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首から上

作者: バイニク

 私はホラー小説を描き続けて20年以上経ったクンセイのような人間です。現在私は38歳で、発達障がい者の認定を受けて障害者作業所で働いております。その人間が読み切り短編を書きました。今回は字数も少ないのでぜひ読んでやってください。

 読んで頂いた方々に有意義な時間を過ごしていただければ幸いです。また、なにかしら作品に刺激を受けて、元気を与えることができたなら、それが私の何よりの本望であります。

 1

 

 結界が壊れた。麻痺していた感覚がよみがえり、全身に元の強大な力が戻った。

「ねえ」

 お姉さんが目を赤くして言った。死のふちから蘇った最愛の弟に向けて。   

「全部、私のものよね?」

 その姉のよこしまな表情は、見たくなかった。弟は静かに目をつむった。

「うん、全部あげる」

 弟は姉の手を握った。電気じみた膨大なエネルギーが姉の手へと流れた。

「コレでスベて、わたしのもの……」

 姉は感電したように体を細かく震わせた。全身を駆け巡る弟のエネルギーが姉を巨大なモンスターへと変化させようとしていた。

 だが、それも束の間、バーンと大きな爆発音がした。姉の四肢は木っ端微塵に破裂した。

「大きな力には、それ相応の代償がある」

 弟は原型の崩壊した姉の遺体に、そうつぶやいた。

 たった一人の最愛の家族の死に、弟の涙はなかった。

 しょせんは弟の力を手にしたいがために、結界を壊してくれた薄っぺらい繋がりなのだと、弟はおのれの悲運に涙を流した。


 

 2

 

 世界のだれもが幸福を求めて生きてきた。富、権力、名声、誰もがそれらを渇望して生きてきた。

 人が生きている意味はわからない。だからこそ人は欲に忠実だった。生きている証を刻み込みたかった。生物的な本能から子孫も残した。

 何世代も繰り返し行われてきたそれは、ついに終焉を迎えた。

 なぜ終わったのか、それは人の多様な価値観が変わったから。

 つまり多様な生き方を否定される時代が訪れて、そのために虐殺を行う独裁者が誕生した。

 その独裁者は原始的な欲求のみを欲した。腹が減れば食い、自由気ままに性欲を満たし、眠たくなったら寝る。

 その欲求を叶えるためなら、どんなに人を殺したってかまわない。その独裁者ならそれが可能だった。

 理由は、圧倒的に強かったからだ。武力ではない。暴力のみで世界を全て自分の支配下におけるほどの強さだ。彼は人を超越する突然変異の生物とも呼べる存在だった。

 彼を止める術はこの世に存在しなかった。

 だがいずれその独裁も終わりを迎えた。

 より強力な人を超越する人が生まれた。あらゆる理を否定する能力を持っていた。そんな化け物に誰も勝てるわけがなく、独裁者はとうとうその男によって殺された。

 その男は、人々が元の生活に戻ることを望んだ。元の人間社会をまた一から築きあげようと思った。

 だが、人はまた新たな独裁者の誕生を恐れた。秘密裏にその男の理を否定する能力をしばる結界を作り上げたのだ。

 その男は結界に封じられて、幾千年もの間、身動き一つ取れなかった。  

 その男の姉が、結界を壊すまでは。

 男はその強大な力を奪おうとした姉の理を否定して始末した。そして自分を捕らえた人々への失意を抱えて、新たな理を否定することにした。

 それが人々の首から上を消すことだった。殺すわけじゃない。首から上を消すだけだ。男が理を否定して、全世界の人の首から上の、顔にあたる部分が消失した。

 これから語るのは、そうなってから少し先のことになる。



 3


 心が満ち足りていないと悪いことをする。

 渇いた心が、悪行で満ちることはない。それでも、なにかをせずにいられない。

 首から下だけの人々の生活は、そんなむなしい感情の連鎖を繰り返していた。

 顔のない人間、顔のない生活、その苦しみに耐えられず自殺するものも後を絶たない。

 人は、いかに点でお互いを認識していて、線で人を捉えていないかがよくわかる。

 顔がないと相手の正体がわからない。ゆえに恐ろしい。なにを考えているのか、自分をどう思っているのか、首から下だけではわからない。

 わからないと人は不安になる。怖くて助けて欲しくなる。光を求めて手を伸ばす。

 だがそれに手を差し伸ばす人がいたとしても、そいつは首から下だけの薄気味悪い怪物だ。  

「皆さん、落ち着いてください。僕たちは正常です。首から下はありませんが、それだけです。普通に生きていけるんです」

 ある日、マイクを持ってそう演説した若者がいた。彼も首から下だけの人だった。その演説を聞いていた聴衆も首から下だけの人だった。

 その若者は思いとは裏腹に、首から下だけの聴衆は殺し合いを始めた。

 彼の演説でなにを思い、なにを考えそう至ったのかは、首から下だけの生活をしてきた彼らにしかわからない。

「ゲべべ、ゲべべべ」

 首から下の人の鳴き声だった。それは同じ首から下の人を殺したさいによく発せられる鳴き声だった。知性が吹っ飛んだのか、頭が狂ったのか、ラりったのか、誰にも知る由はない。



 4


「ねええええええええええええ」

 首から下が言った。胸がふくらんでるから女かもしれない。

「なにいいいいいいいいいいい」

 首から下が言った。生殖器の辺りがふくらんでいるから男かもしれない。

「あそぼおおおおおおおおおお」

「なにしてあそぶのおおおおお」

「ゲべべ。ゲべべべ」

 鳴いた首から下が、生殖器の辺りがふくらんでいる首から下の腹にパンチした。首から下はもんぜつし、転がった。

「ゲべべ、私の人生返せ、返せ、返せ、返せええええ」

 首から下は、もんぜつした首から下の首にかみついた。肉を裂き、動脈をひきちぎって殺した。

「あはははは、誰も私を、止められない!」

 この二人は元々、恋人だったようだ。首から下しかないので確認はできないが。

「いたわしい」

 ふと誰かの声が聞こえた。首から下の理を作った強大な力を持った男だった。彼は、理を作ってから世界各地を巡ってその様子を見てきた。

 その彼の万感の感想が、いたわしいだった。

「いたわしい。ああ、いたわしい。首から下の、クソったれどもが」

 彼は理を解いた。瞬く間に世界の人々の首から上が、顔が戻った。元の世界に戻ったのである。

 だが、世界では同じことが起こった。誰しもが満ち足りていなかった。誰かを殺して、心の隙間を埋めようとした。首から上があろうが知ったこっちゃない。我が身が可愛いのだ。

「いたわしい」

 理を作った男はそれがわかっていた。人に希望なんてないことに。首から下の理はそれを確認するためのものだったろうか、それはわからないが元気な悲鳴が聞こえている。

「ゲべべ。ゲべべべ」

 理の男もそう鳴いていた。




 了

 

いかがでしたでしょうか。この作品は私の好きなタイプを具現化したものです。

 少しでも楽しんで頂けたなら嬉しいです。なにかしら気になる点や批評、感想等あればなんでもご連絡ください。



bainiku@gmail.com @bainiku081 Gメールやツイッターでも受け付けております。

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