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047 第9章 村を出る 9ー1 決意と旅立ち

もう、この村で出来る事は、全てやったと思い始めたマリーネこと大谷。

もう潮時なのか。

 47話 第9章 村を出る


 9ー1 決意と旅立ち


 とうとう村を出る。

 

 随分と考えたが、もう赤鉄鉱がほぼ無い。炭もあまりない。

 どっちも調達が不可能ではないが、炭の焼き方を思い出しつつ、鍛冶の燃料に使える良質なものを焼ける様になるにはかなり時間が掛かるだろう。

 

 赤鉄鉱も同じだ。掘れない訳ではないが、一人でやるとなると相当な手間がかかり、食料のための狩りも合わせて年レベルかも知れないと思うと、流石に躊躇(ためら)う。

 

 外の世界を知りたかったのだし、準備が出来たら冒険に出るんだと、思い続けてきた。

 この辺が潮時なんだろう……。

 

 最早愛着すら湧いている各家、そして村長宅だが、ここにいては先が見えない。

 色々維持するだけで精一杯になるのは間違いない。

 それに農業も出来ない、機織りも出来ない、では何れ行き詰まる……。

 

 そして、色々作ってきた。服や革製品、鍛冶と武器作り、鋳掛け、青銅でのアクセサリー。

 やれる事の中で自分なりに製品レベルになると思う物も無いではない。

 

 ……

 

 冒険に出る準備は整ったのではないのか。自分なりに用意して来た物で。

 

 服。赤い上下お揃いの服。上着ブラウス四着。他にスーツっぽい一着、スカート三着。寝間着一着。ワンピース一着。お洒落用のケープとベルト。そしてスカーフ。充分だと思う。

 きちんと革の袋に入れる。濡れないようにだ。

 

 革のポーチ。これは革の紐を着脱可能にして、肩からも下げられるようちょっとしたループをつけてD環を入れてある。袋には入れずにおいた。

 革のスリング。ポーチ用だ。

 ポーチはすぐ何かに使うかもしれない。最後にリュックに入れよう。


 ズボン一本、シャツの予備三枚、パンツ三枚。お洒落ショーツ一枚。

 こっちは途中での着替えも考え、革袋は上の服とは別にしておく。縛る紐の色を変える。

 迷わない様に。


 皮と木で作ったサンダル。普段の靴。小さめの革袋に入れた。


 アクセサリーは、いくつか作った。ブローチ二個、アミュレット兼ペンダントのやつ六つ。そのうち三個は墓標に掛けた。

 魔石。全部。売れるならこれを売って路銀にする。

 大きすぎて持って行けない熊のは置いていく。

 

 牙とか爪とか角とか全部持てるだけ。全て革袋に入れた。

 これも売れるなら、売って路銀にする。


 剣一本、予備に後で作った大きいやつ一本。ダガー右に一本、予備三本、ナイフ二本、手斧一本、鉈一つ。

 槍の穂先三つは、竿は無し。革袋に入れた。

 

 小さいシャベル一つ。剣と一緒に外に括り付ける。

 ほくち箱。おが屑はかなり余分に革袋に詰め込んだ。


 塩干し肉と燻製肉、塩を革袋に多めに入れる。水を入れる革の袋は三つ。

 

 自作の革の手袋と革エプロン。手拭いの布は六枚。タオルに使える長さで三枚。

 砥石、荒い目と細かい目のを一個づつ。

 ヤスリはここのを二つ貰っていく。

 小さめのハンマー一つ。ロープ五本。革製のロープ四本。


 本六冊。一応吟味した。

 三冊はたぶん、ルーン文字っぽいやつ。二冊はあのマヤ文字みたいなやつ。一冊は植物の書いてある、ミミズ文字のやつだ。

 これらは特に革袋に入れて厳重に縛った。


 最後に松明。積めるだけ縛って積む。


 大荷物となる。ほんとに大荷物になる。

 重さは問題ではない。私にとって重さは全く問題ない。背負えるかどうかだけが問題なのだ。

 

 どこに行っても困らない様に全部持てるだけ持って行く。


 これらが入る大きいリュックは、これから工房で自作だ。

 荷物が全部入るように自分で作るオーダーメイドである。

 革を縫って背負う部分もつける。


 猟師の革工房に向かい、さっそく革を見繕う。


 自分が背負えないと意味が無いので、横幅を少し広めに。

 あとは下をやや少なく尻に当たるかくらい、上を伸ばす。

 こうしないとたぶん歩くのも苦労するからだ。

 これで荷物が入るのか。

 

 ロープとは別に薪と松明を縛って上に括り付けられるように紐が通せるループを何所か作る必要がある。

 これは革を二重にして、簡単に切れないように。


 重いもので、すぐは使わないと分かっているものを下に。

 アクセサリーとか魔獣の牙を入れた袋、それからハンマー、砥石、ヤスリ。

 その上に本の革袋。服の入った革袋二つ。ほくち箱と火打ち石、燻製肉と、塩干し肉、塩などの袋。

 その上は薪、松明。魔獣の魔石の袋、水袋、三つ。

 だいたい、これで入るサイズを出す。

 二〇ピースくらいになる。

 

 ひたすら縫う。

 黙々と縫い、実際に背負って良くない部分は直す。

 あと底の部分は革を三重にする。

 そうして背負うベルトはかなり頑丈にするために二枚張り合わせた後に、もう一枚内側に革を貼り、ガッチリとした物に仕上げた。これは腰より少し上くらいの位置で縛る様に作った。

 これは良さそうな位置で縛っておいて、それを背負うようにする。


 あとはちょうど腰の部分、ここで革を幅広くベルトのように作ったものを縫い付ける。腰の前で革の紐で縛るようにした。これは腰サポートである。

 あとは胸の辺りに左右に革の紐をつけた。これも背負ったあとこれを縛れるようにする。

 これでしっかり体に固定できる。


 あとは一番上に蓋だが、これも革を二枚重ねで作り、細い革紐で本体に結べるようにした。


 製作期間はそれなりに掛かり、一七日を要した。


 

 ここで、思い出した。作業着がない。

 作ろう。

 いつもの服しか無くて、これを作業着にしてしまって、これが汚れて洗濯すると作業が止まるので、作業着は必要だ。


 

 急遽、機織りの家にいく。


 ツナギみたいな服を考える。

 ズボン部分の上にいかにも作業着っていう上着をくっつける。つまり背中側は継がってる。

 胸元から腰の部分まで開くようにしてボタンを付けるか。

 しかし、トイレ行くのに困る服だな。くっつけない方がトイレには困らないのだが。

 まあ、そこはどうしてもだめだとなったら後で切断すればいいか。

 

 ズボン部分の裾はかなり長めにする。そして裾は上に捲くる。これは糸で軽く止めておく。

 腰も少し大きめ。

 ベルト用のループも付ける。それと巻き縫いで紐も入れる。


 あと上着部分もやや肩幅を大きめにする。

 つまり、全体的にブカブカ状態だ。しかし。背が伸びてきても使えるようにしようと思う。

 

 よし。

 イメージは固まった。


 作業開始。

 

 布を切っていく。これは思った以上に難しい。上着と別々に作って後ろを接合しておくほうがマシか。

 仕方ない。上着を作って背中部分を別の布でズボンと縫い合わせる。

 かなり妥協。


 ズボン部分も厚い布を使う。

 スボンは前と後ろのポケットだけでなく、腰で両脇にポケットを中に作る。

 そうするためには腰の脇で縫い合わせる際に、ポケット分、お尻の方からの布が大きめじゃないと出来ない。前の方の布はそこを斜めにカットして縁はきちんと処理する。

 

 前ポケットは太腿の上だ。これにはポケットの蓋も必要。ボタンを付ける。

 布は内またの方で少し余るのと脇のポケット部分も前になる布はやや大きめにして内側に折り込んで縫う。

 全て、私の体型が後で少しは大きくなった時に使える作り。

 

 上着は襟もつけ、前ポケットも付ける。ボタンは六個。

 ちゃんとボタン穴もかがり縫い。

 裾は長めに作って巻き上げるのでは無く糸で軽く縫って長さを調整する。

 背中の布は縦に二分割。やや大きめにしておき、後で体が大きくなった時には、ここをばらしてやや幅を広げられるように余裕を持たせた。裏の布地も同様。

 

 襟の部分も真ん中で分割。ややゆとりのある様な長さとして、それらを内側に折り込み裏地の布も同様として、縫い合わせる。

 これなら身体が大きくなっても、直せば暫く使える。

 

 待ち針と縫う針、糸も少しと言わず、だいぶ頂いていく。

 破れたら自分で対処できるし、このつなぎの修正も可能だな。

 あと、薄い青で染めよう。

 

 ……

 

 このやや厚い布を使った服には思いのほか時間がかかった。

 今後の作業着にするので、出来るだけ作りには拘った。

 妥協は最小限とした為に染めた時間も含め、一七日かかった。

 

 あと、全てを掃除する。

 農家の家から、猟師の家まで全て掃除するのに六日かかった。

 水甕の水は全て溢す。

 炉の灰は全て掻き出した。

 

 農家のこの家は、この村で村人の埋葬をする間、お世話になった家だ。

 感慨深いものがある。

 

 村長宅が最後。二階はもう掃除済み。一階の殆どを掃除。

 

 ここで最後の食事を作る。

 相変わらずの燻製肉の炙り肉とスープだが。

 熊の燻製肉をどんどん切って八本の串。

 胡椒をたっぷり使う。

 肉スープには、あの山椒もどきの葉をちりばめた。


 ……


 出来たようだ。

 

 手を合わせる。

 「いただきます」

 

 この村での最後の食事を噛みしめる。

 熊の燻製炙り串をひたすら頬張る。

 

 ……

 

 もうこの味を味わうのは最後になる。

 

 (村長様、奥方様。とうとう、ここを出ていきます)

 今までの暮らしが、頭の中にフラッシュバックする。

 

 ……

 

 少し涙が出そうだったので急いでスープを飲み込む。

 

 食事終了。

 

 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。

 

 竈も綺麗に片付けた。ここの鍋も洗った。

 水甕の水は全て溢す。

 あの木で作ったトランプ。紐で縛ってリュックに放り込んだ。

 

 熊の毛皮の上にあの巨大な魔石を置いた。

 そして、あの鹿馬の頭を村長宅の扉の前に取り付けた。

 顔の横の角を二本とも切り取って、リュックに入れた。

 

 熊の魔石とこの顔の剥製っぽい物は、この後の無人の村を守ってくれるように、私は祈りを捧げる。

 

 もう、たぶん戻らない。

 が、立つ鳥、後を濁さず。

 

 村長の墓の前で最後の祈りを捧げる。

 

 村の広場を見回す。

 「本当に長い間お世話になりました。ありがとうございました」

 ぺっこり頭を下げる。

 

 大きな大きなリュックを背負い、ソードを腰につけて村ハズレに向かう。

 

 村外れの小屋。最初に世話になった小屋だ。

 感慨深いものがあったが、絶対に振り返らない。

 振り返ると、何かがこみ上げてきそうだったからだ。

 

 それでも、すこし涙が出た。

 (感傷に浸ってる場合じゃないぞ、おっさん)

 

 ここからがいよいよ、『本当の冒険』なのだ。

 自分に喝を入れる。

 

 黙々と歩き始める。

 

 ……

 

 黙々と小路を歩いて、小川にたどり着いた。

 今日は、魔物は出なかった……。

 

 ……

 

 ここで一度休憩。

 

 小川の水で顔を洗って、小川の水を飲んだ。

 少し休憩。

 立ち上がって、小川に入って渡る。

 再び黙々と歩く。

 

 湖の畔まで、休まずに歩き続けた。

 

 少し畔で座り込んだ。

 

 まだ湖の水量はかなり多く、以前来た場所は水の中だった。

 風は僅かに吹いている。遙か彼方に見える周りの山々は上のほうは全て雪で真っ白だ。

 遠くに見える山の上のほうに雪煙が見える。あの辺は風が強いんだな。


 風で雪が舞い上がり、雲がかかっているように見えるというのは、高山には時々見られる事で別段珍しい事では無い。

 

 たぶん、この景色も見納めだな。

 

 少し休憩して、そんな事を考えた。

 

 ここで選択は三つ。

 一つ目、ここから右の方にいってあの山を登る。

 二つ目、ここの近くの木を切って筏をつくって湖を横断する。

 三つ目、ここを左に湖伝いに山の方に向かう。

 

 荷物を降ろし、少し観察。

 右の奥の方。山の所まで森だが、右の岸伝いにあの右奥までいけるのか。

 たぶん私の予想ではそこに河川があるとは思うのだが。

 

 奥を観察する。岸まで森林が迫っている。そしてその森が少し上まであり、残りは岩山。

 

 左側の方もほぼ同じ。どっちかが外に流れ出ているはず。

 

 とはいえ、筏で奥まで行って確認する気になれない。

 筏であそこ迄行って確認するという案が二つ目だが、私の勘は”それは危険だ、やめておけ”と言ってるような気がする。

 

 じーっと、奥の湖面を眺める。どっちに水が流れているのか。

 かなり遠い……。私の視力は元の世界では眼鏡がいる程度だが、この体は違う。

 眼はかなりいい。眼を細めて見極め。

 

 然し判断基準になる様な水面の波がハッキリ見えない。

 

 ……

 

 なんとなく左だ。という気がした。

 こういう時は勘に逆らわない。今まで勘に逆らって良い事があった事はない。

 

 よし。左だ。意を決してリュック背負って、岸よりすこし離れた場所を歩く。

 あまり水辺に近いのは絶対にまずい。

 

 森の中に入ると薄暗い。慎重に進む。魔物が出るとまずいのだが……。

 太い樹木を選びその近辺の下生えを少し払って、シャベルで穴を軽く掘る。

 薪は、このあたりに落ちている枯れ木を鉈で切って作る。

 暗くなる前に焚き火。

 枝を削って作った串に塩肉を刺して遠火で焼く。

 

 手を合わせる。

 「いただきます」

 

 串焼き肉を頬張る。

 革袋の水はエグ味があるが、我慢。

 

 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。

 

 とりあえず命はまだある。生きて食べられる事に感謝だ。

 

 剣を抱えて、少し睡眠。

 深夜の魔物が出るかも知れず、樹上にいくのもこの荷物があるし、でやむなく仮眠。

 リュックに(もた)れる様にして少し眠った。

 

 ……。

 

 

 つづく

 

 とうとう村を出るマリーネこと大谷。

 大谷の旅路には過酷な試練が待ち受けていた。

 

 次回 湖畔の怪異

 

 マリーネこと大谷は未だ自分の行く先を知らない。

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