見てよ、これ
「なあ、見てよ」
綾人はいつもの調子でヘラヘラと笑いながら、制服の袖をぐいとまくった。そこに現れたのは、数えきれないほどの傷跡。赤黒く残る古い線、うっすら新しいものもある。誰かが息を飲む音がした。
「こんなに辛いんだよ。毎日、全部、全部やめたいくらい」
軽く言ったつもりだった。でも、教室の空気は一気に冷えた。
「……お前さ、見せたいからやってんだろ?」
「ファッションメンヘラかよ」
「俺の方がよっぽど地獄見てきたけど?誰もそんなのに構ってくれねえし」
ざわつく声に、綾人の表情がぐしゃりと歪む。
肩が震えたかと思うと、机を殴るように叩いた。
「……うっせえんだよ!なんなんだよお前ら!」
「どうせ、俺の心の中なんて誰もわかんねえくせに!だったら見せたっていいだろ!誰か一人くらい、心配してくれたって――!」
声が裏返り、涙が滲み、綾人はその場に崩れ落ちそうだった。
「――綾人」
静かな、でも芯のある声が教室に響いた。
誰もが振り返る中、教室の扉を開けて入ってきたのは湊だった。
彼の視線はまっすぐ綾人に向けられていた。
「見せたいなら、俺にだけ見せろ。他のやつらの言葉なんて、どうでもいい」
「俺は、ちゃんと見てる。綾人が辛いって言ったら、俺は信じる」
その言葉に、綾人の目が大きく見開かれた。
誰にも届かないと思っていた声が、やっと、誰かに届いた気がした。
「――っ、湊……」
腕に残る痛みよりも、心に染みたその言葉が、綾人の体を震わせた。
彼はその場に立ち尽くす湊に縋るようにしがみつき、声を殺して泣き始めた。
湊は何も言わず、そっと綾人の頭に手を置いて、そのまま抱きしめた。