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Part.1 side-Naruse

 さて。会議は続くわけなのだが、それぞれがそれぞれの言い分について、あれこれ言うだけなので、相変わらず一向に進まない。俺としては前準備が面倒なので、やはり出店ってやつをやるべきだと思うね。何しろ主立って参加するのは我々二年生だけなのである。見た目だけでも盛り上がっているように見せなくてならない。そこで簡単に盛り上がっている雰囲気を出せるのが、出店だ。出店の数が多ければ多いほど、それだけで盛り上がっているように見える。つまり、我々二年生は何としてでも出店の数を稼がなくてはならない。


 逆に体育館の舞台や、野外ステージを使う出し物は場所が限られているため、出場グループが限られてくる。俺たちがどんなにやる気に満ち溢れていても、ステージが使えなければ意味がない。


 さて。俺の意見を通すために、岩崎と麻生の意見をつぶさねばならないな。


「舞台をやりたいって話だが、」

「何ですか?成瀬さんも賛成ですか?」


 いや、むしろ積極的に反対したい。というか、あと一ヶ月ちょっとで舞台なんて出来るのか?


「誰がやるんだ?」

「もちろん私たちに決まっているじゃないですか」


 何言ってやがるんだ、こいつ。頭のネジ飛んでるんじゃないか?という感じの視線を送ってくる岩崎。そっくりそのまま返したい。


「こんな人数で舞台が回せるか。役者だけじゃ舞台は成立しないんだぞ。どうせ演技力なんてものは皆無なんだし、他のもので補おうにも大道具どころか、小道具も照明も音響も何もないじゃないか。仮に借りられたとしても、うまく扱える訳がない。衣装すらない。こんなんで舞台なんて出来る訳がない」


 ぐっと黙り込む岩崎。図星を衝かれた、とでも思っているのだろうか。というか、騙される訳がないだろう。舞台を舐めるな、と言いたい。ま、俺自身舞台について、詳しいわけでもないのだが。


「麻生の何とかコンテストだが、あれは文化祭の本部に掛け合ってみたらどうだ?あまり知名度のない俺たちがやったところで盛り上がらないだろうよ。ステージをとるにしても、長い時間を掛けられないから、中途半端な盛り上がりになってしまうぞ」

「言われてみればそうだな。推薦をアリにしたところで、候補者が本気で嫌がったら、成り立たないもんな。それに、一体誰が判定するんだ、っていう話だよな。アンケート形式にしたところで、集まる確証もないわけだし」

「そういうことだ。それに、お前は有志のほうでも参加するんだろ?こっちはあまり時間掛けたくないんじゃないか?」

「そうだな。もうすでにいろいろ大変なんだ。助かる」


 という感じで、麻生はあっさり折れてくれた。ま、麻生の場合は完全に思いつきで言っているだけなので、心からやりたいと言っているわけではないのだ。この男はノリで生きているからな、そのときやりたいことが、この男の全てなのだ。ある意味解りやすく単純で、うらやましい生き方かもしれない。俺には到底真似出来ない。


「最後に残った姫の意見だが、」

「何よ。私にも文句あるわけ?」

「いや、特にないな。一番解りやすくて単純だ。何をやればいいのか明確で、準備することがはっきりしている。TCCの知名度を上げるという意味でも有効的だろう」


 俺の中では出店で決定だ。あとは何をやるかだが、実際なんでもいい。文化祭実行委員会と保健所と相談するわけだが、その二つがOKを出すなら、問題ないだろ。売れないとつらいが。


「出店でいいよな?」


 確認の意味で、みんなに問いかける。姫と麻生は間髪入れずに頷いた。しかし、この女はしぶとく粘っていた。


「成瀬さんって、何だか泉さんに甘いですよね」


 ぼそっと呟く岩崎。何を言っているんだ。現在の議題とは全く関係ないな。


「甘やかしているつもりはない」

「だっていつも意見を同じくするじゃないですか。私の意見はすぐに却下するのに」


 単純に姫が常識人だというだけの話だ。お前の意見は賛成できないものが多いと、なぜ解らない。


「たまたまだろ。姫を甘やかす理由がない」

「私だって、聞き捨てならないわ。こいつに甘やかされているなんて、不名誉極まりないんだけど」

「で、ですが……」


 ぐっと力を入れつつ黙り込む岩崎。おそらく自分の言い分が無茶苦茶であることに気がついたのだろう。しかし、こいつは気がついたとしても知らん顔して突っ走るやつなので、


「じゃあ何で泉さんの案だけ賛成しているんですか!」

「だから、さっきも言っただろう。もう一度説明しなきゃいけないのか?」

「聞きましたよ。解りやすくて単純なのでしょう。だったら私の案も解りやすくて単純ならいいわけですよね?要するに私が解りやすくて単純なところまで、一人で準備をすればいいわけですよね?」


 そんなことを言っているわけじゃないのだが。そもそも俺は劇なんかに出たくないし、興味もない。何かを発表するものは、一番面倒な部類に入ると思う。バンド然り、オーケストラ然り。


「間違っているぞ。俺が言いたいのは……」

「解りましたよ!私一人で準備すればいいわけですよね?そしたら私の意見も採用して下さるわけですよね?」

「だから間違っているって。例え、あんた一人で準備をしたところで、俺は劇に参加しない」

「何でですか!やっぱり泉さんのことを特別扱いしているじゃないですか!」


 俺はもう一度口を開きかけたのだが、何も言わずに閉じた。何が起きているのやら。


 上目遣いで睨みつけてくる岩崎は、もう臨界点に達しているようだ。何を言っても聞かないかもな。さてどうしようか。もうどうしようもないんじゃないか。


「反論はなしですか?認めるんですか」

「認めるわけないだろう。変な発想の言いがかりはやめてくれ」

「どこが変なんですが。どこが言いがかりですか!しっかり説明して下さい」


 言わなきゃいけないのか?というより何だ、この状況は。誰でもいいから助けてくれ。なぜ俺がここまで言われなきゃいけないんだ。


 助けを求めて俺は視線を移動させる。すると、即座に援軍の要請は無意味であることを悟った。


 まず目の前にいる麻生。思い切りニヤニヤしている。この状況を楽しんでいること間違いなのだが、


「何だ?何か困っているのか?」


 としらばっくれる。人の不幸を楽しむ、という言葉をそのまま具現化するとこういう風になる。このやろう、自分が無関係だからって、第三者気取りやがって。言っておくが、このままだと一切会議は進まないぞ。お前だって多少なりとも迷惑をこうむっていることを自覚しろ。


 続いて、麻生の隣にいる姫こと泉紗織。


「…………」


 こいつは麻生と真逆で、身体ごと向きを変えて教科書を開いている。普段部室で勉強なんかしないくせに、何をしているんだ。その、また始まったよ、みたいな呆れた表情をするのは止めろ。好きでやっているわけじゃないぞ。


「何?不快だからこっち見ないで」


 対岸の火事という言葉を具現化すると、こんな風になる。


「…………」


 何だか本気で腹が立ってきたぞ。半分はお前のせいでこうなっていることを理解してほしいね。さっきまで不名誉極まりないとか言っていたくせに、もう我関せずかよ。俺だって、こんなやつを甘やかしているなんて勘違いされたら不名誉だ。俺は二ノ宮兄弟みたいな変な趣味は持ち合わせていない。


「ちょっと!どこ見ているんですか?目を逸らさないで、私の目を見て下さい」


 相変わらず、若干下から睨みつけてくる岩崎。不幸だ。ため息だって吐きたくなる。


「子供じゃないんだから、わがまま言うな。議題が逸れているぞ。本題は何をやるか、だろう。俺も麻生も姫も、出店で一致している。あとはあんただけだ」

「何でそうなるんですか。話を逸らしているのは成瀬さんです。とにかく私は演劇をやりますよ。準備も全部私がやりますから、任せて下さい」


 もう何を言っても聞かないどころか、すでに動き出そうとしている。確かに困った状況だが、これに関しては俺だけが困ったわけではないようだ。


「ちょっと待って。先輩、それ本気なの?私、役者はやりたくないわ」

「俺もちょっと勘弁して欲しいな。もう他に覚えることが多すぎて、こっちではなるべく簡単に出来るものがいいんだけど」


 岩崎の決意らしきものを目の当たりにして、若干焦ったように二人が口を開いた。うむ。やはり俺は間違っていなかった。これにはさすがの岩崎も参ったようで、


「え?でも、私が全部準備をするので、面倒はありませんよ……?」


 と弱気になっている。


「いや、やるなら先輩一人にやらせるわけにはいかないし、それに、問題はそっちじゃないのよね」

「そうだな。仮に準備を全部やってもらうにしても、本番のほうが厄介だな」

「厄介と申しますと?」

「本番って照明や音響に人材が必要だし、大道具があるなら大道具の担当が必要だ。何しろ、芝居が大変だ。こればかりは岩崎一人に押し付けるわけにいかないし、代わりに練習しといてくれって言うのも無理だ」


 正論だな。正論過ぎて、俺が口を挟む余地がない。これでこの話は終わりだろう。これ以上岩崎が反論できることはない。さすがの岩崎も、


「……………」


 と黙り込んだ。さて、議題を元に戻すか。


「ま、現実的に考えるなら、人数が必要な出し物は無理ってことだ。実際あんたもこっちばかりに時間を取ることはできないだろ。クラスでも中心だし、委員会のほうでも何かやるんだろ。有志にも出るみたいだし、こっちはできるだけ簡単なものをやるとしよう」


 妥当なのが出店ってわけだ。人数が揃わなければ、店仕舞いしてしまえばいい。食材があまったら手分けして持って帰ればいいし、何ならタダで配ればいい。先ほどの案を取り上げるなら、カキ氷や綿あめなら一人でも出来る。準備も手間がかからないし、作り方を覚える必要もない。


 俺の発言が最終的な判断になり、今日は解散することになった。ま、出店でほぼ決まりだな。各自何をやりたいか考えてくることにして、あとは企画が通るか通らないか。場所取りやステージなどの抽選が始まったら、催し物の明確な基準が学校側から発表されるだろう。そこで具体的に考えればいい。


 岩崎が黙ったままであることは気付いていた。何やら不気味な感じがしたが、それでも俺はあまり心配していなかった。まさか、あんな行動を取るとは。岩崎とはいえ、無茶しすぎだと思うね。このときはまだ知る由もなかったし、気配だけで感じ取るのは無理があった。嫌な予感については覚えていない。今思えば、俺は嫌な予感レーダーから目を逸らしていたのかもしれない。ただ、警報は鳴っていたような気がする。





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