炎と血と——鈴谷 優士
彼の胸ぐらを掴み、怒鳴りつける。
「なんてことをしてくれた!」
グァルディーニは素知らぬ顔をし、ジャケットの襟を捕らえていた僕の手を解いた。
彼を放して、自分の手にも返り血が付着したことに気がついた。
「あんな男気のある奴、脅迫なんて無理さ」
グァルディーニが勝手口の方に逃げるものだから、それを慌てて追いかける。
「あいつの男気なんてどうでもいい。問題は彼を今回の計画に賛同させることだ。アルバーンがGeM-Huの第一人者でいる以上、彼の協力は絶対——」
「レオナルドを引っ捕らえて無理やり研究室に閉じこめても、協力は得られなかっただろう」
僕の話を遮り、弁明をはかるグァルディーニ。
「お前がダニエル達を人質にしているなんて言ったのがまずかったんだろうな。まだ指に痕が残ってる」
グァルディーニは右手の人差し指を眺めながら言った。
アルバーンは最後、突きつけられていた拳銃を掴むと、銃口をくわえ込み、両手で引き金を押した。
グァルディーニはとっさに人差し指を引き金とグリップの間に指を差し込んで発砲を阻止していたが、途中で諦めた。
何を思ったのか指を抜いてしまった。
「僕が言っているのは、アルバーンが協力するかしないかじゃない! 少なくとも死なせるべきではなかった!」
「いや、レオナルドは生かしておいても自殺する」
何を根拠に。グァルディーニは時折楽観視しすぎる。
グァルディーニを追いかけていると、いつの間にキッチンに来ていた。
彼はガス栓を開け、コンロに点火する。血の付いた上着を脱ぎ、それに棚から出した料理油を掛ける。
家ごと燃やすつもりだろう。
さすがに証拠隠滅に慣れている。
その上着を火のついたコンロに放る。
そそくさとキッチンから離れていく中、もう一度彼に告げる。
「アルバーンがいない今、GeM-Huの研究開発は10年遅れたぞ。あの方にはどう説明する?」
事の重大さを分かっていないような口ぶりで、グァルディーニが答えた。
「大丈夫さ。お前が10年早めたらいい。できるだろ?」
部外者というのはいつも理解が足りない。推測で話を進めるのはいいが、理想値を求めないでほしい。
レオナルド・アルバーンという男は僕から見れば怪物だ。
遺伝子工学と生理学で博士号を取り、システム生理学を開拓した。
しかも複数人で協力してするような研究を、一人ながら半分の日数で仕上げてしまう。彼のマルチタスクの能力、頭脳の広さは真似できない。
それと同等の仕事を僕に任せられると困る。目覚めている時間すべてを研究に回しても追いつけないだろう。
彼の開発したGeM-Huについても、一から研究しなければいけない。
グァルディーニを置いて、この家のどこかにある書斎を探した。
彼から借りられるものは借りなければ、いつか僕がアルバーンのもとに逝くことになるかもしれない。
そこで僕は、あいつの残しているかもしれない研究のヒントを探すことにした。
木造家屋を焼く煙の臭いを嗅ぎながら、屋内を泥棒のように、あいつの書斎を探し回った。