プロローグ
タイトルのとおり、日向ゆかりシリーズです。今回はシリーズ二作目と同様、二人の視点から物語を書きたいと思いますので、今回は成瀬だけになります。
よろしくお願いいたします。
9月23日(月)
日数的には去年より長かったのだが、俺の体感的には本当にあっという間に過ぎてしまった夏休みが終わり、三週間が経過した。定期テストやら体育祭やらが一気に押し寄せてくるこの季節は一際忙しく、さらに時間の経過を加速させていたのだが、この時期の行事はまだ終わりではない。世の高校生は、数ある学校行事の中でも、この行事を一際重要視しているのではないか。その行事は一体なんだ?答えるまでもないだろう。中高大のいずれかの学習機関に所属していたことがある人なら、迷わず答えることができるはず。答えは文化祭である。呼び名はそれぞれあると思うが、いわゆる文化祭のことである。
他の学校の生徒もそれなりに重要視していることと思うが、うちの学校の、それも俺と同じ学年の連中は中でも特に重要視しているであろう。なぜならうちの学校はこの地区ではかなり有名な進学校であり、学業面を重視しているため、まず入学してきたばかりの一年生はクラスでの出し物が禁止されている。受験を控えている三年はクラス及び有志・部活動・委員会での出し物が禁止されている。よって、出し物に参加できるのは一年の委員会・有志・部活動と二年生のみということになる。うちの文化祭はほとんど二年生のみで形成されていると言っても過言ではないのだ。成功も失敗も二年生のやる気が鍵を握っていると言っていい。ゆえに、今年二年生である俺の学年は、燃えに燃えているのだ。
もちろん、我らがTCCも出し物を出すことが出来る。そのため、TCCの面々もやる気満々なのだが、そのやる気を発揮するために、問題があった。それは、
「俺たちは一体何を出し物として参加すればいいのだろうか?」
いささか間抜けすぎる問題ではあるが、これはかなり深刻な問題だった。
「我々の活動目的から考えると、部室を開放して、相談者を募集することですが、」
「却下だ!地味すぎる。このビッグイベントにふさわしくない!」
切って捨てたのは麻生だ。
「そんな場所作って一方的に待つだけの地味な作業、やる意味なんかないね。第一それは日常で実施しているじゃないか。文化祭だぞ、普段出来ないようなことをやらなきゃ。それも、文化祭の主役になれるような、ビッグな何かをやらなきゃ意味がない」
熱っぽく語る麻生は、生き生きしていた。とにかく派手なことが好きな男だ。誰よりも青春を楽しんでいる男でもある。そんな麻生が、部室でじっとしていられる訳がない。ま、この部室に、麻生の考えに反対する人間はいないと思うが。
「そのとおりですね。何と言っても文化祭です。非日常です。非日常である文化祭に、日常的なものを持ってくる人は、空気が読めないと言われても仕方がないでしょう」
言うのは岩崎だ。こいつもそう言うだろうと思っていた。気持ちは解った。しかし、やる気だけを語っていても一向に会議は進まない。会議で重要なことは何か。それは、そのやる気をどれだけ具体的な事実に持っていけるかどうかだ。そして、今問題視されているのは、やる内容についてだ。
「そういう暑苦しい演説は他でやってくれないかしら。耳が痛いわ。それより、何をやるか、について話し合いたいんだけど。でなきゃ、この会議は無意味だわ」
どこまでも辛辣なコメントを口にするのは姫こと泉紗織。どれだけ辛辣であろうと、事実は事実。麻生や岩崎の言っていることより、よっぽど意味がある。
「やる気があるのはもう十分解ったわ。だからこれからは何をやるか、具体的な話し合いをしましょう。確かに私たちは他の部活に比べて、やるべきことが見えにくいかもしれない。でも、それは逆に捉えれば、何をやっても大丈夫ということになるわ。うちの名前との関連はあとで適当にでっち上げるとして、先輩たちは何をやりたいの?」
「そうですね。私は演劇ですかね。私を一国のお姫様にして、私がピンチになった時に白馬に乗った王子様が助けに来る、みたいな素敵なお芝居がしてみたいです」
それのどこが素敵なんだ。手垢にまみれた、よくある発想の芝居じゃないか。本当にベタだな。しかし、姫の一言で、方向性が一気におかしくなったな。地味とは言え、部室でお悩み相談のほうがTCCらしいと思うのだが。ま、俺一人が反対したところで何の意味もないし、俺とて文化祭の日まで部室で依頼者待ちなどしたくない。
「麻生、お前はどうだ?」
「俺は、TCC主催でイベントがやりたいね。うーん、例えば何だろうな。あ、ほら、ミスコンとかどうだ?ベストカップルでもいいな。あー、ミスターレディとかでも面白そうだな」
完全に思いつきだな。俺としては構わないが、事前準備が果てしなく大変そうだな。当然推薦可、ということにするとしても、出場者が揃わなくちゃ開催は難しそうだな。審査員とかどうするんだ?何となく生徒会長とか、教員とかにも頼まなくちゃいけないイメージがあるが、参加してくれるだろうか。
「姫はどうだ?」
「ん?私は普通に出店がいいな。綿あめとか売ったら儲かりそうじゃない。あれって、材料費とかほとんどタダに近いでしょ。あと割り箸があればいいし、実質機械のレンタル代だけで済みそうじゃない。結構ぼろ儲けが期待できるかも」
恐ろしく俗っぽい答えだな。だが、一番建設的だ。俺としては姫の案に一票投じたいな。出店ってやつはあるだけで場の雰囲気を盛り上げるし、ステージでやる出し物と違って、自己満足だけで終わらない。普通に思い出も作れて、さらに賃金も手に入る。一石四鳥の案だと思う。カキ氷でもいいが、季節的に少し微妙だな。保健所との兼ね合いもあるし。現実的ではないか。
さて。会議の途中ではあるが、そろそろプロローグをまとめたいと思う。こうして、全くまとまりそうもない話をして、徐々に盛り上がりつつあるわけだが、物語の最初はこの無秩序極まりない、世間話の域を出ないほど他愛もない話だったと思う。今思えば、物語の本編とは一切関係ないようだが、これがネタフリで間違いない。
このときはまだ、あれほど大変になるなんて想像もつかなかった。