045 第8章 季節の変わり 8ー8 武器鍛造と長雨の終わり
自分に扱える大きさになるのかは分からないけれど、マリーネこと大谷は大きめの剣の鍛造に着手。
そして、長雨も終わり、季節はゆっくりと変わっていく。
45話 第8章 季節の変わり
8ー8 武器鍛造と長雨の終わり
今回の武器鍛造には準備が必要だ。長期戦になる。
まずは炭と鉄鉱石を鍛冶場に持ち込む。食料は一時的に全て鍛冶屋の台所に集める。
水甕。水はここだけでいい。機織りの家の水も零しておく。
村長宅は恐らく暫く使わない。水は全て零しておく。汚れたままではあそこに行きたくない。
ここで、大工の工房から大きい丸太、一・五メートルほどのものを持ってきた。
で、ノミで剣の形を削り出す。刃の一番厚い場所は七センチ。これを三枚貼り合わせで実現するが、真ん中のが三センチ。両サイド二センチ。かなり分厚い上に出鱈目に重たい剣になる。
きちんとバランスが取れるかどうかすら定かではない。
まず、普通に削り出して先端に向けてやや、気持ち大きく膨らむ感じにする。
切っ先で一気に三角になるようにする。この角度も問題だが、見た目もあるし、尖らせ過ぎてもそこから割れたらお終い。四五度が良いか。
そしてその形で刀身部分のみ、二本、板を切って同じ形にする。
つまり、鉄の方も、形ができてきたら、この三枚を鍛接して叩こうという計画だ。
タングはかなり太い状態じゃないと、ここから多分折れてしまう。しかし太すぎては握れない。
私が握れるぎりぎり、やや細めでないと革を巻く事も出来ず、それではまずいので、タングの先端に向かって、つまりガードの反対側に向かってやや細くなるようにする。
木をその様に削る。
ポンメルはこのタングに革を一回だけ巻いて柄とするので、別体だとそのままでは付かない。
今の私の手で握れる太さはそのへんまで。
一体型で付けるのも有りだが、ポンメルは諦める。
この事によるデメリットはタングの後ろがほぼストレートなので濡れていたり、握力が不足すると振った剣がスッポ抜ける可能性がある。
抜刀術はたぶん無理なので握って抜こうとしたら滑って抜けなかったとか、心配する事も無いだろう。
まあ、今後私の手が大きくなって、現状では細いとなったら革巻きを増やし、最終的に木などで柄の覆いを作ってその時にポンメルを用意すればいいかと考える。
ネジを切って取り付けられれば、どんなに楽な事か。
三枚、削り終えたので、ナイフで丁寧に削っておく。
鞴は先に点検する。用心のために革を新品に張り替える。
予備の革も用意して、鍛冶屋の台所に置いた。
準備ができたら、久しぶりの鍛冶屋スタイルだ。いつものあの服。いつもの靴。
そして頭巾と目の覆い。鼻と口の覆い。首の覆い。革のマイエプロン。革のマイ手袋。
始めるか。
最初に自分の使っているダガーの握りをばらして、粘土に埋める。型を取るために。
そして、まずは鉄塊造りからだ。
炭を入れ火を熾す。
ここからやらなければならない。
赤鉄鉱石を還元させる。そして叩いて叩いて不純物を落とす。徹底的に叩いては火に戻す。
合間合間の肉の噛じりと水分と塩の補給。
戸は閉めているので、あい変わらず、叩いている時間は不明。
恐らくは二日で鉄塊が一個。後二個。
作業が終わったら、最初にやった粘土から慎重にダガーを抜き、また新たに粘土を使ってそこにダガーを埋める。
ここで一緒に剣の方も三つとも粘土に埋めるが崩れないように外側に板で作った箱で囲う。
火は消えないように熾火を維持して、作業場の土間で一回仮眠。
起きたら、軽くストレッチだけして、またしてもダガーを埋めた粘土を慎重に開けて、ダガーを抜いて、また新たに粘土に埋める。
剣の方はここで取り出しておく。
粘土が長いので慎重に開いて、木型を抜いて、木の箱のまま、砂場に置いた。
そしてまた炭を入れて作業を続ける。
もう耳がおかしくなっていても不思議ではない。
耳栓を作るべきだったのか。
ひたすら叩いて、また鉄塊一個。
炭を追加して、塩を舐め、水は井戸から汲んできた。水甕にいれて、そのままその横で仮眠。
そうして三個目まで鉄塊を作った。
最初に作った頃はフラフラになっていたが、耐性がついたのかもしれない。
あまりフラッフラにはならなくなった。
よし、ここで一回、食事をしよう。
熊肉の燻製をぶつ切り。そしてどんどん串にさす。
あの山椒ぽい葉っぱを少し断面に擦り込む。串は八本。そして炙る。
ネズミウサギ肉の塩干しを薄切り。例によって鍋に入れ、塩で煮る。
出来上がった。
よし食べよう。
手を合わせる
「いただきます」
熊肉の燻製炙り焼き串を頬張りながら考える。
手際が良くなったとはいえ、鉄塊三個に恐らくは六日から七日。
コレを溶かして、作業中に作ったあの粘土の鋳型に流し込む。
三本全部叩いて、研いで磨いてからソードに行くか、それとも後にして、また鉄鉱石か。
暫く考える。逡巡はあった。
が、しかし炉の効率を考えたら、ここはそのまま鉄鉱石の作業だな。
とりあえず鋳型は作ったから、鉄塊を溶かして流せる準備はほぼできている。
剣の方は鉄塊はおそらくは四個から五個必要だろう。
坩堝も全部用意する。多分全部に鉄塊を入れて溶かし、それを次々、溢れる所まで入れる。刀身三枚分だ……。まあ坩堝が足りなければ作業は分けよう。
よし、今後の手順も大体は頭に入った。
一気に炙り串を頬張り、肉スープを飲み干した。
「ごちそうさまでした」
手を合わせる。
手っ取り早く片付ける。
熾火は維持したいし、またしても土間で寝る。
翌日。
炭と鉄鉱石をありったけかき集めて、鍛冶場に置いた。
鉄塊造り、続行。
更に鉄塊づくりに奔走する。
大きい鉄塊は五個。
たぶん、一〇日か、もしかしたら一一日か。
それくらいはかかったであろうと思われる。
合わせて一七日か。
そして外は、まだまだ雨。
更に。ここから型に流し込んで固めて、鍛造が待っている。
次は鋳型に流し込む。
坩堝に鉄塊を入れて一二〇〇度C。これを流し込む。
鞴はまだ革は擦り切れていない感じだ。
鋳造の鋳型は三つとも砂場に埋めておいたので、あとで取りだす。
剣の方は木の箱で囲って上だけ開けてあるのを砂の入った樽に縦に埋める。
こうすると自分では届かないので、そこは踏み台。
この剣の粘土型にも流し込む。
これが大変なので樽は炉の近くまで移動させ、炉の所で使う踏み台から直接樽の方に注げるようにした。
怪力なので砂の樽を適切な位置に動かすのは何でもない事だ。
身長が低すぎるから、こういう事も考えないと作業に無駄が多く出て、鉄が冷える。
さて、冷えるのを待つ間、熾火維持。
またしても、土間で寝る。
もう服は泥と煤とで真っ黒。
翌日。
起きて行うのはストレッチのみ。
すぐに炭を追加。
砂からダガーと剣を掘り出す。
バリ取り。それから反っていないか、大きな気泡はないか、確認する。
どれも問題ない。
おおよその形が出来ているダガーから鍛造開始。
七九〇度Cの熱で叩いていく。
叩いて行くしか、良いものは出来ない。
黙々と叩く。
叩き漏れが無いように。
私は鉄の声が聴こえたりはしないが見極める目がある。
多分、この異世界の鍛冶達人たちは鉄の声が聴こえるのだろう。もしかしたら対話すらしているかもしれない。
それはそれで、ファンタジー。
しかし私はひたすら密度が違いそうな場所を見極めて、ハンマーでそこを叩いて均一にしていくしか無い。
私は鉄の声を聞くのではなく、私は内なる第六感に訊く。
もういいのかと。
第六感がまだだ。というのなら、叩きが足りないというだけだ。
多分誰もそんな事を信用しないだろう。
……
叩きながら思った。それでも、私には他に方法が無いんだ。師匠もいないしな。
飴状になった鉄は素直だ。無理にガツガツ叩いてはイケない。
一定のリズムだ。そして強過ぎず、弱過ぎず。
かなり平べったい菱形にする。
今までダガーは刺殺よりは斬殺に使ってきた。
勿論ここ一番で刺した事は一度や二度では無い。ただ完全に菱形だと切れ味が悪い。
刃をきちんと付けるため、平べったい菱形で少し幅を広くとっている。
鎧の隙間に挿し込んで奪命とか、私が戦場に出ない限り必要無い。
ダガーが終わるとソードに取り掛かる。
これは今までの物と違う。
まず。長さがヤバい。
慎重にまず真ん中の芯になるところから開始。
叩いていくが長いので温度を上げて七九〇度Cにするのも時間がかかる。
そしてまず全体を均一に叩く。鞴と叩くのとだいぶやった。
時々、塩を舐めては水も飲む。
……
真ん中がいい状態になるのには、相当な時間がかかった。
真ん中だけで何日叩いていたのか……。四日? 五日か?
欠けないように、しかし粘り強くなってくれる様に、叩いていくしかない。
まだ叩き足りない場所があるのか。見極める。
それが終わると一回焼入れして土間におく。
ここで鞴を点検する。
念の為、革は張り替える。
そしてすこし水を飲んで塩を舐めつつ皿の燻製肉を食べる。
ちょっとだけ休憩だ。
以前ならこの辺りでフラフラになり倒れる様に寝たのだが。
肉体の優遇措置はまだまだ先があるのか。
私が限界を定めてしまうとそこまでなのか。
まるでゾーンに入ったかのような、今の状態は神経が研ぎ澄まされ、身体はまだまだ全然平気だと言っている。
よし。ゾーンが閉じる前に続行だ。
左右の厚みをつける刀身を一枚づつ、同じ様に叩いていく。
三枚とも焼入れまでしたら、まず刀身だけのやつ一枚、そして真ん中のを熱していく。
七九〇度Cで飴になってきたら二枚とも取り出す。
刀身だけのを重ねて『やっとこ』で掴む。
ここは速度勝負。かなり早く叩いて鍛接する。
力を入れて叩くがズレない様に欠けない様に細心の注意が必要だ。
鍛接したらまた炉に入れる。
ここでもう一枚も炉に入れて加熱。七九〇度Cになったのを見極め、炉の所でやっとこ二つ使って二枚を重ねて『やっとこ』で握り直す。
ずれないように注意だな。慎重にこれも鍛接する。
叩いて叩いて。
一体化させるのだ。
火に入れては叩き続ける。
途中、何度も水を飲んで塩を舐めた。時々皿の燻製肉も口に入れ、もぐもぐしながら叩き続けたのも一度や二度では無い。
この鍛接した後の更に圧接するかの様な執拗な叩きで完全に一本の鉄に成る。
更にむら無く金属の密度が平滑化される迄続ける。
……
そしてこの剣が出来上がる。
第六感がよろしい。そこまで。というのを聞くと、そこで長い桶に入れた水に焼石を何個も放り込む。
そして一気に水に投入。ジュワワワッ! と音がして猛烈な蒸気。
取り出し、炉の温度は九〇〇度Cに上げた。充分に赤熱しているその剣を焼入れだ。
ジュワワワーーッ! と猛烈な蒸気が上がった。
後は六〇〇度Cで焼き戻して出来上がる。
それを土間に置いた。
……長かった鍛造が終わった。
こんどこそ、私は水甕の横で思う存分水を飲み、そして塩を舐めてそこに転がるように寝た。
翌日。
土間で寝たせいで完全に服は真っ黒だ。
後で洗濯するが作業続行のほうが優先だ。
ダガー三本を丁寧に研いで行き、革を巻く。
四本がまったく同じになるように握りは統一した。
最初から使っていたダガーも研ぎ直す。
剣をきちんと研いでいくのは、物凄い時間がかかり、途中で砥石がだめになって焦った。
鍛冶屋の倉庫の奥にまだ沢山置いてあったので一番荒いのと次のを二個づつ持ってきた。
ひたすら研ぎ続けた。何しろ刀身が長い上に両刃だ。
無心に研ぎ続けていると、明らかに外の音が静かになってきていた事に気がついた。
戸を開けてみる。夕方のようだった。
雨が小降りになっている……。
私はそのまま外を見てみる。
渡り廊下に出て、西を見ると少し明るくなってきている。
長い長い梅雨か雨季が終わりかけていた…………。
研ぎ続けて、切っ先の研ぎを丁寧に確かめる。ここの研磨は大変だった。
身長一二〇センチちょいの私が一二〇センチある剣の切っ先を研ぐのがどれほど大変な事か。
よし、いいようだ。きちんと研げている。
とうとう、ついに剣とダガーは出来た。
切れ味の確認はまだだが、出来たのは確かだ。
そして自分は物凄く汚れている。お風呂に入るべきだ。
そして服の洗濯もやるべきだな。
何か、大きな大きな仕事が終わった開放感に浸る。
やれる事は全てやった。みたいな燃え尽きた感もあったが。
元の世界で、グッチャグチャのドロドロになってしまった火事場プロジェクトをやり遂げきった時の、あのなんとも言えない充足感に満たされていた。
私はきちんと最後まで面倒見て収めたぞっていう……。
転がるようにして、そのまま水甕の横で眠った。
泥のように眠った。
翌日。
この日はお風呂に当てた。戸をすべて開けて中を明るくしてお風呂だ。
顔を洗い、体をよく洗い、そして頭も洗った。
水は横の水甕を二個にしてある。其処からどんどん汲み足して、石を入れて温度を上げる。
満足するまで何度も焼いた石を入れながら、何時間もお風呂に入り続けた。
満足して、しょっぱい村の子供服に着替え、外を見る。
外の雨は上がっていた。
雲の切れ間から光が差し込み、森の上に幾筋もの、その光が架かる。
濡れた木々の葉っぱがその光を浴びて燦めく。
息を呑むような幻想的な風景が広がっていた。
…………
季節が変わったんだな……。
それから私は肉やら塩を持って、村長宅に行く。
それから井戸に行き桶に水を汲んで、村長宅の台所の水甕に水を満たす。
ちょっと早いが、夕食だ。
あの鹿馬の胸肉の燻製は、たっぷり薄切りにして鍋に入れる。
これが一番良さそうだ。
そして熊肉の燻製を分厚く切り取り、スキレットに入れて、獣脂も足す。
熊肉を焼きながら、肉スープを作る。肉スープには塩とあの山椒のような葉っぱも散りばめてアクセントをつけよう。
熊肉には塩も振った。そして勢いよく焼いておく。
出来たようだ。
手を合わせる。
「いただきます」
焼き上がった熊肉は分厚いステーキ状態。まあ燻製だけど。
それでも充分美味しい。
肉スープも堪能する。
旨みエキスが出ていて、これまではあの六本足狼が一番美味しいと思ったが、この鹿馬の胸肉の燻製によるスープはそれを越えていた。
肋肉を焼いた時に思った、コイツは間違いなく旨いという直感が、コレを食べて確信に変わった。
ささやかな幸せに浸る。
おいしい食事はやはり重要だな。
鹿馬のスープをがつがつ飲みながら考えた。
次はダガーの鞘を作る必要がある。
切れ味を確かめるにはどうすればいいのだろうな。
それから剣を入れる鞘を作る必要がある。
背負うための専用のベルトも。
それが出来て、初めて終了といえる。
よし、残ったのはもう書類の残務処理みたいな物だ。
明日それをやろう。
残りの作業を頭の中で整理して、私は残った熊肉燻製ステーキを平らげ、スープを一気に飲み干した。
このスープ、おかわりしたかったな。等と考えた。
いかん、いかん。魔物の肉だって無限にある訳ではない。
また今度やればいいのだ。
「ごちそうさまでした」
手を合わせる。
手っ取り早く食器は片付ける。
そして鍛冶場に戻る。
今日は早く寝よう。明日の作業のために。
翌日。
起きたらやるのはストレッチ。
やらないといけないのは自分の服の洗濯だろうけど、まずはそれは後回し。
久しぶりに槍の訓練をする。体を動かす。
そうしたらお風呂を片付けだ。
それから、皮の工房に向かい、ダガーの鞘を作る
剣の方は後回し。
このダガーには今後活躍してもらわないといけないので、鞘はしっかりと作り、ベルトに着けられるようにするループを一つ。
今後は足にも縛れるようにするための小さなループを上に二つ。下に二つ。
全部同じにするためにこの鞘を四つ作った。革を切り出して紐も作っておく。
普段はじゃまにならない様に鞘の所で縛っておけばいいだけだ。私の太もものサイズの一・五倍位の長さで皮紐を作り鞘に絡めて結んだ。
次は剣の方だな。剣を持って来て確かめる。
大きいな。これの鞘の大きさになるように、なおかつ切っ先の方はすぐには破れないように皮を何枚か使って丈夫にする。
切り出して縫っていくだけで、もう夕方だ。
今日の作業はここまで。
鍛冶場に行き、テーブルに残っていた肉も村長宅に持ち込み、これも鍋に入れる。
今日はあの黒ぶちキツネもどきの燻製。
これを焼いてみる。
切って串に刺し、炙り肉だ。
肉スープには黒ぶちキツネもどきの燻製も追加で入れ、さらに塩を追加。
そしてあの柑橘っぽい葉っぱ。もう残りが少ししかない上に葉っぱは乾燥しきっている。これを砕いて入れる。
煮ていくとなにかいい香りになった。
出来たようだ。食べよう。
手を合わせる。
「いただきます」
さて、あのどうしようもない味だった黒ぶちキツネもどきの肉を、燻製にした肉は初めて味を見てみる事になる。
炙り串肉に食らいついてみる。複雑な味がした。
あの山椒のような葉っぱはこれの雑味を消していた。
充分イケる。
ばくばくと食べ始める。
さて、問題の肉スープだ。あの時のエグい味は忘れられない。
恐る恐る飲んでみる。 ……旨い……。
これは、化けたな。うん。これなら充分美味しい。
柑橘っぽい葉っぱの粉が風味を添えていた。
黒ぶちキツネもどきの炙り串を食べながら考えた。
どういう剣帯がいいのか。問題だ。
……
暫くの間、考えた。
上から抜くのはほぼ不可能。やるとしたら深い深いお辞儀状態で抜くしかない。
剣を降ろしながら抜く感じなのか、それとも体を捻りながら横から滑らせるように抜くのがいいのか。
うーん。たぶんこの剣はとっさに使える代物ではない。
剣を降ろしながら抜く、という方向でいいだろう。
体を捻りながらズバッと抜いて構えるとか、かっこよさそうだが、そんな漫画やアニメのように上手くいく訳もなかろう……。
私は黙々と炙り串肉とスープを交互に食べて飲んだ。
方針は決まった。
充分に太い剣ベルトを作り、それを斜めにかけて剣をかなり倒した形で刺しておく。
これは当然、余りに鋭角だと私の行動に支障が出かねない。
剣を降ろすにはどうするのがいいのか。
鞘だけそのベルトから外せる。というのがもちろん最適だが、そのために現代的なベルトが作れるわけではない。
鍛造でバックルを作ったとしても、あのピンの可動部分が作れなければ、穴の空いた長さ調整式ベルトは作れない。
そして鞘をベルトから取り外せるとして、あの重さだ。接合部に掛かる重量はかなりのものになる。背中側の革のベルトに穴を開けて紐で剣鞘を縛るか。
鞘の方もループを何箇所か用意してベルト通しにする。で、リュックを背負った時にそのリュックの後ろにつけられるようにしよう。
肩から三点式ベルトのようにして見るが、この時左肩の方に掛かるようにする。ここは何箇所か穴を開けて、大きなボタン二個を革につけてボタン留めだ。
負荷がかかるから一個では心許ない。これで長さを調整だな
後ろの皮はやや大きめに取って、そこに剣の鞘を縛れるようにしよう。
金属部品とか、鋲とかハトメとか使えれば楽に出来そうな気もするが、無いものは無い。
もはや冷えてしまった肉スープを一気に飲んで食事終了。
「ごちそうさまでした」
手を合わせる。
そして手っ取り早く片付ける。
今日はもう寝よう。
村の子供服とその長いシャツを脱いで、自分で作ったあの白い薄いワンピースの寝間着と自分で作ったパンツに着替えた。
自分には体の凹凸がないので、やや肌が透けて見えてもまったくエロさの欠片もない。
あのやたらと薄い服の豊満な体の若い天使の顔が頭に思い浮かび、苦笑した。
あの婦人らしき人の部屋のベッドに潜り込んだ。
やはり布団はいい。
快眠が出来るのはやはり幸せである。
翌日。
着替えてストレッチ。
そして革工房に向かう。
革のベルトを作る。
黙々と。
肩から掛けられる形にする。長さ調節はボタンだ。ボタンは常に二個。
黙々と縁を糸で縫う。
作業は一日ではもちろん二日でも終わらない。
結局、完成したのは七日後である。
全て出来た。
あとは切れ味だが……。
ダガーの切れ味を確かめるのに、薪を切ってみる事にした。
まあ、薪くらいは切れてくれないとな。と思って、薪を立てて上からダガーを押し当てる。
スッと刃が半分以上、入った。
ふむ。これ程切れてしまうと刃の痛みも早いかもしれないな。
一日、二日使ったら、必ず刃は点検しよう。
残りはこの大きめの剣だが。
森にいって、あの硬い樹木の前に立つ。少し足を広げ腰を落とす。
右八相にかまえて、そこからやや後ろに引いて思いっきりバッティングのように横に払う。
信じがたい事が起きた。ほとんど手応えすら無いまま大木を抜けて刃は左に抜けている。
とんでもない、切れ味だった……。
少しして大木が向かって後ろの方に倒れ、後方の木に凭れかかった。
こ、これは切れ過ぎる。滅多な事で抜かない様にしよう。これは正に凶器だ。
よし。取り敢えず武器は出来たようだ。
……
つづく
季節も移ろい行く中、マリーネこと大谷の生活はそれなりに充実していた。
そんな中、彼の前に一人の男が現れる。
次回 来訪
ここに至ってとうとう、遂にマリーネの運命の扉が音もなく開かれる…。
運命の大きな歯車が、ゆっくりと音もたてずに、動き始めた。