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048 第9章 村を出る 9ー2 湖畔の怪異

村の外へ出る冒険を始めたマリーネこと大谷。

そして、マリーネの前に襲い掛かる怪異とは。


 48話 第9章 村を出る


 9ー2 湖畔の怪異


 道中で初めて魔物が出た。

 ネズミウサギだ。

 槍は無いので剣で対処だ。


 低い位置から飛び込んでくる。剣は下に向けて左から右へ払った。

 

 ネズミウサギの頭の後ろが切れてギーという鳴き声がしたが、その場で動かなくなる。

 剣が短いのでネズミウサギとの距離は二〇センチ未満か。やれやれ。

 首の骨を斬っていた。

 

 剣を一振りして血を払い腰に収める。

 合掌。南無、南無、南無。


 ダガーで頸を完全に断ち切り、血抜きをしてやや乱暴にダガーで内臓を取り出し埋める。

 頭も割って魔石を取り出し、頭も埋めた。

 

 毛皮を剥いでも鞣せない。

 まあこのまま後ろにロープで括り付けた

 先を急ごう。


 ……

 

 湖畔よりやや森の中を歩く。

 何故か、魔物がでない。


 何時もなら、うんざりするほど野ネズミとかネズミウサギとかが突進してくるはずなのだが。

 

 途中で日が暮れてくると、野営だ。

 近くの小枝を拾い集め、焚き火にする。

 リュックを降ろし、リュックに(もた)れる。

 

 ……

 

 揺れる炎を見つめる。

 

 この辺に魔獣たちがいないのは、なにか理由があるのだろうか。

 たぶん何か理由はあるのだ……。


 どんなものにも理由がある。

 自分が解っていないだけだ。

 

 ただ無意味にこの辺に魔物が居ない等とは考えられない。

 

 余り嬉しくない考えが頭に浮かんだ。

 恐ろしい魔物の縄張りになっていて、小さな魔獣は此処に来ないとか。

 テリトリーの主がいるなら、気配が有りそうなのだが。

 

 ……

 

 村を出てもう何日経つか。途中川がない。

 仕方なく湖岸に向かう。水を汲む必要があった。

 

 湖岸に出ると、西の山々の上にものすごい量の雪が見える。あちこち雪崩(なだ)れた跡もある。

 まあ太陽がまともに当たる時間が長いだろうから、雪崩は多いだろう。

 あれだけ沢山降った雨は山脈の方は豪雪だったに違いない。

 実際、今も雪煙が見え、(かす)かにズドドドッー。という音が聞こえてくる。あの辺りが表層雪崩か。


 湖面は時々吹き抜ける風で波紋ができるが、殆どペッタリと(なぎ)だ。

 

 美しい景色だ。大自然という感じだ。

 昔、母がカナダに旅行に行ってきたのよ、と言って見せてくれた写真が、こういう感じだったな。

 山と大森林と湖と雪……。

 

 ……

 

 岸からの水深は暫く割と浅いように見える。この辺だけ、なだらかに下っているのか。

 

 水を汲みながらふと左を見ると少し離れた岸の近くの地面が酷く抉れている。

 「何か」がそこを這いずった痕だ。厭な予感しかしない。

 

 この痕跡を見ると(わに)なら相当でかいぞ。横幅は二メートル以上。体長は五メートル以上、場合によっては七か八メートルあるかも知れない。

 そういう感じだな。出会いたくない相手だ。

 

 革袋に三杯水を汲んで戻る。

 

 急いでかなり真っすぐな枝を切って棒を作る。

 いつもの長さにできるだけ近づけた棒に槍の穂先を急いで取り付けた。

 簡単に太い糸で巻く。

 ややねじ曲がってるが、急ごしらえの槍を握りしめる。

 

 這ってくる相手だと剣では立ち向かえない。

 浅く掘ってある穴に小枝を入れて焚き火を(おこ)す。まだ明るいうちだが食事を作る。

 燻製肉を切って串に刺して炙る。

 

 手を合わせる。

 「いただきます」

 

 串に刺して炙った燻製肉を食べる。

 スープはないので、塩は直接舐める。

 革袋から水も少し飲んだ。

 

 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。

 

 先日、出てきて倒した魔物の肉を解体する。

 まず毛皮を剥いで、それから肉を骨から切り取る。

 肉に塩を擦りこむ。

 やや大きい枝を突き通して、遠火にかけて炙る。

 

 まあ、燻製ができないのでこの先、この肉から先に消費だな。

 穴を掘って毛皮と骨も埋める。(なめ)せないのでしょうがないのだ。

 

 遠火で炙った肉は縛ってリュックの後ろに括り付けた。

 まだ外は明るい。移動するべきか……。リュックを背負ったまま座り込む。

 

 しばらく焚き火を眺めていると音がする。ズルッ。ズルッ。という音だ。蛇か?

 

 背中にぞくっときた。魔物か。

 反射的に槍を握る。

 

 振り向いて立ち上がるとそこにデカい(わに)のような『何か』がいた。

 頭は口が長く鰐そのもののようだが、コブだらけの頭。飛び出した目。まるで触覚のように長く伸びている。細かい牙がぎっしり生えた口。

 薄い緑色の体色にまだらに茶色が混ざる皮膚。皮というよりは、鱗のような物で全身が覆われている。

 短く太い前足。後ろ脚は左右二本づつ。つまり六本足だ。体長は一〇メートルくらいはありそうな巨大な生き物だ。


 口を大きく開けて一気に襲ってきた。こんなに近づかれるまで気配を感じなかったのは、どうしてだろう。

 疲れているのか。とにかく冷静に躱す。

 

 飛び出している目玉を槍で全力で突いた。

 まるで触角のような状態だな。


 「ゴガーゴァッ」

 鰐のような怪物の声がして口をバクバク開けた。すると恐るべき悪臭がそこから漂って来た。

 普段は腐肉でも食べているのか。


 動きが早い。見た目とは裏腹に物凄い俊敏に動く。

 不意に横に移動して来たと思った瞬間に尻尾を振ってきた。

 済んでの所で躱したが頬が切れた。スーッと血が滲む。

 尻尾の先の棘に毒でもあったらこっちが死ぬな。しかし、掠ったのではなく風圧で切れたか。


 槍を繰り出すが、()()()()()


 片目失ってからの方がこいつ、速いんじゃないのか。

 コイツも切られてからが、本気。アドレナリン全開か。

 よく目に当てる事が出来たなと思った。

 

 巨体でドタドタしてるようにしか見えないのに本当に速い。

 近づいて剣で斬りに行くのは危険。あの尻尾が当たったらただでは済まない。


 こいつの動きに翻弄されてなかなか槍が当たらない。

 

 信じられない事に槍で突いて潰したはずの眼が再生し始めている……。

 何という再生能力だろうか。

 

 致命傷をどこに当てれば倒せるのか。

 いつもの槍ではないのもあってか、勝手が違う……。

 

 もう少し湖岸から離れよう。ふと湖に目が行った。

 

 岸から少し離れた場所に何か、()()()()が浮いていた。

 ……とんでもない奴が其処に居た……。


 蜥蜴(とかげ)? いや違う。それはまるでイグアナとオオサンショウウオの混ざったような顔。

 その巨大なやつの頭にビッチリ生えたデカい棘。

 そして奇妙な形をした二本の角。全体は焦げ茶だが紫色の縦模様と黄色い縞模様が顔の一部分に入っている。

 

 多分その頭だけで一〇メートル以上だ。間違いなく。あの角まで入れたら一五メートルは軽くあるだろう。

 それが音もなく、水面の上に顔だけ出しているのだ。

 あの森の茶熊の背丈よりでかい顔がじっとこっちを見ている……。


 ……気配を全く感じなかった。背中がざわつきすらしていない。

 そして、何時もなら頭の中に鳴り響く危険信号が機能していない……。

 

 と、恐るべき速さで口が開いて、まるでカメレオンの舌のような物がサッと伸びた。

 それは瞬く間に鰐のようなその怪物に巻き付いた。

 あっという間に一〇メートルはあろうかという『鰐もどき』が空中を舞う。

 そしてそいつの口の中に放り込まれた。


 バクっと大きな口を閉じると一回、目を(またた)かせて、そのままスーッと垂直に水面下に消えた……。

 

 ……

 

 巨大な波紋が静かに広がる。

 ゆっくりとその波紋は大きくなっていった。

 

 ……

 

 オレンジ色に光る湖面に動くものは無く、静かな湖面を緩い風が吹き抜けていった。

 

 …………

 

 もう夕方になっていた。

 湖面には山々の影が大きく張り出ていて、そこに太陽が沈みかけており、オレンジ色に染まったサンロードが出来ていた。

 

 静かに暮れなずむ湖面……。

 

 時折、思い出したかのように緩い風が湖面を渡っていき、静かにさざなみを立てた。

 

 暫くの間、私は水面を見つめたまま呆然(ぼうぜん)として立ち尽くし、動く事が出来なかった……。


 

 あの攻撃が私に来ていたら……。寒気がした。

 確実に躱せたと言い切る自信はない。

 あの猛烈な速さの舌。最後が見切れなかった。体が小刻みに震えた。

 

 頭だけであの大きさだ……。体長は三〇メートルを大幅に越えていても不思議ではない。

 下手すると尻尾とか入れて五〇メートル以上か。

 

 流石に水棲生物だ。現れる魔物の大きさが凄いな……。

 ここの(ぬし)だろうか。いや、感心している場合じゃないな。

 それでもなお、あの白銀の竜の大きさには遠く及ばないのだ。

 

 あの時に見た雷雨の中にいた竜の姿が(まぶた)に焼き付いている……。

 

 松明に火を灯し、ここの焚き火は消して土をかぶせる。

 少し森の中に入って進む。

 

 肉を焼いた臭いで『鰐もどき』がやってきたのだろうか……。

 そして、あの『鰐もどき』がいたからあいつが来たのか。そうでなければ、食べられていたのは私だったろう。

 やはり『異世界』。棲んでいるヤツラ一つ一つがまるで現実離れした連中ばかりだ。

 

 森をだいぶ進んで野宿とする。

 松明で焚き火を起こした。

 剣を抱え、槍を目の前に置いて木に荷物を(もた)れ掛けさせて、その荷物に自分が横で凭れて寝る。

 

 夕方に出会ったあの怪物のせいでなかなか寝付けなかった。

 

 ……

 

 

 つづく

 

 大谷の前に現れるものたちは、何もかもがまさしく「異世界」の生き物である。

 マリーネこと大谷の冒険は始まったばかりである。

 

 次回 登攀

 

 この先に過酷な旅路が待ち受けていた。

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