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Part.22 side-Y



 10月9日(水)


 あたしは憤慨していた。とんでもなく機嫌がよくなかった。理由はつい先ほどの出来事。何だ、あいつ!あたしのほうが先客だったのに、後から来た真嶋さんの心配ばかりしやがって。あたしだって、女だぞ。あたしはスーパー美少女お嬢様だぞ。あたしのほうが付き合い長いし、あたしのほうが親しいだろう。なのに、何でこんなにあたしに対する扱いが悪いんだ!訴えてやろうか。


 ここまで考えて、あたしは気付いた。そして大きなため息をついた。はあ。あたしは何を考えているんだ。捜査自体は決して悪い方向に進んでいるわけじゃない。今日だっていろいろ情報が集めることが出来たし、確かに扱いは悪かったけど、明日約束を取り付けた。むしろいい方向に進んでいると言える。ここまで不機嫌になる必要はない。何でこんなにむしゃくしゃするんだ。自分でも解らない。


 ただ、何となくもやもやする。嫌な感じだ。誰のせいかって?全部成瀬のせいに決まっている。この気持ちは明日、成瀬にぶつけるとしよう。三倍返しでね。


 あたしは気持ちを入れ替えて、道草することなく、一路我が家に向かった。




「おかえり!早かったね」


 家に着くと、七海たちバンドメンバーが出迎えてくれた。


「ん、ただいま」

「どう?うまくいってる?」


 期待しているのはよく解るけど、申し訳ないね。


「あまりよくないね」

「そっか」

「でも、ちゃんと前進しているよ。絶対やつはあたしが追い詰めるから」

「うん。期待している」

「お願いね!」




 あたしが帰ってきて、ようやく全体練習が出来る環境が整ったのだが、彼女たちはなぜだか休憩を申し出た。なので、あたしたちはミュージックルームから、ティールームに移動した。


「それで、今どういう感じなの?」


 茶菓子をつまみながら質問をしてくるのは、湊だ。


「中間報告でもいいから教えてくれないかな?口外しないから」


 七海も続く。ま、みんなには迷惑かけているし、無関係ではない。あたしの成果如何で進退がかかっているのだ。あたしとしてはあまり曖昧な情報を口にしたくないのだが、軽く報告くらいはしたほうがいいか。


「全体的な進捗率は五十パーセントくらいかな」

「ふんふん。それで、具体的にはどのあたりが解ってないの?それが解れば、あたしたちも少しは手伝えると思うんだよねぇ」


 手伝ってもらうほどのことじゃないんだけど。それに、その気持ちは嬉しいけど、正直君たち三人には到底手伝えるような内容じゃないんだ。


「解らないところは、動機かな」


 どうしても動機が解らない。あいつがこんなことをするにはそれなりの理由がないと、納得できない。というか、ありえないだろう。あいつは極度の面倒臭がりだ。そんなあいつが大した理由もなしに、こんなことをするはずがない。たとえ他人のためだとしても、やはりそれなりの動機が必要だ。しかし、思いつかない。動機は何だろう。


 あたしとしては本気で悩んでいたのだが、みんなの反応はちょいと違った。


「それだけ?」

「え?何が?」


 それだけって、どういうこと?


「え?もしかして、動機解るの?」


 悩んでいたのは、あたしだけだったとかいうオチなのか?あたしにとってはそれが最大の謎なのだが、みんなにとっては取るに足らない謎だったのか?そしたらあたしの自尊心は砕け散ってしまう。


 プライドの塊であるあたしは、切腹まで覚悟しそうになったのだが、それはあたしの早とちりだった。


「いや、もちろんあたしは解らないけど」

「ゆかりちゃんは、それ以外は解っているの?」


 あー、そういう意味か。


「うん。解っているつもりだよ。まだ確認は取ってないけど、結構自信ある」

「え?じゃあもう解決目前じゃん!さすがゆかり!」


 そう言ってくれるのはありがたいのだが、はっきり言って、褒めてくれるのは時期尚早だ。まだまだ解らないこともあるし、あたしは解決目前とは思っていない。


「で、今日はどこに行って来たの?」

「成瀬のところ」


 言って、思い出した。あのやろう、あたしを軽くあしらいやがって。あたしがどれほどの人間か、未だに解っていないな。


「今日も部室に行っていたんですか。それで、成瀬さんと何を?」


 このセリフが誰のものか、わざわざ言及する必要はないだろう。しかし、あたしはこのとき、頭に血が上っていた。らしくもない、愚痴をこぼしてしまったのだ。


「絶対あいつ何か隠していると思ったから、あたしは言ってやったんだよ。いい加減白状しろって。そしたらタイミング悪いことに真嶋さんがすごい勢いで部室に入ってきてさぁ」

「真嶋さん?」


 どうやら軽音部三人組は、真嶋さんのことを知らなかったらしい。残りの二人はもちろん知っている。みゆきは中学の同級生だったらしいしな。


「それで、成瀬を連れて行こうとしたの。だから、あたしは逃がすまじと思って、腕とって間接極めてやったんだけど、結局逃げられちゃったよ」

「何それ?」


 となっているのは、軽音部三人組。かたや、見事に固まっているみゆき。そして、


「それ、どういうことですか?」


 すでに若干声色が違っていた。あたしはそこで気付く。あれ?もしかして、言っちゃいけないことを言ってしまったのではないか。


「あ、えっと……」

「何が、あったのですか、と聴いているんです!答えてください、日向さん!」

「あ、と、とりあえず、落ち着いて。岩崎さん」

「もしかして、修羅場ってたの?」

「いや、今現在も修羅場でしょう」


 あたしがとんでもないことになっているにもかかわらず、傍から、我関せず、といった感じで実況解説をしている湊と七海。あんたらが落ち着いてどうする。うまいこと言っている場合じゃないぞ。助けてくれ。


「まあまあ、岩崎さん。逸る気持ちは解るけど、とりあえず落ち着こうよ。あとみゆき、あんたも落ち着きなさい。あんたは無関係だから」


 真綾の一言で、一応場が落ち着いた。みゆき、あんたは一体何をやっていたんだ?


「失礼しました。私としたことが、冷静さを欠いてしまいました」

「ご、ごめんなさい……」


 揃って頭を下げる岩崎さんとみゆき。別に謝ってくれなくてもいいんだけど。二人とも悪くないんだし(特にみゆきは)。しかし、何だ。まああたしのせいなんだけど、説明したくないなぁ。もちろん詳細に説明するつもりはないが、何でこんなことになってしまったのだろうか。


「それで、今日の放課後、何があったのかなぁ。包み隠さず、話してくれるよねぇ、ゆかりちゃん」

「いや、隠すつもりなんてないけど……」


 そうあからさまにニヤニヤしないでくれよ。とても話しにくいじゃないか。ま、大した話じゃないからいいんだけど。


「今日もTCCの部室に行っていたんだよ。最初部室には成瀬しかいなかったんだよ。あたしは嫌味っぽく捜査の進み具合を説明していたら、」


 説明していたら、今更思い出した。


「あー、そうそう。七海って、成瀬と知り合いだったりする?」

「へ?あたし?」


 どうやら完全に予想外の質問だったようだ。ま、そりゃそうだろうよ。あたしだって知っていた。でも、可能性はゼロじゃないと思って聴いてみただけだ。結局知り合いじゃなかったようだけど。


「それってどういうこと?今の話と何か関係あるの?」

「まああると言えばあるんだけど」


 聴いてきたのは湊だが、どうにも答えにくい質問だ。先を話せば解るよ。とりあえず聴いてくれ。


「あたしが愚痴っていたら、成瀬が突然『あんたのバンドに小山内七海っているか?』って聴かれたんだよ」

「何で成瀬があたしの名前を?」


 いや、それを聞きたくて今話したんだけどね。結局心当たりなさそうだな。


「…………」


 無言になる岩崎さんが少し怖いけど、話を続けよう。


「それが例の事件と関係あるのか、って聴いたら、こっちの話には関係ない、とか、すごく曖昧な返事が返ってきたんだ。あいつ、本当にわけが解らないよ」


「こっちの話には、ってこと別の話に関係あるってことかなぁ」

「おそらくそういうことだろうね。別の話かぁ。何のことだろう?」


 真綾と湊が揃って頷く。あたしもそう聞こえる。しかし、成瀬にどんな意図があってそんなことを言っているか、実際はあいつに聞かないと何とも言えない。


 三人で頷き会ってから、自然と視線は七海に集まる。


「いや、あたしのこと見られても……。言っておくけど、あたしは成瀬と一切交流ないからね!隠している事も一切ないぞ。会話したのも、この前が初めてだ!」


 そのことに関しては疑っていないけど、どちらにしてもあいつの口から七海の名前が飛び出したことは事実。そして、あたしがいるバンド、というところに、一つ鍵があるのも、おそらく確かだろう。あいつは一体何を考えている?あたしはふと、昼間に泉紗織が言っていた一言を思い出した。


『あいつは思っている以上にいろいろ考えているわ。岩崎先輩の事も、権利書が見つからなかったときの事も。もしかしたら他の事も』


「七海のことはまあいいよ。それよりゆかりのことだよ。まだ肝心なところまで行ってないよ」


 言うのは、湊だ。あんたも結構興味持っていただろう。あと、そのニヤついた顔、止めろ。岩崎さんも、顔をしかめるのを止めてください。可愛い顔が台無しだよ。ま、話を続けるよ。


「あたしは、何の脈絡もなしにあいつが七海の名前を出したことがすごく気になった。これは絶対に裏がある。そう確信していたから、結構本気で詰め寄ったんだよ。そしたら突然部室のドアが開いて、」

「真嶋さんとやらが登場したわけだ」


 そう、真嶋さんの登場だ。


「結構激しい感じでドア開けて入ってきて、かなり焦った様子だった。成瀬に用があったみたいだったけど詳しくは知らない」


 あのときはあたしも頭に血が上っていたからな。正直今考えると、もう少し冷静に対応してもよかった。あのせいで、あたしは完全に敵視されてしまったと考えると、少し悲しくなってくる。


「それで、成瀬の争奪戦が始まったわけ?」

「だから違うって!」


 何言い出すんだ、いきなり。冗談でも言ってはいけないぞ。特にこの人の前では。


「奪い合ってはいないけど、まあ真嶋さんとちょっとした口論にはなった」


 直接的に言葉を向けてはいない。成瀬を介してだけど。


「で、最終的に負けて、尻尾巻いて帰ってきたわけだ」


 さっきから何でそんなに挑発的なんだ、軽音女子たち。状況としては、間違っていなくはないのだが、そんな言い方をされると納得いかない。


「あたしは負けてないよ。明日、成瀬に事情聴取を約束させた。明日、成瀬のやつに目に物見せてやるつもりだよ」


 ま、任せておいてよ。あたしをなめないでくれ。あたしを誰だと思っている。あたしは日向のスーパー美少女お嬢様だぞ。成瀬一人くらい攻略できないで、こんな二つ名を名乗れる訳がない。余裕よ、余裕。


「成瀬に関しては、任せるよ。あたしたちの中で、成瀬と知り合いなのはゆかりちゃんだけだしねえ。話は解ったし、この話はそろそろ終わろうと思うんだけど、ねえ?」

「ねえ……」


 真綾と湊が顔を見合わせ、そのあとつつっと視線を移動させる。あたしたち三人もつられて視線を移動する。その視線の先には、


「…………」


 岩崎さんだ。ずっと沈黙を守っている。しかも、その表情はかなり乏しい。というか、表情がない。見たことないくらい無表情だった。これはあたしのせいなのだろうか。それとも成瀬のせいなのか。どっちにしろ、彼女はかなり機嫌を害してしまっているに違いない。あたしとしては後ろめたいことなど、何一つないのだが、そこは意志伝達の壁と言うか、伝えようと思っていることが、正確に相手に伝わるとは限らないのだ。そこが怖いところだ。果たして……。


「あの、一つ思いついたことがあったのですが、」

「そ、そう。それはとてもいいことなんだけど、とりあえず落ち着こう、岩崎さん」


 突然何を言い出しているのだろうか、と思うかもしれないけど、あたし自身何が言いたいのか解らない。その場にいる人間が、同時に息を呑むのが解った。注目の一瞬。岩崎さんは一体何を思いついたのか。さて、鬼が出るか蛇が出るか……。


「成瀬さんが小山内さんの名前を出した、という話のことですが、」

「う、うん。それが、どうしたの?」


 神妙に聞くあたしたち。というか、突っ込むのはそっちか。


「おそらく、長谷川さんから相談されたからではないでしょうか」

「え?」


 思っていたことと違う意見が返ってきたので、あたしは虚を衝かれた。


「あー、そういえば長谷川も五組だったね」

「そうです。ちなみに私も五組なのですが。今文化祭の展示で作業中なのですが、長谷川さんと成瀬さんは同じ作業グループなんです。なので、小山内さんのことで同じクラスで同じバンド活動をやっている日向さんに、何らかの相談をしたかったのかもしれないです。その可能性が高いと思います、いえ、まず間違いないでしょう。それ以外考えられません!」


 なるほど。そういう背景があったのか。うーん、その可能性に関しては全く考慮していなかったな。あたしとしたことが全く抜けていた。そういや成瀬と同じクラスには長谷川がいたのだ。さすがは岩崎さん。素直に鋭いと思うし、確かにその可能性が高いだろう。あたしもそう思う。思うが、なーんか気になるね。どのあたりが気になるのかというと、必死すぎるのではないか?というところだ。いきなり口数が増えたし、声も大きくなったし、一気にまくし立てているし。ちなみに、とか必要だったか?反語を使っているところといい、無駄に迫力を出しているところといい、無理矢理納得させようとしていないか?あたしたちだったり、岩崎さん自身だったり。おそらく自分の頭の中のいやーなイメージを払拭したかったのではないか。ま、真相は確かめないつもりだ。そのことには触れないでおく。


「岩崎さんの考えが全面的に正しいと仮定すると、何かい?長谷川も七海のことに関して、いろいろ悩んでいるってことかな?」


 だとすると、もはやこちらは何も悩む必要はないのではないか。つまり相手も七海のことを気にしているということだろう。


「でも、長谷川が何を相談したのか、ってことが重要じゃない?こう言っちゃなんだけど、相談内容によっては、もっと大変なことになるかもねえ」


 若干笑いながら言う真綾。ニヤつかないでくれ。正直、ニヤつけるような話じゃないぞ。冗談にならないくらいありえる話だ。そうならないことを期待しよう。


「ま、その辺は明日、ゆかりが真相を暴いてくれるでしょ。対成瀬用戦術の準備はオッケーですか?話を聞いている限り、一筋縄ではいかない感じなんでしょ?」

「その辺は任せてよ。絶対有益な情報をゲットしてくるから。事件の事も、長谷川の事も。だから、七海、期待しといてよね」

「うん。お願いするね」


 これで話はひと段落ついた。さて、これから何をしようかね。普通なら、この辺で休憩を終わりにして、久々の全員練習を始めたいところなのだが、姦しい軽音女子の好奇心はここからが本番だった。


「何か、本格的に成瀬争奪戦が始まる感じだねえ」

「ちょ!」

「え!」

「はあ?」


 いきなり何爆弾発言をしているんだ!さっきから真綾は何気にすげえ発言ばかりしているような気がする。こいつ、七海たちほど感情を露にしないけど、こういう状況を一番楽しむやつだったらしい。恐ろしい子!


「確かに。見たことないけど、真嶋さんもなかなかの美少女なんでしょ?」

「うん。美人さんだね。でも、中身は可愛い感じの子だよ。七海、あんたは見ているよ。会議の時に来ていたから」

「え?あー、もしかして、成瀬の隣にいたあの子?確か、ゆかりっちの反対側にいた……」

「そうそう」

「あー、思い出した。あの子が、ゆかりっちと口論?ちょっと信じられないな」


 あたしだって想像できなかったね。でも、あたしと直接口論したわけじゃないぞ。まあ意味的には似たようなものだけどね。


「で、岩崎さんはどうするの?」


 今度は岩崎さんに向かって爆弾を投下する真綾。ずっと険しい表情をしていた岩崎さんが不意を衝かれたように、


「わ、私ですか?」


 と慌てている。


「どうするって、どういうことですか?」

「だから、参戦するの?成瀬争奪戦に」

「わ、私は別に……」


 と、ごにょごにょしている。顔を真っ赤にしてぶつぶつ言っている岩崎さん。うーん、癒される。久しぶりに目の保養。


「じゃあ岩崎さんは参戦しないということで、」

「えぇ!ちょ、ちょっと……」


 待ってください、と続ける前に、話を打ち切られてしまって、次のターゲットになったのは、


「みゆきはどうすんの?」

「えぇ!えええええー!」


 岩崎さん以上のリアクションを見せる。今まで心配そうに話を聞いていただけのみゆきだったが、この話題には、どうやら興味津々だった様だ。あたしと同じように、頬を緩ませて岩崎さんを見ていたようだ。しかし、まさか自分に話が振られるとは思ってみなかったらしい。


「わ、わた、私?わ、私は、そんな畏れ多いので……」


 岩崎さん同様、顔を真っ赤にして俯くみゆき。否定したつもりなのか、話を濁したつもりなのか。どっちにしても作戦は失敗しているぞ。これでは暗に、成瀬への気持ちを肯定していることになるぞ。


 ま、畏れ多いっていうのも本心だろう。みゆきの場合、成瀬に抱いているのは恋愛感情ではない。尊敬とか崇拝とか、そっちの類だ。みゆきにとって、成瀬は雲上人なのだ。みゆきはとても感謝しているのだ。それも、自分のことに関してではなく、成瀬があたしを助けたことに。しかし、そんなことを知る由もない岩崎さんは、鋭く突っ込まずには入られなかったようで、


「え?阪中さんも、あの、成瀬さんのこと、えっと……、す」

「え!ええぇ、ち、違います違います!私なんか、そんな畏れ多い……」

「あ、あぁー!そ、そうなんですか。わ、私も違いますよ。そんな別に……」


 みなまで言わずに何か通じ合った二人は、顔を赤くして声を張り上げている。そんな二人を見守るあたしたちは、とにかくずっとニヤニヤしていた。うーん、可愛い。しかし、あたしはとんでもない見落としをしていたことに、まだ気付いていなかった。


「とりあえず、今回の参戦者は真嶋さんとゆかりちゃんってことになるね。岩崎さんは後日参戦予定ということで」


 思い出した。


「ちょっと待て!今更過ぎるかもしれないが、ちょっと待て!何であたしの参戦が決定事項になっているんだ!何に対する参戦だ?」

「もちろん成瀬争奪戦の話だよ」

「あたしは争奪戦に加わるつもりはないぞ。勝手にやってくれ!」


 あたしは「成瀬×岩崎」が好きなので、できればその方向でお願いしたいが。そんなことはどうでもいい。問題は、


「日向さん……」


 岩崎さんがあたしのことを、ジトっとした目で見てくることだ。ほかのみんなはニヤニヤしているし、あー、もう面倒臭い。


「もう勝手にしてくれ。この話は止め止め。休憩タイム終わりにして、練習しよ!明日もあたしは参加できないし、もう本番まで時間ないよ!」

「えー」

「まだ話したりなーい」


 とか駄々をこねているお調子者たちを無理矢理部屋からたたき出した。そして、久々に五人で演奏を開始した。そのあとも、この話は蒸し返させなかった。



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