あの日僕は死んだ
あの日、山野辺唯人18歳は死んだ。
誰からどう見ても死であった。
親からの愛は受けられず、家にいてもいなくても変わらない日々、だからだろう。僕が死んだところで何も変わりはしなかった。家族も学校も会社も外国の人たちも僕が死んだところで変わらない。ただそれぞれの日々を過ごしていくだけだ。
さて、ここでなぜ僕がこんなことを考えているのか。僕、つまり山野辺唯人は最初にもお伝えしたが死んだと説明をした。ではなぜ、このような語りができているのか、僕が死んだ日の全容をお届けしよう。
あの日はいつも通り町をフラフラしていた。この日も地獄のような家ではなく公園に寝泊まりをしていたあの冬の朝。僕はスーパーからもらってきた段ボールを布団の代わりにしながら、公園のベンチで寝ていた。もちろん寝た気はしない。寝てしまうと心だけでなく体まで凍ってしまいそうだったからだ。そんないつも通りの悪い目覚めから僕の一日は始まった。
僕には特にやることはない。なぜなら何も持っていないからだ。お金も持っていなければ身分を証明するものもない。冬場の寒い日のなかただただ体力だけが削られていくだけだ。
そんな僕にも毎日の日課がある。
体力を削らないように先まで寝ていたベンチに腰を掛け、高校生の登校風景を観察するということだ。僕が高校生を観察するのはただただ体力を使わずに何かすることはないかと考えて始めたただの暇つぶしだが、これが意外にも面白かった。僕と同じ年代の人達が毎朝同じ服を着て、毎日大体同じメンバーで登校していく。部活動のため毎朝一番早く投稿をしているサッカー部の四人組、学校に遅刻してはいけないと思っている風紀委員長、いつもふざけてばかりいる仲良し四人組などなど、僕は登校している人たちに勝手に役職をつけ、暇をつぶしていた。
それでも僕の中で一人だけ気になる子がいた。それは毎朝この公園の駐車場に黒塗りの高そうな車でやってくる少女のことだ。彼女はいつもその高そうな車から降りて学校に行く。その風景は今までになく異常な風景であり、彼女が車を降りて学校へ登校する際は運転手が降りてきて、彼女が降りる車のドアを開けるだけでなく、言葉は発しないが、体を直角に曲げ、いってらっしゃいと大きな声で言っているようであった。
この日も僕は彼女がやってくるのを見ていた。だけど、今日はいつもと様子が違っていた。車は止まったものの、周りを警戒しているのかなかなか車の中から出てこない。いつもならばスムーズに運転手が彼女の乗っている席の近くのドアを開けるのだがそうはしない。何度も何度も周辺を警戒してやっとドアを開けた。
そんな警戒をしている運転手とは対照的に彼女はいつも通り堂々と出てきた。そしていつものように学校に登校をする。この日、運転手は彼女の周辺をくまなく注意し、彼女が見えなくなるまで車に戻ることはなかった。
いつもと違う朝であったが、僕には全く関係がない。
僕には何ら変わりのない朝だ。
そう、僕は変わらない、何も変わらない毎日、いつ死んでもおかしくない。そんな日々。言葉に出して叫びたいが体力が削れるから叫べない。いや、叫ぶ力も残ってないほうが正しいだろう。
そんな時だった。さっきの彼女が公園に戻ってきたのは。
どうやら彼女は何かに追われているようで、走って公園の中までやってきた。やがて彼女の後ろからゆっくりと歩きながら、大柄の男がやってくるのが見えた。明らかに彼女を追っているのだろう。彼女は僕がいるベンチのほうまで走ってくる。その表情におびえた様子はなく、笑顔を浮かべていた。そして僕のベンチの前で立ち止まり、準備体操を始めた。彼女は戦うつもりなのだろう。僕のベンチの前は広い広場となっており、冬になってかれかけた薄黄緑の芝が一面に広がっているだけだ。
そして、すぐに大柄の男はやってきた。
男は手にはナイフを持ち、彼女のことを明らかに殺そうとしていた。そして二人はお互いに正面に立ち、戦いが始まった。ただし、それは一瞬で終わった。
男が動き始めた瞬間、彼女はさっと懐から拳銃を取り出し、男の脳天に弾丸が吸い込まれていった。
僕は言葉が出なかった。
そして彼女は、不敵な笑みを浮かべ、立ち去ろうとしたところ、思い出したかのように僕のほうを向いた。
僕は驚いた。彼女が僕を認識しているという事実に。その驚きもすぐになくなった。なぜなら、僕も彼女の拳銃で撃たれたからだ。
僕は死んだ。
まぎれもない死であった。
考える暇もない、一瞬の出来事だ。
そこで僕の意識は途切れた……。
「で、実験は成功したの?」
「はい、あとは目を覚ますだけです。もしも目覚めなかったとしても、すでに死体の処理は終わっているので問題はありません」
「そう」
「では姉御、私はこれで」
「………………」
そういって男は部屋から出ていく。
………………なんで声が聞こえる……?
「起きているんでしょ」
僕はそう言われて目を開ける。そこには僕を殺した少女が立っていた。
僕は驚きを隠せなかった。
それよりも今の自分の状態がまったくもって分からなかった。
ただ、一つ言えることは僕が生きているということ、ただそれだけだ。
「今日が君の誕生日だ、今までの君はもういない。今日から君は新たな自分だ」
その瞬間、僕の目から涙がこぼれた。
僕は死んだ。
だけど、僕は生まれた。




