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Part.3 side-Y

 小山内七海に誘われて、軽音部に加わり活動をすることになったあたしとみゆきは、顔合わせのため、放課後に駅前のファーストフードに赴くことになった。


「ゆかりっちはファーストフードとか行くの?食券の買い方とか解る?」


 解るよ、さすがに。あたしはスーパーで美少女なお嬢様だけど、庶民のたしなみも心得ているの。というか、券売機置いてあったら普通解るよね。さすがに一人では入ったことないけど、転校してきてからは何度か訪れたことがある。ほとんどみゆきとだけど。


「それで、何で移動しなきゃいけないわけ?部室あるでしょ」


 わざわざ場所を変える意味が解らないな。部室がなかったとしても、みんなうちの生徒なんだし、どっか適当な教室に集まればいいんじゃないか?このあたしの質問に対して、七海は、


「えーっと、まあ諸事情があるわけですよ、こっちにもね」


 と苦笑気味に答えてくれた。何やら後ろめたい事実があるようだね。


「ま、そのことも含めて店で話すよ。他に後二人いて、二人とも同じ学年だから、みんな気楽にやろうね」


 あとで話すというなら、今無理矢理聞く必要はないな。今更断るつもりはないけど、面倒ごとじゃないといいな。あたしは結構人付き合いよくないほうだから、対人関係のいざこざとか好きじゃないんだよね。女子は恋愛関わると人が変わるからな、そういう面倒なことは勘弁願いたいね。


 これはあたしの本音だったけど、口にはしなかった。七海は破天荒なだけど、それ以上にいい人だから、きっといろいろ抱え込んでしまっているんだろう。どんな事情があろうと、七海だけの責任じゃないだろうし、問題に巻き込まれているなら助けてあげたいという気持ちもある。とりあえず行ってみて、事情を聞いてから考えよう。話はそれからだ。


「あ、ゆかりっち、お金貸してくんない?あたし今月厳しくってさー」

「…………」


 このちゃっかり屋さんが!




「おー、ずいぶん早いね」


 あたしたちが店に着くと、二人は先に来ていたようで、すでに席に着いていた。で、その二人なんだけど、


「遅いぞー、七海。それで、そちら二人が助っ人外国人?」

「おー、ゲキマブじゃん。今年の文化祭はアツくなりそうだねえ」

「…………」

「?」


 七海もそうだけど、こっちの二人も濃いな。濃すぎるぞ。何かつまらんジョークや最近聞かない言葉を使っているし。絡みにくいな。うまくやっていけるだろうか。


 これから合コンでも始まるような挨拶だったけど、二人ともれっきとした女子である。どっからどう見ても普通の女子生徒にしか見えない。


「はーい、じゃあ紹介しますよー。こちらが文化祭の助っ人、日向ゆかりさんでーす。みんな、ゆかりんって呼んであげてね」

「よっ、有名人!社長令嬢!」

「ゆかりーん、よろしくね」

「アー……」


 絡みにくい。まー、フレンドリーなほうがいいんだけど、これはどうなんだ?バカにされているような気がする。あたしはゆかりんという呼び方を許した覚えはないぞ。


「まだ担当は決まっていませんが、ピアノ・ギター・バイオリン・琴と、何でもござれ、のユーティリティープレイヤーです」

「今のところ鍵盤いないから、キーボードが有力かな」

「いや、超☆絶美人だからボーカルでもいいと思うな。彼女の写真を伸ばしてポスターにすれば、男釣れるでしょ」


 この人たち、本当に自由人だな。やっていけるか不安だ。ま、嫌ってわけじゃないけど。実際ここまでフレンドリーに接してくれる人っていなかったし、嬉しくないといったら嘘になるかも。とりあえず頑張ってみますね。


「よろしく。担当は何でいいけど、パンダになるのは勘弁」


 続いて、みゆきが紹介を受ける。


「彼女は阪中みゆきちゃんでーす。残念ながら楽器が出来ないそうなのですが、協力したいと言っていただいたので、歓迎しました」

「健気!うーん、ゆかりんとはまた違ったタイプだな。MCでもやってもらって、妹属性の連中を釣るか」

「天然娘と見た。確かに裏方ではもったいないね」

「あ、えーと、よろしくお願いいたします」

「二人ともあたしと同じ二年一組だから。よろしくねー」


 何やら相談する二人。あたしは、全く理解できていない様子のみゆきを見て、急激に不安になった。この人たち、みゆきにとっては危険かも。あたしが守ってあげないといけないな。


「続いて、こちら」

「あ、どうもー。二年七組河合湊でーす。担当はまだ決まってないけど、たぶんボーカルになるかな」

「初めまして。同じく二年七組。小椋真綾です。担当はドラム。みんな、仲良くしよう」


 とりあえず紹介は終了したワケだけど、とにかく明るい雰囲気だった。最初は圧倒されていたみゆきだったけど、楽しそうな三人を目の当たりにして、みゆきにも伝染してしまったように、すぐさま笑顔になった。


「これで最低人数は揃ったわけだ」

「そうだね。とりあえずほっと一安心。ギター抱えて歌わなくちゃいけなくなっちゃうかと思うと、背筋がぞっとしたけど、これで危機は免れたわけだ」

「そうとも限らないでしょ。ゆかりんがキーボードで、あたしがベースやった場合、あんたは嫌でもギターボーカルやってもらうから」

「別に私がドラム叩きながら歌ってやってもいいけどね」

「その選択肢は皆無だから」


 楽しそうで何よりだ。でも問題はこれからでしょ。まだ合わせてみてないし、どうやら曲目も決まってないみたい。あと、あたしには聞きたいことがあった。


「ねえ」

「ん?なんだい、ゆかりっち」


 呼び方ぶれるね。ま、いいけど。


「何で軽音部だけでバンド組まなかったの?結構人数いるんでしょ」


 普通はそういうもんでしょ。何人いるか解らないけど、部の中で組んだほうが実力もはっきり解っているし、手間いらずじゃん。わざわざ外から募集するなんて時間の無駄でしょ。あたしとしては、当然そう思っていたんだけど、やはり彼女たちには事情があったらしい。


「うーん、これはあたしのわがままなんだけどさ」


 雰囲気はあまり変えずに話し出した七海だったけど、明らかに様子がおかしかった。


「あたしはガールズバンドがやりたかったんだよね。全員女の子でバンド組みたかったの。女子は五人いるんだけど、もうグループ決まっていたし、パートが偏ってて叶わなかったんだ。だから外から募集しようと思ったんだ」


 この話を聞いて、あたしは妙な違和感を覚えた。はっきり言えば、たったそれだけのことなの、と思った。だって、あたしが彼女たちから感じる雰囲気はもっと重い。これだけの話なら、そこまで重い雰囲気を出す必要ないでしょ。七海も明らかに普段と違う。だから、あたしは思った。


「もしかして、それが原因で部活の仲間と対立しているの?」


 あたしがこう言うと、三人は同じような反応を見せた。


「何で?」


 解ったの、と続きそうな様子だ。どうやらビンゴだったみたい。


「だっておかしいもん。ようやく待望のメンバーが揃って、これからってときに何でこんな雰囲気なの?順風満帆ってほどじゃないけど、順調でしょ。でも、この雰囲気。なんていうか、悲しんでもいるし、喜んでもいるような微妙な感じ。ということは、順調なことが喜ばしくもあり、まずくもあるってことでしょ。今の話を聞いた限りでは、それくらいしかないかなって」


 おそらく信頼されていないって思ったんじゃないかな。部活の人は、ガールズバンドに拘っているというより、男子を嫌がっていると思ったのかもしれない。部活内でちゃんとバンドが組めるのに、外から募集するって、信頼されていないのかな、って思われてもしょうがないかもね。


 メンバーが見つかったということは、目指しているガールズバンドができるということでもあり、もう後戻りが出来なくなってしまったということでもある。だから待望のメンバーが見つかったのに、嬉しい反面悲しい、みたいな雰囲気が出ていたのだ。やっぱり学校の外で会うのもおかしいよね。そういった背景を踏まえると、解決できる。


「よく解ったね。ま、そのとおりだよ。だから部室使えなくってさ。有志として抽選に参加しているんだけど、外れちゃったら演奏する場所ないんだよね」

「何かごめんね。無理矢理誘ったのに、雰囲気悪くて」


 いや、あたしは別に気にしていないけど。きっとみゆきも気にしていないだろう。それよりも気にすべき問題があるでしょ。


「で、どうするの?」


 圧すか退くか。今ここで引き返して、謝罪すればもしかして文化祭に参加できるかもしれない。できないにしても、これからも部活動を楽しく過ごせるだろう。でも、ここで強行してしまった場合、もしかしたら村八分にされてしまうかも。ましてや抽選に外れてしまったら、踏んだり蹴ったりだ。


「今ならまだ考え直せるよ。あたしのことは気にしないで、ちゃんと考えたほうがいいんじゃない?何なら席外そうか?」


 みゆきも頷いている。これは本心だ。同情とかじゃないぞ。あたしだって乗り気じゃないし、部活動の人たちと疎遠になってしまったら、さすがにいい気分じゃないだろう。目的であるガールズバンドで成功したとしても、これでは諸手を挙げて喜べる訳がない。


 三人は一瞬顔を見合わせて逡巡したが、直接言葉を交わさずに結論を出した。


「あたしたちは進むよ。というか、もう進むしかないんだ。決意して別れを告げてきたんだ、ここで戻ったところであたしたちに居場所はないって。むしろ、そんな中途半端な心構えだったのか、って叱られるのがオチ。それに、」

「今の言葉を聞いて、ますますゆかりんと一緒にやりたくなったよ」


 七海の言葉に合わせて、河合湊が笑顔で口を開く。あたしとしては申し訳ない気分だけど、案外まんざらでもなかった。こっち来てからクラスメートとまともに付き合っていなかったけど、こうして仲良くなることに憧れなかったわけではない。みゆきにも言ったけど、みんなで一緒に頑張って、その頑張ったことが成功すればきっといい思い出になる。あたしだって、いい思い出を作りたいんだ。


「何かあたしのせいで決まったみたいで、申し訳ないけど」

「違うでしょ。ゆかりちゃんのおかげで決意できたの」


 破天荒な三人組だけど、いい人には変わりないようだ。きっと仲良くできるだろう。目指すのは最高の成功と最高の思い出。


 あたしたちは、文化祭に向けてスタートを切ることができた。


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