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006 第1章 始まりの村からして残念な事。1ー2 村は終わっていた。

やっと森を抜け、村にたどり着いた大谷。しかし、とことん運のない大谷だった。

村は終わっていたのである。

 6話 第1章 始まりの村からして残念な事


 1ー2 村は終わっていた


 どうにか村までたどり着くともう日が暮れかけていたのだった。

 

 しかし人の気配がしない……。

 そして何故か血の臭いが強い。


 それはやっとたどり着いた私の希望を打ち砕くには十分だった。

 村の広場のようなところで何人もの人が死んでいた……。

 「!!」

 叫びだしたくなるのを必死で(こら)え、片手で口を(ふさ)いで村外れの所にあった小さな小屋まで走った。


 ここでは血の臭いがしない。少しホッとしてそーっと小屋の中に入る。

 人はいないが誰かが住んでいたらしい。とにかく(わら)のような草でできた寝床に座って少し考える。


 もし、襲ってきたのが何かの賊ならば、もう襲っては来ないだろう。

 人の気配がないという事は村の人は全員死んでるという事だ。

 そして賊ならその時点で略奪は終えている。

 もし魔物とかなら、あの死体を食べに来るかもしれない。

 …… 大急ぎで戸締まりをした。


 ここの(かまど)の横に火打ち石があった。火打ち石と鉄片で火を点けようと頑張る。

 さすがに火打石の経験はない。カチカチやってもなかなか点かない。

 火花を飛ばす事が出来ないと火は点かない。


 腕が疲れてもう駄目かと思う頃にやっと『おが屑』に火が点いた。

 そこに小さな枝をおいて火を大きくしていく。(しばら)くしてやっと火が育った。


 ランプがあったのでランプにも火を灯す。

 竈に焚火(たきび)が出来たので、近くにあった鍋をつかんで持ってこようと見てみると、そこに結構大きめに穴が開いている。

 仕方ない。ほかの鍋を持って水甕(みずがめ)から水を()んで竈に置く。

 吊るされている干し肉っぽい塊から肉を薄く削ぐ。切った肉を鍋に入れて煮るのだ。

 切れにくいナイフだなと思ったが自分は持ってないのだから、ここのを有り難く使うしかなかった。


 「いただきます」

 手を合わせる。


 塩味のする、薄い肉を大量に入れて煮ただけの肉入りスープを食べて腹を満たす。

 疲れすぎていたのか、塩味をほぼ感じない。旨くもなんともないが、薄い肉を全部食べた。

 何しろ四日間飲まず食わずで歩き続けていたのだ。

 (わず)かに塩味のするスープもすべて飲み干したが、喉が渇いているので水甕から水を汲んで数杯飲んだ。


 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。


 そう、食事への感謝は忘れてはいけない。食べ物が食べられたのだから……。


 火は灰をかけてそっと消す。煙が上がっていれば人がいるのがばれてしまう。

 急いで他に火の気がないか確かめ、ランプだけ持って藁束のような草の寝床に行く。

 と、藁束の寝床の壁際に棚があった。そこにランプを置いた。


 これからどうすればいいのか分からなかったが、腹を満たした事もあってか、とにかく眠かった。

 五〇過ぎのおっさんであってもこの状況だ。平常心が保てる訳がない。

 不安でいっぱいのまま寝た……。


 翌日。


 全てが夢だったらよかったのだが。残念な夢、じゃなかった。


 藁の寝床から身を起こして、ドアを(わず)かに開け、そっと外を(のぞ)く。

 少し血の臭いが漂ってくる。やっぱり現実なんだな……。


 小屋を出て近くの家から順に見ていく。広場と血の臭いはとりあえず無視だ。


 この家は農家なのか。(くわ)(かま)があるし、他の何に使うのか良く判らない道具もあった。たぶん、農具なんだろう。

 二軒はほぼ同じ造りで置いてある物も大して違わない。食卓とか居間っぽい部屋の装飾が違う所が個性なのかな。

 

 別の家に行くと、この家ともう一軒は糸車が二基、機織(はたお)り機が二基、どちらにもあった。農具も置かれている。

 機織り機のある部屋はかなり広くて、糸の束や布が棚にぎっしり置かれていた。

 機織りの家を出て、少し空き地を通ると大きい二階建てらしい家があった。村の庄屋とか村長とか、たぶんそういう家だ。

 そっとドアの取っ手を掴む。カギはかかってなさそうだった。


 そーっと少しだけドアを開けると……。中からかなりの血の臭いがした。

 ドアを開けて中を見ると、そこは凄惨(せいさん)な殺人現場だった……。

 たぶんメイドだったのだろう、同じ服に同じエプロンを着た女性が五人、そこに倒れて死んでいた。

 中に入ると濃密な死の臭いがした。奥には立派な男性らしき死体があったが、首がなかった……。

 「……」

 私は首を振りながら後ずさりして、その家を出た。

 家の中はだいぶ荒らされていたし、血だまりがすごい状態でそれ以上奥に入りたくなかったからだ……。

 

 ……

 

 そこからさらに少し離れた場所に立派な煙突のある、大きな工房といった感じの家があった。

 窓は無い。ドアを開けて、中を(のぞ)くと鍛冶屋(かじや)だった。

 打ち直し前の農具が奥の扉の手前にあって、きれいな状態の鎌や(すき)などに並んで、スコップやツルハシがあった。

 なるほど。自給自足できるような感じになってるのだな。

 

 後の二軒は少し鍛冶屋から離れて大工の家、その隣が革を(なめ)している家だ。燻製(くんせい)肉も沢山吊るしてあった。猟師の家なのか。たぶん。


 それぞれの家で得意なものをやって生活は共同体という形だったのだろう。たぶん。

 鍛冶屋の家に行き、入ってすぐの所にいくらか道具が並べてあった中からスコップを持ち出した。

 広場に向かう。


 男女、子供もいれて二八人。共同体の村としてはやや少なく感じる。

 肌の色はもう、元の色がどうだったのか分からない位、変色している。

 私が森を歩いた期間の間、人の悲鳴とか絶叫とか聞こえなかったので、少なくとも二日から五日、あるいはもっと経っている。


 みんな、バッサリと切られて死んでいた。

 その切り口はどう見てもこの村にある刃物のレベルでは不可能だ。

 ()()()()()()()()()()。業物で斬ったか。

 たぶんそいつの剣の腕も相当なものだろうな。かなりの腕前がないと、こうはいくまい。


 あるいは、魔法かもしれないな。ふとそんな事を思った。

 風魔法とかでカマイタチのように斬れば…… と思ったが、風魔法でこういう刃物で斬ったような(あと)を残せるのだろうか?

 私にはわからない。魔法で剣を動かせばこういう事も可能かもしれないが、それなら炎の魔法で焼いたほうが早いはずだ。

 どういう魔法があるかは知らないが、大抵の異世界物で炎の魔法というのは基本と位置付けられている事が多い。

 だから難しい事をするより焼いた方が早いと思う。


 少し観察する。

 ここの人々には額にやや控えめな角があった。一本の人と二本の人がいる。耳はやや長く尖っている。

 額に角があるからにはエルフではないんだな。何か亜人という事か……。

 男性の身長は結構高い。女性はそれほど高くはないが、それでも私の元の世界なら長身に分類されるだろう。

 所謂(いわゆる)、ゴブリンとかではないな。

 

 顔はどちらかというと彫りが深く、男女ともに端正な顔立ちだ。

 黒髪の美男美女といったほうが当てはまるかもしれない。

 肌が血色悪く変色していなければ、だが。


 ……


 取り敢えず、私の知る異世界物のゴブリンとかオークじゃないのは間違いなさそうだ。


 この小さな共同体の村は何者かに襲われて全滅したのだ。しかし……。

 あの村長の所? だけは家の中で全員斬られているのに、他の村人は全員広場で死んでいるというのはどういう事だろうか?

 

 …… 不自然だった。


 そして、遺体がそのまま残されていたのも、不自然といえば不自然だ……。

 何故、襲撃者たちは、ここを焼いてしまわなかったのだろうか……。

 よほど急いでいたのか……。それとも放置する明確な理由があったのか……。

 

 そして、村長らしき男? だけ首を斬られていて、村長宅は荒らされていた形跡(けいせき)があった。

 これも不自然だ。

 略奪なら他の家の物も奪われていそうだが、他の家は全くといってよい。

 女性が斬られているのも、略奪としたら不自然だ。女は(さら)って行くものだろう……。


 つまり最初から狙われたのは首の無い男だったという事だろうか。

 彼だけが首が無い。明確に標的にされている。どんな理由があったのかは知る由もないが。

 

 …… 色々不自然すぎる。

 

 その時、ふと、考えが浮かんだ。

 もしかしたら誰かを(かくま)っていたとしたら。

 そのために匿っていた家の彼らは家の中で殺され、村人は目撃情報を消すために何らかの手段で広場に集められて殺されたのか。

 

 いや、きっと冒険小説の読みすぎだ。

 …… 取り敢えず、やるべき事をやろう。

 

 ……

 ……

 

 

 つづく

 

このあと、大谷は村で何をするのか。いや、何をしていかないといけないのか。

超ゆっくりな展開で、スローライフが始まります。


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― 新着の感想 ―
[良い点] > 1ー2 村は終わっていた。 !? あらすじでテンプレとは行かなそうだ、と思って読み始めましたが、なんというサブタイトル……。 期待に胸が踊ります。
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