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Part.26 side-Y

誤字脱字を訂正しました。

十月十四日(月)



 放課後、あたしは舞台使用者たちを何人か引き連れて、TCCの部室に来ていた。


「千客万来だな。揃って何の用だ?」


 ご挨拶だな。これ以上みんなを挑発しないほうが身の為だと思うぞ。


「権利書消失の真相が解ったよ」

「ほう」


 部室には岩崎さんを含めて、TCCのメンバーが揃っていた。そして、真嶋さんも。真嶋さんはあたしが頼んで呼んでもらったのだ。事件の真相には必要不可欠な人だからな。


「じゃあ早速説明してもらおうか。権利書は誰が持っている。今どこにある」

「今どこにあるかは知らないけど、誰が持っているかは知っているよ」


 あたしの言葉に反応したのは岩崎さんと真嶋さんだけだった。残りの三人は三者三様リアクションを見せる。


「じゃあさっさと教えてくれ。こんな大人数ではくつろぐことが出来ないからな」

「あんたさ、もうちょっと緊張感とか出せないわけ?」


 別に期待しているわけではないけど、これでは場が盛り上がらないだろう。あたしはいいけど、他のみんなからしてみれば、ふざけているようにしか見えないぞ。


「俺はこういう性格なんだ。説教はいいから、さっさと始めてくれ」

「はいはい……」


 あたしはため息をつきながら、先週の金曜日にみんなで話し合ったことを、そのまま成瀬に向かって言った。


「そうやってあんたは部室にいながら、部室の外に権利書を持ち出すことに成功したってわけ。基本的には安全だし、見つかる可能性もほとんどない。例え解ったとしても、しらばっくれちゃえば、普通は逃げおおせることが出来る。さすがはあんたってところね」


 あたしが話し終えるまで、成瀬は反論一つすることなく、黙って聞いていた。


「どう?あたしたちの推理は?」

「そうだな。ま、確かに筋は通っている」

「下手な言い逃れはやめてよね。あたしたちには時間がないんだから」

「言い逃れはしない。だが、証拠がなければ、机上の空論だな」


 そのとおりだ。面倒臭がりとはいえ、簡単に罪を認めようとはしないらしい。この期に及んで、まだ逃げるつもりでいるのか。はたまた犯人役を貫こうとしているのか。


「そのとおりです。成瀬さんがやったという証拠がありません。それに肝心の権利書がまだ見つかっていません。日向さんは自身の仮説が正しいと思うならば、ここに権利書を持って来るべきでした」


 反論してくるのは岩崎さんだ。あたしが成瀬を犯人だと断定しているにもかかわらず、彼女は冷静そのものだ。もっとムキになって反論してくると思ったけど、その点はさすがというべきか。やはりあたしの見込んだ女性だけはある。冷静になるところは心得ているようだ。


「じゃあ岩崎さんはあたしの仮説が間違っているって言うの?真嶋さんの手帳の中を見て、権利書がないことを確認した?」

「それは暴論ですよ。あなたの言うとおり、私は中身を確認していません。ですが、だからと言って、あなたの意見が正しいということにはなりません」


 まさしくね。でも、


「あたしたちは持ち物検査をした。でもって権利書も、そのダミーも発見することはできなかった。検査には岩崎さんも立ち会ったよね?検査する側にもされる側にも。ということは、あのときすでに権利書は部室の中にはなかったということになる。そして、権利書が外に出る機会があったのは、解散する前。あの時、成瀬とあなた以外に、誰か持ち出せる可能性があった人はいた?」

「た、確かにそのとおりかもしれませんが、でも持ち物検査が完璧に行われたとは限らないじゃないですか」


 だんだん苦しくなってきたことが、自分でも解っているのではないだろうか。自分も検査には参加している。それがどれほどちゃんと行われたかも、あの時岩崎さんは下手な疑いを掛けられてたまるか、と思っていたはず。ならば、検査も捜索も真剣にやっていたはずなのだ。それはさておき、これでは話が進まない。なので、少々無理矢理にでも話を進めるとしよう。


「ま、いいじゃん。とりあえず、あたしは真嶋さんが持っていると思う。彼女が持っているなら、あたしの勝ち。持っていないなら、あたしの負け。これでいいと思わない?」


 あたしの言葉に、みんなの視線が真嶋さんに移動する。あたしは岩崎さんに向かって微笑みを返す。岩崎さんは、なぜだか不安そうな表情になり、みんなと同様真嶋さんに視線を移した。


「ね?真嶋さん」


 そして、最後にあたしが視線を移す。


「あ、あたしは持っていないわ!ほ、本当よ!」


 明らかに動揺している雰囲気で言われても、全然信用できないぞ。これ以上いじめたくもないし、彼女にうらみはないけど、しょうがない。もう一押しするか。


「じゃあなぜあのとき、真嶋さんは半分泣きながら部室に飛び込んできたの?そして、部室を出て、成瀬と何を話していたの?」

「そ、それは……」

「おそらく、手帳には権利書と一緒にメモが挟まっていたんじゃない。『しばらく部室に来るな』とか書いてあるメモが」


 あのとき、真嶋さんは確かにそんなことを叫んでいた。殴り書きで、とも言っていたな。

成瀬も急いでいたということだろう。成瀬は真嶋さんが手帳を忘れていきそうだと先んじて予想していた。にもかかわらずそのことを真嶋さんに注意せず、見逃した。それは真嶋さんの手帳を利用するため。そして、急いでメモを作って、権利書とともに手帳に忍ばせた。こんなところだろう。


「…………」


 黙り込んでしまった真嶋さん。この場合の沈黙は、肯定と同じ意味だよ。


「白状しちゃってよ。こんなやつ庇う必要ないって。真嶋さんは、言うなれば利用されていたんだよ」

「で、でも本当にあたしは権利書なんて持っていないの!」


 はあ。粘るね。成瀬は本当に回りに恵まれているな。さて、これ以上は結構厳しくなるな。真嶋さんが抵抗するなら、強硬手段をとらざるを得ないわけだが……。


「…………」


 あたしは成瀬に視線を移した。あたしの視線に気付いた成瀬は、はあ、と大きくため息をつき、


「もういい。解った。白状する。犯人は俺だ。全部あんたの言うとおり、俺が仕組んだことだ」


 何か、半分開き直ったように白状する成瀬。何か癪に障るな。


「確かに、この二人を使ったが、この二人は何も知らない。全部俺が勝手にやったことだ」


 全ての責任は俺にある、ってか。格好いいこと言うね。ま、確かにそうなんだろうけど、他人に罪を押し付けるやつがいるこの世の中からしたら、こいつはまだましなほうなのかもしれない。


「あたしたちの推理は当たりってことね。じゃあ舞台の使用を認めてくれるのね?」

「ああ」


 面倒臭そうに頭をかきながら答える成瀬。この態度止めたほうがいいと思うけどな。どう考えてもあんたが悪いのに、反省の色が全くない。これはみんなの神経を逆なでしていると思うぞ。


「それで、聞きたいんだが」


 あたしが心の中で成瀬にダメ出しをしていると、成瀬が話しかけてくる。口調も表情も先ほどと何ら変わりない。しかし、その目の色が、変化した。


「何?」

「誰が、今の推理をしたんだ?」


 さて、ここで問題だ。これが一番悩んだところ。しかし、もう答えは出ている。あたしはそれを言うだけだ。


「ここにいる、全員だよ」

「全員だと?推理の並列化でもしたのか?」

「うん。金曜日に教室に集まって会議を開いたの」

「…………」

「…………」


 あたしの答えに、成瀬は黙り込んだ。つられて、あたしも黙り込む。周りのみんなも、黙り込んでいた。成瀬はどんな反応を見せる。あたしの推理が正しいなら……。


「どうやら偶然って言うことでもないみたいだな」


 ようやく成瀬が口を開いた。するととたんに、今まで放っていた重苦しい雰囲気が霧散した。そして、瞳の色が元に戻る。どうやらあたしは正解を引き当てたようだ。


「当たり前でしょ。あたしを誰だと思っているのよ」

「スーパー何とかだったな。確か」


 スーパーマーケットみたいに言うな。さっきまでと落差が激しすぎて、疲れるわ。厄介なやつと関わり合いを持ってしまったなあ、もう。


「もうどうでもいいわよ。それで、ちゃんとみんなに権利を認めてくれるんでしょうね」

「ああ。約束どおり、犯人探しに関わった全員に権利を認めよう。書類はこっちで用意しいておくから。今週は練習に集中してくれ」


 成瀬の言葉に、周りから歓声が上がった。いいのか、これで。みんな単純だね。でも今はその単純さに救われたね。主に成瀬が。


「みんなお疲れ様。これで犯人探しは終わり。解散していいわ。練習頑張ってね」


 あたしがみんなに向かって言うと、みんなは気合の入った返事をして、部室から散会していった。好都合とは言え、本当に楽観的だな。気にならないのかね?


 ものの一、二分で部室はいつもの静けさを取り戻した。落ち着いた雰囲気に戻った部室に残っているのは、TCCの四人とあたし、真嶋さん。そして、七海だった。


「あんたらは練習しなくていいのか?」


 いつまでも出て行こうとしないあたしたちに、成瀬が声をかけてきた。どうやら急かしているようだ。


「あたしは、あんたに聞きたいことがあるから」


 あたしはまだこの件について満足しているわけではない。それに成瀬に一言言ってやらないときがすまない。だからここに残っているのだ。さて、七海は?


「あたしも聞きたいことがあるから」


 いつになく真剣な様子の七海。


「他のみんなは気にならなかったみたいだけど、あたしはどうしても腑に落ちない。成瀬は何でこんなことをしたの?ゆかりは気付いていたみたいだけど」


 七海の言うことは、かなり普通のことだ。理由が気にならないほうがおかしいと言えるだろう。あたしも賛成だ。確かにあたしは正解と思える答えにたどり着いた。ただ、成瀬の口から直接聞いたわけじゃない。答え合わせといこうじゃないか。


「そうだね。確かにこれは聞かないといけないな」


 これがないと事件が終わらない。どんなドラマも最後は犯人の自供シーンで終わるもんだ。当然話さなければいけないだろう。ここにいる誰もが思ったはず。しかし、


「理由はない。連中を見ていてむしゃくしゃしたから、事件を起こしてやっただけだ」


 あー、こんなことを言う犯人確かにいるよね。でも犯人が成瀬なら話は別だ。あたしは信じないぞ。この期に及んでまだしらばっくれるなよ、成瀬。どれだけ手のかかるやつなんだよ。


「あんたねぇ、駄々こねるんじゃないよ。理由がない?そんなわけないでしょ」

「そうです。成瀬さんが理由もなく、こーんな面倒なことするはずありません。この期に及んで格好悪いですよ。犯人なら犯人らしく、潔く自供しちゃって下さい」

「潔い犯人ばかりじゃないだろう。それに自供ならしたぞ」


 まあ自白はしたけど、あたしが聞きたいのは理由だ。


「どうしても言わないわけ?」

「…………」


 黙秘ってことか?まあいい。ならば、あたしがお話してやるまでだ。考えてみれば、成瀬が自ら動機を言いたがらない理由も解る。なぜ頑なに自分の口から言いたがらないかというと、要するに、


「恥ずかしいのは解るけど、あんた、あたしに迷惑かけすぎだからね。今回のことは、全部ツケにしておくよ」

「恥ずかしい?」


 七海と岩崎さんが同時に口を開いた。二人からしたら、意味不明だったかもしれない。しかし、事情が解っている人なら、あたしの言葉が理解できるはずだ。


「成瀬は恥ずかしがり屋だからな。もう少し自分に自信が持てれば、人気者になれるんだけど。俺も昔から言っているんだが、どうにも直らなくてな」


 愚痴をこぼすように呟いたのは、成瀬の幼馴染麻生だ。あたしや岩崎さんより成瀬を知っているであろうこの男から見れば、現状はいつもの展開なのかもしれない。愚痴をこぼしているように見えるが、どう見ても苦労しているように見えない。誰よりも現状を楽しんでいるのは間違いなくこの男だろう。あんたも成瀬のことが大好きだな。


「何を恥ずかしがっているのかしら。あんたの思惑通りにことが進んで、事件が終わったんだから、恥ずかしがるところじゃなく誇るところでしょう。どうでもいいからさっさと終わらせましょう。私はまだやることが残っているんだけど」


 相変わらず成瀬に対して厳しい口調で責めるのは、TCCの姫泉紗織だ。あんたは成瀬のことが大嫌いだな。しかし、成瀬がやるときはやる男だと、認めている雰囲気は感じさせる。


「もういいかな。あんたが言わないなら、あたしがしゃべっちゃうけど?」

「勝手にしろ」


 成瀬はよほど関わりたくないようで、雑誌を開いて、こちらから目を背けた。成瀬のことはとりあえず放っておこう。あたしは七海に向かって話し始める。


「どういうこと?恥ずかしいって何?」


 『成瀬』と『恥ずかしい』が結びつかないらしい七海は、あたしたちの会話が理解できなかったようだ。岩崎さんも黙って聞いている。


「簡単に話すと、成瀬が権利書を盗ったときの結果と、盗らなかったときの結果、どう変わったと思う?」

「盗ったときと盗らなかったとき?」


 少し解りにくかったかな?もう結果が出てしまっているからな。一つは現実になったこと。もう一つは現実にはならなかったこと。今となっては想像するしかないが、当時の状況を目の前で見ていたあたしたちならやってやれないことはないと思う。


「成瀬が盗ったときっていうのは今現在のことだよね?それじゃあ結果はどうなった?誰がステージの権利を勝ち取った?」

「今は全員がステージを勝ち取りました。成瀬さんは紙を見つけたり犯人を突き止めたりした団体に、新設ステージの使用を認める、と言っていたので、全員で会議を行った私たちは、全員にその資格があったということですね」


 七海に代わって、岩崎さんが答えてくれる。これはほぼ答えが出ていると思うんだけど。


「うん。そのとおり。じゃあ次は盗らなかったときのことだけど」

「盗らなかったってことは、あのまま選考が行われていたってことだよね」

「もう想像するしかないことなので、絶対とは言えませんが、今みたいに、全員がステージを使えるという状況にはならなかったのではないでしょうか」


 今となっては、想像するしかない。しかし、想像するのはそんなに難しいことじゃないはずだ。


「確かにね。あれだけヒートアップしていたもんね」


 七海、あんたもそうだったでしょ。とにかく当時の状況を覚えていれば、全員でステージを使うなんて未来は想像もできなかったはず。相手の粗を探し、何とか自分たちだけでもステージを勝ち取ろうとしていた。みんながそう思っていた。


「答えは出たね。成瀬は自分が犠牲になって、全員の気持ちを一つにした。敵の敵は味方っていうじゃない?成瀬は自分が全員の敵になり、あたしたちみんなを一致団結させようとしたってわけ」


 本当にいいやつだな、あんた。


「それ、本当なの?」


 疑問を口にするのは七海だ。この中で成瀬のことをよく知らないのは、七海だけ。他のみんなは信じているだろう。成瀬はそういう男だと。


「好きに推測すればいいだろう」


 成瀬の言葉から、真意を見出せなかった七海は、あたしと岩崎さんのほうを見る。岩崎さんはというと、


「しょうがない人ですねぇ」


 といった感じで優しく苦笑。あたしは、


「やれやれ」


 といった感じで呆れた表情を返す。それで七海はどう感じたのか、


「あんた、いいやつだねぇ」


 と真顔で言っていた。成瀬はもう何も言うまいといった感じでため息をついた。これで成瀬がどんな人間か解ったかな?


「さて。一つ目の質問は終わりかな。他に質問は?」


 急に場を仕切りだしたのは、今まで空気だった麻生だ。


「あんた関係ないでしょ」

「俺だって質問くらい答えるぜ?」


 いや、聞くことないし。こいつに構っている暇はない。今度はあたしの番だ。


「あたしも成瀬に質問。あんた、今度はあたしに何をさせたいわけ?」


 あたしはこの事件に関しては、全貌を確認した。しかし、まだ成瀬は何かを企んでいる雰囲気がある。この前の一対一の一問一答ではこの事件に関するものはほとんどなかった。成瀬はこっちの事件にはすでに興味を失っていた。そして、新たに何かを動かそうとしている。それは何か。


「まだ何かあるんですか?」

「そいつは聞いてないな、成瀬」


 どうやら成瀬単体で動いているらしい。他の人たちは何も知らないようだ。


「何のことだ?」


 またしてもしらばっくれる成瀬。いい加減にしてもらいたい。しかし、こいつはいくら言っても聞く耳を持たないだろう。あたしに協力してほしいようだし、実際に動く自体になれば、向こうから話を持ちかけてくれるだろう。ここは待つか。


「ま、いいけど。あまりぎりぎりに言わないでよ。あたしだって忙しいんだから」

「一体何のことですか?また私に黙って何か企んでいるんですか?」

「おいおい、俺も参加させてくれよ。そんな楽しそうなことを俺に黙っているなんて、水臭いぜ」

「私は何も聞いてないわよ。だから私を巻き込まないで」


 TCCの面々はそれぞれらしい反応を見せる。それでも成瀬は何も言おうとはしなかった。ま、今日は一つ問題を解決することができたんだ。これでよしとしよう。成瀬が抱えていて、あたしに協力を仰ごうとしている問題とは、軽音部を取り巻く問題だろう。この問題に関しては、あたしも無関係ではない。それに、文化祭までには解決しなければいけないことだから、遅くとも今週末までには解決できるだろう。


「とりあえずステージの件、手続きお願いね。あんたがやるのか、真嶋さんがやるのか知らないけど」


 あたしはこのコントについていけなくなったので、もう部室から退室しようと思ったのだが、


「あたしは本当に持っていないよ」


 言ったのは真嶋さんだ。まだそんなこと言っているの?成瀬だって認めたんだから、もういいじゃないか。あたしが呆れた様子で振り返ると、


「そういえば、あんたの推理の中で訂正しておくところが一つあったな」

「何?」


 この言葉にはさすがに驚いた。


「あんた、さっき認めていたじゃん。それはあたしの推理が当たっていたからじゃないの?」

「大方当たっていたな。だが、一つだけ間違っていたところがあったということだ」


 何だって?間違いがあった?なら何で自分の犯行を認めたんだ。何が間違っていたというんだ。


「あたしが間違えたところってどこ?」

「権利書のことだが、本当に真嶋は持っていないんだ」

「は?」


 真嶋さんは本当に持っていない?じゃあ誰が持っているんだ?そうなると、そうやって外に持ち出したんだ?別の人が持っているということになると、成瀬が犯人じゃなくなってしまう恐れがあるぞ。


「意味が解らないんだけど。じゃあどうやって外に持ち出したのよ」

「持ち出していない。そこから間違っているんだ」

「焦らさないでさっさと教えなさいよ!」


 あたしは若干イラついて、少し大きな声を出した。すると成瀬は、呆れたようにため息をついて、


「燃やした」


 と言った。理解できない言葉だ。モヤシタ、とはどういう意味だろう。


「どういうこと?」

「だから燃やした。権利書を。だから見つけられたなかったんだ。確かに真嶋にメモを渡したが、それはダミーだ」


 燃やした、だと?


「じゃあ権利書はもうないわけ?あんた一体何を考えているの?どうやって権利の移動をするのよ。権利書がないと正式な権利として認められないんでしょ!」

「落ち着け。権利書はあるし、ちゃんと手続きすることはできる」


 意味解んない。あたしは完全に混乱してしまっている。


「権利書がある?燃やしちゃったんじゃないの?」

「元々権利書は二枚もらっているんだ」

「………………」

「誰が、権利書は一枚しかないと言った?誰も言っていないはずだがな」


 そういうことか……。あんたの言っていることがようやく解ったよ。


「あんたの言うとおり、素直に真嶋に渡してもよかったんだけど、より安全な策をとりたかったんだ。あんたより先に誰かが解決して、真嶋に詰め寄るとも限らない。そうなると、俺の欲しい結果が得られないからな。万が一にも見つからない手段をとらせてもらった」


 なるほど。石橋を叩いて渡った結果、燃やすに至ったわけだな。権利書は二枚あるんだ。より安全な手段を講じるのは責めるところではない。でもな、一つ言わせろ。これを言わないと、気がすまない。


「そういうことは、最初に言っておけ!このアホ野郎!」


 あたしは最後に捨て台詞を吐き捨てると、七海をつれて部室から退室した。やってられるか!





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