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052 第10章 樹海を越えて 10ー3 密林地帯の縦断

 密林はなおも続く。

 不屈の心がマリーネこと大谷を突き動かし、縦断は続く。


 しかし、神々はなぜエルフの躰から、普通な人間の姿に変えたのか。


 そして大谷は、こういう所で出会いがちな毒蛇と猛毒の事を考えていた。


 52話 第10章 樹海を越えて


 10ー3 密林地帯の縦断

 

 不思議な老婆と別れて、さらに南に進む。

 絶対に東に行ってはならないと、老婆は言っていた。

 もともと南南西方面が、私の向かう方向だ。

 たちまち暗くなっていく森林を歩いて進む。


 「ギャァ。ギャァ」

 「グホホホホッホ」

 「クピークピー」

 「ピャルル、ピオーピピッ」

 様々な動物たちの鳴き声がするのだが、たぶんこれは警戒の声だろう……。

 私の荷物から放たれる強烈な”魔気”を感じて、彼らは最大限の警戒を仲間に送っているのだ。たぶん。


 木の上でがさがさ音がしては、動物たちが急いで移動して行く。


 はぁ。軽くため息が出る。

 仕方ないとはいえ、これでは動物の友達とか、ペットとか無理だな。

 やはり、ここまでフラグへし折り設定とはなぁ。あの天使……。

 また、あのやたらと薄い服の豊満な体つきをした若い顔の天使が頭に浮かんだ。


 あの天使はなんで、こんな事をしたんだろう。


 もはや、何度この疑問を口にしたか分からない。


 『なんで、この体なんだ』


 それにしても、この体は元はエルフ(※末尾に雑学有り)だったのか……。

 そのままエルフの少女でよかったじゃないか。どうして変えたんだろう……。

 

 しかし、変えなければならない理由が何か、あった……。

 

 そう、物事には理由がある……。それはどんな物にも、だ。

 

 何かしら理由がある。

 『そうでなければならない』理由も、またあるのだ。

 それが気に入るか、気に入らないか、それは別問題なのだから……。

 

 この血が餌となったように、この姿にも何かの……理由があるのだ。

 

 まさか。

 

 ……

 ……

 

 この異世界ではエルフは美形でもなんでもない、異形の妖精みたいな顔なのか。

 それで、私のために少なくとも人間の顔にしたのだろうか。

 まさか……。この異世界のエルフは…………。


 私は茫然として少し立ち止まった。

 

 この異世界のエルフは、もしかして…… 怪物の様な生き物なのか……

 

 目を閉じると深い深いため息が漏れ出た。

 そうだよな……。そうだよな。


 エルフの女性はとってもかわいい耳の尖った美形の顔立ちで、綺麗な髪の毛。

 体もナイスバディで胸も大きくて、スラっとしてて、魔法も上級まで使えてしまう。

 それでいて性格も良くて、魔力もいっぱいで、何百年も生きる種族とかいうのは、まったくもって日本のご都合主義的『お約束』なのだった。


 ……


 そして、この異世界の『お約束』はどうも違うようだった。

 この魔物たちの魔石もそうだったように。

 

 神々が何かの思惑でエルフじゃない、『何か』に替えたというんなら、それに従うしかないだろう。

 ただ、人間でもないらしいな。私の血が別の『何か』に無理やり変えられていると。


 また歩き始める。

 

 この異世界のエルフ族がどんなものであれ、私は近づいてはいけないと、ベラランドスと名乗ったあの老婆が言った。

 行くと危ないらしい。会わないに越した事は無い。

 

 私は進路をやや西に向けて歩き続けた。


 ……


 松明が無いと先が見えないのは痛い。

 

 ひたすら歩き続ける。

 相変わらず昼夜の区別はつかない。故にすぐに時間的な感覚は麻痺する。

 

 何日か歩いたのだとは思う。

 途中であの蛇肉を塩つけて炙って、遠火で干した物をナイフで切り出し、すこし噛った。

 老婆が遠慮なく持ってけと言った、あの紫色の甘い水。少しづつ、飲んだ。

 貴重だから、できれば一袋は森を抜けても残しておきたい。

 

 リュックを降ろして、松明を地面に挿して少し休憩していると、うとうとと寝てしまう。

 が、すぐに起きた。何分くらい寝たんだろう。

 こういう眠りは、元の世界の長いプログラマー仕事の経験上、一〇分から二〇分の瞬間的な深い睡眠だという事を知っている。

 何故なら、手に少し(よだれ)が付いていたからだ。

 

 結構疲れが溜まっているんだな。

 涎を拭いて立ち上がり、馬鹿でかいリュックをまた背負う。

 ゆっくり歩き出す。

 

 こういう場所を歩く時に気を付けるべきは毒蛇だ。


 以前のスルククもそうだが、ハララカのような猛毒蛇に咬まれると、まず即死ではないが、だいたい数分から一五分程度で死ぬ。

 

 こいつは出血毒でしかも毒量が非常に、非常に多い。

 

 血清抗毒が間に合っても悲惨な後遺症が待っている。

 まず、血清に対してのアレルギーショックを抑えなければならない。そして呼吸管理の確保は必須だ。

 血清が発達している元の世界ではこの蛇で死ぬ人は減っているが、網膜がやられていてそれなりの期間見えないか、完全に失明、そして腎機能障害もやばい。ずっと人工透析とか。

 あと、咬まれた患部が壊死して腐れる事がある為に対処が遅れた場合は咬まれた腕とか足は切断になる事がままある。


 網膜が完全にヤラレてかなりの期間見えない、治癒しなければそのまま失明。そしてあまり聞こえない、耳が遠い、あるいは全く聞こえない。

 そしてベッドでずっと人工透析。腎臓が両方壊れているからだ。しかも腎臓は残念な事に治癒しない。

 内臓が多くやられているので、回復するまでは完全に点滴による栄養補給。

 そして殆どの場合、人工呼吸器も外せない。肺の細胞が治癒していくまで続く。

 最悪な場合は意識もずっと混濁。

 

 そういう悲惨な後遺症が残る。それでも死んではいない……。

 これが死亡率が低下した医療の結果なのだ。

 

 そして血清がおそらく無い、この異世界では死を待つのみ。

 

 出血毒というやつは血管が多数集まっている、その血管に血栓ができて発生するのが厄介なのだ。血液が凝固する作用に働き、次々と血栓ができる。

 これで毛細血管が破裂し、多量に出血。出血は止まらない。何故ならば、凝固する物質を血液自体が血栓するほうで使い切っていて、最早傷口で凝固する作用を失っている。

 サラサラになっているのだ。

 

 これを放置すると簡単に死に至る。

 血管が多数集まる腎臓や内耳、目の裏にある網膜、鼻の粘膜などが真っ先にやられる。

 故に目、耳、鼻から大量に出血するのだ。そして血尿が出る。


 打ち込まれる毒液の量にも寄るのだが。多い蛇になると一〇〇シーシーとかいう強烈な量を体内に持ち、二〇シーシーから五〇シーシーとかを打ち込んでくるやつも中にはいるという。

 大人が死んでしまう致死量は大抵、僅か九シーシーだというのに。

 

 更に時間が立つと肺胞がやられ呼吸困難に陥る。この時点でもう意識は混濁してくる。

 体内出血がまるで腹水のように溜まる。そして内臓の消化器官は毛細血管が多く、これで多臓器不全となる。勿論、脳も手の施しようのない血栓だらけで、くも膜下出血。意識を失う。

 この状態になればもはや、何をどうしても助からない。


 それは凡そ血液が流れている生物ならば、『抗体』を持っていない限りは、みんな同じ。


 たとえそれが『異世界』でも、だ……。


 こういう場所に住む種族が長い間に『抗体』を獲得している可能性は否定しない。

 

 なんといっても、ここは『異世界』。


 あるいは魔法で簡単に無毒化出来るような便利な解毒魔法がこの異世界にあれば、違うのかも知れない。チチンプイプイ。はい解毒。とかならどんなに楽な事か。


 しかし、魔法ならばそれは毛細血管に至る全ての血管の血液全体に作用しなければならない。しかも、血液のどの物質に作用している毒なのかによって異なるわけだ。

 それ故にゲーム以外での海外のファンタジー小説の中で魔法が簡単に致死性の出血性猛毒を解毒、そして癒す記述は滅多に見られない。

 

 それがポンポン連発出来てしまう場合、余りにも出鱈目。チートというしかない。

 それはまさしく神の起こす奇蹟なのだ。

 

 ポンポンポンポン連発しておいて解毒魔法一つ一つが治癒の神様が起こす奇蹟で御座います。とか言われたら最早返す言葉も無い……。

 神様の奇蹟の安売りが過ぎる。

 

 それに、本来は解毒だけでは解決しない。毛細血管を含む体内のあらゆる器官の損傷があるのだ。それを治癒しなければならない。


 まあ、なので大抵は出てくる毒はそこまで行かない様な物が多い。

 そして登場するのは解毒剤だな、それも液体で飲むやつか。


 そういえば昔良く遊んだMMORPGでも、グランドマスター級アルケミストの作り出す猛毒は強烈で殆ど一分前後で死んだ。

 

 リアルの時間とゲーム内部時間はタイムスケールが違うから、一分というのはその世界の中での比較的長い時間だ。それでもリアルタイムで一分を設定したのは、その異世界の四分、五分は短すぎて対処できないからだろう。

 

 食らった瞬間に解毒ポーションを飲んで、間に合うかどうか、何しろ昔のは通信ラグもあってそれが長い。二〇秒近くのラグがある事すら普通だった。そして、すぐ効くわけではない。

 その直後ヒールポーションも飲む。一気にHPが一桁にまで削られているからだ。

 昔のは連打も出来ない。一回飲むとクールタイムがあるので連続で食らうと間違いなく即死。

 しかも、瓶の重さもあるのでそうそう沢山も持てないという。

 そういうレベルだった。

 

 マスタークラスのアルケミストの人たちが売る毒を槍の先に塗りつけて、狩りに行ったのを思い出す。

 グランドマスター級の人が売る毒薬はかなり高くて、そうそう使えなかったからだ。

 たしか素材が相当怪しい代物を多数必要とするんだったな。コストが高いと言ってた。

 解毒剤も彼らアルケミストたちが作っていた。

 

 当然、マスタークラスの人とグランドマスタークラスでは解毒効果が違う。

 なけなしのお金を払って高い解毒剤を買い求めた思い出がある。

 

 PK(プレイヤーキル)やる連中の強烈な弓の矢には必ず、この致死毒が塗られていたのを思い出す。

 そういう連中と戦うPKK(PKをキルする)戦士の武器を研ぎ直す仕事の時は、解毒剤が欠かせなかった。

 彼らもまた致死毒が剣とかに塗られていたからだ。

 一応は研いで磨く前に専用のウェスで拭くんだが、拭き忘れたり、拭き漏れがあって毒状態になった時に飲むためだ。

 

 致死毒が塗ってあるか? は、まずは客から預かって行う武器鑑定スキルだ。それで毒の有無、どれくらい傷んでいるのかの確認だった。

 野良で、武器の研ぎ直しを頼まれた事があった。お人好しな私はそのまま触って修理している最中に依頼人が武器に仕掛けた猛毒トラップで死んだ事がある。

 

 それ以来、必ず鑑定するようになった。懐かしい事だ。

 

 ……

 

 まあ、この異世界では咬まれたら終わりだと思っておけばいいだろう。

 

 ハララカ。この蛇は全長は一メートルから大きくても一・六メートルとさほど大きくはないが極めて獰猛で熱帯雨林が主な棲家だがその熱帯雨林を切り開いたような農耕地にも出現する。小型哺乳類や小型の鳥類を食べる肉食だ。

 しかも胎内卵生で子供を生む。まあ幼生体出産だったかな。

 で一気に一〇匹くらいが結構な大きさで出てくる。卵の状態だと他の蛇に食われるから、そういう進化をしたのだろう。

 

 この異世界でも蛇はいる事が分かったし、魔物じゃない猛毒蛇も当然いるだろう。


 蛇はいきなり飛び掛かってくるから、気が抜けない。背中の魔気を放つ魔石たちで、蛇避けになっていてくれる事を願うしかない。


 どんどん行くと、蔓植物や灌木の多い場所になった。

 ダガーでぶった切って先に進む。リュックや後ろの剣が藪に引っかかって歩きにくい事、この上ない。

 

 少しハードな藪こぎをした。

 

 そして、とうとう川に出る。

 流れが速い川で、やや深い。歩いて渡るとか大却下だ。

 周りを見渡す。川幅は、そうだな九メートル以上だが一三メートルは多分ないだろう。

 そして、川幅は大体は一定か。ただ所々幅が広い。

 

 選択肢は二つ。

 一つ目。筏を作ってそれで川下へ下る。

 二つ目。長い大木を切り出して向こう側に掛けて橋とする。

 

 一つ目の案はかなり魅力的に思えたが、私の勘はやめておけという。

 となると。

 

 二つ目の太い長い樹木を切り出して向こう側に掛ける作戦だな。

 私の筋力頼みの出鱈目な作戦だ。

 普通なら筏なのだが、私の勘はそれは駄目だといってるようだ。

 素直に直感に従う。こういう時の私の直感は外れた試しが無い。

 

 リュックを降ろし、革のポーチを取り出して腰に。リュックから離れたらどんな魔物が襲ってくるか分からないからな。

 あの、おばばの言いつけは守る。

 

 それから皮の手袋をして手斧だ。これを持って、川岸に近い大きい樹を切る。

 出来るだけ楽ができるよう、川の方に倒れて欲しいのだ。

 しかし川沿いの樹木がいまいち怪しい長さしか無い。要は川岸には灌木しか無い。

 

 取り敢えず。伐採だ。伐採だ。

 まずは下生えを切るしか無い。これが思った以上に大変だった。

 低木な灌木は使えない。しかし考えるよりこういうのはやってみたほうが早いとばかりにどんどん伐採して、川の方に倒す。

 短いのがどんどん川の中に落ち、流れていってしまう。少し岸から離れているのも、伐採だ。

 メリメリ音を立てながら二本、川の方に倒れた。最後はキックで川の方に蹴っているからだな。

 最後に切った二本は充分な長さが有り、向こう岸に余裕で届いた。

 向こう岸の蔓植物やそれが絡みついた灌木が巻き込まれて倒れ、空間が見えている。

 

 倒れた二本のうちの一本を力任せに持ち上げてもう一本の横に添える。

 

 よし。出鱈目な橋が完成した。

 

 リュックの横に戻り手斧は仕舞って、燻製肉を取り出してナイフで削り少しだけ噛った。

 あの革袋の水を一口だけ。かなり遠慮がちに飲んだ。

 

 一休みだな。この水の威力は凄い。喉の乾きどころか、疲れまで癒やされていく。

 たぶん、これはあの老婆の言う、命の水と言ってたその意味のまま、その通りなんだろう。

 この水を飲んで、あの老婆は寿命がないのかというほど長く生きているんだな。

 おばぁを生かしているとか、言ってたからな。

 

 少し休んだのでリュックにポーチを仕舞って、背負う。長い剣が後ろについていて飛び出しているので、この大木の橋の上に上がるときに蔓に引っ掛けないよう、注意しよう。

 

 丸太橋によじ登り、川を渡る。こういう時はこの川の真ん中で上流と下流が見れるチャンスである。

 遙か遙か上流までは少しだけ見えた、地形は登っているからだ。

 たぶん何か水を一度淀ませて、そこから一気に流れ下っているのだと思われた。この地形で勢いがついて流れている筈。

 こんな川の流れを渡河とかとんでもないな。

 

 では、下流も観察。

 ……だいぶ行った先で両側が何やら岩が見える。その先の川が見えない。

 危険な薫りだな。

 

 先に進むか。

 川沿いに歩く。しかし、川沿いは灌木と蔓で藪状態である。少し離れたほうが亜高木のために蔓がない。松明をして歩いて行く。

 さっき、チラッとだけ見えていたあの岩場が気になる。

 だいぶ歩いた。

 一度、川の方に行く為にまたしても藪こぎ。

 岩場に少し近づいたか。更に川の流れは恐ろしく速い。これは……。

 もうそこまで行かなくても、判った。ドドドドドドッという、音が微かに来たからだ。

 戻って先に進むと、その音もどんどん大きくなる。

 滝だな。大瀑布というレベルではないが、この音なら落差も相当だろう。

 

 迂回していくしか無い。どこから降りられるか、探るのだが。

 西に大分行くしかなさそうだ。

 

 しかし、もう少しで樹海は終わりそうだ。そんな気がした。

 

 ……

 

 

 つづく

 

 

 ───────────────────────────

 大谷龍造の雑学ノート 豆知識 ─ エルフ ─


 エルフ族はドワーフ族と少し違い、異世界設定において、その解釈はやや多様である。

 西洋では、ほぼJRRトールキンのエルフ像、とりわけ『シルマリル物語』に出てくるケルト色の強いエルフ族をお手本とする。

 理由はこの物語の中で、トールキンは言語学的にも通用するエルフ語をほぼ完璧な形で作り出し、エルフ文化を記述しきっている事が大きい。

 故にこれがエルフ族のテンプレートとされた。

 

 ただ、西洋でもこれに従っていない設定は多く見かける。

 しかし、まず長命である事。そして姿はやや痩せていて比較的長身。肌は白い。

 ここには色々ありダークエルフなどは濃い褐色等とされる。このダークエルフは性格が悪く邪悪な存在として描かれる物が多く見られる。

 

 また、あるものによってはグレイエルフというものも登場する。肌はかなり暗い灰色、または鉛色で通常のエルフに対しては極めて攻撃的、性格も歪んでいる等、元のトールキンのエルフには無い物も登場してくるようになった。


 目は瞳がかなり大きく明るい緑又はかなり深い緑色で夜目が効く。

 暗い中ではその瞳が緑に輝く。目の形は横に倒したアーモンド型。

 鼻はやや小さい。耳は細く長く先端が尖る。顔全体で目の占める比率がやや大きめ。顔は細めである。


 髪の毛は金髪または玉ねぎ色。あるいは透き通るほどの銀髪。

 女性は長髪が多いが男性は必ずしも長くは無いが、長い者たちも多く居て、大抵髪の毛は縛っている。


 そして禿げているエルフも、太ったエルフも居ない。


 文化的にはとてもプライドが高く、そしてドワーフとの仲は最悪なほどに険悪である。

 上下関係が重んじられ部族の取り決めは絶対であり、族長が絶対的な権力者である。

 特に長命の種族で独自の文化を持ち、プライドが高いというのは概ねどの異世界設定でも共通する。



 とりわけ異なっているのは日本。日本ではエルフの容姿は決定的に異なる。


 日本のエルフ像をほぼ決定づけたのは、恐らく八〇年代中期から末期の日本に、とある日本独自の西洋風ファンタジー設定のテーブルトークロールプレイングゲーム(以降TRPGと記す)が登場した事による。

 この頃、日本におけるTRPGはそれなりに盛り上がりを見せ始めた頃である。


 そして、リプレイと呼ばれるプレイ内容を再現した記事が書かれ、雑誌に掲載される。

 そこに登場した美女エルフがその後の日本におけるエルフ像を決定づけた。

 

 美麗なイラストで描かれたエルフは、耳が長く極めて日本アニメ的で美しい若い女性で背が高い。

 豊かな美しい胸を持ち、金髪の長髪。機能的ながらデザイン性の高い衣服も身につけている。

 このイラストにより一世を風靡した。


 耳が長く、イラストのように美しく、背が高く、金髪で長命で魔法が使えて云々はその後の日本のファンタジー物に登場するエルフ像をほぼ固定化した。

 

 しかし、これは極めて異端なエルフ像なのである。

 この容姿は日本エルフとしか表現しようがない別物であった。傍系と呼ぶべきものだろう。


 こうなったのには当然、理由がある。


 西洋の本格的な記述に寄る妖精の姿は日本人の美意識には受け入れられない奇っ怪なものが多い。

 その姿の物を自分の愛するべきキャラクターとして演じるというのは、日本人には難しい。

 よほど西洋のファンタジーに馴染んでいないと無理かもしれない。


 八〇年代初頭から半ば、まだファンタジー小説は勃興したばかりで、発売される物は翻訳された海外物が殆どである。そしてその殆どが英国か米国の作家の手によるものである。


 ゲームにしても本格と呼ぶべきファンタジー系ゲームは全て海外製である。

 TRPGにしてもチェインメイルの発展型として市販されたダンジョンズアンドドラゴンズ(通称D&D)が出て、日本に入って来たのは八〇年代初頭の事である。


 この頃既に日本において個人輸入で楽しんでいた者たちもいたが、マスターをきちんと出来る者は極めて少なく、優れたマスターが出来る人はゲームマスターではなく、特別にウィザードと呼ばれていた。

 その後、米国でTRPGにブームが興り、実に様々なタイトルがリリースされる。

 しかしまだ日本の若者には馴染みが薄い物だった。


 TRPGを普及させて行く過程において、見た目的にも若者たちに受ける必要があった。

 そこで戦士もかっこいい美男子、あるいは好青年あるいは顔のいい渋い中年男性。

 エルフも日本人の考える所の美形となる。

 ドワーフも背が低いながらかっこいいジジイだ。

 

 然し。この日本エルフのアニメ顔は逆にゲームのエルフ像に多大な影響を与え始める。

 トールキンの描いたエルフ像の容姿は東洋人には受け入れにくい。

 

 見栄えが悪かったのだが、日本エルフはその当時の日本の漫画やアニメ、そしてゲームの中において登場するエルフの顔を決定づけて、多くの作品が生まれる。

 そしてゲームの世界においてはアニメ顔を「3Dリアル」風に置き換え、逆に世界的に徐々に浸透し始めて行くのである。


 いわば欧州における妖精を現実化したかのようなトールキンの描いたエルフ族の容姿は、日本エルフの容姿によって置き換えられて行くのである。

 日本の作品でこの日本エルフの姿を採用していないファンタジー作品は稀れである。

 

 西洋のファンタジーではこれを拒否して伝統的な欧州や英国の奇怪な妖精姿を採用している異世界作品も依然としてある。

 

 湯沢の友人の雑学より

 ───────────────────────────

 

 長い距離を踏破しているマリーネこと大谷。

 それはおおよそ人間業ではなかったが、本人はまったく気がついていない。

 

 次回 ジャングル

 

 なおもこの密林地帯の縦断が続く……。


 この苦闘もまた、大谷が背負った運命そのものだった……。

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