばいい。ライゼガング侯爵家の権力はそれだけ王城に蔓延っているということだろう。好都合だ。
二年で見習い期間を終わらせ、今日からクヌート付きの騎士になった。ライゼガング侯爵は王族により一層近づけたと喜んでいるし、クヌートは私の前世の記憶を頼りにしているし、皆Win-Winだろう。
いやまぁ、ライゼガング侯爵はもうすぐ失墜するが。
「ふぅ。長かったな」
「兄さん、本当にやるんですか?」
「お前なぁ、その『兄さん』と呼ぶのやめろよ」
「でしたら兄さんも騎士らしくしたらどうですか?」
「私は悪役令息だからな。王太子の執務室でソファに寝そべり寛いでいても問題ない」
このソファの寝心地の良さは変わってないな。だいぶヘタってはいるが、それもいい味を出しているような気がする。
来月の議会でライゼガング侯爵を失墜させるために、いまはクヌートが必死に書類をまとめているところだ。私はもう十年ほどやってきたからな。いまはちょっと休憩している。
「ニコラウス様、飲み物をお持ちしました! あっ、お休みでしたか。膝枕しましょうか?」
「……ん」
なぜかレベッカが現れたが、膝枕はなかなか魅力的だったのでツッコミは入れないでおいた。
「……うむ。やはりレベッカの太腿は柔らかくて気持ちいいな。レベッカ、頭を撫でてくれ」
「ハヒッ!」
さぁて、十年掛けて集めた資料と証拠を使って、謀略の限りを尽くして前世より楽しくのんびりと生きようじゃないか。
来月、あの男の絶望する顔が見られると思うと、本当に楽しみで仕方ない。
さっさと仕事しろよ、クヌート?
「兄さん……すっごい悪い顔してる…………」
―― おわり? ――
読んでいただきありがとうございます!
ノリと勢いの1時間で生まれた悪役令息ニコラウスたんでした(*ノω・*)テヘ
ブクマや評価などしていただけますと、作者が喜び小躍りしますですヽ(=´▽`=)ノ♪