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060 第12章 ポロクワ市 12ー2 古物商

 千晶の買い物のやり取りを参考に、値段交渉をしてみる事になった、マリーネこと大谷。

 魔獣の牙を、売り交渉してみるのだった。


060第12章ポロクワ市12ー2古物商

060 第12章 ポロクワ市 12ー2 古物商



 60話 第12章 ポロクワ市

 

 12ー2 古物商

 

 街の景色を見ながら千晶さんが言った。

 「だいたいね、商人は足元見て、適正の半分ちょっと切った価格を言ってくるから、注意してね」

 千晶さんは私の顔を覗き込んだ。ドキッとする。心臓よ。鎮まってくれないかな。

 

 「はい」

 私はやっと答えた。

 

 私は千晶さんと一緒に商店に入る。彼女の馴染みの店らしい。

 商人の名前はジウリーロ・セントスタッツ。

 「商人や工房親方とかは名字があるけど、普通の人には名字がないの。後は王国の役職の人とか、貴族は名字あるわね」

 千晶さんは看板を指差した。

 

 お店は『セントスタッツの雑貨屋』という。

 

 品物を適当に眺めているふりをして、店主を観察。

 鼻の下に少し髭のある、ガリガリに痩せた二メートル弱くらいの男で、頭髪はかなり赤っぽい茶色。

 顔はやや癖のある表情がそのままへばりついた様な感じだ。

 鼻は立派に鷲鼻。耳はやや尖っていてそれなり長い。

 人族じゃないな。この人は亜人か。

 

 元の世界ならよくて三〇半ばの顔立ち、あるいは四〇くらいか。そして仕立てのいい服を着ている。

 

 「今日も良い天気ですね」

 千晶さんは適当な雑談から、かなり高級そうな小さいバッグを買った。

 店主が一〇リンギレというのを、大胆にも値切っている。

 

 「五〇〇デレリンギ」

 「お嬢さん、それじゃうちは大損だよ。九〇〇」

 「んー六五〇で」

 「うちの利益も考えてくれないかな。お嬢さん。八五〇」

 「じゃあ、リーロさん、七五〇。これで決めましょう」

 「まいったなぁ。千晶さん。判りました。それで手を打ちましょう」

 彼女は持っていたさっきのコインの入った袋からリンギレ硬貨を八枚だした。

 商人はそれを受け取ってデレリンギ硬貨を五〇枚、数えて彼女に差し出し、彼女が受け取った。

  

 彼女は私の方を見て、ウインクした。

 要はこういうふうにやれというのだ。

 

 「小さなお嬢さんは、何か用かな?」

 「わたし、牙、売りたいの」

 私は、若干片言だ。

 

 「ほう。どういう牙かな?」

 店主はあまり興味も無さそうに言う。

 

 私はポーチからあの濃紺の魔獣の牙を一本出した。

 

 「これ、です」

 商人の目が一瞬光った。私は見逃さない。明らかに値踏みした。しかも食いついた目だ。

 しかし相変わらず、興味無さそうに、こういった。

 「それじゃあ、なんだか分からない牙じゃ、あんまり価値もないねぇ。うーん。よくて一リンギレかね」

 言い方は投げやりだった。

 

 「ふーん。子供だと、思って、馬鹿にしてる、のね。濃紺の魔犬の、牙。綺麗に、削り取った、四本が、揃ってるから。一つ、一四リンギレ、出して、もらわないと」

 私は牙を親指と人差し指の間に挟んで持ち上げて見せた。

 

 「馬鹿な事を言うもんじゃない。せいぜい三だ」

 商人は語気を強めた。

 

 「ふーん。私が、価値を、知らないと思って、そういう、アコギな、商売する訳? 一二」

 「へんな事を言わないでもらいたいな。その程度の牙なら出してもせいぜい四」

 商人はかなり渋い。


 「ねぇ、いい加減に、してよね。これ、ここで、売らずに、お姉さんに、冒険者ギルド、で、売って、もらえば、その金額、じゃないわ。一〇」

 「五だ。コレ以上出すような物じゃない」

 「そう。それなら九。これで」

 「お嬢さん、六だ。うちも商売なのでね」

 

 ……

 どうするか。次で決めたい。

 

 「八。これで、最後よ。コレで、だめなら、他に、持って、いくわ」

 「うう。仕方ない。一本八で買おう。四本で三二枚だな」

 

 ……狙った金額になった。

 

 私の前に三二枚数えて出してよこした。

 

 四本の牙を差し出す。商人はずっと眺めて、質を確かめていた。

 「間違いない、かしら?」

 「ああ、たしかに。損傷もない。大きさも申し分無い。これは四本全て綺麗に削り取られてる。相当慣れた人じゃないと、ここまで綺麗には削って持ってこれない……」

 

 私は三〇枚を受け取った。

 そしてテーブルに残された二枚を、商人の前にスッと出した。

 

 「どういう事だね」

 怪訝な顔で商人が訊いてきた。

 

 私は思い切って営業スマイル。私は笑顔で言った。

 「この二枚は、いい商売が、出来た、お礼よ。私は、三〇枚、ぴったりで、いいわ。これから、も、いい取引が出来る、と、いいわね」

 

 商人が私を覗き込む。

 小銀貨二枚はそうそう安い金額ではない。大銅貨二〇〇枚分だ。おそらく一〇万円分くらいに相当している。約六パーセントも手数料というか、チップを出したわけだ。

 

 「こっちこそいい取引だったよ。お嬢さんは見かけによらずタフな交渉をするね」

 「大人の、商売、でしょ?」

 商人は破顔一笑。それから突然大声で笑い始めた。

 

 「これはまいった。まったく見かけは当てにならないね。師匠の言うとおりだ」

 「なにか、いい部位が、あったら、また、持ってくるわ。いい取引を、期待してるわ」

 「こちらこそ期待してるよ」

 

 私はにこっと営業スマイル。

 「そうそう、私の名前は、マリーネ・ヴィンセント。以後宜しくね」

 そういって手を振って店を出た。


 交渉はかなり引っかかりながらの発音だった。もう少し練習が必要だ。


 千晶さんが目を丸くしている。


 「こんな感じでよかったですか?」

 「えぇ。えぇ。びっくりしたわ。駆け引きができるのねぇ」

 「千晶さんが手本を見せくれたので、あの商人さんはそういう駆け引き好きなんだなって判りました」

 千晶さんは笑っていた。


 街の中を少し二人で歩く。


 「少し強気に出て、少しづつ寄せればいいかなって。たぶん六くらいって千晶さん、言ったからその倍くらいで勝負です」

 私もニコッとした。

 

 「そのお金で何が買いたいの?」

 「んー。本です」

 私はこの国の事について書いてある本が無いか、知りたかった。

 

 「古物店に本もあるけど、大抵は魔法の本が主流ねぇ。どういう本がいいの?」

 「私はこの国の事が知りたいので、そういう本があれば欲しいです」

 「じゃあ、探しに行きましょうか」

 

 彼女が首の下の所に小さい横長のプレートをつけていてそれが太陽光で時々輝いていた。

 道を歩くと、皆がサッと道を開ける。手を振ってくる者もいれば、深々とお辞儀する者もいる。

 千晶さんは一々そうした人たちに笑顔で手を振った。

 

 「千晶さん、その首のプレートはなんですか? アクセサリーですか?」

 

 「あっ、これね。これはギルドの階級章よ。私は基本的には治療師ギルドなんだけど。この階級章は冒険者ギルドのものよ」

 

 「え。じゃあ治療師のは?」

 「手首」

 そう言って笑った。ブレスレットらしい。

 やはり小さな横長のプレートを手首にもつけていた。

 

 「もしかして、みんなが道を開けてくれるのは、その階級章ですか」

 「どうなんでしょうね」

 彼女は微笑んだ。


 「治療師は、なにも冒険者ギルドに登録する必要は必ずしもないのだけど」

 彼女はそう言って、腕のプレートを見せた。

 「これが有れば、この国ではどこでも治療行為でお金が貰えるから」

 

 「じゃあ、冒険者のほうは、真司さんのためですね?」

 

 「そう。真ちゃんと一緒に動くにはやっぱり冒険者ギルドに登録してほぼ同じランクにいないと、やりにくいから」

 

 首元の白銀色に輝くその小さなプレートには隅の方に彫り込まれた○が左端に三つ並んでいた。

 彼女の腕のブレスレットはやや小さい赤い金色のプレートに緑の縁取り。更にその内側に茶色のラインが入っていた。

 そのブレスレットも左端に○が三つあった。

 

 彼女が村にいる時は、これらは着けている所を見た事がなかった。

 そういえば村を出る時も付けていなかった。

 降りる時に着けたのだろう。

 

 二人で歩いて行くと、更に人通りの多い場所にでた。

 多くの屋台が出ている。

 

 「ここはどういう場所ですか?」

 青空市場の様な感じだ。

 

 「ここは時々開かれる自由市場よ。場所代払えば、誰でも何かを売れるのよ」

 

 なるほど。おおよそ商売人に見えない人たちも、何か売っている。

 

 肉を焼いている匂いがして、ちょっと小腹がすいた。

 屋台で食べたかったが、一ココリンギとか二ココリンギの値段が付いていて、私の手持ちのお金は単位が大きすぎる。

 千晶さんが立て替えるというので、選ぶ事にした。

 彼女の言うには、かなり突飛な味が有るので匂いが当てにならないと言うので迷う。

 

 書いてあるメニューはかなり崩した文字だ。ただでさえミミズ文字なのに。

 クオココの肋骨肉の串焼き。一ココリンギ。そもそもクオココがどんな動物なのか?

 トリットの香草焼き。一ココリンギ。これも串焼きか。

 

 そもそも味付けが醤油や味噌は無いので、基本塩味に様々な香辛料と、後は発酵させた何か。だな。

 発酵させた何か、がきっと突飛な味がするのだろう。

 十分ありうるが。亜熱帯か、それに近い地域というのは物が腐りやすい。

 その熱で自然発酵しても不思議ではない。その発酵食品を調味料にするのか。

 

 塩味なら、正直味付けはもう少し頑張れよ。と思わないではないが私はあの村で塩と胡椒、あのツヤツヤ葉っぱくらいの味付けだった。どっちも似たりよったりか。

 醤油とかの発酵を生み出すには至っていないのだな。

 発酵は、こんな場所だと川魚の魚醤とかあり得るな。

 

 

 屋台の台が高くて全て見上げないと行けないのは、地味にキツい。

 

 彼女はエンデエンデの肉団子串焼きを頼んだ。私も同じものにする。

 彼女がコインを支払って串を二本受け取った。


 エンデエンデがどういう動物なのか、或いは料理の名前なのかは知らないが。

 一番上が塩味の肉団子、真ん中が香辛料でピリッとした味がして、一番下は果実の糖分で味付けしてあってほんのり甘いという。

 どんな果実か判らないが、あの北の方の亜熱帯植物に甘い果実の木が有るのだろう。たぶん。

 亜熱帯から熱帯には、甘い果実が生るのは、元の世界では常識だが、この異世界でも同じだという保証はどこにもないが。

 

 ……

 

 なるほど。焼いてあるので、この肉団子に脂の旨味も出ている。

 結構な量があって食べごたえはあった。

 

 彼女がこれを選んだ理由がわかる気がした。

 味が単調にならず食べごたえもある。後で聞くと一つ二ココリンギだそうだ。

 値段が他の串の倍だが納得した。

 

 時々、目つきの鋭い男たちがいる。

 服装は周りの人たちと余り変わらないが……。何かが違う。纏っている雰囲気が違う。

 この市場のあちこちに居た。

 

 こっそりと千晶さんに尋ねる。

 「あの、あそこの人、なにか、普通じゃないんですけど……。どういう人たちですか?」

 彼女も私の耳元でコソッと、言った。

 「ここ近辺を地盤にする商会の用心棒、みたいな人たち、なのよ」

 

 こういう自由市場と屋台は必ず商業ギルドの何処かの商会が取り仕切っているのだそうだ。

 「香具師(やし)の元締めみたいな?」

 そう聞くと、彼女は笑っている。

 どうやらそうではなくて、変な物を売る人が居ないか見て回ったり、トラブルが無いか、監視するのは開催する商会の責任なのだという。

 

 「マリーネちゃんは時々、いえ、マリーネさんは時々古い表現するのよね」

 「見かけからは想像もつかない程、年齢高いのかも。子供扱いは失礼だったわね」

 

 ! しまった。

 「私には判らないのです。この体の年齢も解らないし」

 そう答えるしかない。

 

 話題を変えた。

 

 「警察とか有るのですか?」

 「警察官は居ないけど、衛兵の人たちがいるから」

 「どの町にも門番の人がいますよね。あの人たちは警察のような事も?」

 あの背の高い玉ねぎ色の髪の毛で目がやや細い凛々しい女性たち。

 

 「あの人たちは門から動かないけどね。そっくりな人たちが大体三人とかで見回りしていて、商会の人の手に負えないと、大体その人たちが解決するの」

 「解決?」

 どういう方法だろう。

 「そう」

 彼女は苦笑した。

 

 「まさか、ぶん殴って、とか?」

 彼女はクスクス笑っている。

 「そういう時もあるけど、審判する人の所に連れて行くのよ。逆らう人は居ないわね」

 「まさか……」

 「あの人たちは、そういう聞き分けのない人には容赦がないのよ」

 千晶さんはまた苦笑した。

 

 なるほどな。

 「大体は理解りました」

 私がそう言うと、彼女はまた歩き始めた。

 

 街角はあちこちに人がいる。

 今は会話が分かる。雑踏の会話が分かる事がこんなにも嬉しいとは、思わなかった……。

 

 

 千晶さんは不意に言った。

 「この街だと小さいから古本を扱う店は、ここしか無いのよ。しかも値段が、ね」

 「高いんですか?」

 「店主が頑固で、価値の分からない奴ほど、これは高いと言う。そういう奴に売ってもしょうがない。そう言って、値段交渉は一切聞いてくれない、そういう店」

 

 筋金入りだな。よほど扱っている物に自信がないと、そういう事を客に言えない。

 

 「私は、さっき売った牙でお金あるし、あれで買えるなら、問題ないです」

 千晶さんはにこっと笑った。

 「じゃあ、入りましょう」

 

 店の名前は『ドロクロ古物店』

 

 店の中は薄暗い。所々ぼんやりと明かりがある。

 

 本はどこにあるのだろうか。背が低いし、薄暗いし探しにくい。

 

 不意に声がした。

 「あら、お客さんだわ。いらっしゃいませ」

 若い女性の声だった。

 

 「ふふ、お邪魔するわね」

 千晶さんが答えている。

 

 「えー、あの有名な小鳥遊(たかなし)治療師さん!」

 千晶さんは口に右手の人差し指を当てた。

 

 「す、すみません。今日はお祖父ちゃん居ないの」

 「あなたは?」

 千晶さんは、その少女に聞いた。

 「あ、すみません。孫のラフィーネって言います」

 「なんで、こんな、薄暗いん、ですか?」

 私は尋ねてみた。

 

 「あの、こちらの方は?」

 ラフィーネと言った少女は千晶さんに聞いている。

 「あ、この人は私の所の、うーん……居候(いそうろう)のマリーネさん」

 居候か。うん、確かに、そうだな。

 「マリーネ・ヴィンセントと言います。よろしくお願いします」

 ペコリとお辞儀。

 「それで何をお探しでしょう?」

 「薄暗い、ので、探し難い、のですが、どうして、です?」

 「お祖父ちゃんが明るくすると痛むから駄目だっていうのよ。そんな事無いって言っても、古いものは痛むから駄目だって」

 

 ふむ。値引きには応じないと言うし、これは相当な拘りの店だな。

 

 薄暗いから分からないだろうと偽物を掴ませる店なら、絶対に値引きに応じる。

 そう云う店は売り捌きたいから、結構な金額まで交渉で下がっても、お買い得ですよという顔で売りつけるのだ。

 ここの店主はそうではないらしい。

 

 「この、国に、関する、本を、探して、いるんです。何か、お勧め、有りませんか?」

 「この王国の? ふーん。珍しいお客さんだ。この国の事を全然知らないんですか?」

 「はい」

 「それじゃ、うーん」

 彼女は本が幾つもある棚を踏み台をして探している。

 

 暫く探していたが、彼女は降りてきた。

 見つからないらしい。

 「じゃあ、ギルド、の、本を、あれば、お願いします」

 ラフィーネは頷いて、また踏み台を持って別の棚に上がった。

 

 しばらく探している。

 

 「こういう本を買いたいって言うお客さんはまず居ないし」

 「そうよねぇ」

 相槌を打つ千晶さんであった。

 

 そうか。そういうのはこの国の人なら子供のうちに口伝で習うだろうし。

 この国に来る人はどこかで学んでくるのだろうな。

 

 暫くして、薄っぺらい本を持って少女が降りてきた。

 

 「詳しいのはなかったのよ。精々、ギルドの仕組みを紹介するような本だけ」

 彼女は済まなさそうに、そう言った。

 

 「それで、いい、です」

 私は何でも良かったのだ。

 

 値段交渉は無いので、言い値を訊く。

 「いくらですか?」

 「八五〇デレリンギです」

 「分かったわ」

 私はポーチからリンギレコインを九枚出した。

 

 「あ、じゃあお釣りを」

 彼女は五〇枚のデレリンギコインを数えて出してきた。

 私はそのうちの一〇枚を彼女に戻した。

 「その一〇は、あなた、へ、奉仕料、です。受け取って、おいて」

 「え、そんな」

 「いいの。また、来る時が、あったら、いい本を、紹介して、欲しいわ。お祖父さんに、よろしくね」

 彼女はまだ驚いている。そういう客は来た事が無いのだろうか?

 

 「千晶さん、今日は、これで、いいです。帰りましょう」

 千晶さんはにこっと笑った。

 「じゃあ、帰りましょう」

 

 私は本を持った。そうしたら千晶さんがそれを持って、革の四角い箱に入れてくれた。

  

 「ありがとうございました!」

 ラフィーネという名の少女が、深々とお辞儀していた。

 「またね。お祖父さんによろしくね」

 千晶さんが振り返って手を振った。

 私も振り返って手を振る。

 

 街角を通って、千晶さんは市場の方に向かう。どこに行くのだろう。

 彼女は荷車の人と話している。

 どうやら村の方を通る人を探しているのだ。

 

 しばらくして、決まったらしい。

 たぶん彼女が払うコインに惹かれて、遠回りだろうと反対方向だろうと、受ける人が居たのだろう。

 

 彼女の手招きで呼ばれた。

 大きな男の人が私を抱いて御者台の左に載せた。御者の人の右に千晶さんが座った。

 今回は荷馬車の荷物と一緒ではないらしい。

 

 荷馬車が、ガタガタ動き始めた。一頭のあのアルパカ馬がこの荷車を引いていく。

 

 真ん中に御者の人がいるので、千晶さんと会話はできなかった。

 

 荷馬車は、かなり早い速度で途中の村を過ぎて、真司さんや千晶さんの住んでいる村の前まで来た。

 「道中だいぶ揺れて失礼しました。着きました。小鳥遊(たかなし)様」

 男は恐ろしく丁寧な口調だった。

 

 御者の人が私を抱き上げて降ろしてくれる。千晶さんも降りた。

 千晶さんは御者の人に挨拶すると、向こうが恐縮したようだった。

 

 荷馬車はガタガタ音を立てながら、走り去っていった。

 

 もう夕方だった。

 

 今日は色々貴重な経験だった。何より牙が売れて、お金が手に入ったのが大きい。

 

 それと、千晶さんはあの街では相当な有名人らしいな。

 最後のお店のラフィーネという少女も、千晶さんが入って来た事で驚いていたくらいだしな。

 そして、今の御者に至っては名前に様が付いていていた。

 

 さて、言葉を喋るのも実戦が一番だな。

 もう少し滑らかに喋れるように訓練だ。

 

 ……

 

 

 つづく

 

 どうやら、マリーネこと大谷の新しい生活は徐々に回り始めていた。

 

 次回 新生活

 真司さんと千晶さん達との共同生活が回っていく。

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