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094 第15章 トドマの港町 15ー1 トドマの冒険者ギルド

 大きい鉄剣も研ぎ直しである。

 そして、荷物の準備も終えて、トドマへ向かうのだが、大谷の荷物は引っ越しといっていいレベルで、全てを持って行く事にした。

 94話 第15章トドマの港町

 

 15ー1 トドマの冒険者ギルド

 

 翌日。

 

 朝は起きたらストレッチ。まだ外は暗い。

 それをおえたら、空手と護身術。

 剣の鍛錬。街で買ったロングソードとダガーだ。

 

 ブロードソードは研いでいる途中だ。

 

 明るくなってきたところで、井戸の水で顔を洗って、休憩。

 

 井戸の横に置きっぱなしだった砥石のところにブロードソードを持ってきて、研ぎ始める。

 小さく毀れている場所が多く、刃を一直線にするために研ぎ続ける。

 黙々と研いでいると、もう昼になっていた。二つの太陽がほぼ真上だ。

 やっと片方が終わりもう片方も研いでいく。

 こちら側は、それほど酷くはない。やはり、『人外』の剣を受け続けた方だけが、傷んでいたのだ。

 暫く研ぐと、なんとか仕上げに入る事が出来た。

 

 続いて、大きい鉄剣のほうだ。

 イグステラの角をへし折って、そのまま、魔犬のおでこから脳内の魔石まで達して、魔石にヒビが入っていたくらいだから、剣先は傷んでいる。

 

 まあ、魔獣に大分使った。あとはあの黒装束の男の腕を斬ったが、鎖帷子の様な鎧は着ていなかった。あいつ等は体術に余程自信があるのだろう。

 あの速さと狭間の空間に入りこむあの特殊な能力があれば、鎧なぞいらぬ。という事だろうな。

 

 少し溜息をついて、剣の点検を続ける。

 助かる事にほぼ(こぼ)れている場所はない。

 しかし、切っ先はだめだ。ちょっと毀れている。

 昨日ざっくり見た時に、僅かに毀れているのが見えたが、そこ以外は毀れている所はないようだ。

 まずは切っ先の研ぎ直しからだ。黙々と研いで、大分時間を使った。

 

 あとは、刃の両方だが魔獣を叩き斬っているのだ。鈍るまでは行っていないが、研いでおこう。

 これも、黙々と研いでいると、日がとっぷりと暮れた。

 

 松明に火を灯して、後片付けをする。

 さらに、ここで革にたっぷりと獣脂を塗りこんでから家の中に取り込み、一回よく揉んでから家の中で吊るした。これで、たぶん戻ってきたときには使えるだろう。

 

 さて、今日一日を研ぐだけで使ってしまった。

 ま、道具は大事に。自分の命を預けているのだから。

 

 取り敢えず、ブロードも鉄剣も一回水で洗い流してからタオルでよく拭いた。

 獣脂が滲みたぼろ布で一回拭いておく。気持ち、錆止め。

 

 さて、夕飯だ。まずはランプに火を灯す。

 それから(かまど)に火を(おこ)す。

 

 今日は、塩漬け肉を厚めに全部切る。

 多分暫くこの家に戻れないから、腐らせるくらいなら、全部食べよう。

 

 スキレットに厚めに切った肉をどんどん載せてそこに魚醤を僅かにかけた。

 残った肉の半分はぶつ切りにして鍋に入れる。塩水を作って、そこにこれまた魚醤を僅かに入れて煮込む。

 残った肉は、削って作ってある串にどんどん刺して、遠火で炙る。炙り焼きだ。

 

 スキレットの肉が程よく焼けてきた。

 炙り焼きの肉に塩を振る。

 野菜が無いのが痛い。

 

 出来上がったようだ。

 手を合わせる。

 「いただきます」

 やや塩分過多な気がする鍋の肉スープを飲んで、中の肉も食べつつ、スキレットの肉も、全部食べる。

 まあ、魚醤を僅かに利かせてあるので、村の時よりは遥かにましになっている。

 調味料が有るって素晴らしい。

 

 遠火で炙った、炙り串を食べながら考えた。

 

 今回の街道掃除作戦がどれくらいかかるのか。

 ベルベラディから来るという応援だって最低二日、たぶん三日くらいは掛かりそうだ。

 そして人員補充は第三王都からだと言ってたしな。

 

 そして真司さんたちが、街道の魔獣を徹底的に駆除するのに、どれくらいかかるか。

 正直、私のような餌が無い状態だと、遭遇自体が運任せだ。

 そして、かなりの距離がある街道沿いを全て探索して駆逐するとなると、やはり三〇日とか掛かるんじゃないだろうか。

 そして、だ。あのマースマエレファッスみたいな、やばい魔獣が出たらどうなるのか。

 

 スッファの支部での反応よりも、傭兵隊長のルイングシンフォレストの反応のほうが、当てになるだろう。

 けれど、彼も相当に驚いていたようだし、やばいのは確かなのだ。

 あの霧は白金の二人でも、物理的に吸い込んだらアウトだ。

 まあ、支援の魔法士たちが風でも送って、吹き飛ばしてくれる事を期待するしかないだろう。

 

 事によると三〇日どころか、六〇日くらいは掛かるかもしれないな。

 スッファ支部が整うまでは戻って来れないだろうか。

 そして、私のほうだって、長く掛かるかもしれない。

 

 そんな事を考えていたら炙り串がすっかり冷えてしまった。

 もう一度竈の熾火(おきび)で、温めて食べる。

 しかし、固くなり過ぎて、串から引き抜くのも大変だった。

 固くなった肉のぶつ切りを(かじ)る。

 やれやれ。

 

 全部食べて、お腹いっぱい。

 手を合わせる。

 「ごちそうさまでした」

 合掌のまま、礼。

 

 手っ取り早く片付ける。

 獣脂のランプに火を灯し、桶で洗って軽く拭き、台所に置く。

 竈の熾火も灰を掛けて消す。

 

 今日は早く寝る事にした。

 

 ……

 

 翌日。

 

 何時ものように、起きてやるのはストレッチだ。

 そして空手や護身術と剣の素振り。

 

 全ての剣の研ぎも終わり、準備は整った。

 鉄剣の剣帯を持っていく事を考えれば、自分で作ったリュックのほうがいいだろうか。部屋の隅においておいた自分の荷物を全て自作リュックに入れる。

 

 もう一度、オセダールが用意してくれた中型リュックの中身を点検して、魔石のポーチは取り出した。

 自作リュックの中に中型リュックと肩掛けのバッグも入れて、リュックの後ろに鉄剣を結びつける。

 その上にロングソードも結びつけた。

 

 ふと思いついて、鉈と小さなスコップも括り付けた。これだと村を出る時に持ってきた物全部だな。後は砥石も忘れずに。

 あとは、宿についてから日々使う物と、そうじゃない物を分けておけばいい。

 そして、日々の任務に中型のリュックを使うか。

 

 そして水を入れた革袋。二つ。

 オセダールが持たせてくれたバッグに入っていた物は質がよく、皮から変な味が出たりしない。水筒の代わりがこれなので、まともな水の味が有り難い。

 

 まずは鉄剣の剣帯を肩にかける。

 トークンとお金の入った小さいポーチも肩から袈裟懸けにする。

 魔石入りポーチも反対位置になる様、袈裟懸して右側。

  

 それからこの二本の剣を縛り付けた、自作リュックを背負う。

 

 家の戸締り。とはいっても、カギがある訳でもない。

 表のほうは全て内側から(かんぬき)

 家の裏側のほう、井戸やトイレに行く通用扉の下に大きい石をおいて、簡易戸締り。

 

 では出発。

 

 朝に家を出て、ゆっくりと石畳の街道を歩く。

 

 北側は全て林。奥は深い森。

 南に目を向けると、きちんと区画整理されている、その一部の区画は盛大に雑草らしいものが生えていて、耕作地と入り混じっていた。

 どういう事なのだろう。

 この王国の農業はギルドが無く、全て国家の管理という様な事が概要にあったが、この耕作地と放棄した様な土地が混ざっているのは、何故なのか。

 なにか理由がある。

 

 その放棄された様な区画に小鳥が舞っていた。

 

 西を見ると途中に南に向かう道がある。結構遠くに村が見える。あれはモック村だったか。その先にポロクワ市街がある。よく見ると、それなりに下っている。

 以前ポロクワに行った時は馬車で往復したので、あの道はよく見ていなかった。

 

 北の隊商道の往来は疎らで、その殆どがトドマからエイル村を通り過ぎて、南に折れてポロクワ市街へ向かう荷馬車だった。

 

 今日はすこし蒸し暑かった。空には森の上のほうに雲。南は晴れている。東の方は、湖の上空辺りからその先にかけて雲が多い。

 西の方は、残念ながらかなりの雲だった。奥の方は黒い。雨が降っているかも知れない。

 

 北東の山は、所々木が無いように見える場所がある。チェッカーの升目みたいな伐採をしたのだろう。

 その緑の上を大型の鳥が飛んでいた。以前にトドマの港で見たあの大型の猛禽よりも大きく見えた。

 

 ギューイ。ギューイ。ギューイ。ゲケケケケケケッ。ギューイッ。

 

 すごい鳴き声が大空に響き渡り、此処まで聞こえてきた。

 

 重力が大きくなると重くなるのに、その感覚に反して大型の鳥類が進化するという。

 それは重力が大きくなると、発生する揚力が大きくなるからだという。

 その為に飛び立つものたちは、次第に羽を大きくして行き、結果として巨大化するとか何とか、前の世界で読んだ記憶がある。それでも小さい鳥も十分いるようだ。

 空気が濃いので、羽ばたかせる事で動く空気の量も多くなる。結果として、小さい鳥は小さいなりに飛べているのだろう。

 

 道中は一二キロメートルくらい。途中一回休んで街道脇に座って水を飲む。

 右のポーチにお守りの魔石があるから、魔獣が飛び出して来る事を心配する必要はない。

 

 ゆっくり歩き、昼には港街の門に着いた。

 

 門番二人に首の階級章を見せると、笑顔が返ってきた。挨拶して中に入る。

 

 街中を貫く石畳の街道を歩いて、水際まで歩いた。

 

 この魚臭い港の波止場で、少し休む。

 浮き桟橋には沢山の船が繋がれていた。

 その少し先、水鳥たちが大量に固まって浮かんでおり、盛んに鳴き声を上げていた。

 

 今日も湖岸に緩い風が、時折吹き抜けていく。風はほとんど南からだ。

 

 私はぼんやりと、北側の滝を見つめた。

 地図には名称も書いてなかったが、真司さんがソルゲト川の大滝と言うのだと教えてくれたな。

 その滝から大分西のほうに、船の上に家のような物が乗った物が浮いていた。

 そして北西の湖岸にもいくつか浮いている。

 あんなところに、人が住んでいるのだろうか。

 

 ……

 

 ぼんやりと水面を見ながら考える。

 

 何というか、あの二人に助けられたから生きている訳だが、それにしても状況に流されている事は否めない。

 何でこんな風になってしまったのか。

 

 浮き桟橋に繋がれた船の先に大量に水鳥が浮いていて、盛んに首を水中に突っ込んでいる。

 そこに、東から水鳥の群れがやってきて、混ざった。ギャアギャアと鳴き声が上がっていた。

 

 ……

 

 それにしても。

 あの高級宿でのお嬢様扱いは、本当に疲れた。

 もう少し知識があれば、優雅にこなせたのだろうか。

 

 まあ、あの腐ったフラグも恐らくは片付いた筈だ。

 

 これからしばらく、こっちの魔獣退治の仕事をやるしかないのだが、どうやって生産ギルドに入ればいいのか見当もつかない。

 

 まあ、それはもう少し調べるなり、機会を待つしかないだろう。

 自分の生活拠点すら、まだ確立できていないのだ。

 真司さん、千晶さんたちの家では、私は居候でしかない。

 あの二人は事実婚なのだろうけど、その二人の邪魔をしてもいけないしな。

 

 どの道、焦った所でどうにかなる訳ではナイ。

 

 少なくとも、もう会話が出来ない、お金もない、身分も分からぬ胡乱(うろん)な人物、という最悪の事態は免れている。この階級章のお陰で。

 この北部街道付近の大きな店なら、トークンも使えるだろうし、いくらかは王国の小銭もある。

 

 これでも、山を降りて来た時よりは前進しているよな。自分の新しい人生。

 

 まだ、どう転ぶかはさっぱり不明だが……。

 

 ……。

 

 深い溜息をついて、立ち上がる。

 

 冒険者ギルドは、ここからそんなに離れていない。

 少し戻って、北側の道に入る。

 

 真司さんの話では、山の方がここの管轄という話だった。

 銀階級の人が殆どいないのは、出払っているという事か。

 

 まあ、それはそれで。

 ここの支部はきちんと仕事してるという事だ。

 

 ギルドの支部に着いた。

 

 ふう。仕方がないな。ドアを開けて中に入る。

 「マリーネ・ヴィンセント。着任、しました」

 大声を出してみた。

 奥からスージー係官が出てきた。

 スッファ支部からの連絡が行き届いているかどうかはじき分かるだろう。

 「ヴィンセント殿。こんにちわ。先ほどから、支部長がお待ちです」

 

 「! 分かりました。すぐ行きます」

 私はお辞儀すると、スージー係官が奥の部屋の扉を指さした。

 

 扉を開けて、中に入る。

 部屋には、机と大きめの椅子。その手前に低いテーブルと、それに合わせたやや長いソファが二脚向かい合わせに置いてあった。

 机の上には、多数の羊皮紙らしきものが積み重なっている。何の書類なのか。

 書類を置いておく為の書架が壁を埋め尽くしていた。

 

 何はともあれ、挨拶する。

 「マリーネ・ヴィンセントです。遅くなりました、が、トドマ支部、着任、しました」

 ペコリとお辞儀。

 「やあ、待っていたよ。私がここの支部長のラギッド・ヨニアクルスだ」

 支部長が立ち上がって、こちらに歩き、テーブル脇のソファの横に立った。

 「ここに君が来てすぐに銀階級章を貰った話は、監査官様から伺っているよ。残念な事に私はあの時は、山の鉱山の方だったのだ」

 そう言って、彼は笑った。

 

 「白金の二人が、君も連れて新人実習に行ったというのも、見そびれてね」

 彼は少し残念そうな表情だった。

 「かなりの収穫だったというのは、聞いたよ。マルデポルフをばっさばっさ斬り倒したそうじゃないか」

 そう言って、彼は表情を崩した。

 「ああ、済まない。その大荷物を下ろして、そこに座ってくれ」

 彼はソファを指さした。

 私はリュックと剣帯を降ろして、彼が指さした長ソファに座る事にした。

 

 ヨニアクルス支部長は、二メートル程のやや細い体。少し日に焼けたような肌。

 顔はやや細い。やや長い尖った耳。綺麗な顔だ。銀色の髪の毛。やや薄い金色の瞳。ちょっとした優男に見えるが、彼の右目には大きな傷があった。

 あの傷は、目に達しているのだろうか。

 

 「あの、ラギッド・ヨニアクルス支部長様、初めまして」

 私は一応、立ち上がって、胸に手を当ててちょこんと頭を下げる。

 「いや、そう硬くならないでいい。格式ばった挨拶は不要さ。座ってくれ」

 彼は、気楽そうな声でそう言った。

 まるでスッファ支部とは違っていた。

 

 「それで、私は、どこから、始めれば、いいのでしょう? 支部長様」

 私が訊くと彼は笑っている。

 「なるほど。相当な腕前の真面目な少女が来た。という事だな。あの教官が感心していたが」

 彼は終始笑顔だ。何というか、掴みどころが無い。

 真司さんによれば、トドマの山は鉱山で、警備もしっかりやらねばならない、北東部の最重要地点とか言ってたのだが。

 

 「まずは、君に説明しておこう。白金の二人が君を銅階級にしろとねじ込んだので、腕前を見たらまさかの教官と同等とかいう、とんでもない事が起きていた」

 

 「私がいなかったので、商業ギルド監査官を呼んで裁定という、この支部では前代未聞の事態だ。その少女をやっと見る事が出来た訳だが、なるほど。これは実際に腕前を見なければ、信じられないだろう」

 「さて、君はあの二名から、細かい事は聞いているかな」

 

 困ったな。あまり聞く時間が無かった。

 

 「すみません、あまり。スッファ支部で、大変な、事に、なって、あの、二人が、向かう、際に、私も、同行、しました。それで、あまり、詳しい事は、聞いて、いません。私が、知って、いるのは、ギルドの、概要本の、内容と、真司さ、いえ、山下様が、優先任務先、の、規則が、あると、いう話を、してくれた、だけです。支部長様」

 

 彼は此方を見ながら、笑顔で話した。

 「上等だよ。概要本を読んだのなら、まあ大雑把には判ったとは思う。それと優先任務先の規則も知ってるなら、あとは細かい事だけさ」

 「君には、その体格の事もあるし、正直鉄階級以下の仕事は回しにくい。白金の二人は、それも考慮のうちだったのだろう。何しろ魔獣をすっぱり叩き切る腕前があるなら、そういう人材を道路工事の補修なんかに付けておける程、人は余ってないんだ」

 

 ずいぶんとざっくばらんに話す責任者だった。

 

 

 つづく

 

 トドマのギルドの責任者に初めて会った、マリーネこと大谷。

 支部長は相当な「癖者」な予感が……

 

 次回 トドマの冒険者ギルド2

 ギルドの説明をマリーネにしつつも、支部長はマリーネの剣の腕に興味津々であった。

 そして、そこに監査官もやってきて……


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