五色の神と太陽の子
昼なのに月が見える日だった
春川健太の場合
半分寝ボケながら朝食を食べる健太はテレビから流れるニュースを何の感情も無く眺めている
「早く食べちゃって?遅刻するわよ」
朝のお母さんは何だかいつも忙しそうだ
「健太、今日は70年ぶりの日食だって」
「うん」
日食って太陽が月を食べるんだっけ…
どうでもいいや
「行ってきまーす」
健太は早々と家を出た。
学校までの道をふと空を見ると月がずっと僕を追いかけてくる
「変なの」
「何が変なの?」
そう話かけるのは同じクラスの〝リン〟だ
「別に」
「別に?健太くんの方が変なの」
僕の顔を覗き込んで笑った
〝可愛い!〟まるで太陽みたいだ
「今日は日食だって」
そう言ってリンは少し前を歩く女子の方へと走って行った。
〝日食って何だっけ…〟
健太は軽い頭痛がした。
学校へ着くなり担任の東先生が健太の顔を見て
「健太だよな?」と見つめる
「はい…僕ですけど」
「ごめん、ごめん。今一瞬違う誰かに見えた、先生疲れてるのかな?」
そう笑う先生は明らかに僕を誰かと一瞬だけ見間違ったのがわかった
「みんな今朝のニュースで見て知っている人もいると思うが今日は70年ぶりの日食だ4時間目に夏休みの本を借りるついでに日食の瞬間をみんなで観察しよう、専用メガネの数に限りがあるから隣の人と交代で使うように」
どうやら僕は日食を見るらしい。
4時間目
図書室は苦手だ。読みたい本なんかないのに三冊もわざわざ借りて読まずに返すのに。
僕は適当に三冊本を手にした
「みんなそろそろ借りる本を決めたか?」
先生の声は日食を楽しみにしているように聞こえた。
出席番号順に窓側に並ぶ。
「健太の隣は休みか…ラッキーだなメガネ一人じめだ」
空には朝と同じ月が僕を見ていた
「そろそろだ!」
みんなのワクワクした気持ちが伝わってきた。
僕もつられてワクワクした
メガネをかけた僕は〝ハッ〟とした。
日食は太陽と月が重なって、ほんの少しの間世界を暗くさせた。その光景は思っていたよりも神秘的だった。
〝朝見た月は何だった?〟
何かおかしいと少しだけ思ったけど考えるのをやめた
「70年ぶり…」
「実は夏休み中に月食がある、興味がある人はおうちの人と見てみたらいい」
先生の笑顔はいつもよりもイキイキして見えた。
「重っ。」
僕の手に持たれた本がさっきよりも重たく感じた。
下校中の両手いっぱいの荷物と、さっき借りた本の重みでいつもより家までの道のりが遠く感じた。
「暑い… 」
空を見た。満月は姿を消していた。
家に着くなり玄関にへたり込む
「おかえりー。何?この荷物?少しずつ持って帰らないからこうなるのよ?」
お母さんは息切れする僕を見て笑った
「早く自分の部屋に置いてきてちょうだい」
「ふぅ。」
僕はため息で返事をした。
部屋の扉を開けると、鍵盤ハーモニカ、習字セット、絵の具セット、リコーダー、重すぎる本を部屋に投げ入れた。
窓を開けようと足を進めると足の小指を本にぶつけて健太は悶絶して縮こまる。
「痛てぇ、チッ」
舌打ちしながら立ち上がり再び窓を開けようとしたその時、風などあるはずもないのに借りてきた一冊の本がペラペラとページをめくる
「うん?」
窓を見ても鍵までしっかりかかっていて風なんて入りようもない。
僕は本を手にする。開かれたページに書かれていたのは何かの暗号と日記みたいな物だった、何も書かれていないページもある。
表紙には〝黄〟と書かれていた。
「何だこれ」
窓を開けると月が見えた
「あれ…日食って新月の時の起こるとか先生言ってなかったか…」
その時さっきの本が揺れて光を放つ
「えっ?」
僕は一瞬の出来事で何が起きたか分からず眩しくて閉じた目をそっと開けた
「ここは…どこだ?」
静かな空間に光る星は今にもつかめそうだ
ふと下を向くと青い地球が見えてわかった
〝ここは宇宙だ〟
「集めよ、選ばれた者よ。時は満ちたのです。集めよ」
〝ハッ〟とした時、僕は自分の部屋にいた
「今のは何だよ」
本を見てページをめくるとさっきまで読めなかった暗号までの読めるようになっていた
〝集めよ、集め。青、赤、黄、白、緑の本を手に賢者を集え〟
健太の頭の中に知らない記憶が流れこむ
小高い丘から見える綺麗な海と二つの太陽静かな木々と鳥居の前で僕たちは約束をした
この世界から太陽が消える時、再び会おう
太陽を五つに分けて封印し五色が集うその時に世界を救え
「そうだ、俺は…この時をずっと…」
健太は本を手に取り家を飛び出した
「健太、どこ行くのー?」
いつもと変わらないお母さんの声が背中に当たって僕は泣いた。
だって急がないと世界が終わるから
健太が息を切らしながらやって来たのは学校の図書室だった。
「開いててよかった…」
司書の泳さんが少し驚いた顔で汗だくの僕を見た
「夏休みの本借りるの忘れちゃったのかな?」
僕は本を見せた
「この本…あの、これに似た本があと四冊あると思うんですけど…」
泳さんは頷きながら本を手にし表紙と裏を何回か見て本を開きながら不思議そうな顔をした
「この本、君の?…同じ物があるか調べたいんだけど作者も書いて無いし出版元も記載が見当たらなくて探しようがないなぁ」
「僕、今日ここで借りたんです」
「どこら辺にあったの?」
「えっと…窓際の」
その時、健太は目を疑った。確かに窓際にあった本棚がないのだ、泳さんは少し困った顔で僕を見た。
急に恥ずかしくなって
「間違えました!失礼します」
大声で言うと僕は本を両手に抱えて学校の図書室を飛び出した。
〝確かに学校で借りたのに…〟
健太は自分の頭がおかしくなったのかと一瞬思い、もう一つの仮説と立てた
〝誰かが勝手にこの本を学校の図書室の棚に入れたんだ〟…でも棚ごとなかった
健太はふと空を見上げた
「太陽が…なくなる」
そんなわけがない。急に自分が馬鹿馬鹿しくなった
健太は肩を落としながら、トボトボと歩きだしだ。
夏村トーマスの場合
「夏は憂鬱だ、早く秋になればいいのに」
トーマスは強い日差しに当たると日光湿疹が出てしまう体質な為、夏が嫌いなのだ
青白い肌に青い目をしたトーマスはお父さんが日本人でお母さんがスイス人のハーフだ
綺麗な顔立ちで小さな頃はよく女の子に間違えられた。
朝から良く晴れた日は学校を休む
カーテンが閉められた部屋に横たわるトーマスは天井を見ながら一粒の涙を流した。
両親はパン屋を営んでいる為、朝はトーマス一人だ、年の離れた姉はスイスの大学へ留学している。
居間のテーブルに置かれたパンは食べ飽きたけど一口食べれば必ず美味しいと思うのだ
トーマスは朝食を食べながらラジオを聴くのが日課であった。
ラジオから流れる曲は知らなかったり知っていたりしてたまに好きだと思える曲に出会えるのが好きだった、そして何より顔が分からない誰かが話をして笑ってるのが心地よかった。
「今日お送りする曲のテーマは夏!明日から夏休みなんて方も多いのではないでしょうか、そして今日は70年ぶりの日食があるんですね!少しだけ太陽が隠れて暗くなる神秘的な光景が見られるようですよ…」
トーマスはパンをテーブルに置いて立ち上がった
「外に出れる!」
トーマスは太陽に勝てる気分になった
ラジオの音量を上げ日食の時刻を耳に記憶し部屋に戻ると閉められたカーテンを見て笑った
日食時刻まであと10分となりトーマスは腕時計を見ながらワクワクしていた
「5、4、3、2、1、」
トーマスは玄関のドアを思いっきりあけ外へ出た
太陽はジリジリと世界を照らしている、あまりの日差しの強さに一瞬家に入ろうとしたが両手を広げて空を見た。
少しずつ確かに太陽がかけて行くのが肉眼でもわかった。辺りは少しずつ暗くなる
「さよなら、太陽!」
太陽が完全に月と重なり暗くなった時、トーマスの頭に知らない記憶が流れ込む
〝青〟と書かれた本を持ち仲間に別れを告げていた
「太陽を守れ、その為に私は西へ行く。人類を守る為、遠く離れようとも始まりの地でまた会おう」
その一瞬の出来事は鮮明で全身に鳥肌がたった
〝あの本は…〟
トーマスにはあの本を知っていた。
母の祖父が日本へ行く孫娘に持たせた物だ誰も開くことが出来ない本。
ただの分厚い紙の塊だと母は笑っていた、お守り代わりに枕元に置いているあの本だ。
だんだんと太陽が光を取り戻し地上へ降りてくる
「神様みたいだ」
太陽が苦手なトーマスは形無き光に神秘を感じた。
両親の寝室に入るのはいつぶりだろうとベットの上の棚に目をやると一冊の本が光輝いていた。トーマスは本を手に取り思ってもみない事を口にする
「時は満ちた」
すると本がパラパラとページをめくらせる
「集めよ、選ばれた者よ。時は満ちたのです。集めよ、集え」
〝あの場所へ行かなくちゃ〟トーマスは震える指と高鳴る鼓動に震えた
夕方、一足先にトーマスのお母さんが帰宅する。
「おかえり、あの…ママのお守りの本少し借りてもいいかな?」
「いいけど…怖い夢でも見たの?」
トーマスのお母さんは笑う
「そうなんだ、すごくリアルな夢をね」
トーマスは次に何をするべきがどこへ行けば良いのかが何故だかわかった。
二十日後の月食の日にあの約束の丘へ行く
そうしなければ…
秋山直美とジョーの場合
イギリスから祖父の家へ遊びに来た、直美とジョーは男女の双子だ。
二人の祖父の秋山辰夫はアフリカ系アメリカ人ダイナと結婚し一人の男の子を産んだ。
その男の子が直美とジョーの父親だ、父は日本育ちだが外資系の仕事で出会ったイギリス人と結婚した。
直美とジョーは日本とアフリカとイギリス人の血が流れている。
直美は小麦色の肌に癖毛を一つにまとめた美人な女の子だ、ジョーは色白でブロンドに緑の目にそばかす顔が愛らしさを誘う男の子だ。
二人は夏休みにどうしても日本のお爺ちゃんの家に行かないとならない理由があった。
ー 一ヶ月前 イギリス ー
まだ薄暗い朝に学校に行く準備をする直美とジョーは窓の外を見て溜息をつく
「今日も雨か…」
お父さんは傘を渡してくれるけど、
〝このくらいの雨なら誰も傘なんてささないのに〟
二人はいつもそう思っていた。
直美とジョーはサイエンスクラブが一緒であるがそれ以外はクラスも遊ぶ友達も違う
クラブでは夏休み中に様々なジャンルから課題を選びレポートにまとめて夏休み終わりの初めの授業で発表しなくてはならない。
二人一組でペアになり、レポートを進めてく上で中には恋人になるなんてケースもある
ペアはくじ引きで決める
くじ引きで相手が双子の兄弟なんて直美とジョーは両手で顔を覆う、クラブのみんなは「双子のパワー」「運命ね」などと言った。
直美とジョーは呆れ笑いで仕方なく二人で課題を決めようと話し合う
周りがなかなか課題が決まらない中、直美とジョーはあっさりと課題を決めてしまう、双子なだけあって互いの理解が早いのは利点だ。
課題は〝日食と月食〟
数日前に日本のお爺ちゃんからテレビ電話で「70年ぶりの日食がある」と話をしていたからだ
家に帰宅し屋根裏をあさるジョー
「あった!!日食メガネ!」
小さな頃にガレージセールでサングラスと間違えて買ったのをジョーは覚えていたのだ
お気に入りで毎日かけていた。大人たちはそんなのジョーの事を笑ったが当時はそんなのはお構いなしだった。
久しぶりに眼鏡をかけるジョー
「懐かしいなぁ」
屋根裏部屋を見渡すと、うっすらと光が見える、白い光と緑の光が薄暗い屋根裏部屋に光る
「なんだあれ?」
ジョーは眼鏡を外して光の方を見た
「あれ?」
光は見えない
「気のせいかな…」
また眼鏡をかけると光が見える、ジョーは何回か眼鏡を外したり付けたりして光を確認した
「やっぱり眼鏡をかけると見えるんだ」
ジョーは眼鏡をかけたまま光の方へと近づく、光は強くなり思わず眼鏡を外して目を瞑った。そっと目を開けると、そこには二冊の本があるだけだった。眼鏡をかけて本を見ても光はもう見える事はなかった。
ジョーは本を手に取り部屋に行く
「さっきのは何だったんだ?」
直美が部屋に飛び込んでくる
「今、パパから電話で夏休みは日本に行くって」
「マジかよ!最高じゃん!」
二人はハイタッチをした
その瞬間本が光を放ち本が開く
「集めよ、選ばれた者よ。時は満ちたのです。集めよ」
「今の聞こえた?」
「聞こえた」
二人は本に近づく
「何か書いてある」
本に触れると、直美とジョーの頭に知らない記憶が流れ込む
「どうして忘れていたのかな?」
直美は涙を流した
「そうだ、俺たちはこの日をずっと待っていた、それがもうすぐ叶う」
「太陽が亡くなるその時に私たちは…」
まるで全てに導かれているかのように約束の地へと行くのだ
その場所は 〝熊本だ〟
日食の日、直美とジョーは日本行きの飛行機に乗った
冬木ヒバリの場合
ヒバリは海辺でクラスメイトたちと日食を見ていた
「ヒバリちゃん泣いてるの?」
友達のチエが心配そうにヒバリを見る
「これが合図だ」
ヒバリは学校では変人扱いされていた、中には神様の使いと一歩引いて見る者や霊能者などと揶揄われたりした
ヒバリの祖母はこの土地の人が知らない人はいないほど有名な〝ユタ〟であった。
ヒバリは会った事はないが祖母が亡くなった一月後に母はヒバリを授かっている事が分かり周りからは生まれ変わりだと言われた。
だが本当に生まれ変わりかもしれないと、ヒバリは物心ついた頃からそう思っていた。
理由はヒバリにはある事を成し遂げなければならいという信念があった。
約束を果たす為。
そしてヒバリは幽霊、つまりは死人が見えたのだ、さっきヒバリを気にかけていたチエは少女の霊だった。
祖母から受け継がれた本には〝赤〟と書かれていた。
その本の文字を読めるのはヒバリだけであり、ヒバリの母は途切れ途切れには読めたものの内容を理解するには及ばなかった。
〝赤の書〟に書かれている事はこれから起こる事が書かれていた。
この内容を13歳の少女が話たところで誰も信じてはくれないであろう
『日食を合図に数日後にある月食と同時に太陽が無くなり世界は数時間で氷の大地となるだろう』
ヒバリはこの本を読む前から分かっていた
約束の地で太陽の封印を解き二つ目の太陽を天に還す使命がある記憶を鮮明に覚えていた
チエがヒバリに話かける
「もうすぐお誕生日だね」
その言葉にヒバリは冷や汗を出す
カレンダーを凝視して確認する
月食の前日に14歳になるのであった
「忘れてしまう…」
赤の書にはこうも書かれていた
『鳥の名をもつユタの子が14歳になった時記憶は本に還される』
約束の地に行ったとしても目的を忘れてしまうのだ。
ヒバリは自分宛の手紙を赤の書に書いた
ヒバリへ
この手紙を読んでいる事を切に願います
どうか自分を信じて下さい
鳥居が見えたなら、丘を登り、緑を抜けたなら左手に海が見える場所に仲間が貴方を待っている
小高い野原と天を繋ぐ
その時、時が満ちた印が封印を解く
ヒバリより
『約束の日時は8月23日
午後7時9分』
その頃、健太、トーマス、直美、ジョーの本が光る
皆は本を開くと、赤い字でヒバリが書いた文字が浮かび上がり驚く
「これは誰かが書いた文字がみんなに伝わるのか?」
『こんにちわ 僕はトーマス 青の本を持っている者だよ』
文字は青字でみんなに伝わる
『私たちは、直美とジョー白と緑の本を持って今、日本の大分にいます』
『僕は健太、熊本県に住んでいます、黄色の本を持っています』
信じられない気持ちと今起きてる状況を誰にどう説明ができようか。
五人は本に手を置き、胸の高りを感じた
その時、五人の脳に地獄のような光景が浮かぶ
辺り一面息をするよりも早く大地が凍りつき海でさえも凍りついてゆく、人に逃げる余地も与えてもらえない、人々は氷像のように凍り風が吹けばその場で倒れ砕けて真っ赤に消えてゆく
あまりの光景に直美は嘔吐してしまう
『私たちは太陽の子』
赤い文字で浮かび上がる
本が勢いよく閉じた
それ以降文字を書こうとしてもペンが紙に触れる事ができなくなった。まるで磁石のS極とS極が互いに引っ付く事を嫌がるみたいに
互いに名前といる場所はわかった、ただ
トーマスとヒバリの場所だけは分からなかった。
8月22日
「おめでとう、ヒバリ。どうか私を思い出して…」
その声で目が覚めるヒバリ
「あれ、私…」
「ヒバリ、おはよう」
ヒバリの母が優しい笑顔でヒバリを見つめている
「お誕生日おめでとう、貴方が誕生日にどうしても行きたがっていた五色祭に行くわよ」
ヒバリは母が何を言っているのか分からずカーテンを開ける
見知らぬホテルの一室の窓から空を見つめる
「朝なのに満月…」
「そうなのよ、今日は月食」
「月食…?」
ヒバリは何か大切な事を忘れてしまったような気でただ月を眺めた
鹿児島県
「どうしてこんなに晴れちゃうんだよ…」
トーマスは頭を掻きむしりながらカーテンを閉める
「予定通り行かなくちゃ…」
晴天の空は気温を上昇させる
「こんな日に長袖の奴なんていないだろうな…」
「トーマス本当に行くの?」
「ママ、今日僕が行かないと…世界が凍りついちゃうの!」
「えっ?ハハハハハッ」
トーマスの母は笑いながらトーマスを送り出した
「みんないるのかなぁ本当に…」
五色祭
「健ちゃん?」
「リン!」
「すごい人だねぇ、五色祭と月食の日が重なるからかな?他国の人も多いねぇ」
「本当にすごい人だな…」
「健ちゃん本なんて持ってどこ行くの?」
「約束の場所だよ」
リンは何も言わず満開の桜みたいに笑って手を振った
足が勝手に進む、まるで引き寄せられるかのように
小高い丘を登り左手に海が見えた
「ここだ!」
健太が着くよりも先に二人誰かが待っていた
健太は本を掲げた
黄色と白と緑の光が交わり
3690年前の記憶が蘇る
「久しぶりだね」
「久しぶりね」
初めて会う相手にそう言った
時刻は7時
「あと9分で始まる、後の二人を信じて待とう」
ジョーの言葉に三人は無事にここへ来る事を祈った。
五色祭 夕刻6時45分
トーマスは強い日差しを浴びて全身が痒くなり木陰で歩けなくなっていた
「やばいよ…もう目の前なのに」
トーマスは唇を震わせた
「すいません、母とはぐれてしまってさっきまでここに居たのですが、私によく似た女の人を見ませんでしたか?」
トーマスは顔をあげた、その顔色の悪さに少女は驚く
「大丈夫ですか」
少女がトーマスの背中に手を置いた時カバンから光が漏れてくる
「えっ…赤い光…もしかして君はヒバリちゃん?」
「…どうして私を知っているの?」
「やっぱりそうか!記憶がないのかい?」
トーマスは自分の青の本を開いてみせた
「これと同じ文章が君の赤の本にも書かれているはずだ!」
「あなた…幽霊じゃないわよね?」
「さっき僕の体に触れたじゃないか、さぁ早く本を開いて!時間がないんだ!」
ヒバリは自分の本を開くと確かに同じ文章が自分の字で書かれていた
「ごめんなさい…でも…」
柔らかい風で次のページが開かれる
『鳥の名をもつユタの子が14歳になった時記憶は本に還される 太陽を還す時は満ちた。約束の地へ』
目を丸くして立つくすヒバリの手を取りトーマスは立ち上がって二人はそのまま駆け出した。
走る度に肌が擦れて千切れるような痛みを感じながらトーマスはヒバリの手を強く握って小高い丘を駆け抜けた
7時7分
息を切らすトーマスとヒバリの視線の先には、健太と直美とジョーが立っていた
「私帰る、何がなんだかわからない」
ヒバリは後退りする
「私は直美、ヒバリ記憶がないのね…何も怖くないわ、私たちに力をかして」
本が強い光を放つ
7時8分
「手を繋いで!」
ジョーの声の気迫にみんなが手を取り円になる
それぞれの本が光を放ち地と天を繋ぐ
3690年前の記憶が鮮明に蘇る五人
月と太陽の反転期に太陽が二つ生まれた
五色の神は一つの太陽の光を封印した
光を失った太陽は月になった
やがてくる未来に太陽が役目を終える時、五色の子孫が集い封印は解かれ月は光を取り戻す
役目を終えた太陽は月となる
7時9分 月食
五人は立ち祈った、3時間半ただ祈った
月食が終わりを迎えようとした時、天から声が聞こえた
『姿が変わり忘れても、我々は一つ
血と時が導く時 そなた方に知恵を授けよう その知恵を分け合うのです 知恵はいつでも側にいる』
「チエ…貴方はいつも側にいてくれた」
ヒバリが涙を流すと五人はその場に座り込んだ
「成功したんだよね?」
トーマスの言葉にみんなは顔を見合わせる
「あぁ、世界は凍ってない」
ジョーが優しく呟くと直美はその場で飛び跳ねた
トーマスの肌の湿疹は綺麗に消えていた
僕たちはここで暮らしてた
太陽を封印したまま一緒には暮らせなくなった
太陽を分け合った五色の神々は其々の地に旅立った
また会う日を信じて