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Part.10 side-Y

最近更新忘れが多いですねぇ…。反省してます。

 9月30日(月)


 週明けの月曜日。あたしたちは窮地に立たされていた。ま、この可能性は予想できたんだけどね。それまであたしは一切考えていなかった。うーむ、こんなに難しいことだったのか。人気あるんだな。あたしはとことん世間一般の人と考え方が違うらしい。


 それで、一体何があったのかと言うと、


「抽選に落ちました」


 と言うことらしい。


 あたしたちは、昇降口前のステージの抽選に応募していたんだけど、落選してしまったのだ。いわゆる完全抽選だったらしく、書類不備とかではなかったため、運がなかったとしか言えないだろう。誰のせいでもない。


「せっかく形になってきたのに……」

「うん。残念だねぇ」


 みんな口々に呟く言葉に、元気がない。あたしも残念だ。楽しくやっていたのはそれだけ真剣に取り組んでいたからだ。とりあえずあたしたちは別れ、それぞれのクラスに赴いた。


「何か手段はないのかな?」


 あたしは二人に問いかけてみた。このまま終わりなのでは、やはり少し寂しい。


「うーん」


 七海にも普段の元気はなく、みゆきは若干泣きそうな表情になっていた。あたしも黙って考えてみる。


 どこかで演奏するだけなら簡単だ。どこかしらのバンドイベントに参加すればいい。他校の軽音部と合作して、舞台を造ればいい。何ならあたしがステージを展開すればいい。あたしたちと同じような境遇にいる学生はきっとたくさんいる。ステージを作るだけなら簡単だ。


 しかしそれでは結局のところ文化祭には不参加になってしまう。あたしは別にいい。せっかく練習したけど、文化祭自体に思い入れはないし、クラスの出店だけで十分満足できる。でも七海たちは?文化部にとって、文化祭は人一倍重要なイベントなのではないか。このために必死にやってきたと言えなくはないだろう。こと七海に関しては、ガールズバンドという形態にこだわっていた。それがようやく叶う念願の舞台だった。やはり何とか文化祭で演奏させてあげたい。


 そう考えて、一つ案が浮かぶ。


「やっぱり軽音部の人たちにお願いするしかないんじゃないかな」


 そうなのだ。彼女たちは部に所属している。演奏する場所を最初から保有している軽音部に所属しているのだ。


「でも選考に漏れる可能性は最初からあったし、それを知っていながら部と別のバンドを組むって決めたのに、調子良すぎない?」


 七海の言っていることはもっともだ。でも、


「堅苦しいよ。あんたの言葉は」


 さっきから、というか以前から思っていた。


「そんな理屈ばかりが会話の頭に来るような関係なの?人間なんだから間違う事もあるでしょ。わがまま言うこともあるし、甘える事も助けを求める事もあるよね。赤の他人じゃないんだから、何を遠慮しているのよ」


 向こうだって、頭冷えているでしょ。部を辞めたわけじゃないんだし、謝れば話聞いてくれるって。仮にも一緒に部員としてやってきた仲なんだから。


「あたしが説得するから、部長のところに連れて行って」


 直接言うのは気まずいかもしれないし、人を遣うのも嫌かもしれない。でもそんなこと言っていたら何もできないよ。愚痴や文句や後悔を口にするのもいいけど、それは全部終わってからの話。今前に進みたいなら、行動を起こさなきゃ。


 しばらく逡巡した七海。そのときタイミング悪くチャイムが鳴った。ちょっと待て、いいところなんだから。少しは空気を読めよ。


 あたしが理不尽すぎる怒りをチャイムに向けていると、七海が口を開いた。


「少し時間くれるかな。三人で話し合ってみるよ」


 うーん、やはりタイミングが悪い。これじゃ押し切れないではないか。


「でも……」


 とあたしが言いかけたところで、七海がそれを遮るように、


「ゆかりの気持ちを踏まえて前向きに考えてみるから」


 言って微笑んだ。


「解った」


 その笑顔に、あたしは頷かざるを得なかった。ま、今回の件に関して、あたしは部外者だ。巻き込まれてはいるが、部外者であることに変わりはない。時に身を任せるか。あたしは教室に入ると、自分の席に着いた。




 放課後、あたしが荷物をまとめていると、いつものようにみゆきが話しかけてきた。


「今日も練習?」

「うーん、どうだろう」


 結局昼休みにも返事を聞くことが出来なかったからな。あたしとしては先に返事が聞きたいんだけど。


「ゆかりっち」


 こんな呼び方をする人間は、このクラスに一人しかいない。


「朝の話だけど、やっぱり部活に相談してみようと思うんだ。話はあたしたちがするつもりだけど、ついてきてくれると嬉しいな」


 よっしゃ!そう来なくっちゃ。


「もちろん」

「みゆきも来てくれる」

「うん」


 こうして、あたしたちは軽音部の部室に向かうことになった。



「何しに来たの?」


 部室に入って話を切り出そうとした瞬間、こんなセリフが返って来た。おいおい、そりゃあんまりだろ。


「えっと、みんなの様子を見に……」


 おい、七海。今弱気になってどうするんだ。気をしっかり持て!


 あたしが背中を小突くと、はっとした様子で一瞬固まり、


「お願い!あたしたちにも部室を貸して下さい!」


 突然だな。ま、まっすぐは悪いことじゃない。


「ふーん、抽選落ちたの?」


 だけど、相手の反応はどこまでも冷たいものだった。


「うん、そうなんだ」

「その可能性も考慮したうえで、部外でやることを選んだんじゃないの?」

「…………」


 黙り込む七海以下二名。先ほど言っていた懸念がそっくりそのまま現れた。言っていることは正しい。それを解っているせいか、反論できない様子。相手が言いたいことは解る。正しいのも確かだ。


「悪いけど、せっかく部に所属しているのに、外部の人と組むことを選んだ人に貸す場所はないよ」


 しかし、


「他当たってくれるかな?今忙しいんだ」


 何か気に食わないな。


「ねえ、あんた。ちょっと冷た過ぎない?」


 あたしはもう黙っていられなかった。


「あんた、誰?」

「誰でもいいでしょ。今はそんなこと関係ない。それより少しは配慮してやってもいいんじゃないの?今まで一緒にやってきてたんでしょ」

「で、でも、勝手に出て行ったのこいつらだし……」

「それに関して、ちゃんと謝っているじゃない。真摯にお願いもしている。それに対して、あんたの態度は何よ」


 そもそも自分の我を、部内で押し通そうとしたわけではない。勝手だったかもしれないけど、部内を荒らしたわけではない。


「確かに自分勝手かもしれないけど、都合よすぎるかもしれないけど。あんたが偉そうにしていいってことには繋がらない。もっと普通に言えば事足りるでしょ。もう終わったことに対してグチグチと男らしくないと思わないの?」

「……………」


 あたしの迫力に押されたのか、黙り込んだ。


「ゆかり、もういいよ」


 あたしが追い討ちをかけようとしたとき、七海に腕を引かれ、その場から強制退場することになった。後ろで、


「騒がせてごめん。もう迷惑かけないから。じゃあ練習頑張ってね」


 と言っているのが聞こえた。



「……………」


 黙り込んだまま、あたしたちはひたすら校内を歩いていた。行く当てがない。どこへ向かっているのかも解らない。


「……………」


 どこへ行くかは、みんなで話し合うとして、あたしはまず最初にやらなくてはいけないことを実行する。


「さっきはごめん」


 あたしは少し反省していた。あたしがでしゃばる場面ではなかった。あたしがもう少し我慢していれば、黙って見つめていれば、もしかしたら場所を貸してもらえたかもしれなかったのだ。あたしは少し大人にならなくてはいけないな。


「いいって。どっちにしても場所くれなかったと思うから。私だって少し頭に来てたし、すっきりしたよ」


 言ってくれたのは、湊だった。


「あいつ、まだ怒っていたのかなぁ。こんなこと、いつまでも気にしているやつじゃないんだけど」


 今度は真綾が口を開く。さっきの男子がどんな人間かは、あたしの知らないところだけど、その点は全く理解できなかった。


「ガールズバンドやりたいだけなんだから、少しは理解してくれてもいいのに。何も部活をバカにしたわけじゃないんだし」


 ねえ、と言う感じで、あたしは二人に同意を求めた。しかし、


「ああ、いや……」

「うーん……」


 と二人は言葉を濁した。どういうこと?


「もしかして部外の人と組む理由、言ってなかったの?」


 まさか、とは思うけど。


「実は、」

「そうなんだ」


 そのまさかだった。


「それじゃあ、軽音の人たちは勘違いするんじゃないの?」

「勘違いしているだろうねぇ」


 いいのか、それで。解っているのに、事情を説明していないのか。理由があるのだろうか。


「私たちも事情説明したほうがいいと思うんだけど、七海がさぁ……」


 どうやら七海が説明したがらないらしい。どういう事情があるか知らないけど、それって自分の首を絞めていないか?そこまでして黙っている理由があるのだろうか。


「それより、七海……」


 真綾の言葉に、あたしは七海のほうを見た。何やら落ち込んでいる様子。こっちの会話など、全く耳に入っていないようだ。それほど決別が辛かったのか。どちらにしても一応謝らなければいけないだろうな。


「七海」

「ん?何、ゆかり」

「さっきはごめん。あたし、ちょっとでしゃばっちゃったみたいで」

「あ、あー、全然!気にしてないよ。どっちにしろ場所貸してもらえなかったと思うし。うちの部活って結構人数いるし、場所持っているったって第三音楽室だけだし。まあ、ダメ元だったんだし、ゆかりっちが気にすることじゃないよ」


 気にするよ。まだまだ言いたいこともあったし、あいつの言っていることに納得できない部分もたくさんあったけど、あたしがでしゃばった事は事実。やらなくていいことをやったのも事実。あたしは謝らなくてはいけないんだ。それに、


「そんなに落ち込んでいるあんたを見たら、気にするなって言うほうが無理でしょ」

「あー……、そんなに落ち込んで見えた?」


 見えたっていうか、落ち込んでいるでしょ。あたしが頷くと、


「本当にゆかりのせいじゃないんだ。これはあたし個人の問題だから」


 微笑む七海は、いつもと違う。その笑顔もどこか悲しそうに見えた。


「あのさ、悪いんだけど、今日は先帰るね」


 そんな顔して言われたら、とてもじゃないけど断れない。


「うん。解った」

「ごめんね」


 足早にその場を離れる七海。クラスが同じなので、あたしも行くところは同じなんだけど、なぜだかそのあとを追う気持ちになれず、その場に立ち止まっていた。


「さっきのあいつだけど、」


 話しかけてきたのは、あたしと同じくその場に立ち止まっていた湊と真綾。


「あー、うん。あいつっていうと、軽音部であたしたちに対応した……」

「そう。あいつ、長谷川徹っていうんだけど」


 長谷川徹ね。どこかで聞いたことある気がするけど、ま、よくある名前だよね。と思っていると、


「あれが七海の好きな人なんだ」

「へえ。そうなんだ、って、ええぇ!」


 あー、そういえばそんな名前だったかもなぁ。あの時は完全に勢いだけだったし、今も頭に来ていたから、そんな名前忘れていたよ。そうなると、


「あたし、かなりまずいことした?」


 あたしがいろいろ言ったせいで、七海が悪いイメージを持たれてしまったのではないだろうか。あー、七海には悪いことしたな。かなり自分勝手に背中を押してしまった。


「いや、大丈夫だと思うよ。あの二人、付き合い長いみたいだし、今更こんなことでイメージ変わらないでしょ」


 答えてくれたのは、湊だ。そう言ってくれると、若干心が落ち着くのだが。


「うん。たぶん関係ないと思う」


 真綾も同調してくれる。うーん、本当に大丈夫だろうか。


「それは置いといて、今日はどうする?七海いないし、そもそも練習の意味もなくなっちゃったし」


 確かに七海の問題はここで話し合っていてもしょうがない。これからのことを考えるとするか。とは言え、結構手詰まりなんだよな。軽音部に話を持っていくという案も、すでに奥の手扱いだったのだ。まああたしが暴走したせいで、その線は粉々に崩れ去ったわけなのだが。うーん、どうしようかな。


 とうなりながら移動中のあたしたちの目の前に女神が光臨した。


「あ、日向さん、こんにちは」

「あ、岩崎さん」


 だった。誰にでも自然に挨拶できるその気さくさは実にうらやましい。自然な仕草は本当にかわいらしい。その少女は、あたしが尊敬する数少ない人物の一人だ。


「この前はありがとうございました。とても気分が楽になりました。日向さんのおかげで断固戦う覚悟が出来ましたよ」


 ガッツポーズを見せる彼女は楽しそうだったけど、礼には及ばない。


「あたしは何もしていないけど、岩崎さんがそう言ってくれるなら、よかったよ」

「はい。助かりましたよ」


 あなたが笑ってそう言ってくれるだけで、十分だ。


「それで、今何をしているんですか?こんな時間まで残っているっていうことは、文化祭関係ですか?」

「ああ、うん。一応ね」


 と言ってから、閃いた。


「岩崎さん、今時間ある?ちょっと相談したいことがあるんだけど」


 少し忙しそうにしていたので、無理かなと思ったんだけど、


「日向さんのお願いなら、何とかします。何でも言って下さい」


 言って、胸を叩く彼女は本当に女神に見えた。


「二人にもご足労願いたいんだけど、いいかな?」

「うん。いいよ」

「彼女にも興味あるしね」


 軽音部の二人も、快く承諾してくれた。




 立ち話も何なので、場所を教室に移した。


「それで、お話と言うのは何ですか?何か問題でもあったんですか?もしかして、事件とか?」

「あー、いや。そんなに大きな話じゃないんだ。その、文化祭のステージの話なんだけど」

「ステージ?日向さん、何か有志で参加するんですか?」

「うん。あたしたち、バンドを組んでいるんだ。でも、抽選落ちちゃってさ、ちょっと途方に暮れていたんだよね」

「へえ。日向さんがバンド、ですか。うーん、何か意外な気がしますね」


 そうかな。まああたしも誘われるまでは、全くやる気なかったんだけど。


「変かな?」

「いえ、変じゃないですよ。何となく日向さんってそういうことに興味ないのかと思っていたので、意外に思っただけです。似合うと思います」


 群れるのが嫌いな女、と思われていたのかな。ま、当たっているけどね。


「それで、何かいい案ないかな?」


 ちょっと唐突過ぎたかな。それに、あまりに曖昧すぎる。これではさすがの岩崎さんにも手が出せないのではないか、と思ったのだが、


「へ?日向さんご存知じゃなかったんですか?」

「え?」


 何のこと?ご存知って何が?


「この前話したと思うのですが、我々……というかTCCが新しいステージを作るんですけど、そこでパフォーマンスを行ってくれる団体を募集していますよ」

「え?そうなの?」


 あの話はこういう結末を迎えていたのか。知らなかった。


「だから私に言ってきたのだと思ったのですが」

「いや、本当に知らなかったよ」


 あたしは岩崎さん自身を信頼して相談したんだけど。あたしってそんなにしたたかだと思われているのかな。でも、とあたしは思う。岩崎さんを仲間に取り込むのはありかもしれない。


「ね、岩崎さんって、何か楽器できる?」

「え?一応ピアノは弾けますけど」


 それで十分だよ。あたしは二人に向かって、


「ねえ、どうかな?」


 と問いかける。自体を察してくれた二人は、


「うん、いいと思うよ」

「あたしも賛成」


 とOKを出してくれた。あと七海にも聞かなきゃいけないけど、岩崎さんの噂は耳に届いているみたいだったし、きっとOKしてくれるに違いない。


「岩崎さん、あたしたちと一緒にバンドやらない?」

「え?私が、ですか?」

「うん。ほら、岩崎さんが勝ち取ったステージなんでしょ!演劇の手伝いは出来ないけど、成瀬から奪い返す手伝いはしてあげられるよ」


 岩崎さんは演劇に固執しているわけじゃない、と言っていたし、成瀬の鼻を明かしてやりたいとも言っていた。それならあたしにも手伝って上げられる。


「成瀬のこと見返してやろうよ。あと、岩崎さんも精一杯文化祭を楽しもうよ」


 何よりあたしが岩崎さんと遊びたかった。出会ってから一年ほどになるけど、深く関わっていたのは例の事件だけで、友人らしい付き合いはしてこなかったのだ。だからあたしは岩崎さんと一緒に何かしたかった。


 しばらく考え込んでいた岩崎さんだったけど、やがてにっこり笑って、


「そうですね。このままではやはり気がすみませんし、私から取り上げたステージを、結局私が使っていたらちょっと面白いかもしれませんね。それに先ほど言ったばかりです。日向さんのお願いなら何でも聞く、と。ぜひ参加させて下さい」


 こうして岩崎さんを新たに加えて、あたしたちは再び前進できるようになった。あとはステージを勝ち取るだけだ!





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